水文・水資源学会研究発表会要旨集
水文・水資源学会2014年度研究発表会
選択された号の論文の156件中1~50を表示しています
Ⅰ.口頭発表
【気候変動・地球環境(1)】9月25日(木)9:10~10:35
  • Sridhara Nayak, Koji Dairaku
    p. 100001-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
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    The study presents the daily precipitation dependence on temperature that how the daily extreme precipitation varies with temperature over Japan. Whether the increasing rate of precipitation over Japan is fast or slow compared to the rate expected by Clausius-Clapeyron (CC) relationship (7% per C)? The analysis is based on the ensemble of three GCMs (CCSM4, MIROC5, MRI-GCM3) and three RCMs (NHRCM, NRAMS, WRF) simulated climate change scenarios for the current years (1981-2000) and future years (2081-2100) over Japan. This is a first attempt to discuss on this issue using multi-GCM/RCM simulations over Japan, which will be very useful information for risk assessment and adaptation strategies for the local governments. The results indicate that precipitation intensities increase while the temperature increases below 20 oC and further increase of temperature decreases the precipitation. The rate of increase of precipitation is also found to be similar as expected by CC relation.
  • 岡崎 淳史, 芳村 圭
    p. 100002-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
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    本研究では,同位体の境界条件の違いがGCMの同位体再現結果に与える変化を定量的に把握するため,陸面における同位体分別と海洋における同位体比の時間発展を考慮する同位体GCMを開発し,これを調べた. 使用したモデルはMIROC5で,この大気陸面部に同位体比を導入した.行った実験は以下の4つである:陸面の同位体分別を考慮しない実験をコントロール実験(CTL),陸面の同位体分別を考慮した実験,海水同位体比の空間分布を考慮するが時間方向に一定とした実験(OCN1),時空間変化も考慮した実験(OCN2)である.海水同位体比の計算にはボックスモデルを使用した.このモデルは降水・蒸発・深層水との混合による同位体比の変化のみを計算し,海流などを考慮するものではない. コントロール実験の降水同位体比の気候値をGNIPと比較したところ,よく知られる同位体の基本的な特徴を確認することができた.SWINGに参加したモデルと比較すると相関は最も低く,バイアスも最も大きかった.水蒸気同位体比を比較したところ,モデルは空間的な分布の特徴をよく再現した.相関係数を他の同位体GCMと比較すると低いが,バイアスについては9‰で他の同位体GCMと比較しても好成績であった.以上の比較から,同位体MIROCは空間的な特徴はよく再現できているものの,他の同位体GCMと比較すると成績はやや劣ることが分かった.現段階では同位体に関するパラメタをチューニングしていないためこのような結果になったと考えられるが,さらなる改良が望まれる. 結果については水蒸気の最大のソースである海水の同位体比変化を考慮した場合の変化について記す.注目する変数は,海洋から大気への直接の影響を見るため,海洋起源である蒸発同位体比である.一様0‰としたCTLに比べると,空間分布を与えたOCN1,時間変動も考慮したOCN2では結果が大きく変化することがわかった.なかでも空間分布を与えた影響が顕著であった(CTLとの平均二乗誤差:RMS=2.4‰).一方で時間変動を考慮した影響はこれに比べると小さかった(OCN2とOCN1のRMS=0.6‰).この結果は同位体GCMにとって同位体境界条件の空間分布が重要であることを示唆する.これらの結果が降水同位体比の再現性にどう影響を与えるのか,陸面の影響はどうか等の詳細な比較については発表で述べる.
  • 中北 英一, 草野 晴香, キム スンミン
    p. 100003-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
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    本研究では,夏期集中豪雨の将来変化をより高い有意性をもって予測することを目的とし,我が国における梅雨期の集中豪雨年を大規模なスケールの大気場の特徴から捉えることを試みた.具体的に,AGCMを用いて対象となる大気場が現れる年の抽出とその将来変化の解析を行った. 解析は2013年夏に日本海側での特徴的な集中豪雨をもたらした海面更正気圧や水蒸気フラックスといった大気場の特徴もとに,AGCMによる出力値から基準に当てはまる大気場が現れる年を抽出し,現在気候と比べて,将来気候において大気場の特徴によって抽出される年の数が有意に増加するかどうかを評価した.その結果,中国地方の8月と東北地方の7月に関しては,5%の有意水準に対して有意な増加がみられた.また, 5kmRCMを用いて定量的に集中豪雨が抽出された年のうち,約50%に近い割合で大気場の基準からも抽出できることを示した. また,海水温や大気初期値などが異なる60kmAGCMアンサンブル実験による出力を用いて同様の解析を行うことによって,将来気候の7月と8月において日本海側の集中豪雨が高い有意性で増加することと,8月に関しては日本海側の特に中国地方において本研究で対象としたような集中豪雨が増加する危険性が高いという結果が得られた.
  • ラムザン メーワイシツュ, ハム スルヤン, 吉村 で, アムジダ ムハンマド
    p. 100004-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
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  • 小槻 峻司, 田中 賢治, 樋口 篤志, 本間 香貴, 篠田 太郎, 相馬 一義, 竹中 栄晶, 可知 美佐子, 久保田 拓志, 梶原 康司
    p. 100005-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
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    近年,世界各国の水工・水文分野において,気象予測データを用いて,河川流量・旱魃・穀物収量などの面的な農業・水資源変動予測が実施されている.これらの予測には,近未来の気象予測精度向上に加え,陸面初期値の精度向上が重要である.我々の研究グループでは,環太平洋域における農業水資源変動予測を目的に,陸面再解析・速報解析システム開発に取り組んだ.本稿では,環太平洋域を対象としたシステム開発の一環として行った,日本域における高解像度陸面再解析について述べる.解析の1つの特色は,全日本域を km解像度で計算を実行する点である.検証データが比較的豊富にある日本を対象とし,モデル解析値の検証や,感度実験による高解像度化・気象強制力差し替えの効果の調査を目的としている.
  • Pavetti Infanzon Alicia, Tanaka Kenji, Kotsuki Shunji, Tanaka Shigenob ...
    p. 100006-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
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    Paraguay had dense forest cover until the 1970s but due to agricultural expansion, the country lost almost two thirds of its Atlantic forest (Huang et al., 2007). Such landscape transformation is believed to influence regional climate because it alters surface-atmosphere interactions . This research aims to reproduce past surface parameters for Paraguay and apply them to investigate the impacts of land use change in November rainfall. For this, the AVHRR NDVI data series (1981-2006) and SPOT Vegetation product (1999-current) were correlated to adjust the AVHRR product in order to reduce sampling errors. These surface parameters, along with vegetation scenarios for the 1990s and 2000s, were then used in meso-scale numerical weather prediction model (CReSiBUC) to perform two sets of simulations for November 2006 -2011 to assess the potential regional impacts of land cover change on precipitation during November and the mechanisms that may lead to variations in regional climate.
