本研究は石橋及び第力者により遂行中の海洋化学に於ける基礎酌研究に属するものである。元素の原子番号とClark数との間に何等かの法則性の存すべき事を子想して、此等の間の相関々係を求めようとする試みは、W. D. Harkins氏 (米) により提唱されて以来多くの人々により行われた所であるが、著者等は海水溶存元素に関する系統的研究を遂行の途上、その溶存元素量と各原子番号との間に驚くべき規則性の存在するを見出すこととできた。この規則性は本文中の各図に示された直線形によつて一目瞭然である。此等の各図に於て、元素の量を表わすためにとつた著者等の特徴は、従来Clark等の行つた重量%表示法ではなく、その代りに原子数に比例する量即ちミリモル (m.m.) を以てし、更に其の常用対数を取つて、之を縦軸とし、横軸には原子番号をとったことにある。何故なれば、斯くする方がすべての説明に有効適切なるのみならず、重量%法を用いるよりも一層満足すべき結果を得たからである。
即ち著者等は、他の研究者により定量された分析数値と著者等の教室に於て測定し得た分析数値に基ずき、重要にして興味ある規則性を認めることができたのであるが、それにより吾々は注目すべき次の事実を察知することができるであろう。
1. 敍上の規則性は只に海水に於てのみならず地球上の歪水圏に於ても成立するであろう。何となれば全水圈の中、海水は約98%を占有し、他は合計しても約2%に過ぎないからである。更に岩石圏を加え、この地球全体に於げる此等の元素の存在量の親則性をも示唆するのではあるまいか。
2. Csの量の予測の際に述べたように、内挿又は外挿法により海水中の溶存元素量を、他の近接元素の量より予知し得るであろう。それによれば週期表に於て未だ空位に残されている唯二つの元素EcaCs及びEcaIの量はあまりにも超微量であつて分析が不可であろうと思われる。況んや夫等と放射崩壌をするに於ておやである。
3. 放射性元素の崩壊現象を種々の地球化学的年代の決定に利用することは、近年に至り屡々試みられる所であり、此等の方法により比比的に確実らしい庫齢が多数算定されている。この種の方法 (U→Ra→Pb) を、既に石橋及び協力者は海洋年齢の新算定に適用し印刷公表ずみである (1938)。而して更に著者等の提唱する海洋年齢の算定注は等しく放射性に関蓮する理論によるものであるが、其の着想、内容ともに従来の夫とは全く趣を異にする新方法である。
本文中の (3) 式に於て明かなように、海洋の年齢TがRaの崩壌恒数入に比して充分大なる時は (事実然りである)、海水中のRaの現存量N
Tと、1年間を通じて海水へのRa搬入量Noとの間には、Tに無関係に
N
T=2.27×10
3No
なる式が成立する。又第3図のMg-Baを結ぶ直線とRaの原子番号88の横軸との交点をRとし、Rの縦軸の指標をNとすれば
N=No×T
なる関係が成立する。故に之を前式と組合すれば
となる。而して上式に於てN, N
Tの数値は既知であるので、T即ち海洋の年齢を求めることができる。即ちN=1×10
-6、N
T=7×10
-13を代入すれば
斯して海洋の年齢は大約30億年と云うことになる。この数字は、海洋の年齢は10~50億年の間にあるべしと云う石橋の前報告の提唱を支持するものである。
4. なお海水中に溶存する元素量の規則性については、其の後石橋の主宰する海洋化学研究所に於て更に著しい研究成果を挙げつつある。稿を新たにして報告したいと思う。
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