水文・水資源学会研究発表会要旨集
水文・水資源学会2015年度研究発表会
選択された号の論文の134件中1~50を表示しています
Ⅰ.口頭発表
【水災害】9月9日(水)9:30~11:00
  • 山敷 庸亮, 黒河 翔太, 大泉 伝, 寳 馨
    p. 100001-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
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    山岳地域への降雨に対する地表水,地下水流動と土石流を結合して解析可能なHydro-Debris2DH(HD2DH)を用いて,伊豆大島及び広島の土石流発生状況と,観測された降雨を与えた場合の土石流計算結果の比較を行った.HD2DHは(1)浅水流型方程式を用いた表流水モジュール, (2)同型の方程式系による早い中間流解析モジュールと(3)土石流モジュールからなるモデルであり、山岳地域に広範囲に適用することを想定している。本計算においては気象庁AMeDASと,NTTドコモが提供する環境センサーが自動観測データなどを入力値として10mメッシュでの計算を行った。実際に発生した場所との比較において、発生渓谷はよく合致したが、堆積層と堆積厚さは今後の改良が望まれる。
  • WANG Chao-Wen
    p. 100002-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
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    In general, there are two main triggering reasons of landslides, one is earthquake and the other is rainfall. And during rainfall, the storage change inner the slope is very difficult to measure. It depends on the soil and geomorphology features not to mention the storage change on the whole watershed. Therefore in this study, we will focus on the storage process of rainfall-induced landslides. The storage process means the rainfall infiltrating into slopes, and its volume change of the water inner the slopes during every rainfall event. In this study, rainfall-runoff (Yamada) model would be used to calculate this process and then estimate the possible storage change during rainfall. Finally the storage process inner the slope during rainfall can be evaluated and the results of this storage would apply to the analysis of slope stability and furthermore the early warning application.
  • 木下 武雄
    p. 100003-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
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    雨量・河川水位を用いて、水害危険度予測の開発・研究を行う手法の一端を述べた。雨量から河川水位を予測するには2段の手順:①雨量の予測と、②雨量から水位へ変換する手段とがあり、ここでは後者について主に論じる。それは流出モデルと呼ばれるアルゴリズムであるが、精密に流出を予測するため、非線形モデルが主流である。しかし、大雨が降って、市町村が避難の勧告や指示を出すときに、迅速性が要求される。精密モデルでは諸係数の修正・改訂が間に合うかどうかを考えねばならない。線形モデルとして単位図法により、時々刻々、実測の雨量・水位から、リアルタイムに単位図を人手を介さずに作成し、それで予測をすれば、市町村の水害危険度予測に大いに役立つと考えられる。要するに多くの河川で、直近の雨量・水位を既知数とし、単位図を未知数としてそれぞれの河川で、多元連立一次方程式を解き、求められた単位図に、別途予測された未来の雨量を入力すれば水位が予測される。ここでは最小自乗法を用いて単位図を求めている。計算例は信濃川右支川の長野県千曲市にある沢山川のデータを用いて、示した。長所としては①流量を介する必要はない、②流出率等の係数は用いない、③単位図は固定値ではない、④非線形現象の一部を線形外挿して予測しているわけである。これらを発展させて、ソーシャルビッグデータの利活用の例として避難の勧告・指示に利用し、水害危険度を低下できたら幸である。
  • 木村 雄貴, 平林 由希子, 木下 陽平
    p. 100004-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
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    全球平均気温は2000年代に昇温傾向が止まり、いわゆる温暖化ハイエイタスの時期になっているといわれているが,陸上気温の高温極値は上昇し続けている.一方, 地球温暖化が進行すると世界の多くの地域で河川洪水の頻度が上昇することがいくつかの研究で指摘されており, 陸上の気温と洪水頻度には強い正の相関があることも指摘されているため, 温暖化ハイエイタスといわれる2000年以降についても世界の洪水の頻度が増加している可能性がある.そこで本研究では,流量観測データや全球河川氾濫モデルによる河川流量再解析データを用いて, 温暖化ハイエイタス期の洪水頻度について解析を行った. その結果,既往の研究で指摘されている通り,陸上の、年最大日平均気温に関しては上昇していることがわかった.また,GRDCの流量観測データと河川流量再解析データによる洪水頻度指標の双方において,20世紀から21世紀に洪水頻度指標が上昇しており, 2000年以降もその上昇傾向が続いていることが判明した.全球平均気温は2000年代に昇温傾向が止まり、いわゆる温暖化ハイエイタスの時期になっているといわれているが,陸上気温の高温極値は上昇し続けている.一方, 地球温暖化が進行すると世界の多くの地域で河川洪水の頻度が上昇することがいくつかの研究で指摘されており, 陸上の気温と洪水頻度には強い正の相関があることも指摘されているため, 温暖化ハイエイタスといわれる2000年以降についても世界の洪水の頻度が増加している可能性がある.そこで本研究では,流量観測データや全球河川氾濫モデルによる河川流量再解析データを用いて, 温暖化ハイエイタス期の洪水頻度について解析を行った. その結果,既往の研究で指摘されている通り,陸上の、年最大日平均気温に関しては上昇していることがわかった.また,GRDCの流量観測データと河川流量再解析データによる洪水頻度指標の双方において,20世紀から21世紀に洪水頻度指標が上昇しており, 2000年以降もその上昇傾向が続いていることが判明した.
  • 本間 基寛
    p. 100005-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
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    洪水からの避難等の防災対応の基本資料として洪水ハザードマップ(浸水予測図)があるが,従来型の浸水予測図では想定外力のシナリオが限定されているケースが多い.また,一つの地域において内水氾濫と外水氾濫の危険性がある場合,それぞれで浸水予測図が作成されるケースが多いが,浸水予測で想定されている降水量と実際の降水量を一目で比較する方法がなく,現在進行中の大雨が浸水予測図で示された被害になり得るのか,あるいはそれを上回るのかを判断する材料がないのが現状である.本研究では,淀川水系桂川流域の亀岡市街地周辺をケーススタディの対象地域とし,複数の降雨シナリオにもとづいた浸水予測図を作成する.そして,実際の大雨時に得られる降水量情報と連動させ,一般市民が降水量情報から容易に浸水状況が想起できるよう浸水予測図の開発を試みる.
