日本油化学会誌
Online ISSN : 1884-1996
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46 巻, 5 号
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  • 古賀 洋介
    1997 年 46 巻 5 号 p. 485-495,596
    発行日: 1997/05/20
    公開日: 2009/10/16
    ジャーナル フリー
    エーテル脂質は古細菌と真正細菌を区別する最も明確な指標のひとつである。古細菌の中では, コア脂質の構造, リン酸含有極性頭部基, 糖脂質の糖残基の種類に多様性が認められる。例えば, 非メタン生成好熱菌は主にテトラエーテル型のコア脂質を含み, リン酸含有極性基としてはイノシトールだけを持っており, 高度好塩菌の脂質はジエーテル型のコア脂質と極性頭部基としてはグリセロリン酸およびその誘導体のみから成っている。メタン菌の脂質はこれまで分析された限りではすべて極性基として窒素原子含有基を持っている。このような古細菌の脂質の多様性はランダムなものではなく, 系統関係によって決定されているので, 定性的な脂質組成は高度好塩基やメタン菌で化学分類学的マーカーとして用いられている。生物の世界の最高階級である二つのドメインである古細菌と真正細菌を分ける最も基本的な表現形質は極性脂質のグリセロリン酸骨格の対掌体構造である。この相違はこの二つのドメインが分化した時点以来ずっと保たれていたと仮定することができる。
  • 須貝 昭彦
    1997 年 46 巻 5 号 p. 497-505,596
    発行日: 1997/05/20
    公開日: 2009/10/16
    ジャーナル フリー
    常温で生育する古細菌の脂質は, 基本的にはグリセリンのsn-2とsn-3にC20のフィタノールがエーテル結合したarchaeolであるが, 高温下で生育する菌株では, 2分子のarchaeolが炭化水素同士を向き合い, 炭化水素鎖のメチル末端が結合した構造のcaldarchaeolを基本構造とするものが多い。好熱性古細菌は, 強酸性下に生息するものと, 中性付近に生息しているものとに分けることができるが, 強酸性下で生育するものでは, 全てテトラエーテル型脂質を主要とするものからなっている。これに対し, 中性で生育するものでは, テトラエーテル型脂質を主要なものとするものの他に, ジエーテル型脂質を主要脂質とする菌株も検出されている。特に強酸性高温下に生育するSulfolobaceae科に属する菌株の主要脂質は, caldarchaeolの片側のグリセリンがカルジトールと置き換わったcalditocaldarchaeolを脂質骨格としており, この特殊な構造が耐酸耐熱性に寄与している可能性が考えられる。また, 好熱性古細菌の脂質におけるリンを含む極性頭部は, イノシトールリン酸などの負電荷のものからなっている。
  • 西野 徳三
    1997 年 46 巻 5 号 p. 507-516
    発行日: 1997/05/20
    公開日: 2009/10/16
    ジャーナル フリー
    古細菌の膜脂質は他の生物の膜脂質がリン脂質のエステル型であるのに対しエーテル型脂質であり, それらの生物が過酷な条件においても生育できることを可能にしている。これらの脂質はグリセロールにC20やC40の飽和イソプレン (フィタニル基やジフィタニル基) が結合している。
    それらの脂質は可溶性ゲラニルゲラニル二リン酸合成酵素によって合成されるか, リン酸化酵素によってゲラニルゲラニルリン酸がリン酸化されるかによってまず基質としてのゲラニルゲラニル二リン酸が生じる。これがグリセロールリン酸に結合し, 次いでプレニル基が還元されてフィタニル基になり, head-to-head縮合により二量化してジフィタニルエーテル脂質ができあがる。
    Sulfolobus acidocaldariusからゲラニルゲラニル二リン酸合成酵素の遺伝子を筆者らの考案したred-whiteスクリーニング系を用いてクローニングした。
    この遺伝子を用いて種々の組み換え体を作製して性質を調べたり, 他の同族の遺伝子と比較することによって酵素の進化についても議論ができるようになった。
  • 加藤 千明
    1997 年 46 巻 5 号 p. 517-523,597
    発行日: 1997/05/20
    公開日: 2009/10/16
    ジャーナル フリー
    最近, いくつもの微生物においてゲノム解析プロジェクトが世界中で, 進められてきている。そして, いくつかの微生物においてはすでに終了し, コンピューターネットワーク上にその結果を見ることができる。こうした結果から, 微生物のゲノムサイズが遺伝子の量, 特に制御にかかわる遺伝子や, 偽遺伝子の量と関連していることがわかり, こうした違いが, その微生物のおかれた環境におけるストレスの量的な違いと相関していることが信じられてきている。これは, 小さいゲノムを持ち独立して生活できる超好熱性古細菌のような微生物を調べることが, 最小ゲノム生物を理解するために非常に重要であることを示唆している。わが国ではそうした研究の一環として, 深海熱水鉱床より単離された新種の超好熱性古細菌, Pyrococcus horikoshii, についてゲノム解析が推進されている。本微生物はその生育上限温度にて絶対好圧性を示す事が明らかとなり, ゲノム解析から得られる結果から, 深海の超好熱性古細菌における好圧性のメカニズム, および, 生命の起源と進化に対する理解を深める等の, 成果が期待されている。
