質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
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  • 小嶋 秀樹
    2022 年 21 巻 1 号 p. 7-19
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/01
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    ロボットは人間をより深く理解するための質的研究に有用なツールとなりうる。本論文では,ロボットを媒介と した参与観察について,コミュニケーション療育現場における実践例を軸にその方法と意義について述べ,質的 研究に資するものであることを論じる。おもな主張はつぎのとおりである。(1)シンプルな身体をもったロボッ トであれば,コミュニケーションに難しさをもつ対象児からみて,その「意図」や「感情」を読み取りやすい。(2) 研究者がロボットをリアルタイムで遠隔操作することにより,対象児と意図や感情を交流させる社会的なやりと りが可能になり,(3)当事者として対象児に対する間主観的な理解を深めることができる。(4)対象児とのやり とりはロボットの一人称的視点から記録されるため,他の研究者がそのやりとりを追体験することができ,ここ から対象児に対する理解を共同構成していく可能性が拓ける。これらの議論から,ロボットがコミュニケーショ ンの質的研究における有用なツールとなりうると結論する。
  • Alma Tejeda–Padron, Matthias R. Mehl
    2022 年 21 巻 1 号 p. 20-33
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/01
    ジャーナル 認証あり
    本論文では,日常行動を現実世界で(聴覚的)観察するための生態学的評価ツールであるElectronically Activated Recorder(EAR)1)をレビューする。EAR は技術的には,参加者が生活しているあいだの周囲の音の断片を録音す るオーディオ記録装置である。概念的には自然観察法であり,その人の一日に展開される聴覚的な日誌を提供する。 EAR の強みは,実際の現実生活の観察データを目立つことなく収集することにある。データ取得のレベルで高度 の自然性を保つことは,エスノグラフィックな手法に似ていて,質的研究のアプローチに適している。また,サ ンプリングと定量的な行動コーディングを通して,実証的な研究も可能である。この論文では,EAR の方法の概 説と日常生活における心理現象を直接研究するという面でのその妥当性と有用性のレビューを提供する。
  • ビデオ観察ツールCAVSceneに切り出されたクリップの長さに着目して
    岡南 愛梨, 刑部 育子
    2022 年 21 巻 1 号 p. 34-50
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/01
    ジャーナル 認証あり
    ビデオ観察ツールCAVScene1)を用いた参与観察では,観察者が観察中に「遊び」として捉えた出来事を,映像 クリップとして切り出して記録することができる。本研究では,始まりと終わりが定義しづらい子どもたちの仲 間との間で生じる「遊び」という現象について,クリップの切り出しという観察者のツール操作を手がかりにす ることで,その様相を明らかにした。1・2 歳児の仲間との遊びを観察したデータを二次的資料として用い,観察 者のツール操作によって生み出されたクリップの長さに着目した分析を行った。その結果,1・2 歳児の遊びが創 発的に展開する様子が見えてきた。「同じ場所で持続した遊び」では,遊びのテーマを全員が共有していない中で 外部からもたらされる変化を楽しみながら遊びが続いていくことが示唆された。「同じ人と持続した遊び」では, 遊びの停滞を含みつつも,身体表現などによって互いに意思を伝え合い,遊びが続く様子が捉えられた。特に1 歳児で多く撮られていた短いクリップでは,突発的な協同が生じている様子や,仲間の遊びに魅了されるように じっと見ている子どもの姿を捉えていた。本研究は,CAVScene という新しいビデオ観察ツールを用いたメディ アの拡張によって可視化された,クリップの切り出しという観察時のツール操作の痕跡を手がかりに,1・2 歳児 の仲間との遊びの具体的な様相を明らかにした。
  • 動く人工物から探索する人間の周囲に広がる意味
    松本 光太郎
    2022 年 21 巻 1 号 p. 51-70
