日本食生活学会誌
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17 巻, 2 号
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総説
論文
  • 小林 麻里子, 奥脇 義行, 川井 英雄
    2006 年 17 巻 2 号 p. 105-110
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/14
    ジャーナル フリー
      1996年より国産小容量PET飲料の販売が解除された。2003年における清涼飲料水生産量1,800万kLのうちPET飲料は56%のシェアを占め,その内の36.4%を500mLが占めている。500mL PET飲料が短期間でこれほど普及したのは,小容量PET飲料は,缶と違って再栓ができるという利点から,飲みかけの状態で長時間持ち歩くことが何らかの問題を生じないか,ということを細菌学的観点から検討する研究を行った。
    (1) PET飲料からの直接飲用により,口腔内に常在する様々な細菌が混入したが,時間経過とともに減少した。
    (2) 特に,抗菌性をもつと言われている緑茶飲料,ウーロン茶飲料では減少が急速であり,8時間保存後に生菌は認めなかった。
    (3) 糖類を含む果汁飲料,アミノ酸を含むスポーツ飲料,デンプンを含むむぎ茶飲料では減少が緩慢であり,8時間保存後でも生菌が多く認められた。
    (4) 通常は複数回の開栓・飲用があり,その都度細菌の暴露を受けるので,生残は多くなるものと考えられる。従って,特にむぎ茶飲料を飲みかけの状態で長時間持ち歩き飲用することにおいては注意が必要である。
    (5) Staphylococcus属菌は生菌数の減少が急速なウーロン茶飲料や緑茶飲料でも生残しており,減少が緩慢なむぎ茶飲料などではStreptococcus属菌も検出された。
  • 南里 明子, 早渕 仁美, 太田 雅規, 久野 真奈見, 平川 史子, 松永 泰子, 池田 正春
    2006 年 17 巻 2 号 p. 111-116
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/14
    ジャーナル フリー
      健康増進教室受講者の指導前後の栄養状態を比較し, 指導による改善効果を検討した。
      北九州市で実施されている健康増進教室では, 12週間の栄養・運動指導と, 開始・終了時に医学検査と問診を行っている。今回は, 1994~1998年度の受講女性372名を解析対象とし, 指導前後の食習慣と栄養状態を, 肥満及び高血圧の有無別に検討した。
      対象者は36~64歳で, 指導前は肥満73.9%, 高血圧50.0%であったが, 終了時には各々61.6%, 26.9%に減少し, 体脂肪率や血圧, 総コレステロール, 中性脂肪等は有意に低下, 最大酸素摂取量やHDL-コレステロールは有意に増加した。また, 指導後は, 肥満群でほとんどの食習慣項目に改善がみられ, 指導前から好ましい食生活であった高血圧群でも, 野菜や果物, 塩分摂取に有意な改善がみられた。
      健康増進教室への受講は, 生活習慣を見直すきっかけとなり, 好ましい習慣を身に付けることにより, メタボリックシンドロームや生活習慣病のリスク低下に有効であることが分かった。
  • 石田 裕, 舟木 秀明, 鈴野 弘子
    2006 年 17 巻 2 号 p. 117-124
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/14
    ジャーナル フリー
      ホルムアルデヒドの食品への移行と調理後の残存について検討した。タンパク質や糖質を主成分とする食品は, 被曝濃度にかかわらず, HCHOの吸着が容易に起こり, 吸着活性は対照試料としてカゼイン, デンプン共に高く, 大豆油には吸着が見られなかった。またカゼイン, デンプンのHCHO吸着は少なくとも96時間までは増加し, 保存が長期にわたるとさらに吸着量が増加する可能性が示唆された。このことは一般に長期保存が可能なタンパク質や糖質に富む乾物や穀類などはHCHOの吸着濃度が高まる可能性が高いことを示している。
      また保存温度とHCHO吸着量の関係では, 温度の上昇に伴い気相中のHCHO濃度も上昇し, 吸着量に関しても正の相関を示すことが明らかとなった。さらに調理による消長では茹でることにより70~80%が除去されるが, 粉ミルクのように, 密封状態で加温溶解し全量摂取するものでは, 大部分が残存することが明らかとなった。そこで食品への吸着を防ぐことを目的にHCHOのフィルム透過性について検討した。その結果, フィルムの違いによりガスバリアー性の違いが認められ, PPなどの複層フィルムを使用し, 密封保存することが食品へのHCHOの吸着防止に有効であった。