    降雨の時空間スケールと降雨強度の特性を考慮し,降雨量(強度),降雨継続時間,降雨面積の様々なパターンを組み合わせた降水シナリオを作成した.1988年以降のレーダアメダス解析雨量データを使用したDepth-Area- Duration(DAD)解析を行い,降雨面積別,降雨継続時間別の確率降雨強度を推定し,降雨波形を作成した.設定した各降雨シナリオについて,浸水害に関連する防災気象情報(大雨・洪水警報,記録的短時間大雨情報,大雨特別警報)の基準や累積降水量の観測史上1位の記録雨量にもとづいてカテゴリー化を行った.浸水予測計算では,RRIモデルでは,山地流出・河道追跡と氾濫原解析を一体的に解析することができる降雨流出氾濫モデル(RRIモデル)を使用した.
    防災気象情報別に浸水予測結果を整理したところ,桂川の保津峡狭窄部より上流側では流域全体での長時間降雨(大雨警報相当,特別大雨警報相当)で浸水深が大きくなっている一方で,市街地の一部では比較的狭い範囲での短時間強雨(記録的短時間大雨情報相当)の方で浸水深が大きくなっているところもあった.このように,特性が異なる降雨シナリオのそれぞれで考え得る最大浸水深状況を把握することが可能な「防災気象情報対応型浸水予測図」を作成することで,地方自治体での避難勧告・指示の発表や地域住民の防災対応行動の判断を効果的に支援することが可能な浸水予測図になることが期待される.
  • 三石 真也, 高村 優, 山下 大輔
    p. 100006-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
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    鉄道などの交通機関は自然災害の影響を大きく受けやすい.大雨や,大雪による運行停止によって交通機関の利用客には大きな影響が発生する.鉄道の運行管理は現状では総雨量や時間雨量を用いて管理されており,降雨予測は用いられていない.ここに,降雨や洪水の予測が的確に実施できれば,運行停止時間や運行再開の目処等の情報を鉄道利用客に提供することができるとともに,運行再開にあたって職員の適正な配置を行うことも可能となる.本研究は,近年精度向上の著しい降雨予測を用いた洪水予測を導入し,列車運行管理の合理化を目指した.
    ここでは,平成21年7月の豪雨災害など水害が過去に度々発生している佐波川をモデルに選定し,古濵が同流域を対象に解析した降雨予測誤差の回帰式を気象庁MSM33時間降雨予測とともに流出解析モデルに外力として入力した.そして各々の誤差に対応したハイドログラフにより佐波川に架かる鉄道橋梁において定められた運行管理に関する各種規制水位を上回る確率,その継続時間を算出し,誤差の発生確率を乗じることにより,降雨の発生にあたって,予測される規制水位超過時間の期待値を求めた.降雨予測誤差の要因の一つである気象要因については,古濱が解析した前線,低気圧,台風別の回帰式を用いて誤差発生を表現した.また,降雨予測に対して多く降る場合は,運行停止時間の長期化など管理上危険であり,これをリスク管理するべく,誤差の上限値として,航空宇宙工学等で使用されている+3σを用いた.
    鉄道橋梁の運行規制水位については,設置されている量水標から推測し,堤防高からの距離によって,鉄道の運行を停止させる停止水位,徐行速度での運行とする徐行水位,運行に注意が必要な警戒水位の他,氾濫準備水位(1)~(8)を設定した.そして得られた各種規制水位を超過する時間と実測超過時間と比較し検証を行った.降雨予測誤差の他に流出解析モデルの誤差,H~Q式の誤差があり,鉄道運行に課せられた責務を踏まえ,これらのリスク管理を行うために,実測時間が予測時間を上回らないよう,管理する式を設定した.
【降水(1)】9月9日(水)11:10~12:25
  • 鈴木 賢士, 宗近 夏美, 野中 理伸, 中川 勝広, 金子 有紀, 沖 理子, 中村 健治
    p. 100007-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
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    山口大学では宇宙航空研究開発機構(JAXA),情報通信研究機構(NICT)とともに,2014年2月に打ち上げられた全球降水観測計画(GPM)主衛星に搭載される二周波降水レーダ(DPR)の地上検証を目的に2014年11月~12月および2015年3月に山形蔵王において,地上で雨や雪が混在するみぞれをターゲットにした融解層集中観測を行った。本研究では,ビデオゾンデを改造した地上設置型降水粒子撮像・重量計測システム(Ground-based Particle Image and Mass Measurement System: G-PIMMS)を新たに開発し,これを用いて連続観測を実施した。G-PIMMSは,インパクト式ディスドロメータや二次元ビデオディスドロメータとは異なり,液相と固相を映像として区別,分類でき,さらにはそれらの重量も計測できる。本研究では,雨,みぞれ,雪といった異なる降水のフェーズでどのような降水粒子が存在するのかを直接観測から計測し,融解層内の降水粒子の密度分布を明らかにした。
  • 林 翔太
    p. 100008-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
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    全球降水観測衛星(GPM)に搭載された二周波降水レーダ(DPR)は現在運用されている.DPRの標準アルゴリズムには,その前身であるPRの標準アルゴリズムに搭載された降雨の非一様性(NUBF)に対する補正が実装されていない.本研究では,NUBF補正の重要なパラメータσnの推定方法を対象とし,地上レーダデータを使って,PRアルゴリズムにおけるしσn推定方法の妥当性を検証するとともに,DPRアルゴリズムでσnを推定するために2つの周波数のフットプリントを使う方法を検証した.結果,KaPRのフットプリントを用いたσn推定がPRのσn推定よりも良い事が分かった.