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/01
    ジャーナル 認証あり
    人工物は通常自ら移動できず,人間が必要であった。動く人工物である掃除ロボットは,人間の身体から離れ, 人間を必要としなくなったように見えるが,一方で年式等が違わなければ機能や内的能力は変わらず,同じ環境 では概ね同じ動きをする。そのため,掃除ロボットの動きの違いは取り囲む環境に依存していて,掃除ロボット の動きを知ることは間接的に環境を設えた人間を知ることになる。また,掃除ロボットは単純な機能しか持たず 時間とともに変動する状況には対応できないが,すでに多くの家庭で使用されている。本研究では,動く掃除ロ ボットから人間の周囲に広がる意味を探索するために,掃除ロボットを使用している家庭を訪問して,掃除ロ ボットによる掃除に同行して観察することを通して,掃除ロボットの動き,環境との接触,人間の行為を採集し た。事例の整理・分析から,(1)ロボットが物に接触すること,特に軽い物や可動物,そして自然物である人間 に接触し,新たな環境ができること,(2)ロボットの環境は物理的環境のみで成り立ち,人間の環境は物理的環 境と心理的環境で成り立っていること,ロボットの物理的環境との接触は人間の配慮で成り立っていること,(3) 人間による配慮は,人間と家の系にロボットが加わった人間-ロボット-家の系において生まれていることを明 らかにした。ロボットの観察を通して人間を理解する方法の可能性も示した。
  • 2016年熊本地震のフィールドワークをもとに
    宮前 良平, 置塩 ひかる, 王 文潔, 佐々木 美和, 大門 大朗, 稲場 圭信, 渥美 公秀
    2022 年 21 巻 1 号 p. 73-90
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/01
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    エスノグラフィは長らく単独の調査者によって書かれてきた。本稿では,それに対して,地震の救急救援期にお けるチームエスノグラフィの事例をもとに,チームとしてエスノグラフィを行うことの方法論的可能性を論じる。 まず,チームエスノグラフィには,超克しなくてならない問題として羅生門問題と共同研究問題があることを確 認する。次に,既存のチームエスノグラフィにおけるチームには3 つの形態があることを整理し,本稿ではその 中でも同じタイミングで同じ対象を観察する,あるいは同じタイミングで異なる対象を観察した事例を扱うこと を述べる。具体的には,熊本地震の際にあらかじめチームを結成してから現地で活動を展開していった過程をエ スノグラフィとして記述していく。最後に,これらの事例をもとに,チームエスノグラフィには①新たな「語り」 を聞きに行く原動力となること②現場で自明となっている前提に気づくことで新たな問いを立てること③「調査 者-対象者」という非対称性を切り崩す可能性があること④現場に新たな規範を持ち込むことで現場の変革をも たらすことの4 点について議論した。
  • 見えないマイノリティによる当事者研究
    中井 好男, 丸田 健太郎
    2022 年 21 巻 1 号 p. 91-109
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/01
    ジャーナル 認証あり
    本研究は,ろうの両親を持つ聴者(CODA: Children of Deaf Adults)とろうの姉弟を持つ聴者(SODA: Siblings of Deaf Adults/Children)である筆者らが自ら経験した生きづらさについて分析する当事者研究である。CODA と SODA は,音声日本語使用者であることから,マイノリティの要素が隠れた見えないマイノリティとされる。そ こで,筆者らは見えないマイノリティの当事者として,自身の経験を対象化し,ろう者の家族が抱える問題の外 在化を目指した。分析には協働自己エスノグラフィ(Collaborative autoethnography)を応用してそれぞれの自己エ スノグラフィを作成し,生きづらさを生み出す構造について考察した。両者の自己エスノグラフィには,聴者の 世界に同化せんがために,ろう文化との関わりを受容するか否かというジレンマを抱えていることが記されてい る。また,聴文化とろう文化から受け取る矛盾したメッセージによって認知的不協和に陥るだけではなく,自己 を抑圧するドミナント・ストーリーを内在化することで「障害者の家族」という自己スティグマを持っているこ とも示された。この背景にあるメッセージは,筆者らと他者との相互行為に加え,両親や姉弟との相互行為を介 して伝えられるものでもあるため,構造的スティグマとしての性質を有していると言える。
