1)ハルコン山(標高2,580m)は,ミンドロ島に位置するフィリピン第三位の高山である.筆者らは,1985年9月6日から18日まで同山に滞在し,高地の鳥類を調査した.
2)標高1,500m以上の地点では,18種を採集し,他に3種を目撃した.採集した標本を研究した結果を各論の項で述べた.
3)ミンドロ島高地の鳥相は,ルソン島およびミンダナオ島の鳥相と比較しても貧弱であった.現在までに標高1,500m以上の高地から記録されている"留鳥"は25種であるが,キヌバネドリ•バンケン•ショウビン•キツツキ•ヤイロチョウ•ビワなどの類が生息していない.ミンドロ島高地の鳥相が貧弱な理由の一部として,気候的条件(とくに繁殖期中の気温の低さとフィリピンで最大の雨量と湿度)および食物量の貧困をあげ得るであろう.
4)ミンドロ島の生物相は,一般にルソン島とバラワン島の生物相の中間に位置していると考えられている.しかし,高地の鳥相に関する限り,ルソン島北部の高地の鳥相との関係が密接である.一方,パラワン島高地の鳥相は,ミンドロ島高地の鳥相とまったく異なっている.
5)高い山岳の高地は,通常周囲の地域から植生や気候条件によって隔離され,しばしば固有種が発達している.しかし,ミンドロ島高地では,高地の鳥類はせいぜい固有亜種に分化しているだけで,ミンドロ島の固有種は1,500m以下の山地の森林に多く(4種),低地の熱帯多雨林にも1種が生息していた.したがって,ミンドロ島高地は隔離が不十分であると考えられる.だがこれだけでは,固有種が山地帯と低地に分布し,高地に分布しない理由を説明でぎない.このため,絶滅率(extinction rate)の相違が現在の鳥相を形成するにあたって重要な要因であった,と考えられた.
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