  • 下妻 達也, 瀬戸 心太
    p. 100009-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
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    GPM主衛星のKuPRとTRMM/PRの降水強度について,降水強度算出条件に着目した比較を行った.結果,KuPRに表面参照法や降水の非一様性の条件を適用したケースにおいて,PRの降水強度に近い結果となった.故に,これらの条件に関するパラメータの検討が必要である.
  • 佐藤 悠人, 中北 英一, 山口 弘誠
    p. 100010-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
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    昨今,都市域でのゲリラ豪雨災害が問題視されている.ゲリラ豪雨は時間スケールが小さく,人命に関わる被害をもたらすという特徴を持ち,予測技術の確立,高精度化がより一層急務であると言える.中北ら(2014)は渦度を用いたタマゴの危険性予測システムを構築し,既に国土交通省で試験的運用がなされている.しかし,渦度の大きい積乱雲が発達するメカニズムについては不明な点が多く,渦度を用いた危険性予測手法の理論的な裏付けはなされていない.それゆえ,本研究では渦度を用いて積乱雲発生・発達過程における新たな知見を得ることを目的として定めた.  本研究では,近畿圏に設置されている4台のXバンドMPレーダを用い,レーダ毎のPPIスキャンデータをそれぞれ平面に投影して可視化を行った.2013,2014年の8月でタマゴのサンプルを16事例抽出し,タマゴ発見時の渦度解析を行った.タマゴ内部の渦度の頻度分布をとったところ,正の渦度がやや多く存在していたが,負の渦度も存在していた.次に,発達過程で他の雲と合体し解析が困難であった事例を除く9事例について渦度の高度分布解析を行った.タマゴ発見時刻と地上での降雨強度50mm/h到達時刻の間隔を用いて時間を正規化し,事例毎にステージを定めた.ステージ毎に渦度の高度分布を作成したところ,徐々に渦度の高度が上昇している様子を確認することができた.最後に,タマゴ発達過程の渦管解析を行った.9事例全てで正負両方の渦管を確認することができた.また,6事例で渦管が成長している様子を,7事例で正負の渦管が対になって存在している様子を確認できた.また1事例だけではあるが,フェーズドアレイレーダ(PAR)を用いて,より時空間的に細かい解析を行い,渦管が徐々に成長している様子を捉えた.  解析結果を踏まえて,以下のように考察した.タマゴは正負両方の渦度が確認されたことから,正負両方の渦度付近で上昇流が存在していると考えられる.また,渦度の高度分布が上昇していたことは,上昇流の存在を示唆していると考えられる.そして,渦管の成長はよりスケールの大きいスーパーセルの特徴と一致していた(Cotton et al.(2010)).今後は渦度に加えて,偏波パラメータによる上昇流の推定手法を用い,解析に挑戦したいと考えている.ZDRを用いて上昇流を確認する研究が行われており(Adachi et al.(2013)),ZDRと渦度の分布を比較することでより詳細な気流構造の解析が期待される.
  • 井上 実
    p. 100011-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
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    温度差や密度差のある流体中の乱れによる熱や物質の拡散現象は,大気中や海洋中でごく普通に見られる現象であり,例えば局地的な集中豪雨や大気汚染物質の高濃度化に係わる重要な現象の一つである.このような非等温場における拡散現象の挙動や乱流構造を理解することは,集中豪雨の早期予測や大気汚染の緩和に役立つものと考えられる.また,近年,増加傾向にある集中豪雨は数km程度の範囲で1時間程度の間に発生する時空間的にスケールの小さな現象である.このような現象を解析する有効な手段の一つとして,非等温場での非定常な乱流構造を詳細に捉えることができるLES (Large Eddy Simulation) が挙げられる.
    本研究では微気象場の乱流による熱輸送や水蒸気輸送を解析するために,LESの数値計算手法を開発した.サブグリッドスケール (SGS) の乱流モデルにはKobayashi (2005) が提案したコヒーレント構造Smagorinskyモデル(CSM) を適用した.この乱流モデルの特徴は,ある時間や場所ごとの乱流構造に応じてモデル係数を自動的に与えることができ,数値的な安定性にも優れるという点にある.
    まず,構築した乱流モデルの妥当性を確認するため,チャンネル乱流やバックステップ流れの問題に適用した.次いで,本手法の熱輸送や水蒸気輸送に対する妥当性を確認するため,Siebesma et al.(2003)が行った境界層積雲に対するLESの結果と比較した.その結果,いずれも概ね妥当な結果が得られており,本手法の微気象場における熱輸送や水蒸気輸送の解析に対する有効性が示された.
【降水(2)】9月9日(水)13:40~14:55
  • 高見 和弥, 中北 英一, 山口 弘誠
    p. 100012-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
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    局地的豪雨に対する予測として,レーダにより発見できる豪雨をもたらす積乱雲の最早段階を豪雨のタマゴと呼び,この早期発見が先行研究として行われてきた.その新たなステップとしてレーダでは捉えられない,タマゴの起源となる雲粒を伴わない水蒸気から雲の発生に至るプロセス,またそれを持ち上げる上昇流を豪雨の「種」と呼びその解明のための都市気象LESモデルを開発することを目的とする. 運動量,熱に加え水蒸気,雲水の飽和度を予報変数とするモデルにより都市を想定した数値実験を行い雲の発生時の渦構造について調べた. 