  • 記述的現象学的アプローチ
    楠見 友輔
    2022 年 21 巻 1 号 p. 110-128
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/01
    ジャーナル 認証あり
    本研究は,健常児との交流という状況において軽度知的障害児が自己を捉える枠組みを分析することによって, 軽度知的障害児のアイデンティティの特徴を明らかにすることを目的とする。一つの知的障害特別支援学校高等 部と一つの高等学校の間で行われた2 回の交流を対象とし,エスノグラフィーによって以下の三つのデータを収 集した。第一は,交流の様子のビデオ記録である。第二は,交流中の参加者の会話音声の記録である。第三は,2 名の知的障害のある協力者に対する交流後の再生刺激法インタビューである。これらのデータをもとに2 名の協 力者の経験をアイデンティティに注目して記述的現象学的アプローチを用いて分析した。結果として,第一に, 軽度知的障害児の交流経験が,個人的な出来事と関連づけられて語られることが示された。第二に,軽度知的障 害児は自己を障害児としてではなく他者と交流する一個人と捉えていることが示された。第三に,軽度知的障害 児は現在の自己を過去と未来と関連づけ,発達的に捉えていたことが明らかにされた。
  • 自己受容していった3事例の支援経過と母親インタビューを通して
    稲垣 綾子
    2022 年 21 巻 1 号 p. 129-149
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/01
    ジャーナル 認証あり
    アイデンティティの連続性や斉一性は,自己とともに他者による知覚を通して深まり,発達する。自閉スペクト ラム症(ASD)においては,本人そして身近な家族や他者との相互作用である関係システムからの検討が重要で ある。本研究では児童青年期にかけてASD をもつ本人が診断説明を受け,自己受容していった3 事例を対象に 支援経過と母親インタビューを通して,縦断的かつ回顧的に本人のアイデンティティの発達危機とこれを支える 共通の関係システムについて検討した。その結果,本人のアイデンティティ発達は,対人相互交流の困難を抱え る自分に直面し,個人内では溢れかえる苦痛や葛藤を受け止め,伴走していく家族・社会システムの受け皿・他 者機能によって支えられていた。関係システムについては,①親への診断説明前後における親子間の関係性変化, ②個人的な過去の語り(自伝)と親子双方におけるアイデンティティ模索,③学校との連携・ネットワーク形成 ─親以外の大人との心理的安全基地,④特定の同輩友人との関係形成─ “こだわり” を介した関心・情緒の 共有と孤独感の和らぎ,⑤児童青年期における本人を捉える親側の視点転換,の5 つの視点が見出された。加えて, 本人の発達危機の乗り越えを支える,親側から時系列でみた関係システムには3 段階の変容過程(①親子間の良 好な関係性変化,②受け皿機能の高まりと再考,③親側の視点転換)があることが考察された。
  • 二人称に着目して
    横山 克貴, 能智 正博
    2022 年 21 巻 1 号 p. 150-168
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/01
    ジャーナル 認証あり
    本研究は,二人称代名詞を主語に用いて自身の経験を語るという特殊なひとり語り(独話)が,どのような主観 的体験を語り手に促すかを探求したものである。28 人の研究協力者に,二人称代名詞「あなた」や三人称代名詞「彼 /彼女」を主語に置く形で実際の過去の経験を語ってもらい,その後で協力者にその語り体験がどのようなもの となったかをインタビューした。そのインタビューデータを中心に,三人称代名詞を用いた語り体験を比較対象 に置きながら,二人称代名詞を用いたひとり語りの特徴について質的な分析を行った。その結果,二人称代名詞 を主語において語ることで,目の前に実際にはいない「あなた」が語り相手としてイメージされたことが分かった。 そして,自分自身の経験を,あたかも「あなた」の経験であるかのように,その「あなた」に向けて語りかける という特殊な語り方が構成された。そのような語り方は,「あなた」に向けた働きかけや,配慮の意識を伴ってお り,語り手は最終的には,その語りを自身に語りかけられたもののように聞き,かえって自分自身に強く再帰す るという体験を生じさせた。このような独話体験は,二人称代名詞を用いたひとり語りに特有のものと考えられた。
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