  • 内海 信幸, 金 炯俊, 沖 大幹
    p. 100007-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
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    降水は熱帯低気圧や温帯低気圧など様々な降水システムによってもたらされる。気候変動に伴う降水量の分布の変化や統計的特性については多くの研究が行われてきたが、総降水量の変化が降水システムのどういった変化によるものであるかについてはあまり注意が払われてこなかった。一方、個々の降水システムについてはその発生頻度や強度の変化の推計が行われ、大気や海洋の大規模場の変化との関連の解析も進められている。将来の降水量の変化を、それをもたらす様々な降水システムの変化と結び付けて理解することができれば、ローカルな降水量の変化から大規模場の変化までプロセスの連鎖を一貫して遡り理解することにつながる。そこで本研究は気候モデルが予測する降水量の変化について、それがどのような降水システムのどのような変化によってもたらされるものかという視点で解析した。
    影響範囲の広さや重要性の観点から熱帯低気圧、温帯低気圧、前線を降水の原因となる降水システムとして明示的に扱い、これらに含まれない降水システムによる降水を「その他」とした。降水システムは気候モデルが出力する6時間毎の大気場(気圧、気温、風速など)から客観検出手法を用いて検出した。検出した降水システムから一定範囲内で発生した降水をそれぞれの降水システムによる降水とした。
    中高緯度の降水量変化は主に温帯低気圧の変化によるものであった。南インド洋などでは、熱帯低気圧による降水の変化の影響が比較的大きかった。ただし、モデル間の予測の一致度は高くなく、予測の不確実性が大きいことが示された。解析した地域のうち極域などを除く多くの地域において、熱帯低気圧および温帯低気圧に伴う降水の頻度変化は総降水量の減少方向に、強度変化は総降水量の増加方向に働いていた。
【気候変動・地球環境(2)】9月25日(木)10:45~12:10
  • Nyunt Cho Thanda
    p. 100008-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
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  • 佐藤 雄亮, 芳村 圭, 沖 大幹, 金 炯俊
    p. 100009-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
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    温暖化に伴う降水と蒸発量の量及び分布の変化により,複数の地域について渇水の増加が心配されている。その増加量や増加率は地域によって異なると考えられる。一方,これまで我々の社会は貯水池や灌漑を用いることで安定的に水資源を利用出来るようにインフラを整えてきた。ところがWada et al. (2013)は人為的な取水が河川の水量を減らし河川渇水を助長すると指摘している。渇水に関してこれまで多くの研究が行なわれてきたが,流況への人間活動を考慮した渇水の将来予測は試みられていない。 そこで本研究は全球を対象として,①長期の時系列の中で渇水発生の変化率がどのように変化するかを領域毎に特徴づける,②人間活動がその変化の様相をどのように変化させるかを明らかにする,の2点を目的とする。そのために,陸面モデルの長期オフラインシミュレーションを用いて河川渇水に焦点を当てた温暖化実験を行なった。
  • 近森 秀高, 永井 明博, 西村 悠史
    p. 100010-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
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    将来の洪水流量の変化を予測することを目的として,吉井川流域におけるレーダー雨量計データと気象庁が開発した地域気候モデルの一つである雲解像領域大気モデルによる現在および将来の雨量データ(以下,RCM雨量と記す)を用いて,各々の確率洪水比流量曲線を求め,流域面積による将来の洪水流量変化の違いについて検討した。
    本報告では,RCM雨量のバイアス補正,面積と確率面積雨量との関係を表す確率DA関係,これに基づく確率洪水比流量曲線の3項目について検討した。
    まず,RCM雨量のバイアス補正は,地域気候モデルが元来持つ出力データの偏り(バイアス)を補正するために行われた。これは,レーダー雨量計および現在の気候のRCM雨量のそれぞれの年最大面積雨量に一般化極値分布を当てはめ,これらの分布による確率面積雨量の比を将来の気候の面積最大RCM雨量に乗じることにより行われた。
    現在および将来の確率DA関係は,レーダー雨量から推定される年面積最大雨量とバイアス補正によって得られた将来の年面積最大雨量にそれぞれ一般化極値分布を当てはめ,これらの分布から推定された確率面積雨量に基づいて求めた。 
    現在および将来の確率洪水比流量曲線は,確率DA関係にDA式であるHorton式を当てはめ,これに降雨継続時間とその時間内の平均降雨強度との関係(DD関係)を表すSherman式,角屋・福島による洪水到達時間式,合理式を組み合わせることにより求められた。
    これらの検討の結果,確率洪水比流量は全ての面積について将来の方が大きい値となり,その増加率は対象面積が大きくなるに従って大きくなる傾向が示された。

  • 池内 寛明, 平林 由希子, 木口 雅司, 鼎 信次郎, 山崎 大
    p. 100011-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
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    アジアのメガデルタ地域では、将来想定されている温暖化に伴う豪雨の増加と海水準上昇により、洪水リスクが増加することが懸念されている。既往の研究では気候変化を考慮したリスク評価や、地形に基づいて海水準上昇のもたらす影響の評価が行われてきた。しかしながら、デルタにおける河川網が複雑であることや、海水準上昇を洪水シミュレーションに組み込むこと自体の難しさから、温暖化と海水準上昇を考慮した洪水リスク算定はまだ行われていない。そこで本研究では、代表的なメガデルタの一つであるバングラデシュを対象に、海水準上昇と気候変化の双方を考慮し、将来の洪水リスク評価を行った。まず観測値を用いたモデルの妥当性を検証した。図1に、河川流量の検証結果を示す。太い線が観測値、細い線がモデルの計算結果を表している。一部に過小評価が認められるものの、流量のピークや季節変動を十分再現できていることを確認した。次に、現在の気候の下で将来海水準上昇が生じた際に、浸水深がどの程度増加するのかを調べた。上流域では比較的影響は小さいものの、中流域では浸水期間が長く、また河口や海岸域では直接的に影響を受けるなどといった、海水準上昇が浸水深の増加に及ぼす影響の地理的な差異が解明された。将来予測については複数の気候シナリオ・海面上昇シナリオを想定し、それらが浸水面積と洪水被害額の上昇にどの程度の寄与をもたらすのかを算定した。
  • フェルナンデス ロドリゴ, 佐山 敬洋
    p. 100012-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
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    Variations in temporal scale of hydrological variables are one of the most important features for water managers to know. Several complexities result in different temporal patters; however the water cycle can be simply summarized in the functions of water collection, storage and discharge. Comprehensive hydrological classifications seldom use the storage function metric, although it is important for runoff generation and its temporal variations. At global scale, most studies have focused on understanding the feedback between the variables of the hydrological cycle, but most classification methods have been based either in climatology or runoff patterns without incorporating the three functions. The objective of this study is to develop a classification framework that relates the temporal variations of precipitation, evaporation, storage and runoff for large scale river basins.
  • 浅野 倫矢, 田中 茂信, 田中 賢治, 浜口 俊雄
    p. 100013-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
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    東アフリカに位置するヴィクトリア湖(68,800km3)は湖岸周辺300万人以上の生活を支えるとともに、白ナイルの源流として下流国にも大きな影響を与えている。先行研究によれば、湖からの流出地点において2000年に運用を開始した水力発電ダムの放流操作と、同時期に発生した旱魃の影響によって、ヴィクトリア湖は2000年代前半に急激な水位の低下を見せ、周辺国を動揺させた。本研究では陸域水循環モデルを本流域に適用し、20km格子の超高解像度全球大気モデル(MRI-AGCM3.2S)による実験結果を用いて。将来気候下における湖の長期水収支を評価することで、湖の運用が持続可能であるか評価した。本研究により、ヴィクトリア湖集水域において将来気候下における水資源賦存量の大きな増加という結果を得、湖の持続可能な運用には本研究で採用した現行のダム操作と異なる操作規則を設定する必要があることがわかった。今後は、複数のGCM プロダクトを用いた解析を通して、より信頼度の高い評価とすることを目指す。
  • 伊藤 祐二, 織田 翔平, 籾井 和朗
    p. 100014-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
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    池田湖では近年の気温の上昇に伴い,湖水の鉛直循環深度の変化や深層の貧酸素化などの湖の物理・化学的な側面で異変が生じている.こうした湖水環境の変化は,地域の温暖化に伴う水温や成層強度などの湖水の熱環境の長期的な変化と強く関係している.本研究では,湖水環境の変化を検討するための基礎的知見を得るために,池田湖の長期的な熱特性の変化を明らかにすることを目的とした.水温に関する鉛直1次元モデルを用いて,過去36年間(1978~2013年)の水温や成層強度などを解析し,気温,水温,成層強度,サーモクライン深度,成層化期間の年変動傾向を調べた.解析の結果,池田湖では,気温は0.024°C y-1,水温は0.032°C y-1の上昇傾向にあった.成層強度の指標であるSchmidt安定度指数の年変動を調べたところ,夏季と冬季で較差が増大する傾向にあった.また,湖水の成層化が鉛直循環の抵抗となることを示したうえで,湖水が全層にわたって循環する時期である2月を対象に,Schmidt安定度指数の変化が湖水の鉛直循環に及ぼす影響を明らかにした.さらに,秋季のサーモクライン深度は36年間で2.2~2.7 m深くなっており,その主因が透明度の増大によること,成層化期間は成層化開始日の遅れにより36年間で約1ヶ月短くなったことを明らかにした.