  • 木下 陽平, 島田 政信, 古屋 正人
    p. 100013-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
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    本研究はInSARで捉えた2008年9月2日の西濃豪雨時の水蒸気シグナル の検出事例の紹介とその事例解析の結果を報告する. ALOS/PALSARの緊急観測から得られた干渉画像から空間スケール約10 kmで視線方向に約130 mm変化する局所的な水蒸気伝搬遅延シグナルが検出された. この局所的シグナルを地球物理学的に検証するため, 我々は数値気象モデルのWRFを用いて局所的シグナルの再現実験を行った. その結果, 干渉画像での局所的シグナルに振幅・空間スケール共に似た伝搬遅延を引き起こす発達した対流を再現することに成功した. この対流はシグナルの南約10 kmに存在する養老山地での地形性上昇流によって引き起こされていることが示唆された. そこで地形による影響を調べるためDEMから養老山地を取り除いた感度実験を行った結果, 元のシミュレーションで再現された対流は再現されなかった. この結果は高空間分解能の数値気象モデルにとって現実的な地形が重要であることを示している. また, WRF のシミュレーション結果から水蒸気ではなく降水粒子による伝搬遅延の影響を見積もった結果, 降水粒子の影響は水蒸気による伝搬遅延量の約20 %に達し, その効果は水蒸気による伝搬遅延の領域に比べより局在化していた.
  • 橋本 健, 矢島 啓
    p. 100014-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
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    近年の豪雨による災害の多発,気候変動による降水量,流量の増加が予測される中,水害リスク分析の最大外力を洪水においても設定する必要性が議論されている.そこで本研究は,日本の直轄河川流域を対象とした「流域規模」と「降雨継続時間」に対応する可能最大降水量(PMP)及びそれから算出される可能最大洪水(PMF)の推定を目指した.研究手法としては,気象モデルWRFを用い,近年発生した台風性,前線性の6豪雨を対象に相対湿度を変化させ,利根川上流域における降雨の時空間分布に与える気象パラメータの影響を考察し,PMPとPMFの推定を試みた.その結果は以下のとおりである.

     (1) 相対湿度は総雨量の変化だけでなく降雨の時間分布に影響を与える.特に,台風性豪雨では相対湿度の増加は,降雨の発生時刻を早くするとともに,一連降雨の前半に新たな降雨ピークを発生させる.これは降雨の初期損失に影響を与え,降雨ピーク時の流出が大きくなり,河川計画上は重要な影響であると考えられたためPMPの時間分布作成に反映した.(2) 12,24,72時間雨量は500~550hPaの気圧面における12~24時間最大水蒸気フラックスとの相関が高い.このため水蒸気フラックスは降雨継続時間毎の最大雨量を推定することのできる有効な指標である.(3) 降雨量と相関の高い水蒸気フラックスと前橋気象官署における地上観測値との関係式を利根川流域の主要豪雨時のJRA55再解析データを用いて作成した.次に前橋気象官署の地上観測値を1901年~2013年について過去最大水蒸気フラックス算定する手法を示した.その結果を用いPMPとその時間分布の推定を降雨成因を考慮して行う手法を提案した.気候変動を考慮したPMPはRCP8.5シナリオの将来気候9ケースの出力値から最大水蒸気フラックスを用いて算定した.(4)複数洪水を対象とした流出計算により現行と気候変動を考慮した可能最大洪水(PMF)を算定する手法を示した.また,PMFは河川整備基本方針のピーク流量を上回る可能性があることを示した.
  • ナヤク スリタ゛ラ
    p. 100015-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
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    Recent studies have argued that the extreme precipitation intensities are increased in almost every region across the globe due to atmospheric warming. This argument is based on the principle of Clausius-Clapeyron relationship which states that atmosphere can hold more moisture under warmer climate (~7%/°C). In our study, we have investigated the dependence of extreme precipitation intensity on temperature over Japan by using multimodel ensemble downscaling experiments of three RCMs (NHRCM, NRAMS, WRF) forced by JRA25, as well as three GCMs (CCSM4, MIROC5, MRI-CGCM3). Extreme precipitation intensity increases with temperatures up to 22°C in future climate scenarios, while the peak is 20°C for the current climate. Extreme precipitations at higher percentiles are projected to have larger rates of increase in future climate scenarios (3-5%/°C in current and 4-6%/°C in future). An insufficient water vapor supply for saturation at higher temperatures can lead to a decrease in cloud formation and extreme precipitation.
  • 田口 諒, 瀬戸 心太
    p. 100016-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
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    2013年10月17日に伊豆大島で台風26号による豪雨災害がおこった。その際に伊豆大島の全9地点の雨量計は3時間雨量が特別警報の基準を超えたが、特別警報を出す基準と定められている「10カ所以上」を満たさず特別警報発表には至らなかった。このことから雨量計観測では基準値超えの地域が広がらない島嶼部での特別警報が発表されにくいという問題が浮き彫りになった。よって本研究では局所的な降水も面的に把握できるGSMaPデータに着目した。気象庁によって定められた基準である「50年に1度」の値をGSMaPと比較し、差異の把握とその原因を究明することを目的とする。
【森林水文】9月9日(水)15:05~16:05
  • 五名 美江, 蔵治 光一郎
    p. 100017-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
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    本研究は、水収支が精密に測定できる愛知県犬山市の北東部に位置する東京大学演習林生態水文学研究所の斜面ライシメータを用いて、ヒノキの強度間伐が平常時流出量および出水時のピーク流出量に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。ヒノキの強度間伐が2012年12月20日に行われ、ヒノキの立木密度は62%となった。強度間伐前後の平常時流出量とピーク流出量を比較した。強度間伐を行ったことで、平常時流出量は約1.5倍に増加した。一方、出水時のピーク流出量は、強度間伐を行うことによって間伐前の約半分に減少した。
  • 南光 一樹, Hudson Sean A., Levia Delphis F.
