日本鳥学会誌
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67 巻, 1 号
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巻頭言
特集:恐竜学者の鳥のはなしと鳥類学者の恐竜のはなし
序文
総説
  • 川上 和人, 江田 真毅
    2018 年 67 巻 1 号 p. 7-23
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/11
    ジャーナル フリー
     鳥類の起源を巡る論争は,シソチョウArchaeopteryxの発見以来長期にわたって続けられてきている.鳥類は現生動物ではワニ目に最も近縁であることは古くから認められてきていたが,その直接の祖先としては翼竜類やワニ目,槽歯類,鳥盤類恐竜,獣脚類恐竜など様々な分類群が提案されてきている.獣脚類恐竜は叉骨,掌骨や肩,後肢の骨学的特徴,気嚢など鳥と多くの特徴を共有しており,鳥類に最も近縁と考えられてきている.最近では羽毛恐竜の発見や化石に含まれるアミノ酸配列の分子生物学的な系統解析の結果,発生学的に証明された指骨の相同性,などの証拠もそろい,鳥類の起源は獣脚類のコエルロサウルス類のマニラプトル類に起源を持つと考えることについて一定の合意に至っている.一般に恐竜は白亜紀末に絶滅したと言われてきているが,鳥類は系統学的には恐竜の一部であり,古生物学の世界では恐竜は絶滅していないという考え方が主流となってきている.このため最近では,鳥類は鳥類型恐竜,鳥類以外の従来の恐竜は非鳥類型恐竜と呼ばれる.
     羽毛恐竜の発見は,最近の古生物学の中でも特に注目されている話題の一つである.マニラプトル類を含むコエルロサウルス類では,正羽を持つ無飛翔性羽毛恐竜が多数発見されており,鳥類との系統関係を補強する証拠の一つとなっている.また,フィラメント状の原羽毛は鳥類の直接の祖先とは異なる系統の鳥盤類恐竜からも見つかっており,最近では多くの恐竜が羽毛を持っていた可能性が指摘されている.また,オルニトミモサウルス類のオルニトミムスOrnithomimus edmontonicusは無飛翔性だが翼を持っていたことが示されている.二足歩行,気嚢,叉骨,羽毛,翼などは飛行と強い関係のある現生鳥類の特徴だが,これらは祖先的な無飛翔性の恐竜が飛翔と無関係に獲得していた前適応的な形質であると言える.これに対して,竜骨突起が発達した胸骨や尾端骨で形成された尾,歯のない嘴などは,鳥類が飛翔性とともに獲得してきた特徴である.
     鳥類と恐竜の関係が明らかになることで,現生鳥類の研究から得られた成果が恐竜研究に活用され,また恐竜研究による成果が現生鳥類の理解に貢献してきた.今後,鳥類学と恐竜学が協働することにより,両者の研究がさらに発展することが期待される.
  • 田中 康平, Darla K. Zelenitsky, François Therrien, 小林 快次
    2018 年 67 巻 1 号 p. 25-40
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/11
    ジャーナル フリー
     主竜類(ワニ類,翼竜類,そして鳥類を含む恐竜類など)は,非常に多様で成功した陸上脊椎動物である.絶滅種(例,非鳥類型恐竜類)及び現生種(ワニ類及び鳥類)の営巣方法や営巣行動を理解することは,主竜類の進化や多様性を検討する上で重要である.しかしながら,恐竜類の営巣方法や営巣行動は,多くの場合,化石記録から直接観察できないため,かれらの営巣様式(巣の構造,抱卵行動,孵化日数など)は,卵・巣・胚化石から得られる特徴(クラッチサイズ,卵重,卵殻間隙率,胚の形態的特徴など)を用いて推定・復元される.非鳥類型恐竜類の巣や営巣行動は多様だったと考えられ,恐竜類を含め主竜類におけるこれらの形質の進化が議論できる.