【気候変動・地球環境(3)】9月25日(木)13:10~14:00
  • 吉澤 一樹, 朝岡 良浩, 風間 聡
    p. 100015-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
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    ボリビアの首都ラパスの年間降水量は約600mmと少なく,氷河の融解水を主要な水源としている.近年,気候変動に伴う氷河後退が懸念され,将来的な氷河の水資源量を評価することが必要とされている.この地域の氷河変動に関する予測研究の多くは衛星画像から抽出した過去の氷河面積の時系列変動を外挿することにより氷河の消滅する時期を推定している.このような手法によりTuni氷河は2020年代に,Condoriri氷河は2040年代に消滅すると推定されたが,氷河変動をより正確に予測するためには質量収支に着目し,氷河の消耗域・涵養域,平衡線高度(ELA,Equilibriun-Line Altitude)を考慮する必要がある.Pablo et al.は,熱帯氷河に適した氷河融解・質量収支モデル(ETI,Enhanced temperature index model)を開発した.既往研究ではシミュレーション期間中,氷厚は常に一定としていたが,本研究では長期シミュレーションのため衛星画像から抽出した氷河域と標高データから推定した氷河の断面形状を計算の初期条件としてモデルに組み込み,今後30年間の氷河変動を明らかにした.現状気候が続いたと仮定する標準計算と9つの大気循環モデル(GCM,General Circulation Model)から算定した気温上昇率の平均μ (0.034℃/年)と標準偏差σ (0.0097℃/年)に基づいて設定された3つの気温上昇シナリオでモデル計算を行った. 標準計算下では,30年後の氷河面積はCondoriri氷河で26.6%,Tuni氷河で80.8%,HPW氷河で26.7%減少すると推定された.3つの気温上昇シナリオでは,30年後の氷河面積はCondoriri氷河で35.5~50.7%,Tuni氷河で84.3~89.0%,HPW氷河で26.7%~66.5%減少すると推定された.質量収支に着目したモデル計算の結果,いずれの氷河でも30年後に消滅しないと推定された.一般に,気温上昇によってELAが上昇することで消耗域が増加し涵養域が減少する.本研究で対象とした3氷河では30年後でも氷河上から涵養域が消滅しない.また,30年間の0.72~1.32℃の気温上昇で,ELAは50~100m程度しか上昇しない.標準計算下の総融解量はCondoriri, Tuni, HPW氷河でそれぞれ,79.9%,98.6%,41.5%減少すると推定された.気温上昇シナリオではそれぞれ,36.6~48.1%,86.3~91.1%,19.5~62.1%減少すると推定された.これは気温上昇によるELAの上昇に伴い,融解量を発生させる消耗域が減少するためである.
  • 前田 英俊, 渡部 哲史, 平林 由希子
    p. 100016-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
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    近年地球温暖化が進んでいる中で,山岳氷河が融解し年々その総量が減少していることが指摘されている.氷河の融解は水資源の減少や海水面上昇を引き起こす.それらの影響を論じるに当たって氷河の質量収支の把握は重要な意味を持つが,未だ不明瞭なところが多い.近年,数値モデルの開発が進み将来の気候変化に対して氷河がどのように応答するのか予測を行うことが可能になった.しかしながら,数値モデルは近年の観測ベースの質量収支の結果に基づいて開発されているために,その結果の検証を行うことができない.そこで,本研究ではより長期間の記録が存在する氷河の末端位置情報に注目した.氷河末端情報が存在する期間を含む過去1000年の氷河質量収支の計算を行い,その結果を氷河の長さの変化情報に解釈する事で末端位置情報との比較を行い,数値モデルの検証を行うことを目的とした. 氷河の質量収支を計算するに当たって,全球氷河モデルHYOGA2を用いた.HYOGA2は個々の氷河の形状や位置・標高等の分布型情報と,その位置における地表平均気温と降水量をモデルに与えることにより個々の氷河の質量収支を50mの標高帯ごとに計算するモデルである.パラメータとして融解係数が設定され,1948年から1980年の氷河質量収支の現地観測データから得られた長期平均に対して,モデルから得られた長期平均が最も合うようにキャリブレーションが行われている.  このモデルを用いて,西暦850年から2000年までの長期シミュレーションを行った.シミュレーションに当たって,必要となる気象外力はCMIP5/ PIMP3によって提供されている過去1000年実験と20世紀再現実験の結果を用いた. その結果,小氷期と呼ばれる1500年から1800年ごろにかけての寒冷な時代に氷河が前進していることが確認でき,その後2000年に近づくにつれて減少していることがわかる.これは過去に氷河を描いた絵画や文書,古地図から再構築した氷河の末端位置情報と概ね整合しており,小氷期と呼ばれ,ヨーロッパ地域において氷河の前進が多く報告されたイベントを再現できている可能性が高いと思われる.一方で1400年以前についてはGCMにより異なる結果を示しているが,この時期に付いては適切な比較記録が存在しないため検証を行う事ができない.今後,モレーンのようにより長期間の記録を持つ氷河末端位置情報を用いることで,比較検討を行うことができると考えられる.
  • 渡部 哲史, 田上 雅浩, 恒川 貴弘, 平林 由希子, 鼎 信次郎
    p. 100017-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
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    全球氷河モデルを世界水資源モデルと結合し,氷河の融解が利用可能な水資源量の変化に与える影響を推定するフレームワークを構築した.必要な将来気候シナリオ,社会経済シナリオの整備を行い,気候変動・水利用変化を考慮したシミュレーションを実行することで,氷河の融解および複数の社会経済シナリオを考慮した水資源量および食糧生産量の推定を行った.本研究では水資源量および食糧生産量の推定を,世界水資源モデルH08を用いて行った.H08モデルは陸面過程,河川,作物成長,貯水池,取水,環境用水のサブモデルから構成されており,気象および土地利用の情報を入力として,貯水池操作や農業取水等の人間活動を考慮した水循環量を全球スケール,日単位で計算する.H08モデルは河川からの灌漑取水量の推定を目的として,世界の農事暦を推定するための作物成長モデルをサブモデルとして持つが,この作物成長サブモデルは各計算格子における主要な作物の収量を推定しているため,この作物サブモデルが推定する主要な作物の収量の将来変化を求めることにより,気候変動が将来の食料生産に与える影響を推定した.全球水資源モデルに入力として与える気候シナリオとして,WATCHプロジェクトにより作成された20世紀再現気候外力データセットWFD,ならびに,WFDを参照データとしたバイアスの手法を適用しCMIP5で公開されているGCMの出力値を補正した外力データを用いた.また, 既往研究によって求められた氷河の融解量を用いて,この値とH08モデルの陸面サブモデルから得られた流出量を併せることにより,氷河の融解が水資源量および食料生産量に与える影響を推定した.将来の水資源量を考慮する際には,将来の社会経済の変化が水資源量や農業生産量に与える影響も無視できない.そこで,本研究では既往研究で得られているSSPシナリオ毎に設定された農業・工業・生活の各取水量に関するパラメータを利用し,複数の将来の社会経済の変化を考慮した水資源量ならびに食糧生産量の推定を行った.なお,これらのデータは空間解像度が0.5度,時間解像度が日単位であり,本研究ではこの解像度で以下の計算を実行した.得られた結果より,氷河の融解量の変化および将来の気候変動・水利用変化が作物成長に与える影響が明らかとなり,高温ストレス、水ストレスの変化により将来の作物収量が減少する例が示された.
  • 渡辺 恵, Koirala Sujan, 平林 由希子, 鼎 信次郎
    p. 100018-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
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    温暖化が進行すると,南アジアや東アジアの主要流域では,一般的には,年平均河川流出量は増加することが予測されている.一方で,インダス川やガンジス川,長江,黄河などのアジアの主要河川の起源であるアジア高山域の氷河の消失は,かつてない規模で進行しており,21世紀を通して加速すると予測されている.しかしながら,現在の気候モデルの陸面過程は,大陸氷床以外の陸上の氷河の涵養と融解は陽に考慮されていないため,氷河の融解水を加味した淡水資源の将来予測は,氷河からの融解水が卓越している上流の氷河支流域毎に個別に行われて来た.本研究では,アジア高山域の氷河を起源とする河川の流域スケールを対象として,氷河変動が淡水資源に及ぼす将来影響の定量化を行う.上流の氷河支流域からの流出量変化と下流の氷河以外の要素に起因する流出量変化のバランスを見るために,双方を合わせた流域全体における水収支を評価する点が特徴である.また,全球で適用が可能な氷河モデルを用いることにより,既存研究でも対象とされてきたモンスーンの卓越する流域などに加えて,降水特性の異なる流域や,より氷河融解水への依存度の高い流域などを加えた全11流域(インダス,ガンジス,ブラマプトラ,長江,黄河,タリム,アムダリア,シルダリア,イラワジ,サルウィン,メコン)に対象を拡大したことも発展的と言える.氷河モデルのシミュレーション結果である氷河融解量と,GCMのシミュレーション結果の河川流出量を組み合わせる.氷河融解の淡水資源への影響として,氷河融解量と河川流出量を足し合わせた総流出量と,総流出量に占める氷河融解量の割合である氷河寄与率の将来変化をもとめる.尚,最も温暖化が進んだ将来を想定するため,将来期間(2006-2099)では,RCP8.5の気候シナリオに基づいてシミュレーションを行う.用いるGCMは,CMIP5に提出された,最新の6つGCMの平均値を利用する.シミュレーションの結果,以下の知見が得られた.(1)氷河融解量と河川流出量を足し合わせた,流域全体からの総流出量は,対象の全11流域で,将来増加することが予測された.(2)モンスーンの卓越する湿潤な流域のみ限らず,乾燥地域を含む流域や,氷河依存度の高い流域でも,総流出量は増加する.(3)総流出量は将来増加することが予測されたが,氷河融解の進行が早い流域,氷河依存度の高い流域などでは,氷河寄与率の減少は将来深刻化することが示唆された.