  • ―近赤外線計測装置による調理中の脳の活性化計測実験―
    山下 満智子, 川島 隆太, 岩田 一樹, 保手浜 勝, 太尾 小千津, 高倉 美香
    2006 年 17 巻 2 号 p. 125-129
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/14
    ジャーナル フリー
      最新脳科学の研究成果に注目して, 脳の健康という視点で「調理の効用」を研究するために, 無侵襲・低拘束性の近赤外線計測装置により調理中の脳活動を計測した。
      計測に使用した近赤外線計測装置は, 頭皮から20ミリほどの深さにある大脳皮質の活性状態を近赤外線の照射によって計測する装置である。本実験の脳の測定部位は, 大脳の前頭連合野で, 運動・感覚・認知・言語・思考など高次脳機能に関連する。
      実験方法は, 成人女性15名に対して, 夕食の献立を考える, 野菜を切る, ガスコンロを使って炒める, 皿に盛り付けるという作業を課し, 各調理の手順における脳活動の計測を行った。
      計測の結果, 夕食の献立を考える, 野菜を切る, ガスコンロを使って炒める, 皿に盛り付けるという調理の各手順で, 左右の大脳半球の前頭連合野の活性化が確認された。
      音読や計算による脳の活性化の確認やそれらを組み合わせた学習療法による実践的研究や本実験結果から「調理を行うこと」によって前頭連合野を鍛えることができると考えられ, 前頭連合野の働きである他者とのコミュニケーションや身辺自立, 創造力など社会生活に必要な能力の向上が期待されることが示唆された。
  • 古橋 優子, 八木 明彦, 酒井 映子
    2006 年 17 巻 2 号 p. 130-140
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/14
    ジャーナル フリー
      女子学生の食生活の諸問題を明らかにし, セルフケア行動ができる食教育のあり方を検討するために, 1~2年生577名を対象として料理レベルからみた食事形態と食生活状況に関する調査を行った。
    1. 栄養素等摂取状況は, カルシウム, 鉄, 食物繊維などが著しい不足傾向にある一方で, 脂質は過剰摂取となっていた。
    2. 食品群別摂取状況は, 砂糖類, 菓子類, 油脂類, 卵類, 肉類を除く全ての食品類が著しく不足していた。
    3. 主食・主菜・副菜料理ともに揃っている食事の割合は, 朝食, 昼食, 夕食ともに低い状況であった。
    4. 料理の組み合わせから評価した食事形態が良好な者は, 栄養素等摂取状況や食品群別摂取状況が良いことを認めた。また, 食行動や健康状態も良好であった。
    5. 女子学生の食生活状況の構造は, 「栄養や食事への関心度」要因と「自己管理能力」要因に位置づけられることが示された。

      以上のことから, 料理レベルの評価法である食事形態と食生活関連要因を連動させた実践学習, セルフ・コントロールやセルフ・モニタリング能力を高める食教育を通して食行動の変容をはかることが効果的であると考えられる。
  • 川上 明子, 佐々木 弘子, 菅原 龍幸
    2006 年 17 巻 2 号 p. 141-149
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/14
    ジャーナル フリー
      11種類の野菜類を用いてきざみ食調製時, あらかじめ刻んでから茹でる場合と, ざく・乱切りしてから茹で, その後刻む場合とがある。両者について主要なミネラル7種類についての損失を比較した。また, 茹で水中のミネラル含有量が調製したきざみ食にどのような影響を及ぼすかについて検討し, 以下のような結果を得た。
      (1) きざみ食調製時, あらかじめ刻んでから茹でる場合は, ざく・乱切りしてから茹でる場合より一部を除き, ミネラルの損失はより多かった。
      (2) イオン交換水, 市販の硬度1500の容器入り飲用海洋深層水から調製した硬度100, 500, 1000, 1500のそれぞれの茹で水で5種類の野菜を茹で, ナトリウム, カリウム, カルシウム, マグネシウム, 鉄の5種類のミネラルについて変動を見たところ, 硬度の増加と共に野菜類のミネラル含有量が増加したのは茹で水中に含有量の多いマグネシウムのみであった。
      (3) 水道水を茹で水として用いても, 水道水中のミネラルはきざみ野菜の調製時のミネラル損失にあまり影響はしないと考えられた。