    p. 100018-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
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    落葉広葉樹であるユリノキの下で秋から春にかけて林内雨滴を連続的に観測した。その結果、林内雨滴は葉が有る時期に比べて葉が無い時期の方が大きかった。解析により林内雨滴の大小は葉の有無だけでなく、気温によっても変化することが分かった。葉枝で異なる表面特性や、気温で異なる水の物理特性が林内雨の生成過程に影響をあたえることが推察された。
  • 勝山 正則, 谷 誠
    p. 100019-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
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    本研究では均質な地質条件・気候条件・植生条件を持つ小流域を対象に、空間スケールに着目して流況の違いとその決定要因を明らかにすることを目的とした。風化花崗岩山地における空間スケール拡大に伴う流況安定化には、表層由来と下層由来の流出成分の寄与が重要で、隣接支流域間においては、地表面地形の流域界を超えた地下水のやりとりが見られた。空間スケールの拡大とともにこのやりとりが平均化され、表層と下層からの寄与が安定することで流況が安定した。これは、REA (Representative Elementary Area)の概念(Woods et al., 1995)に沿うものと考えられ、流出応答のモデル化において、ハイドログラフ形状の相似性や地表面地形のみに着目した場合にはこの点を十分考慮できないため、再現・予測精度は上がらないと考えられる。また、地質・地形の違いによって、平均化されるメカニズムや面積には違いが生じると考えられることから、これを検出できる観測態勢確立が必要である。
  • 吉田 奈津妃, キム ヒョンジュン, 沖 大幹
    p. 100020-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    陸域水循環のモデリング研究において、大気と地表面の間のエネルギー交換(潜熱と顕熱)とそれに伴う水の相変化(蒸発散)は重要なプロセスである。これまで地球規模のエネルギー・水収支の算定をより現実的に行うため、地表面の情報を陸面モデルに取りこむ研究がなされてきた。しかし、地表面情報には異なる手法や元データの時空間的な不均一性等による不確実性が存在することが指摘されている。陸域水文研究においても、気候外力である降水データの持つ不確実性が河川流量に影響を与えることが明らかになっている。しかし、これまで地表面情報の不確実性が全球陸面水文モデルの推定値にどのような影響を与えるのかはほとんど明らかにされていない。そこで、本研究では地表面情報の不確実性が全球陸面モデルによる水収支に与える影響を明らかにすることを目的とする。地表面の情報については、植生被覆・土地被覆・土壌タイプを対象とし、現存するこれらのデータを複数収集し、陸面モデル入力データの整備をした。そして、陸域水文モデルMATSIROを用いたアンサンブルシミュレーションを行った。得られた水文量について、降水が蒸発散量と流出量に分かれる内訳や、蒸発散量の内訳(蒸散・遮断蒸発・土壌蒸発・植生からの昇華、土壌からの昇華)、流出量の内訳(表層流出、深層流出)について、全球やBudyko気候区分による地域ごとの比較を行った。その結果、まず地表面情報の不確実性については、LAIと土地被覆分類は、特に北半球の高緯度地域において不確実性が高いこと、土壌分類は全球的に不確実性が高いことが確かめられた。また、LAIと土地被覆分類の不確実性は、水収支へ与える影響は小さいものの、蒸発散量や流出量の内訳を大きく変えることがわかった。特に半湿潤地域と寒湿潤地域での流出量の内訳を変えることがわかった。土壌分類においては、水収支と蒸発散量の内訳へ与える影響は小さく、半湿潤地域と寒湿潤地域の流出量の内訳を変えることがわかった。本研究は、初めて地表面情報の不確実性が全球陸面モデルに与える影響を明らかにした研究であり、複数のデータセットを収集し、アンサンブルシミュレーションを行うことで不確実性の幅を明らかにした。この成果は、陸域水循環のモデリング研究において、推定値の確からしさを判定する際やモデルの改良点を見つける際に有益な情報となる。
【水質水文】9月10日(木)9:35~10:50
  • 森田 祐輝, 寺嶋 健人, 広城 吉成
    p. 100021-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
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    福岡県福岡市西区の今津干潟は,絶滅危惧種であるカブトガニの産卵地やクロツラヘラサギの越冬地となっており,生態的に大変貴重な干潟である.一方で,今津干潟の閉鎖度指標は他の閉鎖性水域と比較して高く,外部との海水交換が少なく,富栄養化が発生しやすい環境にある.富栄養化の発生を防止するために,今津干潟への栄養塩流入負荷量を推定することは重要である. 本研究では,今津干潟への流入負荷量を河川経由と地下水経由で推定して定量的な評価を行うことを目的とする.まず,今津干潟への流入河川である瑞梅寺川流域を対象にモデルを用いた水収支解析を行い,河川流量と地下水流量を算定した.それらに水質分析から得られた栄養塩の濃度を乗じることで,今津干潟への流入負荷量を推定した.河川経由の負荷量については,瑞梅寺川と同程度の流域面積をもつ他の河川の事例と比較を行った.解析に使用したモデルは地下水涵養モデルと準3次元淡塩2相地下水流動モデルである. 瑞梅寺川は福岡市西区と糸島市を流れる二級河川であり,流域面積は52.6km2である.土地利用は田(34.4%),その他の農用地(4.3%),森林(44.8%),建設用地(9.7%),ゴルフ場(1.7%),湖沼・河川(3.6%),荒地(1.5%)に区分される.河川流量が池田において観測されており,後にモデルで計算した河川流量と比較する.降水量は池田と瑞梅寺ダムで観測されており,これらをティーセン分割することで解析に用いた.また,瑞梅寺川流域を50m×50mのメッシュの13005点に分割し,それぞれのメッシュに土地利用や降雨データを割り当てた.モデルの計算期間は2009年から2011年の3年間である. 得られた知見は以下の通りである. (1)今津干潟への全流出量に対する地下水流量の割合は約23%と評価され,谷口による一般的な推定値より大きい.瑞梅寺川流域の地下水量は比較的多いと思われる. (2) 地下水経由のNO3-NとNH4-Nの負荷量の和は河川のそれの10分の1以下である.瑞梅寺川流域における地下水中の脱窒により,NO3-Nの負荷量が0t/yearと推定されたことが主な要因である. 以上のことから,今津干潟への栄養塩負荷は河川経由による影響が大きいと考えられる.今後水処理センターからの放流量は増大する予定であるので,今津干潟への影響をより注視していく必要がある.
