日本油化学会誌
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48 巻, 5 号
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  • 寺田 弘
    1999 年 48 巻 5 号 p. 401-408,502
    発行日: 1999/05/20
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    “地球にやさしい化学” とは地球環境の中で, 人類が他の生物と共存しつつ, しかもこれまでの生産活動および文化的な活動を保持するにはどうしたらいいかを化学 (科学) 的側面から考えることである。そのためには, 種々の生物がその生活圏においてどの様にして共生しているかを知りなおかつ学ぶことが必要である。異なった生物種の間では捕食者と被食者との間の闘争が見られながらも, それらは一定の個体数を維持して共存している。そこに見られる法則性は被食者の優先性であり, 環境の変化に対応して生物装置 (タンパク質) を発現させている。この様なシステムは複雑系を形成しており, これを理解するためにはある特定のレベルのみに注目すべきではなく全体像を把握するように務める必要がある。
  • 渡辺 昌
    1999 年 48 巻 5 号 p. 409-419,502
    発行日: 1999/05/20
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    環境汚染化学物質はヒトがつくったものが環境を汚染し, ヒトに害をなすものと定義されるが, 動植物の被害があきらかになるにつれ, 生態系全体を対象に考えねばならなくなった。とくに体内のホルモン環境の撹乱や次世代への影響は発がんよりもはるかに微量な体内蓄積で発現するため, 新たな研究が必要である。農薬, プラスチック添加剤, ダイオキシンなど, 環境汚染化学物質の現状を概説し, 将来の方向を論じた。
  • 中野 功一
    1999 年 48 巻 5 号 p. 421-430,502
    発行日: 1999/05/20
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    環境中への人工的な化合物の蓄積は身体的, 社会的, 経済的, 政治的に我々の生活に深刻な影響を与えている。中でも, 有機塩素化合物のいくつか (PCBs, PCDDs, DDTなど) は, 人に対して有害であることが分かってきている。これらの有機塩素化合物を処理するための経済的で, 安全な方法が強く望まれている。中でもバイオレメディエーションは汚染環境を微生物によって修復するという経済的で安全な技術であるから非常に期待されている。しかしながら, 実験室レベルでの有機塩素系汚染物質の微生物分解については膨大な報告があるものの, フィールドで成功した報告の数は少ない。研究レベルの成果から直接外挿してフィールドでの成果を予測することはできない。このがっかりするような結果の理由の1つは, 不溶性の有機塩素化合物が土壌に強固に吸着している不均一性の土壌環境中では有機塩素化合物と微生物の接触の機会が著しく減少しており, 分解反応が進まないことである。従って, 現段階で最も重要なポイントは, 土壌中での有機塩素化合物の生物利用性 (Bioavailability) を向上させて分解を速やかに進め, 予測性を向上させることである。そうすることによって, 有機塩素化合物のバイオレメディエーションは世の中に認められる方法になっていくものと思われる。
  • 小泉 睦子, 長谷川 隆一
    1999 年 48 巻 5 号 p. 431-437,503
    発行日: 1999/05/20
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    鳥類, 爬虫類, 貝類などの野生生物において生殖器の異常や集団規模の縮小が報告されているが, これらの変化は内分泌撹乱作用を持った環境化学物質によって引き起こされたのではないかと推測されている。これらの化学物質はまた, ヒトに対して有害な影響を及ぼすのではないかと危惧されている。ヒトに対する内分泌撹乱作用が疑われている化学物質には, プラスチックや洗剤の成分として大量に用いられているビスフェノールA, アルキルフェノール類, スチレンおよびフタル酸類, また, 廃棄物焼却の際に発生するダイオキシン類がある。酵母, 培養細胞およびげっ歯類を用いたin vitroおよびin vivoでの実験では, ビスフェノールAおよびアルキルフェノール類はエストロゲン作用を, また, ダイオキシン類は抗エストロゲン作用を持つことが示されている。しかし, ここで注意しなければならないのは, 現時点では, ヒトに対する内分泌撹乱作用を試験し, 評価するための適切で合意の得られた方法がないということである。
    ここでは, まず, 内分泌系, 内分泌撹乱物質, およびその検出法について簡単な解説をした後に, 上記の化学物質について, 最近の知見をレビューする。そして最後に, 弱いエストロゲン作用を持った二つの化学物質による劇的な相乗作用の報告, そのすぐあとの撤回という最近のトピックを紹介する。
  • 飯田 隆雄