      (4) 硬度1500の容器入り飲用海洋深層水と塩化マグネシウムから調製した硬度1500の茹で水で茹でて水切りしたものと, 茹でた後にイオン交換水で水洗した後に水切りしたものを比較したところ, 後者の場合のミネラル含有量が少なく, ミネラルの増加は野菜にミネラルが付着して増加していると考えられるが, 一部は野菜の組織に吸着して増加している可能性もあると考えられた。
  • 木村 友子, 大藪 佳苗, 佐々木 弘子, 加賀谷 みえ子, 内藤 通孝, 中莖 秀夫, 菅原 龍幸
    2006 年 17 巻 2 号 p. 150-158
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/14
    ジャーナル フリー
      小豆全粒粉を食品素材として活用する目的で, 小豆全粒粉素材 (A : 無処理粉, B : Aを超音波併用の蒸留水15分間処理, C : Aを蒸留水の浸漬16時間処理)の性状評価とその素材の添加がクッキーの品質に与える影響について検討した。
      (1) 小豆全粒粉の歩留りは平均85.0%で小麦粉に比べ保水力が3.3倍, 吸油力が1.6倍であり, たんぱく質, 食物繊維, 無機成分の含量は小麦粉より多かった。SEMの観察では素材Bは素材Aに比べて, 小豆の粒子の澱粉が糊化されやすい状態を示し, 超音波処理の効果が観察された。素材Aを超音波処理した素材Bは色調の赤みが若干強くなり, 成分含量は照射により多少損失するもののペースト状態で, 新規食品素材として有用であることを示唆していた。
      (2) クッキーは素材A, B, Cを小麦粉の20%まで置換できた。素材B20%添加製品は無添加製品に比べて, 小豆色を帯び, スプレッドファクターと吸水率は有意に大きくなり, 物性の破断応力値は小さかった。官能評価では味は小豆の微妙な香味を感じ, 総合評価で, 無添加製品より好まれた (p <0.05)。
      (3) クッキーは20℃の暗所 (0Lx), 明所 (1,500Lx) と50℃一定温度で86日間保存中のPOVでは, 暗所保存は, 無添加, 素材A, Bの20%添加ともにPOVの上昇は認められなかった。明所 (1,500Lx) と50℃保存では, 上昇を認めたが, 食品衛生法の上限値30meq/kgまでには至らず, 油脂の変敗は認められなく, 殊に素材A, Bの20%添加は無添加より酸化が抑制された。従って素材B20%添加がクッキーに対する品質改良を認めた。
資料
  • 坂本 薫, 橘 ゆかり, 小泉 弥栄, 作田 はるみ, 村田 達雄
    2006 年 17 巻 2 号 p. 159-163
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/14
    ジャーナル フリー
      うすくち醤油はだしとの相性がよく, 減塩料理に効果があることを検証していくことを目的とし, 伝統的にうすくち醤油が広く使用されてきた播磨地域在住の大学生を対象に官能検査の手法を用いて実験を行い, 次に示す結果が得られた。
      1. すまし汁の最適塩分濃度の平均値は, 食塩のみで塩味をつけた場合は0.69%±0.30, うすくち醤油では0.57%±0.22とうすくち醤油で調味した方が塩分が有意に低かった (p<0.05)。
      2. 味の識別能力別にすまし汁の塩分濃度を平均すると, 識別能力の高い群では5%の危険率で有意に食塩を用いた場合よりもうすくち醤油を用いて調味した方が塩分が低い結果となったが, 識別能力の低い群では, 食塩とうすくち醤油の間に有意差は認められなかった。豊かな食経験を積んで味覚を育てることが減塩につながると考察された。
      3. こうや豆腐の煮物を調製し, 3点識別嗜好試験を実施して検討した結果, 煮物調理において, だしを生かすことにより減塩調理が可能であることが示唆された。また, さといもの煮物における減塩料理の官能評価により, こいくち醤油を使用した減塩料理よりもうすくち醤油を使用した減塩料理の方が好まれる結果が得られた。
      4. うすくち醤油とこいくち醤油でこうや豆腐の煮物を調製し, SD法により特徴を検討した結果, うすくち醤油を使用した煮物は, こいくち醤油で煮た煮物に比べて色が良く (p<0.001), だしの香りが強く (p<0.05), まろやか (p<0.05) で, おいしい (p<0.05) とされた。また, だしに濃度差のあるすまし汁について順位法により官能評価した結果, うすくち醤油は, こいくち醤油に比べて, 素材の味やだしの旨味などの味を生かす醤油であることが確かめられた。
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