  • 高見 京平, 嶋寺 光, 近藤 明
    p. 100022-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震に伴う津波によって全電源が損失し、福島第一原子力発電所(FDNPP)事故が引き起こされた。FDNPPから大気中に放出された放射性物質は、大気拡散に伴って移動しながら地表面及び海面へと降下し、日本本土にも広範囲に及んで放射性セシウムが沈着したことが明らかとなっている。また、セシウムはアルカリ金属に属し、土壌の負電荷に強く吸着するが、放射性セシウムは粒径63 µm以下の粘土・シルト粒子に偏在していることが明らかとなっている。そのため、放射性セシウムの地表面での残留、河川への流出、底質への沈降・分配、海域への流出などの環境動態プロセス全体の評価を行う上で、粒径を考慮した土壌粒子の挙動を推定する必要がある。そこで、本研究では、流域が福島・宮城・山形3県にまたがり、福島県主要部である郡山市や福島市、宮城県南部の岩沼市等の都市を縦断する阿武隈川流域を対象として、水文/水質モデルを適用し、粒度分布を考慮した河川中浮遊粒子(SS)の動態解析を行った。計算領域の格子解像度は3次メッシュとし、ダムとしては、流域の根幹的治水施設である七ヶ宿ダム・摺上川ダム・三春ダム、3基のダムを考慮した。計算期間は、2009年から2011年の3年間とした。河川中SS濃度計算結果について、実測値と計算日平均値の比較から、平水時の再現性は概ね良好となったが、出水時には観測が行われておらず、検証方法を考案する必要がある。また、阿武隈川河口における月平均SS濃度計算結果の粒子内訳から、河川中SS高濃度の原因が、シルト粒子であることが示唆された。
  • 富田 遼平, 福島 慶太郎, 横山 勝英
    p. 100023-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    河川水中の溶存有機態炭素(DOC)には腐植様物質(F)やタンパク様物質(P)が含まれ,水域生態系の養分動態に重要な影響を与える.DOCの濃度や組成は土地利用により異なるが,その知見は未だ十分ではない.本研究では,様々な土地利用形態をもつ3つの河川を対象に,DOC濃度およびF・Pを指標としたDOCの特性を調査し,土地利用との関係を調べた.対象地は宮城県気仙沼湾へ流入する3河川(大川,鹿折川,舞根川)である.採水は2013~14年に計6回,18地点(湿地1点)で行い,DOC濃度と三次元励起蛍光(EEM)を測定した.流域の土地利用は,環境省の植生図から分類した.大川のDOC濃度は上流から下流へと低下し,河口で再び高い値となった.また,鹿折川・舞根川では河口で濃度が上昇する傾向がみられた.一方でPは3河川ともに河口へと上昇する傾向がみられたが,Fは大川では上流ほど,鹿折や舞根川では下流ほど高かった.また湿地では全ての水質項目において高い値となった.各水質項目と土地利用の面積率との相関において有意な正の相関がみられた項目は,DOC濃度と広葉樹率,Pと市街地率および耕作地率,Fと広葉樹率および耕作地率であった.またPとFの比(P/F)は広葉樹面積率と負の相関がみられた.湿地を除外すると相関係数が上昇し,有意性も高まった.湿地を除いた地点の水質について重回帰分析を行った結果,DOC濃度やFでは広葉樹と耕作地の面積率が説明変数として残った.またFは耕作地面積率の回帰係数が最も高かった.Pは市街地と耕作地が説明変数として残り,P/Fは市街地面積率の回帰係数が最大であった.気仙沼湾に流入する河川では耕作地面積が大きいほどDOC濃度が上昇し,Fが高くなることが示された.一方PおよびP/Fは市街地面積率との関係が強かった.また,市街地が増えることでDOCにおけるP画分の割合が高まると考えられた.湿地は,面積率は小さいがDOC濃度やP,Fの値が高かったことから,湿地特有のDOCが供給され,河口の水質に影響を与えていると考えられる.また,この湿地は震災によって創出されたことから,震災前後で河口域へ供給されるDOCの濃度や性質が変化したことが示唆される.
  • 原田 茂樹, 橋本 泰佑, 越川 海
    p. 100024-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    森林域からの様々な物質の流出現象を扱う最終的な目的は、海域などの受水域での物質循環機能を維持するための流域環境計画を立案することだと考えている。本研究ではシリカ流出を扱うが、まず、著者らが参加した既存の海域メソコズム実験データを再度解析し、海域でのシリカ存在量が低下すると、光合成起点の物質フローに対するバクテリア起点の物質フローの割合が高まることを示した。このことは、海域へのシリカインプットの挙動を明らかにすることの意義を示すことと考え、次に、海域へのインプットのバックグラウンドとなる、森林からのシリカ流出について、現在までに得られている定式化のための考えを示した。
  • 葛葉 泰久, 千田 眞喜子, 下村 優依, 荒木 大輔, 齋藤 華子
    p. 100025-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
    会議録・要旨集 フリー

    本研究の目的は,(1) 定時観測した水道水の水質(本研究では硝酸態窒素について解析した)の時系列データがある種の確率モデルで表せることを明らかにすること,(2) その確率モデルとしては,fBm(非整数ブラウン運動),fLm(非整数レヴィ運動)などのモノフラクタルモデルやマルチフラクタルモデルが適当であることを示すこと,(3) 実際にデータを用いて,上記モデルのパラメータを求め,時系列データを生成して如何なるモデルが一番適当であるかを明らかにすること,を目的としている.なお,著者らの研究室では,数年間大阪府吹田市の水道水の観測を行ってきた(千田ら,2011).また,荒木ら(2014),葛葉ら(2014) で,同種のデータを用いて類似の検討を行ってきた.今回の発表では,これらのまとめとして,最も適切なモデルを示したいと考える.