【森林水文・流出】9月25日(木)14:10~15:35
  • 村上 茂樹, 鳥羽 妙
    p. 100019-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに
    通常、樹冠遮断Iは林内外の雨量の差から一降雨毎に算出される。一降雨は降雨休止時間(Storm break time, Sbt)が6時間以上継続する場合に分離・定義し、一降雨中にこれよりも短いSbt(例えば3時間)が存在してもそれは「降雨中」として扱われる。このため多くの研究では、一降雨中の降雨休止中蒸発ISbt (Sbt<6時間)と降雨中蒸発IRの区別がなされず、両者の和を降雨中蒸発とすることが多い。樹冠遮断はIR、ISbtと降雨終了後の蒸発 IAftからなる。本研究では、樹冠遮断におけるこれら3成分の算出を行う。

    2.方法
    3つの模擬木林分(トレイ)を用いて自然降雨の下で樹冠遮断を測定した。樹高はトレイ1が65cm、トレイ2が110cm、トレイ3が240cmである。林外雨PG、林内雨PN、樹冠遮断I、貯水量の変化ΔSとすれば、I = PG - PN - ΔS となり、林内外の雨量と貯水量の変化量(単木重量の変化量)からIが算出できる(一降雨毎の解析ではΔS=0)。31.0mm~110.2mmの4つの降雨について時間分解能を5分として Sbt>= 20分の場合にサブ降雨イベントに分離し、 IR、 ISbt、 IAftを算出した。

    3.結果
    サブ降雨イベント毎のIR、 ISbt、 IAftをトレイ別に算出した。測定誤差によって負のISbt、 IAft値を示す場合もあったが、すべてのトレイにおいてI に占めるIRの割合が大きくなった。

    4.考察
    IR、 ISbt、IAftはPG、PN、ΔSを用いて最小時間単位5分で算出している。流れ切らずにトレイやチューブに残っている雨水による誤差と、単木による重量測定の代表性に起因する誤差が累積して負の成分が現れたと考えられる。理論的にはIR + ISbt + IAft(=I)の値とPG - PN(=I)の値は等しくなる。両者はほぼ一致するので、一降雨毎のトータルのI= IR + ISbt + IAftは妥当であると考えられる。ISbtの値は測定誤差を考慮すればゼロに近く、IAft以外の樹冠遮断はほとんどIRによってもたらされていることが示された。このことは、降雨自体が樹冠遮断蒸発の原動力になっていることを示しており、樹冠遮断は雨滴の飛沫が蒸発することで生じているとする説(Murakami, 2006)を支持する結果である。
  • 五名 美江, 蔵治 光一郎
    p. 100020-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    日本の山地源流域においては、近年、人間による木材利用が減少したことにより、森林が放置され、植生遷移が進行している。日本の森林の6割を占める広葉樹林においても、落葉広葉樹林が常緑広葉樹林に移行しつつある。このような常緑広葉樹林では、林内に光が到達せず、下層の植生が消失し、落葉が流れ去り、雨滴が地表面に衝撃するエネルギーによって土壌が流出している。近年、問題となっている、シカなどの野生生物の増加が、下層植生の衰退と土壌の流失に拍車をかけている。このような広葉樹林におけるリターの消失の水文学的な影響については、プロットスケールでの実験や観測は行われているものの、流域全体としての影響を論じた研究は存在しない。流域全体におけるリターの役割を明らかにするためには、流域全体を対象とした大規模な実験を行う必要がある。本研究では、1949年から51年にかけて行われた、小流域全体のリターをはぎ取る実験の前後で精密に観測された降水量・流出量データを用いて、対照流域法により、ピーク流出量や年最小流出量に及ぼす影響を再検討する。本研究は小流域スケールで地表面がリターに被覆されていることの水文学的な重要性を明らかにすることを目的としている。
  • 小西 遼, 嶋寺 光, 近藤 明, 井上 義雄, 高見 京平
    p. 100021-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    淀川流域における将来の水循環を評価するために,将来の流域の気候を予測することが出来る気象モデルを気象変数の入力値として用いた水文モデルを構築し,さらに,降雨流出を予測する上で重要となる森林土壌特性を表現できる森林生態系モデルを組み込むことで,淀川流域の気象・水文・森林生態系統合モデルを作成した.本稿では,気象・水文観測所の実測値がある2010年において統合モデルを淀川流域に適用し,水循環の再現性について評価した.気象モデルは観測された降水ピークをほとんど全て捉えることが出来ており,統合モデルによって流量のピーク時期と流量が良好に再現された. 2010年以外の年でもこのモデルを適用し,別の気象条件でも良好な再現性を得ることが出来るか検証する必要がある.講演では,2011,2012年までの複数年での評価を示す.
  • 谷 誠
    p. 100022-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    降雨流出応答の物理的根拠について、なぜ有効降雨が観測降雨から分離されるのか、不均質性が大きいのに降雨流出波形変換がなぜ簡単な準定常過程を通して再現できるのか、に焦点をあてて考察した。その結果、両方の課題に対して不飽和土壌の役割が重要であること、簡単な再現結果は、土壌層が波形変換のクラスターを構成するためだということが推定された。
  • ユ ワンシク, 中北 英一, キム スンミン, 山口 弘誠
    p. 100023-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では数値予報(NWP)モデルを利用した予測降雨とレーダーを利用した予測降雨のブレンディングを利用して予測降雨と洪水予測の精度向上を目指す。
    そこで、中北ら(2012)が提案した地形性降雨の分離手法とエラーフィールドを利用したレーダー降雨予測手法を使用することで、数値予報モデルを利用したアンサンブル予測降雨をエラーフィールド方法を利用して精度を向上させた。
    また、CSIとRMSEを利用したブレンディング手法を開発して予測降雨の精度を向上させた後洪水予測に適用した。
    本研究は日本の台風タラスによって発生した2011年最大の洪水イベントのために行われている。
  • 浜口 俊雄, 田中 茂信, 角 哲也
    p. 100024-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    流域と沿岸域を併せた流域圏では,斜面や河道の水・物質動態,水温動態,地下水動態,土砂動態,栄養塩動態,内外水氾濫動態,生態系動態,沿岸域の水・物質動態,人間活動系動態が相互に作用し合う状態にあり,それぞれの環境はそれらの動態に基づき時空間的に変化する.それを一つのシステムで統合化管理できる流域圏環境モデルを構築すれば,非連成の近似モデルも不要になり,治水・利水管理面で持続可能な条件の検討が一手に出来るようになる.現状は,上記の各動態モデルのほとんどがそれぞれ独立的に考案され,モデルの次元やモデル化された離散化スケールもそれぞれのモデル化概念に基づいて提案されていて不揃いであり,同時に考えるには事前に次元やスケールの共通化を図る必要があるが,同概念に矛盾しないように時空間離散化スケールをアップ/ダウンスケーリングで対応することが一般的である.当研究では,既存の水文流出モデルをベースに据え,水・物質の各項目動態の追跡を山地分水嶺から河口を経て沿岸域まで空間拡大し,1つの流域圏で物理学的・生態学的・社会学的に相互作用し合う各動態を一手に総合評価できるような統合化モデルの開発を理論的に進める.流域圏統合モデルは結合に必要なモデルを個々に準備して理論的には結合が可能なかたちとなっているが,土砂・栄養塩各生産モデルが経験統計モデルであったり,スケールの整合性で挙動に不連続が生じるなど問題も未だ残されている.
  • 山崎 大, 田中 智大, Bates Paul
    p. 100025-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    河川と氾濫源における洪水氾濫シミュレーションは,治水計画の策定やリアルタイムでの洪水予報に有用な情報をもらたす.近年,高解像度のデジタル標高モデルが入手可能になると,1次元の河川流量にだけでなく2次元の氾濫原における流量と浸水域の予測も河川氾濫モデルで扱うようになった.1次元河川モデルとは異なり2次元の河川氾濫モデルは格子点の数が非常に大きくなるため,計算負荷の制約からSt. Venant運動方程式を直接解けないため,加速度項などを省略して計算を行うのが一般的である.本稿では,計算効率の高い運動方程式の近似形式として,ブリストル大学で近年開発された「局所慣性方程式」を紹介する.

