日本鳥学会誌
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66 巻, 2 号
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原著論文
  • 内田 博
    2017 年 66 巻 2 号 p. 111-122
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/16
    ジャーナル オープンアクセス
    コサギは1970年代には埼玉県の東松山市周辺の地域では普通にいた種であったが,最近になり急激に個体数が減少した.減少は1990年の中頃から始まり,2004年には稀になるほど個体数は減少し,2015年現在も回復していない.そこで,他のサギ類の個体数,餌動物であるエビ類や魚類の生息数,コサギの捕食者と考えられるオオタカの繁殖個体数を調べた.調査地のサギ類はコサギが激減したが,大型種であるダイサギ,アオサギは個体数が増加していた.しかし,エビ類や魚類は生息していて,餌動物の枯渇によるものではなかった.一方1970年代にはいなかった鳥類の捕食者であるオオタカは1980年代から急激に増加した.オオタカはサギを捕食することがあり,ダイサギの捕食もする.コサギは冬期には単独で広い水田や,谷津環境の湿地で採食するので,オオタカによる捕食で,犠牲になったコサギの被食痕も見られた.これらのことから,コサギの減少要因としてオオタカによる越冬個体の捕食が考えられたが,同時期に起こった,餌動物が競合するカワウの増加の影響や,オオクチバスなどによる小型魚の食害などの影響の可能性もあり,これらの要因がどのように関連しているのかも明確にする必要がある.
  • 加藤 克
    2017 年 66 巻 2 号 p. 123-132
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/16
    ジャーナル フリー
    電子付録
    生物学標本の蓄積は,当該種の形態的,地理的分布の歴史的変遷に貢献するが,古い時代に採集された標本には,採集データが付属しない場合があり,有効に利用できないことがある.本研究では,採集年次不明の山階鳥類研究所所蔵ヤマゲラPicus canus標本(YIO-23324)を対象に,付属ラベルの利用年代の考察と採集者のフィールドノートの記載情報を利用してその採集年次情報の復元を試み,研究資源としての標本価値の向上を目的とした.この結果,標本の旧蔵機関である帝国大学で利用されていたラベルの付属から1885年以前の採集標本であること,ラベルに記載されている「ブラッキストン」という採集者名と日本の鳥学の近代化に貢献したThomas Blakistonのフィールドノートの照合から,1881年5月にBlakistonによって採集された標本である可能性が高いことを示した.この結果を援用することで,山階鳥類研究所に所蔵されている帝国大学旧蔵標本のうち,採集年次が判明しない標本の一部についても19世紀収集標本であることを裏付ける情報を整理した.以上の結果に基づき,古い標本を利用した研究の健全な遂行の上では,コレクションヒストリーの解明と,標本情報の再検討研究の継続が必要であることを提言した.
  • 中川 優奈, 三上 かつら, 三上 修
    2017 年 66 巻 2 号 p. 133-143
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/16
    ジャーナル フリー
    電子付録
    近年,都市の鳥類多様性に関する注目が高まってきている.河川は鳥類の群集構造に大きな影響を与えうる環境であるにもかかわらず,都市の鳥類多様性にどのような影響を与えるのか,定量的に評価された例は少ない.そこで本研究では,函館市内を流れる亀田川において,上流から下流にかけて,およそ1 kmごとに河川付近に調査地点を設定し,それぞれの地点で見られる鳥の種数と個体数を,繁殖期と越冬期の2つの時期で調査した.ここから,上流下流のどこで種数が多いのか,それらが季節によって異なるのかを検証した.調査の結果,河川沿いと住宅地では,繁殖期,越冬期ともに,河川沿いの方が有意に種数が多かった.このことは亀田川のような河川の存在が都市の鳥類の種の多様性を高めていることを示している.河川沿いにおける種数は,繁殖期には上流ほど種数が多いのに対し,越冬期では逆に下流の方で種数が多かった.これは繁殖期にはカッコウをはじめとした山に近い上流側の環境で繁殖する鳥が多く見られたのに対し,冬季はカモ類が流れの緩やかな下流の環境を利用したためと考えられた.このような種数の多さが季節によって逆転するということは,面積の影響が強くでる孤立した緑地と河川では都市の生物多様性に与える影響が異なっている可能性を示している.
  • 伊関 文隆, 藤田 剛
    2017 年 66 巻 2 号 p. 145-152
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/16
    ジャーナル フリー
    電子付録
    2009年に福岡県で使用されたサシバの31巣について,その営巣環境を調査し,広葉樹営巣木と針葉樹営巣木の違いを比較した.また,他の報告における記録と比較し,地域による違いの有無を検討した.これまでサシバの営巣木はおもにスギやアカマツといった針葉樹と考えられていたが,福岡県においては針葉樹の他に広葉樹も多種類が営巣木として利用され,地域差があることが示唆された.福岡県における営巣環境情報(営巣木樹種,営巣木の大きさ,営巣木の生育位置,架巣位置)を示すとともに,広範囲に生息する種では地域によって異なる特性がある可能性があり,種としての特性を把握するには広域調査が必要である例を示した.
  • 宮澤 楓, 島田 将喜
    2017 年 66 巻 2 号 p. 153-162
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/16
    ジャーナル フリー
    ヤンバルクイナによる台石を使用したカタツムリの殻の割り方と殻の割れ方の対応関係を,行動の直接観察と殻の割れ方の分類によって明らかにした.沖縄県国頭村にて,センサーカメラをもちいた行動観察と,カタツムリの殻の採取を行った.動画内で識別された4個体すべてから地上に露出した石に,カタツムリの殻口を嘴で咥え保定し繰り返し叩きつけて殻の反対側を破壊し中身を食べるというパタンが観察された.台石使用行動はヤンバルクイナにとって一般的で定型化した採餌行動と考えられる.採取されたカタツムリの殻の割れ方は4つのタイプに分類されたが,うち大多数を占めるType 1と,Type 2はヤンバルクイナによる食痕の可能性が高いことが示唆された.クイナ科の系統でこの台石使用行動が直接的証拠により確認されたのは,ヤンバルクイナが最初である.台石使用行動は,丸飲みは不可能だが常時利用可能性の高い大型のカタツムリを採食可能にするという機能をもつ.
短報
  • 藤田 剛, 土方 直哉, 内田 聖, 平岡 恵美子, 徳永 幸彦, 植田 睦之, 高木 憲太郎, 時田 賢一, 樋口 広芳
    2017 年 66 巻 2 号 p. 163-168
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/16
    ジャーナル フリー
    アマサギは人に運ばれることなく急速に分布拡大した例とされるが,分散や渡りなど長距離移動には不明な点が多い.筆者らは,茨城県で捕獲されたアマサギ2羽の長距離移動を,太陽電池式の人工衛星用送信器を使って追跡した.2羽とも,捕獲した2006年の秋にフィリピン中部へ移動して越冬したが,その内1羽が翌春に中国揚子江河口周辺へ移動し,繁殖期のあいだそこに滞在した.そこは,前年繁殖地とした可能性の高い茨城県から1,900 km西に位置する.この結果は,東アジアに生息するアマサギにおいて長距離の繁殖分散を確認した初めての例である.
観察記録
その他
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