日本鳥学会誌
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63 巻, 1 号
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巻頭言
原著論文
  • 三上 修, 菅原 卓也, 松井 晋, 加藤 貴大, 森本 元, 笠原 里恵, 上田 恵介
    2014 年 63 巻 1 号 p. 3-13
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    ジャーナル フリー
    スズメPasser montanusは日本の都市を代表する鳥であり,もっとも身近な生き物の一つである.スズメは人工構造物にできた隙間に営巣するので,ヒトHomo sapiensはEcological Engineer種として,スズメに生息環境(営巣環境)を提供しているといえる.スズメは電柱にも営巣することがわかっている.ときにそれは停電という問題を引き起こす.このような軋轢を解消しつつも,スズメとヒトが都市のなかで共存することが重要である.そこで,本研究では,スズメによる電柱への営巣の基礎的な情報を得ることを目的とした.その結果,スズメが主に営巣しているのは,電柱の構造物のうち腕金であることが明らかになった.ただし,都市によって,営巣している構造物および数に違いが見られた.これは,管轄している電力会社が異なるため,営巣可能な電柱の構造物の種類及び数に違いがあるからである.さらに関東地方の都市部と郊外で比べたところ,都市部では電柱への営巣が多く,郊外では人家の屋根への営巣が多かった.これは,都市部では,電柱の構造が複雑化するため,電柱に営巣できる隙間が多いこと,郊外は,屋根瓦が多く,屋根に営巣できる隙間が多かったことなどが原因と考えられる.スズメの電柱への営巣は停電を引き起こしうるので,営巣させないような努力が必要であるが,一方で,建物の気密性が高まっていることで,スズメの営巣環境は減っている.スズメが営巣できる環境を維持しつつ,電柱への営巣を制限する道を探っていく必要があるだろう.
  • 江田 真毅, 鳥飼 久裕, 木村 健一, 阿部 愼太郎, 小池 裕子
    2014 年 63 巻 1 号 p. 15-21
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    ジャーナル フリー
    アマミヤマシギScolopax miraは奄美大島とその属島,および徳之島で繁殖する日本の固有種である.IUCNのレッドリストでは危急種に指定されている.同種の保護対策の検討のうえで,標識個体を性判別することは行動上の性差を明らかにするために重要である.しかし,アマミヤマシギの形態上の性差は知られておらず,形態による性判別基準は確立されていない.そのため,行動上の性差もほとんど分かっていない.本研究では,アマミヤマシギの標識調査時に外部形態を測定するとともに,採取した羽毛からの遺伝的性判別をおこない,形態と行動の性差を検討した.その結果,第一回換羽以後の成鳥の雄は,求愛期から営巣・育雛期の初期(3月と4月)に雌に比べより頻繁に捕獲されていることが示された.雄の求愛行動や雌の抱卵行動との関係が考えられる.また,アマミヤマシギのロードキルが年間で最も多いこの時期に,そのリスクは雄でより高いことが示唆された.幼鳥の標識個体中では繁殖期の後期(5・6月)および幼鳥の分散期(11・12月)で雌が有意に多かった.5・6月に雌が多い原因は不明なものの,11・12月に雌が多い原因は分散にあたって,雄に比べ雌個体が長距離を移動し,結果として道路脇などにも頻繁に出現することの反映かもしれない.奄美大島の成鳥個体について9つの外部計測値を雌雄で比較すると,露出嘴峰長,嘴長,嘴幅,嘴高,全頭長,体重では雌が,尾長では雄が有意に大きかった.これらの外部計測値のデータから線形判別分析による性判別式を作成した結果,奄美大島の成鳥標識個体の約86%が正しく判別された.この判別式は幼鳥の判別には応用できない一方,徳之島の成鳥個体の性判別には有効であることが示唆された.
  • 熊田 那央, 藤岡 正博, 本山 裕樹
    2014 年 63 巻 1 号 p. 23-32
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    ジャーナル フリー
    カワウPhalacrocorax carboのねぐらやコロニーの分布にアユPlecoglossus altivelisの放流が与える影響を明らかにするために,2006年から2008年の関東地域のカワウのねぐら・コロニーサイズと,その周囲20 kmの採食範囲でのアユ放流量の関係を調べた. 3月のカワウの総個体数は約14,000個体であった.アユ放流量は約120,000 kgで,これは,カワウ1個体あたり1日500 g 採食するとした場合の約17日分の資源量であった.このことからアユがカワウにとってある程度重要な食物資源になりうると考えられた.3月のねぐら・コロニーサイズを前年のアユ放流量で説明する一般化線形混合モデルを作成したところ,両者には関係がみられなかった.一方,3月から7月のねぐら・コロニーサイズの変化率と,ねぐらやコロニー毎の1個体あたりのアユ放流量との関係を説明するモデルを作成したところ,アユ放流量が多いねぐらやコロニーほどサイズが有意に増加した.以上の結果から,カワウはアユ放流量が多かった地域をねぐらやコロニー場所として選択しているわけではないが,繁殖期間中に周囲で多量のアユが放流されたねぐらやコロニーでは繁殖成績が向上したり移入個体が増加したりすることが示唆された.
短報
  • 浜口 寛, 石川 正道, 小西 恭子, 永井 敏和, 大鹿 裕幸, 川上 和人
    2014 年 63 巻 1 号 p. 33-41
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    ジャーナル フリー
    本研究では,絶滅危惧種ミゾゴイの生息に適する環境条件を明らかにすることを目的として,愛知県西三河地域におけるミゾゴイの生息環境モデルを作成した.我々は,調査地の範囲から3次メッシュ100個を選定し,鳴き声調査から得られた在・不在データを目的変数,生息に影響を及ぼすと考えられる環境条件を説明変数とする一般化線形モデルを用いて行い,各モデルのAICの比較によりモデル選択を行った.最良モデルに用いられた環境条件から,ミゾゴイの生息には降水量が多く,谷津田跡長が長く,植林面積が少ない環境が適すると考えられた.また,モデル予測値(生息確率)が大きい階級区分に該当するメッシュほど,鳴き声調査で実際に観察された生息率(該当メッシュ数に対する在メッシュ数の割合)も高くなっており,モデルの妥当性が高いと考えられた.ミゾゴイの主要食物である土壌動物は,湿潤環境において豊富であることや,営巣木として広葉樹を好むことが,このような環境が選択された要因と考えられる.本モデルを応用することで,ミゾゴイの潜在的な生息地を明らかにすることができると考えられる.
  • 脇坂 英弥, 脇坂 啓子, 中川 宗孝, 伊藤 雅信
    2014 年 63 巻 1 号 p. 43-47
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    ジャーナル フリー
    ケリの生活史や繁殖生態を理解するためには,成長段階の早い時期からケリ雛の性別を知る必要がある.本研究では,簡便かつ確実なケリ雛の性判定法を確立するために初毛羽の基部からのDNA抽出を試みた.その結果,初毛羽からPCR増幅に十分量のDNAを得ることができた.加えて,この方法により京都府南部における17巣30個体のケリ雛の性を,雌14個体,雄16個体に判別することができた.即ち,初毛羽からのDNA採取の手法は簡便であるだけでなく,雛へのストレスを軽減する手法として有効であることが示された.
観察記録
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