    局所慣性方程式は,拡散波方程式に局所慣性項を追加したにも関わらず,より高速で安定した氾濫計算を行うことができる.これは,差分化の際にセミインプリシット形式を用いて陽解法で流量を計算できるよう工夫したことと,局所慣性項の追加で微分方程式が双極型に変わり許容タイムステップが大きくなったことに起因する.局所慣性方程式の局所慣性項は他の項と比べて非常に小さく,計算結果は拡散波方程式とほぼ変わらない.氾濫計算において拡散波方程式を用いる利点はなく,局所慣性方程式の導入が推奨される.
【水質水文】9月25日(木)15:45~17:00
  • 原田 茂樹, 橋本 泰佑, 佐藤 泰介, 小関 達成, 白石 琢磨
    p. 100026-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    森林域で流出したシリカが受水域へと至る過程を定式化することが要求されるが、そのためには流路にあるダムなどで滞留する間にシリカがどのような挙動をとるかを明らかにする必要がある。仙台市の大倉ダムにおいて、2011年から月一回べースでのサンプリングと解析を行った結果、Asterionella属によって、シリカが溶存態から懸濁態に全層で変換され、沈降により底質へと移行していることが明らかとなった。この量的な割合は、ダムへのインプットの1/3から半分を占める。その機構は、Asterionella属が沈降しながら、各層で活発にシリカを取り込んでいるという、物理的および生物的プロセスによって説明される。前者は乱流拡散理論により、後者は生物学的取り込み式により説明した。
  • チェロス ファイザ, 守利 悟朗
    p. 100027-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では、火山地域における堆積土砂の流出、輸送と河川流出量等の関係に関する特性を明らかにした。すなわち、ロシア・カムチャッカ半島のSukhaya Elizovskaya川において、堆積物及び流況の関係等に関する調査・解析を行った結果、例えば融雪期において、予測が困難な日変動を生じる特徴的な環境における特性が示された。更に、Sukhaya Elizovskaya川における解析結果は、日本及びマレーシアにおける山地河川と比較が行われた。
  • 高見 京平, 嶋寺 光, 近藤 明, 井上 義雄
    p. 100028-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    2011年3月11日の東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故により,環境中に放射性物質が排出された。大気中の放射性物質は,湿性・乾性沈着によって原子力発電所周辺を中心に落下した。沈着した放射性物質の地表面での残留,河川への流出,底質への沈降・分配,海域への流出等の環境動態プロセス全体の予測が,将来の健康影響を評価するために必要となっている。そこで,福島第一原子力発電所の西に位置し,流域の大部分が原子力発電所から150 km圏内にある阿武隈川流域を対象として,放射性物質挙動のシミュレーション手法を作成するために,本研究では,その土台となる水文・水質モデルを阿武隈川流域に適用し,検証を行った。
    阿武隈川の東西にはそれぞれ,阿武隈山地と奥羽山脈が南北に走っており,各支川が東西から櫛状に本流へ合流する。計算領域の格子解像度は1km×1km,格子数は5638とした。なお,流域内で主要な3基のダム,三春ダムと摺上川ダム,七ヶ宿ダムを考慮した。また,計算期間は2009年1月から2011年12月の3年間とした。
    水文モデルでは,地理データと気象データを入力することで,降雨流出過程が計算される。流域内の各計算格子について鉛直方向にA~D層の4層を設置して,流域特性を3次元的に表現し,地表面およびA層については畑地,山林,市街地,田,水域の5種類の土地利用を考慮した。水質モデルでは,水文モデルによる河川流量をもとに,河川中の浮遊物質量(SS)が計算される。SS濃度の収支式では,移流,拡散,沈降,再浮上,横流入負荷を考慮した。
    河川流量と河川中SS濃度の日平均値について,観測所で観測された実測値と,観測所の存在する計算格子におけるモデル計算値を比較した。河川流量のモデル再現性について,計算期間の3年を通じて平水時およびピークの出現タイミング,流量は良好となった。河川中SS濃度については,観測日におけるモデル再現性は概ね良好となった。ただし,河川中SS濃度の観測は月に1回,平水時でしか行われていないため,洪水時のような河川流量の多い日の再現性については評価できていないため,濁度とSS濃度の関係を利用するなど,平水時以外のモデル再現性評価方法を検討する必要がある。
    今後はモデル計算精度向上とともに,今回適用した水文・水質モデルを基にして放射性物質挙動シミュレーション方法を作成する。
  • 名和 規夫
    p. 100029-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    国内においては,沖縄県における赤土流出などに代表される土地利用の変化に伴う土壌流亡が報告されている。降雨による浸土壌劣化を受けた土地は全世界で約2.2億haに及ぶ。更に,福島第1原発事故後は浮遊物質の移動を考慮した管理が重要となっている。これらの理由から、ダム、頭首工の集水流域において地表流による浸食によって生産される浮遊物質の移動を調査した。本研究では,浮遊物質移動を組み込んだ分布型水循環モデルの構築し,ダム集水域でのウォッシュロード移動の予測を試みるものである。
  • NGUYEN Thanh Thuy, KAWAMURA Akira, AMAGUCHI Hideo, NAKAGAWA Naoko
    p. 100030-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    The spatio-seasonal hydrogeochemical characteristics of unconfined groundwater in the Red River Delta, Vietnam were investigated in this study.  Hydrogeochemical parameters (major ions: Ca2+, Mg2+, Na+, K+, HCO3-, SO42-, Cl-) from 47 unconfined observation wells acquired during the dry and rainy seasons in 2011 were classified using the self-organizing maps in combination with a hierarchical cluster analysis. The SOM application classified the groundwater chemistry data into 5 clusters, which revealed three basic representative water types characterized by the high salinity (1 cluster), low salinity (2 clusters) and freshwater (2 clusters). The spatial distribution of the clusters and water types were identified. Cluster changes from the dry to rainy seasons were detected in about one-fifth of the observations wells, where dilution by surface water may significantly affect the chemical characteristics of the unconfined aquifer during the rainy season.
  • 中川 啓, 渡辺 貴史
    p. 100031-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    硝酸態窒素による地下水汚染が顕在化している島原市を対象として、窒素負荷ポテンシャルマップの作成を検討した。まず航空写真を100mx100mの要素に分割し、それぞれの要素における農地、畜舎を判別した。集落単位におけるそれぞれの要素数をカウントし、それに単位要素あたりの窒素負荷をかけて、集落ごとの窒素負荷ポテンシャルを評価した。窒素負荷ポテンシャルの高い集落の下流側では、地下水の硝酸態窒素濃度が高い傾向が窺えた。農業集落カードにより作成したマップと比較したところ、概ね類似した分布が得られた。また旧市町村ごとの窒素負荷ポテンシャルマップの変化を調べたところ1985年を境にポテンシャルの分布の変化が見られた。 
【降水(1)】9月26日(金)9:35~10:50
  • 中川 勝広, 花土 弘, 中村 健治, 鈴木 賢士, 西川 将典, 藤吉 康志, 金子 有紀, 山本 和英, 沖 理子
    p. 100032-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    2014年2月28日に打ち上げに成功し、初期チェックアウト期間中のGPM(全球降水観測計画)の主衛星に搭載されるDPR(二周波降水レーダ)による降水強度推定アルゴリズムの開発・検証を行うために、独立行政法人宇宙航空研究機構(以降、JAXA)は2台のKa帯FMCWレーダ(以降、Kaレーダ)を開発し1)、2010年から日本各地で衛星の打ち上げ前地上検証観測(以降、打ち上げ前地上検証実験)を実施している。今回は、昨年度の秋季から冬季にかけて蔵王(山形県)にて実施した融解層および降雪の集中観測についての概要を報告する。
  • 鈴木 賢士, 古田 尚悟, 宗近 夏美, 中川 勝広, 金子 有紀, 沖 理子, 中村 健治
    p. 100033-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    本研究は、降水雲内を直接観測できる強力なツールのひとつであるビデオゾンデを用いて雲内の降水粒子を観測し、GPM/DPRの地上検証およびアルゴリズム検証のための降水粒子の空間分布を明らかにすることを目的としている。ビデオゾンデは、0℃よりも暖かい大気中に存在する雨滴のような液相から氷点下で存在する霰や雪片などの氷相にいたるまで、それらの種類や形状、サイズ、空間濃度など雲内の微物理構造を知ることができる測器である。2013年11月より2014年3月にかけて、山形県蔵王山において、GPM主衛星打上げ前のKaレーダの地上検証、対向実験が実施され、その観測期間中、ビデオゾンデの放球および改良版ビデオゾンデの地上設置ならびに係留による長時間のサンプリングを行った。2014年3月13日および3月20日には係留気球観測を実施することに成功した。3月20日は日本列島の太平洋沿岸を低気圧が通過し、観測サイトでは朝からみぞれ混じりの雨が降り始めた。雨に雪が混じり始めた0948JSTに係留を開始した。地上での降水は、雨、みぞれから雪へ変化した。係留の最高高度は海抜700m~750m、気温は0~-0.5℃であった。ビデオゾンデ画像では大きな雪片も確認された。残念ながら今回の係留観測では係留高度がやや高く、観測された降水粒子はほとんどが氷粒子であったため、融解層内部の明瞭な相変化を観測することはできなかったが、ビデオゾンデの係留という初めての試みに成功した。
  • 上米良 秀行, Thanh Ngo-Duc, Le Viet Xe, 松本 淳, 牛尾 知雄, 岩見 洋一
    p. 100034-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    衛星観測に基づく雨量プロダクトは,雨量計や気象レーダーによる地上観測網の整備が十分でない地域における唯一の雨量情報であり,そのような地域の水文予測や農業水利等にとって極めて重要である.国産プロダクトGSMaPは水平0.1度(約10 km)格子,1時間間隔という世界最高水準の時空間分解能を有しており,特に準実時間プロダクトは観測の僅か4時間後に取得できるため,各国現業機関における実利用への期待が大きい.観測原理,観測頻度,その他の制約により精度の面で課題も残るが,プロダクトの性能をよく把握し,長所を最大限に活かしながら実利用につなげることが大切である.本研究では,ベトナム中部を流下するトゥボン・ヴザ川の部分流域を対象にGSMaPの性能を調査した.