  • 青塚 圭一
    2018 年 67 巻 1 号 p. 41-55
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/11
    ジャーナル フリー
     過去30年間における多くの鳥類化石の発見によって,鳥類はジュラ紀後期には出現し,白亜紀には世界全域に放散していたことが明らかになった.鳥類は飛翔能力の向上に伴い,尾端骨の形成,竜骨突起のある胸骨の発達,高度な翼の発達,そして歯の消失など,その骨格を変化させてきた.また,近年の研究により性戦略や成長形態など様々な生態的な発達があったことも明らかになってきている.中生代に無飛翔性の鳥類の多様性が乏しいことや新鳥類が大量絶滅事件(K-Pg境界)を生き延びた理由は未だ不明であるが,これらは環境面や生理面での制限による可能性がある.本稿では飛翔能力,内温性,そして消化器官の発達が鳥類の繁栄に影響を与えたものであると結論付ける.生理的な特徴は化石として残りにくいものであるが,新たな化石の発見や軟組織を復元するような研究が進むことで,絶滅した鳥類の詳しい生態が明らかになることを期待する.
  • 田中 公教, 小林 快次
    2018 年 67 巻 1 号 p. 57-68
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/11
    ジャーナル フリー
     ヘスペロルニス目Hesperornithiformesは,白亜紀前期アルビアン期-白亜紀後期マーストリヒチアン期の北半球に広く分布した歯のある潜水鳥類である.鳥類の進化史上初めて潜水適応した最古の潜水鳥類として知られており,これまで15属31種が報告されている.1871年に初めて骨格化石が発見されたヘスペロルニスHesperornis regalisは,前肢が極端に発達しており,胸骨は竜骨突起を失い平たくなり,後肢は非常に発達していた.これらの形態的特徴から,ヘスペロルニスは白亜紀の飛翔能力を失った後肢推進性潜水鳥類と考えられる.この発見の後,アメリカ,カナダ,イギリス,スウェーデン,ロシア,カザフスタン,モンゴル,日本などから新たなヘスペロルニス目の化石が報告され,最古の潜水鳥類の進化の道のりが徐々に明らかになってきた.本稿では,現生鳥類の起源についての近年の研究のレビューを行い,現生鳥類がいつ頃から多様化を始めたのかを議論し,中生代の鳥類の最近の系統分類学を概観する.さらに,ヘスペロルニス目の発見からこれまでの研究を概説し,明らかになってきたヘスペロルニス目の生態や今後の研究課題について議論する.
原著論文
  • 小林 篤, 中村 浩志
    2018 年 67 巻 1 号 p. 69-86
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/11
    ジャーナル オープンアクセス
     亜種ライチョウLagopus muta japonica(以下ニホンライチョウ)の生活史を生活環境が厳しい冬期間も含め年間を通して理解することは,世界の最南端に分布するこの亜種の日本の高山環境への適応や生活史戦略を明らかにし,温暖化がこの鳥に与える潜在的な影響を理解する上で重要である.本研究では,群れサイズやその構成,標高移動,観察性比の季節変化などを年間通して調査し,その生活史の変化や特徴が日本の高山環境の特徴とどのように対応しているかを明らかにするための調査を乗鞍岳で実施した.群れサイズおよび群れの構成,季節的な標高移動,観察された個体の性比は,繁殖地への戻り,抱卵開始,孵化,雛の独立,越冬地への移動により,それぞれ季節的に大きく変化することが示された.それらの変化は,高山環境の季節変化と密接に関係しており,ニホンライチョウの生活史は,日本の高山環境の季節変化と密接であることが示唆された.また,冬期にはすべての個体が繁殖地である高山帯から離れ,森林限界より下の亜高山帯に移動していたが,雄は森林限界近く,雌は雄よりも繁殖地から遠く,標高の低い場所にと,雌雄別々に越冬していることが明らかにされた.さらに,ニホンライチョウでは,外国の個体群や近縁種でみられる育雛期に繁殖した場所より雪解けの遅い高標高地への移動は見られないが,日本の高山特有の冬の多雪と強風がもたらす環境による積雪量の違いと雪解け時期のずれが,同じ標高の場所での育雛を可能にしていることが示唆された.年間を通して実施した今回の調査結果から,ニホンライチョウの生活史の区分は,従来の繁殖期の「なわばり確立・つがい形成期」,「抱卵期」,「育雛期」の区分に加え,非繁殖期は「秋群れ期」と「越冬期」に分けるのが適当であることが指摘された.ニホンライチョウは,行動的にも生理的にも日本の高山環境に対し高度に適応しているが,日本では高山の頂上付近にしか生息できる環境が残っていないため,この種の中で最も温暖化の影響をうける可能性の高い個体群であることが指摘された.