  • 今中 忠行, 藤原 伸介
    1997 年 46 巻 5 号 p. 525-533,597
    発行日: 1997/05/20
    公開日: 2009/10/16
    ジャーナル フリー
    16S rRNAの配列を用いた系統解析によれば生物界は細菌, 真核生物, 始原菌の3つのドメインに分類されており, なかでも超好熱始原菌は真核生物の起源に最も近いと考えられている。そのため, 単に耐熱性酵素の生産菌としてだけではなく, 生命誕生の謎を解く鍵としても脚光を浴びている。超好熱始原菌が生産する酵素のアミノ酸配列は一般的に真核生物のそれに似ているが, 触媒機構には特殊性を示すものもある。我々は鹿児島県小宝島の硫気孔から95℃を生育最適温度とする超好熱始原菌Pyrococcus sp.KOD1株を単離し, その酵素の性質を研究することで多くの興味深い知見を得ることができた。ここでは超好熱菌研究の背景とそれが作り出す酵素の性質についてプロテアーゼ, アミラーゼ, DNAポリメラーゼ, グルタミン酸合成酵素, Recタンパク質, アスパラギン酸tRNA合成酵素, 分子シャペロニンを中心に述べる。また, KOD1株のDNAポリメラーゼを用いた短時間PCR, KOD1のシャペロニンを用いた酵素の安定化及び不溶性顆粒の可溶化について紹介する。
  • 大島 泰郎
    1997 年 46 巻 5 号 p. 535-538,598
    発行日: 1997/05/20
    公開日: 2009/10/16
    ジャーナル フリー
    真正細菌及び古細菌に属する好熱性細菌の生体高分子, タンパク質, 核酸, DNA, tRNA, および生体膜を構成している脂質の主要成分について, どのように耐熱性を獲得しているか, その分子機構を概説した。
  • 山内 清
    1997 年 46 巻 5 号 p. 539-550,598
    発行日: 1997/05/20
    公開日: 2009/10/16
    ジャーナル フリー
    古細菌脂質は疎水基が炭素数20, 25, 40の飽和イソプレノイドであり, グリセロール部にエーテル結合している。脂質の分子集合体 (一重膜, 二重膜, キュービック相) は高温度でも安定であり, リポソームは物質保持力に大変優れている。また, 表面エネルギーが異常に低く, 中には炭化フッ素化合物に近い疎水性を示すものがある。古細菌脂質の特徴と機能を飽和イソプレノイド鎖の流動性と立体効果に関連付けつつ概説。
  • 田嶋 和夫, 今井 洋子, 中村 昭雄, 越沼 征勝
    1997 年 46 巻 5 号 p. 551-557,598
    発行日: 1997/05/20
    公開日: 2009/10/16
    ジャーナル フリー
    ジミリストイルホスファチジルグリセロールのナトリウム塩 (DMPG) -水系のスメクチック液晶の熱的性質をX線回折による2分子膜の厚さ, 示差走査熱量測定 (DSC), スピンプローブ法による電子スピン共鳴スペクトルなどの測定によってゲル・液晶の転位温度, Tm以上で温度の関数として調べた。DMPGの0.1mol・dm-3 NaCl中での分散系ではDMPGのX線回折ピークを測定温度によらず観察することができたが, 水分散系では回折ピークは臨界温度, T* (=31.7℃) 以上で消滅した。この新しく見いだされた現象はDSCの結果よりDMPGの末端グリセロール部位の水和と二分子膜のミクロ熱挙動がT*で変化するためであるとして説明された。さらに, グリセロール部位の脱水和による界面活性への影響をDMPGの平衡拡張圧の温度依存性から確かめることができた。
  • 小田 浩史, 永留 重実, 李 相男, 大瀬戸 文夫, 佐々木 泰司, 杉原 剛介
    1997 年 46 巻 5 号 p. 559-571,599
    発行日: 1997/05/20
    公開日: 2009/10/16
    ジャーナル フリー
    膜タンパク質可溶化剤として開発された, 非イオン界面活性剤であるn-nonyl-b-D-thiomaltoside (NTM) の溶液物性を総括・把握するため, 溶液の表面張力を種々の温度下で測定 (滴容法) し, 熱力学的に解析・考察した。また, 親水基の寄与を評価するため, decanoyl-N-methylglucamide (MEGA-10) を同一条件下で測定して比較に供した。すなわち, 両界面活性剤の臨界ミセル濃度 (cmc), 表面過剰量 (吸着量), 界面活性 (表面張力降下度) を決定し, 解析を試みた。また, これらの性質に及ぼすアルコール類 (methanol, ethanol及び1-bu-tanol) 添加効果を調べた。NTMはMEGA-10と同様に非イオン性ながら, 曇り点を持たず, cmc-温度曲線において28~30℃付近に極小を持ち, ヒドロキシル基が強い水和をしている事がわかった。静的光散乱法で会合数を求めてみると (25℃), 16.4と小さい値がでた。また, HLBについても検討したところ, 親水基中の硫黄-S-が, Deviesの尺度で1.5であることがわかった。