  • 瀬戸 心太, 下妻 達也, 久保田 拓志, 井口 俊夫
    p. 100035-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    二周波降水レーダ(DPR)を搭載した全球降水観測計画(GPM)主衛星は、2014年2月28日にH2Aロケットにより打ち上げられ、3月よりDPRの運用が開始された。DPRは、TRMM(熱帯降雨観測衛星)搭載のPR(降雨レーダ;周波数13.8GHz)の後継と位置づけられるKuPR(周波数13.6GHz)と、弱い雨や固体降水の観測に適した設計のKaPR(周波数35.5GHz)から構成されている。図-1に示すように、一部のピクセル(紫色)では、KuPRとKaPRによる二周波同時観測が可能であり、降水推定精度が高くなると期待されている。DPRに適用する降水推定アルゴリズムは、日米共同チームで数年前から開発が進められてきた。打ち上げまでは、PRから作成した模擬観測データを用いて、アルゴリズムの検証と改良を行った。運用開始以降、実際の観測データにより、プロダクトの検証とアルゴリズムの調整を行っている。標準プロダクトは、打ち上げ半年後の9月頃から一般公開される予定である。本発表では、レベル2プロダクトの概要と初期評価結果を紹介する。
  • 金原 知穂, 山口 弘誠, 中北 英一
    p. 100036-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では,地上における降水量の推定を目的として,XバンドMPレーダを用いて雨滴粒径分布(Drop Size Distribution,DSD)推定の手法を用い,雲内部におけるDSDの時空間構造を推定する.また,DSDの時間発展モデルを用いて,上空でのDSDから地上でのDSDを計算し,その変動を考慮して降水量推定を行う.3次元のDSD推定を行うにあたり,DSD推定手法の既往研究から精度向上を目的として改良を試みた. 実際の降雨に適用したところ,発達した対流性雲では,雲発生後に上空で初めてDSDが推定された段階から比較的大きな雨滴が多く存在している様子が多くの事例で観測された.また,降水セルの中心部分の発達ののち上空から地上へ落下する過程等の雲内部の微物理的過程も確認できた. DSDの時間的・空間的な変化を導入した雨滴落下モデルを構築し,地上でのDSDから降水量推定を行い,降水量推定精度の向上を図る.
  • 中北 英一, 山口 弘誠, 坪木 和久, 大東 忠保, 橋口 浩之, 川村 誠治, 中川 勝広, 岩井 宏徳, 鈴木 賢士, 大石 哲, 相 ...
    p. 100037-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    2012年7月京都・亀岡豪雨、2012年8月宇治豪雨などは、大阪湾から流入してくる水蒸気が神戸や大阪付近で雲となり、その後淀川に沿って積乱雲が発達しながら移動し、大阪北部や京都で豪雨をもたらしたメカニズム(淀川ラインと呼ばれる)を持つ。これら一連の積乱雲の発生・発達を捉えるために、近畿で整備されている国土交通省のCバンドおよびXバンドの偏波レーダー網に加えて、2011年に、独自に設置したXバンド偏波レーダーによって大阪湾口を対象とした配備とRHI観測、ミリ波レーダーによる雲観測、GPS受信機をブイやフェリーに設置して大阪湾から流入してくる海上での水蒸気観測、をそれぞれ設置した。2012年には初めて都市域でのビデオゾンデ観測に成功した。2013年度には、別途観測プロジェクトとも連携して、ドップラーライダー、ミリ波レーダー、Xバンド偏波レーダーを毎2分ごとに4方位角をRHI同期観測するという実験を行った。気流変動と雲の発達に関する鉛直断面比較を行い、気流の収束と積乱雲の発達がよく対応していることが明らかになった。
【降水(2)】9月26日(金)11:00~12:15
  • 増田 有俊, 中北 英一
    p. 100038-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では、降水セルの発生初期から成長期に着目し、筆者らが開発した「降水セルの追跡手法」と「粒子判別手法」を組み合せることで、降水セル内における各降水粒子の存在状況や発達する降水セルの特徴に関する解析を行った。解析には、局地的豪雨の現況監視のために国土交通省が展開しているXバンドMPレーダ(XRAIN)の3次元観測値を用いた。本研究で用いた粒子判別手法の特徴の1つに、雨やあられ、氷晶といった一般的な粒子タイプに加えて、大粒子(Big Drop)が存在する点が挙げられる。大粒子が存在する場所では上昇流の存在が示唆されており、本研究でも成長期の降水セルにおいてセルに占める大粒子の存在割合が大きいことが確認できた。更に、降水セルの発生初期に着目した解析を行った結果、地上に降雨が到達する5分程度前に高度4km付近でファーストエコーが発生しており、この時点で既に大粒子が判別されていることが分かった。強い上昇流域を伴った積乱雲内では、大きな(扁平した)雨滴が上空に運ばれるため、0℃高度よりも上空に大きな正のZdr(Zdrカラム)が観測されることが知られている。本研究でも、地上に強い降雨をもたらした降水セルを対象に、Zdrの高度時間断面を作成したところ、地上に強雨が到達する5~10分前に、1dBを超える大きなZdrが0℃高度よりも上空に存在していることが明らかになった。XRAIN観測値から、降水セルの発生初期(ファーストエコー)や発達する積乱雲の特徴を知ることで、局地的豪雨をもたらす積乱雲の早期探知や30分程度先までの短時間降雨予測精度の高度化に大きく寄与することが期待される。
  • 佐藤 豪, 城戸 由能, 中北 英一
    p. 100039-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    近年,急激な都市化による不浸透面積率の増加により「都市型水害」と呼ばれる内水氾濫および都市中小河川からの氾濫が頻繁に発生している.また下水道等の整備による点源汚濁負荷削減が進む一方,面源汚濁負荷に対する対策が十分とられておらず都市中小河川の水質改善が進んでいない.このため浸水防止を主目的とする雨水貯留施設を降雨予測情報に基づいて実時間制御し,汚濁負荷削減目的でも利用可能にする制御戦略が検討されてきたが,汚濁負荷削減の為の雨水貯留が浸水防止用の貯留容量を使用するため浸水リスクを高め,実際に浸水が起きた場合に行政の管理瑕疵を問われるために現実の施設に導入することは困難であった.浸水回避のためには予測降雨に基づく実時間制御を行う必要があるが,誤差を含む降雨予測情報を的確に活用して浸水リスクを避けることが必要となる.そこで本研究では,浸水リスクを高めることなく汚濁負荷削減効果を得られる制御戦略の提案をすることを目的とし,レーダー降雨予測情報の活用方策を検討した.京都盆地西部を流下する一級河川西羽束師川流域を対象流域とし,当該流域で現在建設中の雨水貯留施設「いろは呑龍トンネル」を想定した解析を行った.最新型Xバンドレーダー情報を用いた移流モデルによる降雨予測を実施し,Kinematic Waveモデルを用いて流出解析を行い,作成された予測流量情報に基づく貯留施設の実時間制御を想定し,浸水リスクの評価と降雨予測情報の活用方策について検討した.