    水質の時系列データを確率モデルでモデル化する意義は以下のようなものである.つまり,1) 治水計画における降水-洪水シミュレーション考えるとわかりやすいが,ある外力に対して設計された治水構造物がどの程度の耐力を持っているかを調べるために,確率的な構造が推定できる降水を(目的により,時間的に,空間的に,また時空間的に)モンテカルロシミュレーション的に発生させ,降水―洪水モデルを介して構造物を含むシステムの防御能力を算定することができる.同じように,ある地域の,例えば硝酸態窒素の変化が確率的に分っていて時系列分布を確率モデルでモデル化できると,モンテカルロシミュレーション的に処理施設の負荷の程度(どの程度の割合で設計負荷量を超えるかなど)を算定できる.2) さらに,モデル化することで,またパラメータを求めることで,現象の理解につながる場合がある.
【積雪・融雪】9月10日(木)11:00~12:15
  • 村上 茂樹, 竹内 由香里, 庭野 昭二
    p. 100026-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに
    森林内では裸地よりも日射と風速が弱いため、融雪遅延が生じる。融雪遅延効果は樹冠閉鎖度とともに増加すると考えられる。一方、樹冠閉鎖度の大きな森林ほど樹冠遮断による林内降雪の減少割合が大きくなり、水資源として貯留される積雪水量は少なくなる。この相反する効果がバランスよく作用する森林が積雪地の水源林として最適となる。本研究は樹冠閉鎖度の異なる3つのスギ林と裸地における積雪水量と融雪の同時観測により、樹冠閉鎖度と積雪水量、及び融雪遅延の関係を明らかにすることを目的とする。

    2.方法

    2005年の融雪期に、森林総合研究所十日町試験地の露場、及びスギ林A(疎林、開空度17.8%)、スギ林B(適正密度林、5.2%)、スギ林C(過密林、2.4%)を対象に積雪水量(SWE)と日融雪量の測定を行った。SWE測定にはスノーサンプラーを用い、融雪初期の3月9日と融雪がかなり進行した4月12日に測定を行った。日融雪量の測定には雪面低下法を用い、4月6日~28日のうちの21日間測定した(露場では根雪終日の4月27日までの20日間)。

    3.結果と考察

    3月9日に最大のSWEを示したのは露場(1048mm)で、2番目はスギ林A(1016mm)、続いてスギ林B(944mm)、スギ林C(838mm)の順となり、開空度と同順であった。4月12日には順序が大きく入れ替わり、スギ林BのSWE(825mm)が最大で、以下スギ林A(785mm)、C(639mm)、露場(585mm)の順であった。積雪が無くなった日は、露場が4月28日、スギ林A、B、Cがそれぞれ5月8日、5月16日、5月7日であった。4月12日のSWEから消雪までの日平均融雪量を算出すると、露場、スギ林A、B、Cの順にそれぞれ36.6、30.2、24.3、25.4mm/dayとなった。今回調査した3つのスギ林のうち、積雪地の水源林として最適な林分は適正に密度管理されたスギ林Bであることが分かった。疎林(スギ林A)では融雪期の初期における林内のSWEは大きくなるが、融雪遅延効果が小さく、過密林(スギ林C)では融雪遅延効果は大きいが融雪期の初期における林内のSWEが小さくなるため、いずれも水源林としての効果は十分ではない。
  • 藤原 洋一, 高瀬 恵次, 一恩 英二, 長野 峻介, 小倉 晃
    p. 100027-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    山岳域やアクセスの難しい森林地帯における積雪量を把握することを目的として、小型温度データロガーを用いて積雪深を観測できるスタンドアロンのシステムを構築した。小型温度ロガーを地表面から20cm間隔に取り付けて温度を測定し、この温度が雪中の温度変化なのか空気中の温度変化なのかを判別することで積雪深を推定した。2時間間隔で測定した1日12個の観測データの標準偏差が、0.3℃に収まっている場合は雪中、超えている場合は空気中と判断する結果が良好であった。開発した観測システムは離散値しか出力できないが、積雪深の変動を良好に観測でき、非常に安価、頑健であることから多地点における積雪観測に有効であることが示された。さらに、約800m×400mの研究対象エリアを設定し、この中に21地点の積雪観測地点を設置して、2年間にわたり積雪観測を行った。積雪との関係を調べる地形特性として、標高、斜面方位を利用し、森林特性として樹冠開空度を利用した。そして、観測した積雪深とこれらの地形、森林特性との関係を調べたところ、堆積期と融雪期によって相関の強い変数が変化することが分かった。
  • 名村 瑠架
    p. 100028-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    本研究の対象河川は上流部を山岳氷河に位置しており,雪解け水や氷河の融解による水が主な水源となっている.しかし,これまで陸面過程モデルSiBUCではこの氷河の融解過程を正しく再現できておらず,中央アジアでは夏期に見られる流出のピークが解析値では3カ月程早くに見られる問題がある.先行研究では長波放射を標高依存による補正を行うことでこの問題の解決を試みたが,1カ月程ピークの時期を遅らす結果にとどまった.ザラフシャン川は乾燥・半乾燥地域である中央アジアに位置しており,タジキスタンとウズベキスタンの貴重な水資源となっている.また,上流国タジキスタンで暖房用に水力発電のためのダムが建設予定であり,今まではウズベキスタンが灌漑に使用していた夏期に多くあった流出量が減少する可能性が高い.このように2国間で水の需要期間が異なる地域ではより再現性の高いハイドログラフを作成するためモデルの精度を上げる必要がある.そこで,本研究では先行研究での長波放射補正に加え,短波放射を斜面の向きと勾配を考慮し入力値に補正を行うことで,モデルの再現性を向上させることを目指した.南向き斜面では一日の短波放射量が増加し,北向き斜面では減少するが,春から秋にかけては南向き斜面の増加量より北向き斜面の減少量が上回るため,本流域のように極端に南向き斜面が多くない地域では斜面の向きを考慮することで全体として短波放射量は減少する.そのため,春先での融解量が減少することで夏期まで氷河が溶け残り,その結果夏期の融解量が増加し,流量も増加することが見込まれ陸面過程モデルでのハイドログラフはより実測値に近づくことが予想される.  