  • 森田 みゆき, 山口 江利子, 上舘 民夫, 渡辺 寛人
    1997 年 46 巻 5 号 p. 573-578,599
    発行日: 1997/05/20
    公開日: 2009/10/16
    ジャーナル フリー
    HRPを触媒とした過酸化水素によるオレンジIIの退色反応およびナイロン布への移染に対する界面活性剤およびビルダーの影響を検討した (pH9.0, 20℃) 。アニオンおよび非イオン界面活性剤濃度の増大に伴いオレンジIIの退色速度定数は減少した。Triton X-100が共存すると退色速度は70%減少した。一方, アニオン界面活性剤であるSDS共存下で, オレンジIIのナイロン白布への移染に対して, 著しい移染防止効果があった。オレンジIIの退色速度とナイロン布へのオレンジIIの移染に対してビルダーの影響はなかった。次に HRP に SDS とビルダーを配合したモデル洗剤を用いてオレンジIIのナイロン布への移染を検討した。オレンジIIは速やかに分解されてナイロン布への移染は観察されなかった。しかしながら, Triton X-100を配合したモデル洗剤を用いた場合, ナイロン布へのオレンジIIの移染が認められた。これらの結果は, SDSを含む洗剤を使用する場合, HRPを用いた退色反応が移染防止に有効であることを示唆している。
  • 矢津 一正, 斉藤 郁夫, 請川 孝治
    1997 年 46 巻 5 号 p. 579-582,600
    発行日: 1997/05/20
    公開日: 2009/10/16
    ジャーナル フリー
    Tween 20ミセル中, 37℃における, Cu (II) イオン誘起によるホスファチジルエタノールアミン (PE) の空気酸化反応の動力学について検討した。PEヒドロペルオキシド濃度の反応次数が0.3であったことから, この酸化がヒドロペルオキシドのCu (II) イオン分解により開始されることが示唆された。さらに, PEとホスファチジルコリンの混合ミセルのCu (II) イオン誘起酸化を行い, PE/PC比の増加により酸化速度が増加することを見いだした, そしてその原因としてPE-Cu (II) イオン錯体の生成を推定した。
  • 野村 正人, 久冨 智, 濱田 敏正, 藤原 義人
    1997 年 46 巻 5 号 p. 583-587,600
    発行日: 1997/05/20
    公開日: 2009/10/16
    ジャーナル フリー
    合成ゼオライトを触媒とするテルペン炭化水素類である (+) -2-ピネン (1), (-) -2 (10) -ピネン (2) および (+) -1-p-ピネン (3) の酸無水物 (無水酢酸および無水プロピオン酸) とのアシル化反応を検討した。その結果, US-Y型合成ゼオライトを触媒とする反応条件において, 目的とするアシル化生成物 (4) ~ (13) を選択率良く得ることができた。得られたアシル化生成物について, におい評価を行ったところ, とくに化合物 (9) が良好な香気を有しているとの評価を得た。また, 抗菌活性試験を行ったところ, 枯草菌に対して化合物 (7) がMIC 100μg/mLの値を示し, 活性があることがわかった。
  • 司 英隆
    1997 年 46 巻 5 号 p. 589-593,600
    発行日: 1997/05/20
    公開日: 2010/01/29
    ジャーナル フリー
    女王物質 [(E) -9-オキソ-2-デセン酸 (1)] は, ミツバチの女王ばち (Apis mellifera) から分泌されるフェロモンである。このフェロモンは, 働きばちの卵巣の生育を抑制し, 巣の中では女王ばちを成長させる働きをもっている。この化合物が生化学的に重要であることから, いくつかの合成法が知られているが, 3-ホルミルプロピオン酸メチル (2) を原料とする方法は報告されていない。
    化合物 (2) と2-メチル-2-ビニル-1, 3-ジオキソランからラジカル付加反応により収率76%で生成するケトエステル (4) を, 水酸化カリウムの存在下, ジエチレングリコール中でヒドラジンモノヒドラートと処理し, 収率68%でエチレンジオキシカルボン酸 (5) を得た。 (5) をベンゼン中, ナトリウム水素化ビス (2-メトキシ) アルミニウムと煮沸することにより還元し, 収率75%でアセタールアルコール (6) とした後, さらに, クロロクロム酸ピリジニウムで酸化して収率76%でアセタールアルデヒド (7) を得た。このアセタールアルデヒド (7) をマロン酸と縮合して収率71%で (8) を得, (8) を1M塩酸で加水分解して収率92%で (1) を合成した。
  • 吉富 和彦
    1997 年 46 巻 5 号 p. 601-605
    発行日: 1997/05/20
    公開日: 2009/10/16
    ジャーナル フリー
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