    Cバンドレーダーに適用されてきた移流モデルを一部改良し2011~2013年の強雨事例を対象としてXバンドレーダーによる降雨予測を実施し,先行研究に基づき実時間制御の各パラメータを設定して解析した結果,周辺データで最大の値を用いた場合のみ浸水リスクが増大せずに緊急排水操作が実施可能となった.ピークカット貯留が行われる全ての事例において緊急排水が完了するためには,周囲2.5km範囲の予測降雨情報の最大値を用いる必要があった.
    今後,より一層移流モデルの緻密な改善を行うことで降雨予測精度を改善しより狭い範囲での予測降雨情報活用が可能になり,実際に対象領域に到来する雨域に基づいた適正な緊急排水操作のルール作成を目指す.そして,多様な制御戦略を検討・提案することで,現実施設に適用可能な浸水対策および汚濁負荷削減対策の両立が可能になる.
  • 高田 望, 佐藤 悠, 吉田 翔, 池淵 周一
    p. 100040-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    近年、地上雨量観測所では捕捉出来ない局地的な大雨が多発しており、面的雨量情報(以下、メッシュ雨量データという)の重要性が一層高まっている。5分遅れ程度で利用可能な日本全域を網羅するメッシュ雨量データとしては気象庁合成レーダー、国土交通省Cバンド合成レーダ雨量(以下、国交省合成レーダーという)が存在する。 著者らはダム流入量予測を目的に、地上雨量計データ及びメッシュ雨量データを活用する降雨予測手法を開発し、そのシステム化と運用を行ってきた。ここでメッシュ雨量データは雨域の移動予測を行う上で初期値となる。さらに観測及び予測雨量は分布型流出予測システムの入力値となり流量に変換される。すなわち、メッシュ雨量データの精度は降雨予測及び流出予測の精度に直結すると言える。2014年1月、気象庁合成レーダーに続いて国交省合成レーダーについても、デジタル値の民間利用が可能となった。そこで両者の精度比較を、気象庁アメダス観測値を用いて行った。評価対象地域は近畿地方(東経134度30分~137度、北緯33度30分~36度)とし、2013年の1年間を評価対象期間として以下の方法で精度評価を行った。   (1)     5分毎のメッシュ雨量データを積算し、正時毎に1時間雨量データを作成する。 (2)     毎正時のアメダス時間雨量データに対する上記(1)で作成したメッシュ雨量データの、①相関係数 ②二乗平均平方根誤差 ③総雨量比(メッシュ雨量/アメダス雨量)をアメダス観測点毎に算出する。 (3)     上記評価指標①②③の分布図を作成し、両メッシュ雨量の精度特性を面的に評価する。 (4)     全141地点の評価値の算術平均値を算出する。   検討の結果、気象庁合成レーダーと比較して国土交通省合成レーダーの精度が高いことがわかった。特に、紀伊半島南部において気象庁合成レーダーの過小評価傾向が顕著であった。今後、評価対象地域、評価期間を拡張した検証および10分間雨量等の短時間雨量を対象とした検証を行う予定である。さらに検証結果を踏まえ、国交省合成レーダーと気象庁合成レーダーの合成等、リアルタイムで利用する上での補正方法についても検討を行う予定である。
  • 高見 和弥, 山口 弘誠, 中北 英一
    p. 100041-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    局地的豪雨に対する予測の新たなステップとして,気象レーダーを用いた大気上空の降水粒子の形成に関する研究に加えて,積乱雲の生起に関わる都市境界層での現象に着目が集まっている。本研究では,都市で発生する熱プルームや,さらにスケールの小さなわずかな上昇流を豪雨の「種」と呼び,その現象解明のためにLES(Large Eddy Simulation)を用いた都市気象モデルを開発することを目的としている.豪雨の種を捉えるためには,種からタマゴへの成長過程,都市の粗度効果,熱的効果の陽的な表現が必要であるとして,LESを用いた準圧縮非静力学の都市気象モデルを独自に一から構築した.構築したモデルの検証として,バックステップ流れや建物の後流などの数値実験を行い,既往研究と比較しながら,それぞれの流れ場の特徴である流れの構造を再現できることを確認した.また,建物周辺の流れと熱の計算によって都市を想定し,大気の安定度による変化を調べる実験を行う.さらに今後の課題として本研究の目的である豪雨の「種」の解明のため,都市の熱的表現を詳細荷扱い,雲物理モデルを含有する水蒸気の式を導入する. 
  • 田上 雅浩, 一柳 錦平, 芳村 圭, 嶋田 純
    p. 100042-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では、同位体領域モデルを用いて、日本全国における冬の水蒸気起源を推定した。シミュレーションは2000年から2011年まで行った。まず,同位体領域モデルの大気水蒸気輸送過程を検証するため、降水δ18Oの計算値を観測値と比較したところ、モデルは観測値を良く再現していた。次に、日々の気圧配置を冬季モンスーン型と温帯低気圧型に分けた。冬季モンスーン型では、日本海から蒸発した水蒸気が、沖縄を除く、日本全国の主な水蒸気起源であるということがわかった。興味深いことに、その一部は太平洋まで輸送されていたが、太平洋側の降水量は非常に少ないため量的な寄与は小さかった。一方、温帯低気圧型では、太平洋から蒸発した水蒸気が日本全国の主な水蒸気起源であることがわかった。最後に,それぞれの気圧配置下における降水δ18Oやd-excessの差を調べたところ、冬の日本海側では、温帯低気圧型より冬季モンスーン型のほうがδ18Oは2‰、d-excessは9‰高いことがわかった。
  • 古田 尚悟, 鈴木 賢士, 川野 哲也, 齊藤 靖博
    p. 100043-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    冬季に発生した南岸低気圧が発達しながら東進することで、日本の太平洋側地域に降雪をもたらす。太平洋側地域では降雪や積雪による交通障害、ライフライン障害等が発生しやすいため注目されているが、その雲内の微物理構造の直接観測が実施されたことはなく、これについての知見はほとんどなかった。山口大学、九州大学、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、アラバマ大学(UAH)はロケット打ち上げ制約の適正化を目的として、2012年からRAIJINプロジェクトを実施しており、2013年1月~2月にはRAIJIN2013プロジェクトが実施され、ビデオゾンデ観測を鹿児島県熊毛郡南種子町にある種子島宇宙センター(TNSC)で実施した。観測期間中には、日本周辺で4つの低気圧が発生したが、この降水をもたらした低気圧に伴う降水雲内へ合計8台のビデオゾンデを放球し、雲内の直接観測をすることに成功した。 本研究では、RAIJIN2013のビデオゾンデ観測で得られたデータから低気圧の発達ステージの初期段階にある南岸低気圧に伴う降水雲内での降水過程を明らかにすることを目的としている。 降水寄与率は多くの事例で共通して雨滴が90%前後を占めており、降水寄与率がそれほど高くはない事例でも雨滴と凍結水滴を合わせた寄与率は90%近くになったことから、全事例で共通して雨滴の生成が非常に活発で支配的であり、凍結水滴も降水形成に大きく影響していることが示唆された。また、粒径が3mmを超える雨滴が多数存在していた事例もあった。これらの事例の雨滴はいずれも下層に集中していたが、このうち3事例では雨滴の分布域が0℃層の上層まで広がっており、0℃層の下層で上昇流が発生していると推測されたのに対して、その他の事例では0℃層の下層の上昇流は弱かったと推測された。これらのことから、雨滴が上昇流により上層に持ち上げられることで凍結し、成長した凍結水滴が落下・融解することで雨滴の形成に影響したと考えられる。  発達初期段階にある南岸低気圧に伴う降水雲内では雨滴の生成が活発に行われており、これは主に下層での「暖かい雨プロセス」により形成されていることが明らかになった。さらに、雨滴の凍結プロセスも降水形成に大きく寄与しており、これには雲内の上昇流のはたらきが重要であることが示唆された。
【降水(3)】9月26日(金)13:15~14:15
  • 嶋寺 光, 近藤 明, 北岡 健, 井上 義雄
    p. 100044-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    数値気象モデルWRF v3.5.1を用いて大阪府域を対象に都市化が降水現象に及ぼす影響を評価した。現況土地利用を用いたURBANケースと,都市を水田に変更したNOURBケースで,2006年から2010年の8月を対象に計算を行い,両者の比較を行った。その結果,URBANケースではNOURBケースに比べて,2-m気温については,夜間により高く,平均で2.1 °C高くなった。大気境界層高さについては,特に日中の午後により高く,平均で196 m上昇した。降水量については,大気が不安定になりやすい夕方に特に増加し,平均で20 mm month-1増加した。
  • 北 真人, 河原 能久, 椿 涼太, 牛山 朋來
    p. 100045-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    近年,気候変動が問題とされており,それに伴う集中豪雨も多発傾向にある.集中豪雨のように,限られた地域において,短時間かつ多量の降雨が発生する場合,内水・外水氾濫,の発生が懸念される.そのため,XRAINのような豪雨を観測する手法とともに,豪雨を予測する手法はその重要性を増している. また,早期に集中豪雨および豪雨災害を予測するシステムを構築するには,数値モデルのような予報時間が長い手法が有効であると考えられる1).本研究ではWRF(Weather Research Forecasting model)を用いて,豪雨を事例とした数値実験を実施することで,そのモデルの精度の検証することを目的とする.また,数値モデルの課題である初期値鋭敏性を改善する手法として,局所アンサンブル変換カルマンフィルタ(Local Ensemble Transform Kalman Filter, LETKF)を適用し,その有効性についても検証する.