    1999 年 48 巻 5 号 p. 439-448,503
    発行日: 1999/05/20
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    ダイオキシン類は都市ゴミや産業廃棄物等の焼却から発生し, 生活環境を汚染してきた。その結果, 食品を介した人体汚染が進み, 内分泌撹乱物質としても心配されている。油症は今から30年以上前に西日本一帯で発生した食用ライスオイルによる大規模な食中毒事件である。一見, ダイオキシンと何ら関係がないように見えるが, 実はライスオイルに混入していたポリ塩素化ダイベンゾフランをはじめとする, いわゆる, ダイオキシン類が原因で発生している。また, 台湾においても同様の事件が発生している。2, 3, 7, 8-四塩化ダイベンゾ-p-ダイオキシン (TCDD)はサリンの2から10倍も強い毒性を持つといわれ, 1997年2月にIARC (International Agency for Research on Cancer) はフランスのリヨンで開いた専門家会議でTCDDをヒトに対して発がん物質であるというカテゴリーに分類した。
    我々は, 日本人の母乳や血液等のダイオキシン類による汚染を調査してきた。本稿ではこのダイオキシン問題について人体汚染中心に紹介し, さらに, ダイオキシン類と日本の油症および台湾のYuchengについて概要を述べた。
  • 近藤 勝義
    1999 年 48 巻 5 号 p. 449-457,504
    発行日: 1999/05/20
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    アルキルフェノールエトキシレート (APE) は乳化性, 湿潤性などに優れ, 低コストであることから工業用界面活性剤に幅広く使用されている。1996年に “Our Stolen Future” が出版され外因性内分泌かく乱物質, いわゆる “環境ホルモン” に関する問題に対して関心が高まり, マスコミなどでAPEやその生分解物であるアルキルフェノール (AP) に本問題の疑いがかけられた。ここではこの問題に関し概説した。現在の知見から判断する限りAPやAPEは本問題に対するリスクは非常に小さいと考える。しかし, 環境暴露データが少ないことも事実であり今後とも引き続きこれらのデータを収集する必要がある。また, APEの代替えについても述べた。
  • 中村 照子, 峰下 雄
    1999 年 48 巻 5 号 p. 459-462,504
    発行日: 1999/05/20
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    宇宙実験 (STS-84) に用いられたEDl/EDl遺伝子を持つ蚕 (STS-84 EDl/EDl) 幼虫 (5齢11日目) の血液細胞の形, 大きさおよび凝集構造の形態を走査型電子顕微鏡 (Natural SEM) を用いた観察した。
    その結果, STS-84 EDl/EDlの方が非宇宙実験体 (EDl/EDl) より球形粒子が小さく, 繊維状粒子が多く存在し, 網目構造を密に形成していることを明らかにした。これらの明確な相違点は, 宇宙実験によるきわめて大きい重力, 無重力および放射線などの影響により出現したものと考えられた。
  • 山本 二郎, 多田 宗広, 小島 秀和, 磯田 陽一郎
    1999 年 48 巻 5 号 p. 463-470,505
    発行日: 1999/05/20
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    N-クロロアセトアニリド (1) を塩化鉄 (III) -塩化水素錯体 (FeCl3-HCl) のエーテル溶液に溶かして室温で放置すると, 反応は30分で完結し, o-クロロアセトアニリド (10) とp-クロロアセトアニリド (11) が生成した。オルトーパラ比 (10/11) はFeCl3-HClの濃度に依存し, 最高0.64に達した。N-クロロ-2-メチルアセトアニリドからは2種類の, N-クロロ-3-メチルアセトアニリドからは3種類の転位生成物がそれぞれ見いだされた。
    N-クロロ-2-メチルプロピオンアニリドとN-クロロ-2-メチルブチリルアニリドからも, N-クロロ-2-メチルアセトアニリドの場合と同様に, 相当するo-およびp-クロロアニリドが得られ, アシル基が長くなると反応がわずかに速くなった。
    1の3種類の塩素誘導体はいずれもOrton転位が起こることなく, 相当するアニリドのみが得られた。メチル基と塩素をもつN-クロロアセトアニドとFeCl3-HClとの反応でも, Orton転位は進行せず脱塩素反応のみが進み, それぞれに相当するアセトアニリドが得られた。1と臭化鉄 (III) -臭化水素錯体 (FeBr3-HBr) との反応からは, 好収率でp-プロモアセトアニリドが生成した。
    FeCl3-HClを用いた1のOrton転位では, パラ位は分子間転位で進行し, オルト位では分子間と分子内との転位が併発して反応が進行すると考えられる。
  • 勝又 千寿代, 瀬口 和義
    1999 年 48 巻 5 号 p. 471-477,505
    発行日: 1999/05/20