  • 森下 英美子, 松原 始
    2018 年 67 巻 1 号 p. 87-99
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/11
    ジャーナル フリー
     2008年から2013年にかけ,全国17か所でハシブトガラス本来の生息環境と考えられる山地森林域を対象に,プレイバック法と定点調査法を用いた同種の繁殖分布調査を実施した.山地森林域では,これまでに報告されている都市周辺と比較して繁殖密度が低かった.ハシブトガラスの繁殖分布に対する人の影響を調べるため,建築物数とハシブトガラスの確認地点数を比較したところ,建築物の多い場所で確認数が多く,標高とは関係が認められなかった.本州の森林では,落葉広葉樹林よりも人工林の常緑針葉樹林で,ハシブトガラスの密度が高かった.落葉広葉樹の少ない鹿児島県屋久島の森林では,常緑広葉樹林と常緑針葉樹林の間で確認数に差は認められなかった.ハシブトガラスの生息密度が落葉樹林にくらべて常緑樹林で高いのは,巣や巣立ちビナが目立たず捕食されにくいためと考えられた.
短報
  • 小黒 亮, 平田 和彦, 綿貫 豊
    2018 年 67 巻 1 号 p. 101-107
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/11
    ジャーナル フリー
    電子付録
     ウミネコLarus crassirostrisにおいて,隣接営巣個体および侵入個体に対する縄張り防衛行動を,半裸地区と高さ2-3 mの上部被覆のある高茎草本植生区とで比較した.両区で隣接営巣個体への縄張り防衛頻度に差はなかったが,侵入個体に対する縄張り防衛頻度は半裸地区で高茎草本植生区の8倍近かった.また,半裸地区の個体の方が高茎草本植生区より強度の防衛と応答行動をとった.さらに,草本の刈り取り実験をおこなったところ,オープンな場所には上空からの侵入個体が観察されるようになった(1.8±1.2回/2時間)が草本を残したままの場所では観察されなかった.これらは,上部が大きな葉で覆われる高茎草本植生は,上空からの個体の侵入を妨げ,縄張り防衛頻度を減少させることを示す.
  • 高橋 雅雄, 蛯名 純一, 宮 彰男, 磯貝 和秀, 古山 隆, 高田 哲良, 堀越 雅晴, 大江 千尋, 叶内 拓哉
    2018 年 67 巻 1 号 p. 109-116
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/11
    ジャーナル フリー
    電子付録
     シマクイナCoturnicops exquisitusの越冬生態を明らかにするため,2014-2015年・2015-2016年・2016-2017年の3冬季に,関東地方の65か所の湿性草原で,夏季の音声を用いて生息確認を実施した.その結果,18か所で延べ98個体のシマクイナを確認した.生息確認地は7地域に大別され,耕作放棄地と河川敷が特に利用されていた.また,耕作放棄地で確認個体数が多い傾向があった.さらに,シマクイナは中層ヨシ環境で主に確認され,この植生環境が本種の生息に重要であることが示唆された.
  • 手井 修三
    2018 年 67 巻 1 号 p. 117-126
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/11
    ジャーナル フリー
    電子付録
     石川県金沢市において1991-2001年に,ホオジロの年間を通した終日観察をのべ158日間行い,雄の囀り回数を記録した.同一個体で囀り回数が減少傾向に変化した時期は,春期のつがい期と巣内育雛期だった.一方,増加傾向に変化した時期は,造巣期と巣内育雛期後の独身期だった.秋期の独身期の換羽中は,直前の8月上旬から中旬と比較すると,4例すべて90%以上減少した.年間を通して囀り回数は時期によって大きく変化し,また,同一の繁殖ステージ内でも囀り回数が大きく違う日が多かった.雌の存在や雌の行動,各繁殖ステージにおける雄の役割が,以上のような本種の囀り頻度の差異に影響を与えている可能性が示唆された.
観察記録
その他
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