    本研究では,2013年8月23日から25日にかけて,島根県西部を中心に発生した島根県西部豪雨を対象とした.解析領域は西日本全体と韓国を四角形に囲む領域に設定した.LETKFを実行する際に,初期値は適切なバラつきを有している必要性がある.そのため,本研究では初期値摂動の作成法として,異なる日付の同じ時刻を初期値とし,共通の境界条件を用いた2日間のスピンアップ計算を行った.積分時間は,2013年8月21日0時から8月25日9時とした.
    本研究で得られた知見を以下の通りである. 1) 島根県浜田市における強降雨が発生することを定性的に再現したが,総降雨量を過小評価した. 2) データ同化を実施することで,同化しない場合よりも,雨量分布が改善され,同化手法の有効性を確認した. 3) 下層の水蒸気輸送に加え,湿舌による上層の水蒸気輸送が豪雨の発生の要因となっていることを示唆した.
  • 野原 大督, 堀 智晴
    p. 100046-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    渇水管理を目的としたダム貯水池の長期利水操作においては,渇水が比較的長期間にわたって継続する少雨によって引き起こされることから,長期の将来にわたる流域の気象・水文状態に関する予測情報を考慮することは効果的であると考えられる.しかし,一般に予測リードタイムが長くなるほど予測の信頼性が低下する傾向にあり,将来の状態を確定的に予測することが困難になる.こうした状況に対応するため,近年,解析誤差程度の微小なばらつきを人工的に持たせた複数の初期値からそれぞれ予測系列を発生させ,それらを総合的に評価することによって,決定論的な予測の精度低下を補おうとするアンサンブル予測技術が,現業気象予報に取り入れられてきている.本研究では,気象庁から提供されている現業アンサンブル気象予報のうち,特に渇水管理の上で有益と期待される週間アンサンブル予報と1か月アンサンブル予報の降水量予測値を利用したダム利水操作モデルを構築し,これらの予報を利用する効果について比較検討を行った.具体的には,192時間先(8日間先)までの予測値については,最新の週間アンサンブル予報を利用し,それ以降の予測については1か月アンサンブル予報を参照した.こうして得られた降水量のアンサンブル予測系列を,回帰式によりダム流入量および河川流量に変換し,1か月先までのアンサンブル流量予測系列が得られる.得られた流量予測系列を考慮しながら,1か月先までの渇水被害を最小化するよう,確率動的計画法によって日別放流戦略を決定し,放流戦略に従ったダム操作を行った.週間予報または1か月予報が更新されるたびに最適放流計算を再度行い,新たな予測状況を踏まえた操作を実施するものとした.なお,渇水被害指標としては,(不足流量の2乗)/(需要量)を採用した.吉野川水系早明浦ダムの利水操作を対象に適用を行った結果,週間予報を考慮した場合には操作精度が改善したものの,1か月予報については,降水量予測情報の予測精度によっては操作精度の改善が見られない場合があった.
  • 玉川 一郎
    p. 100047-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    中部山岳域において、JALPSデータアーカイブによる雨量計データと、解析雨量を比較した。比較は1時間値に対して行い、期間は2008年から2012年である。解析に使用されているアメダスなどの雨量計データに対しては、解析雨量はそれを下回らないように処理されており、統計的には過大評価となるが、JALPSデータ(18地点)に対しては、そのような傾向は見られなかった。雨量計データと解析雨量との一致は地点によって違ったが、その違いを地形との関連で調査したところ、雨量計周囲200m程度の標高の標準偏差と、雨量計ー解析雨量の差が1mm以内になる割合の相関がよく-0.72を示した。解析雨量は、山岳地であっても平坦な場所であれば雨量計観測値とよく一致し、200m程度のスケールでの起伏の多い雨量計との一致は良くなかった。局所的な地形が雨量計の代表性に影響を与えていることが示唆される。
  • 葛葉 泰久, 葛西 真美
    p. 100048-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    5kmメッシュの確率降水量を求めた.本稿では,120年確率日降水量だけを示しているが,手法は普遍的である.データとして,革新プロの5kmメッシュデータを用いた.算定した5kmメッシュ確率降水量の質は,このデータの質に依存するが,手法自体は,どのようなデータにも適用できる.なお,用いた革新プロ5kmメッシュデータは,南西日本で少しばかり過大な確率降水量を算定させる傾向があるようである.
【研究グループ報告】 9月26日(金)16:00~16:30
  • 阪田 義隆, 知北 和久, 中津川 誠, 山田 朋人, 工藤 啓介, 小池 明夫, 濱原 能成, 木村 峰樹, 臼谷 友秀, 上原 弘之
    p. 100049-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    2013年度水文・水資源学会研究グループ「北海道の渇水比流量分布の現在及び将来予測」の活動報告を行う。本研究グループでは,近年の渇水流況データ,支流や非人口地域の流量観測(補間),GISによる空間解析を通じ,北海道の渇水比流量分布をマッピングするとともに,そのトレンドを分析し将来分布推定を目標に設立された.2013年度は、主にデータ収集が行われ、GIS空間解析とトレンド分析は試行的に行われた。会合は計3回(2013年5月27日、12月26日、2014年2月20日)に行われ、研究方針や課題について議論がなされた。
  • 乃田 啓吾, 中村 晋一郎, 木村 匡臣, 五名 美江, 渡部 哲史
    p. 100050-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    中山間地域は,多様な食料の供給,生物多様性の保全,就業機会の提供,防災を含む公益的効果の発揮等の多面的な機能を有しており,近年では国民の価値観の多様化を背景として,中山間地域の価値が再認識されている.しかしながら,中山間地域は自然的,経済・社会的な諸条件の下,少子高齢化,人口減少が進行し,地域としての衰退が顕著となってきている.これらの問題に対し,農学,社会学などの分野が中心となり中山間地域を対象とした研究が進んでいるが,河川,特に治水・水害分野においては,単発的な水害調査を除き,中山間地域を対象にした研究は皆無に等しい.本研究グループでは,森林水文学,農業工学および河川工学分野の若手研究者による議論を重ね,中山間地域の水害に焦点を当て,分野の枠組みを越えた治水計画の在り方について検討することを目的とし,2013年度に3回,2014年度に2回の勉強会を開催した.勉強会では,「水文学として中山間地域をどのように捉えるか」を大テーマとし,流域における中山間地域の役割および中山間地域と都市との関わり等について議論した.次に,水害常襲地がどのような場所に存在しているのか,その地形的特徴について,既往の研究例をもとに,メンバー間で知見を共有した.この結果,中山間地域と水害常襲地には深い関連があることが確認された.つづいて,「水害常襲地は困っているのか?」というテーマを題材に議論を行った.この議論から,中山間地域の社会的な変化を議論する上で適切な時間的解像度を検討すべきである,という課題が抽出された.以上の勉強会における議論を踏まえ,本研究グループでは,「大水害が中山間地域の持続可能性に与える影響」を明らかにするための研究に着手することとした.対象地は,2009年に大水害に見舞われた兵庫県佐用町とする.具体的には,まず現地調査を行い,大水害直後とそれから5年が経過した現在の状況の比較を行う.大水害直後のデータについては,すでに筆者らが現地での被害調査を実施し,当該地域での被害データおよび各種社会・経済データの収集を行っている.中山間地域の持続可能性に影響を与える要因には,農林業の衰退や雇用環境の悪化といった長期的な変化が指摘されているが,水害という短期的なイベントも長期的な社会変化のトレンドに影響を与えているはずであり,筆者らはこの部分の評価を行う予定である.
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