3種の供試粘土, カオリナイト, アロフエン, モンモリロナイトに, 6種の陽イオン, H, K, NH
4, Na, Ca, Mgをそれぞれ置換させたもの, および原土を試料として, 吸着イオンによる土壌の物理性の変化について, 1) 粒度組成, 2) 比重, 3) 沈定容積, 4) 透水係数, 5) 塑性範囲, 6) 水分吸着力, 7) 吸湿性と表面積, 8) 摩耗性の8項目にわたる実験を行なつた.土壌の物理性は, 含水状態により, 一連の変化を示すが, 土粒子の周りの水膜の厚さと, その強度を基準にして, 吸着イオンの影響を考察した.すなわち, ある性質を示す点では, 水膜のセン断強度が等しいと仮定すれば, この水膜の厚いもの程, 水膜自体の強度が大であると考えられ, この水膜厚さは, 含水量により代表される.このような観点に立つて, 飽水状態から乾燥状態に至るまでの土の性質の考察を行なつた.
1) カオリナイト, アロフエンおよびモンモリロナイトの, 粘土種類間に著しい差がみられ, 吸着イオンによる影響も, 粘土の種類によつて相異した.
2) 吸着イオンによる差の影響の見られるpF範囲は, モンモリロナイトで0~3, カオリナイトで飽水状態から3.5附近で差異は, モンモリロナイトが最も著しかつたが, アロフエンではほとんど差がみられなかつた.
3) カオリナイトは, 置換容量は小さく, したがつて吸着イオン量はわずかであつたが, 沈定容積, 透水係数, L.L., pF (3.8~0) にかなりイオンの影響がみられた.これは, イ) 吸着イオンが微細なコロイド部分に主として吸着され, ロ) このコロイドの親水性がイオンによる影響をうけ, ハ) コロイドの性質が土壌の物理性のうえで比較的支配的な役割を果すような場合に, 明りように現われたのではないかと考えられる.カオリナイトでは, L. L. で, Na
+, NH
4+, K
+に, 著しいthixotropyがみられた.
4) アロフエンでイオン差の見出されない原因は, イ) 粒度組成が粗く, 分散性のコロイド等の活性部分を含まないこと, 官) 吸着イオンの影響を比較的に受けにくい性質であること, ハ) 吸着イオンが溶脱され易いために, 吸着イオン飽和度が低いことによるものと考えられる.
5) モンモリロナイトは, 置換容量も大で, イオン差もかなり.著しく現われた. 特に, 膨潤性が著しく, 親水性は, 各イオンに共通に大で, 等にNa
+は, ほとんど総ての場合に特異で, 非常に著しい親水性を示したが, H
+は, 非親水的な性質を示した.
6) 塑性両限界相当のpFは, イオンの種類にかかわらず, 狭いpF域にあつたが, 粘土種類間にはわずかの差がみられ, 特に, P. L. での水膜強度には差があるように考えられる.
7) 粘土の吸湿試験の結果は, かなりよくB. E. T. Equationに適合した, また, 湿度と吸湿水膜の厚さの間には, 湿度10~50%の間で, 粘土の種類によらず, 一つの直線的関係がみられた. また, 表面積は, カオリナイト5~8m
2/g, アロフエン180~210m
2/g, モンモリロナイト130~220m
2/gが得られた.
今回の研究結果は, 以上のように要約されるが, 今後の問題点として, 1) 分散性が粒子の親水性に支配されることについての考察, 2) 水頭圧が変つたときの透水係数の変化の実験検証, 3) 水分子吸着量から,(3) 式を用いて表面積を求めるとき, 吸着イオンの水和水の量による誤差を防ぐために, 一層綿密な測定法 (たとえば, 外表面にのみ吸着される窒素ガス吸着量の測定法) の実施, 4) イオン吸着に関する濃度, 浸漬時間, 洗浄法あるいは共存陰イオンの影響, さらには高分子化合物によるイオン吸着等についての解明等が考えられ, これらについて逐次研究を進めて行きたいと考えている.
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