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    亜硫酸ナトリウムによるアゾ染科 (1-アリルアゾ-2-ナフトール, 1-アリルアゾ-4-ナフトール, 2-アリルアゾ-1-ナフトール) の退色に及ぼすシクロデキストリン (CyD) の効果を30℃で検討した。染料の退色機構は染料のヒドラゾン互変異性体の共役エノンに対する亜硫酸の付加 (C-付加), 及び共役イミノンに対する亜硫酸の付加 (N-付加) といった染料の反応部位に応じて2種に大別できる。主に1-アリルアゾナフトールでおきるC-付加においては, β-CyDの添加により, 染料のナフトール側で包接がおき, 退色が抑制されるのに対し, 空洞の径が小さいα-CyDの添加では, 退色の抑制は見られなかった。一方, 2-アリルアゾ-1-ナフトールに対しては, α-CyDは顕著な退色の抑制効果が見られた。この場合の抑制効果は染料のアリル側で包接がおきることから理解した。また, β-CyDはN-付加においても有効な抑制剤として作用した。このようなCyDによる退色の抑制効果について, 置換基効果, CyD空洞への染料取り込みの深浅, 染料の反応部位, 結合定数 (Ka) から考察した。
  • Pubali DHAR, Santinath GHOSH, D.K. BHATTACHARYYA
    1999 年 48 巻 5 号 p. 479-486,506
    発行日: 1999/05/20
    公開日: 2010/02/19
    ジャーナル フリー
    一種のバナスパティ (選択的水素添加反応により液体油から調製した硬化油で, 製パン工業ではショートニングとして用いる) 代替物として, 酵素的にエステル交換をしたパームオレインの栄養特性について, 化学的にエステル交換をしたパームオレインや, 既存のバナスパティと比較検討した。酵素的に, また化学的にエステル交換をしたトランス酸を含まない油脂 (パームオレイン) と, トランス酸を多く含むバナスパティを雄アルビノラット(Char les Foster strain)に4週間与えた。酵素的にエステル交換をした油脂を与えたラットの平均体重は, 第3週, および第4週目でバナスパティ投与群に比べて有意に増加した。この食餌実験では, 総コレステロール, 中性脂肪, VLDL, 及び非HDLコレステロール, あるいはHDL/総コレステロール比に違いはなかった。酵素的にエステル交換をした油脂では, バナスパティ投与群に比べて, 有意にHDLコレステロールが増加した。酵素的にあるいは化学的に, エステル交換をした油脂を与えたラット群における赤血球膜の脂質プロフィルは変わらないが, バナスパティ投与群を比べると, 酵素的にエステル交換をしたパームオレインの投与群で, リン脂質/コレステロール比の増加を認めた。肝臓の総コレステロール量は, バナスパティ投与群に比べて, 酵素的に, また化学的にエステル交換をした油脂の投与群で有意に減少したが, その両群間では有意差を認めなかった。
  • 田中 康弘, 吉田 信也, 倉田 武夫
    1999 年 48 巻 5 号 p. 487-496,506
    発行日: 1999/05/20
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    各種固体酸触媒を用いたゲラニルアセタート (G) の異性化について研究した。
    結果として, モンモリロナイトK 10 (K 10) を触媒として用いると (1, 3, 3-トリメチル-7-オキサビシクロ [2.2.1] ヘプト-2-イル) メチルアセタート (G-0) を選択性良く得られることを見出した。HSZ-360 HUA (H-Y 360) を用いると (E) -3, 7-ジメチル-6-オキソ-2-オクテニルアセタート (G-1), また, Al2O3-N611Nを用いると (E) -3, 7-ジメチル-6-ヒドロキシ-2, 7-オクタジエニルアセタート (G-2) を選択性良く得られることを見出した。
    (G) の結果はネリルアセタート (N), リナリルアセタート (L), およびシトロネリルアセタート (C) にも適用可能であることが明らかとなった。
    異性化の選択性は固体酸触媒の酸強度の変化をもとにし検討した。
  • 上舘 民夫, 柴田 剛典, 渡辺 寛人, 森田 みゆき
    1999 年 48 巻 5 号 p. 497-499,507
    発行日: 1999/05/20
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    種々のアゾ色素の退色反応を西洋わさび由来のペルオキシダーゼ (HRP) -H2O2漂白系を用いて行なった。退色速度はカルコン>クロムバイオレット>オレンジI>オレンジIIの順に増大した。一方, オレンジGの退色反応は進行しなかった。アゾ色素により退色速度が異なる原因を明らかにするため, アゾ色素の酸化電位を測定した。その結果, 酸化電位の小さいアゾ色素ほど, すなわち, HRPの鉄イオンに対して還元能力の大きいアゾ色素ほど退色速度が増大することが明らかになった。
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