  • 田中 賢治
    p. 100029-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    陸面過程モデルを白山山域に適用し、地上気象観測情報を用いて水・熱収支解析を実施し、過去数年間(2006年~2012年)の積雪水量の時空間分布の再現を試みる。手取川ダムの日流入量データを用いて水収支の検証をするとともに、解析を通じて明らかになった問題点について報告する。
    モデルで算定された手取川ダム集水域からの流出量とダム日流入量観測値を比較したところ、2011年については概ね良好な算定結果が得られているが、2006年についてはモデルが大幅に過少評価となっている。2006年から2012年までの月別の時系列からもわかる通り、観測では2006年は2011年と同等に大きな流量となっているが、モデル算定値は積雪水量、流出量ともに過少評価となっている。これは入力に用いた解析雨量が少なすぎることが原因である。降水量の年積算値で比較しても2009年以前と2010年以降では大きな差が見られる。解析雨量の作成時に用いる地上雨量計の数が激増したことが原因であると考えられる。解析雨量の処理手法が向上していくことは誠に結構なことではあるが、このような長期連続計算をする際にはデータの質が変わっていることに注意が必要である。利用可能なオフラインデータを全て統合した解析雨量の「再解析」が実施されることが望まれる。良好な算定結果が得られた2010-2011の冬期について、各メッシュにおける積雪水量の最大値と最大値を示す日の空間分布から、手取川ダム上流域の高標高帯において積雪水量は4月上旬に2000mm以上に達することが示された。
  • 松井 佑介, 田中 茂信, 田中 賢治, 浜口 俊雄
    p. 100030-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    温暖化等の気候変動に大きな関心が寄せられている現在,それによる将来への影響評価があらゆる分野にわたって行われている.水資源に関しては,気候変動により雨の量や降り方,蒸発量が大きく変化すると考えられている.積雪地域での降雪量の減少に伴う積雪水資源量の減少や,融雪時期の早期化は,下流域の灌漑用水の利用に大きな影響を与えることが懸念されている.
    気候変動情報創生プログラムでは,MRI-AGCM3.2H(60km),MRI-AGCM3.2S(20km),NHRCM(5km)といった様々な解像度の全球大気モデルが提供されている.将来予測の不確実性を考慮すると,温暖化影響評価には多くのアンサンブル情報を有する60kmGCMを活かした解析が有効となる.しかし,日本のように山岳地が多い地域においては,60km解像度は地形の影響を十分に考慮できるとは言い難い.本研究では,相対的に粗い解像度のGCMを用いることが陸面過程解析における積雪水量の算定結果にいかに影響を及ぼすのか詳細に検討する.具体的には,20kmGCM出力値を60kmスケール(3×3)にアップスケールし,陸面過程解析を実施し,元の20kmスケール情報での解析との相違とその要因について分析する.特に,9メッシュ内の標高の絶対値や分散に着目する.さらに,60km解析結果を20km解析結果と同等と見なせるような補正方法についても検討する.解析期間は現在気候下(1979年~2003年),対象領域は日本全域とし,20km解像度でSiBUCによる陸面過程解析を実施する。
    60km解析結果は20km解析結果に比べ,全体的に小さく評価されることがわかった.60kmスケールの気温が相変化の閾値付近かつ9メッシュ内の標高の標準偏差が大きいところでは,アップスケーリングにより標高が平滑化された結果,雪が雨に変化してしまう可能性が高い。そのため,積雪水量が過小評価される場合が多いと考えられる.9メッシュ平均標高が300m~600mのグループおいては,重回帰分析の結果,20km解析結果に対する60km解析結果の比を,冬期降水量,9メッシュ内標高標準偏差,降水量重み付き冬期平均気温で概ね説明できた(決定係数0.92).
    しかし,他の標高グループでは高精度の補正方法は得られなかった.今後地形の影響をより詳細に分析していく必要がある.
【研究グループ報告】9月10日(木)11:00~12:15
  • 渡部 哲史, 小槻 峻司, 田中 智大, 丸谷 靖幸
    p. 100133-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    水文学若手会は水文・水資源学会に所属する,主に博士課程学生・20 代から30 代の研究者によって構成される研究グループである.同様の活動は1990 年から開始され,現在に至るまでその当時の有志により,時代に応じたテーマを掲げながら活動を行っており,最近の数年間はグループの活動内容として他分野との交流を活動の柱の一つとして掲げてきた.これは若手のみならず,学会全体としての問題意識を受けてのことであった.グループの活動により他分野との交流という面では一定の成果は得られたと自負するものの,具体的な研究内容の連携可能性を考慮していなかった結果,残念ながら本学会の活動までは繋がってはいなかった.これは,他学会の若手研究者に興味を持つような活動を本若手グループ(学会とも置き換えられる)が行うことが出来ていないなかったということであると考えられる.
    そこで我々若手グループは,これからの数年間を利用し,水文・水資源研究をキーワードにして研究者が集まることで出来ることや得られること,また,それらの成果をより高めるための方策について考えていきたいという結論に至った.そのため,本年度はこれまで我々が継続してきた学会内での若手の交流を促進する活動を引き続き継続することに加え,各本学会の枠に捉われず,様々な分野の研究者との議論の場を設けるとともに,それらの活動を実践することを目的とした活動を行うこととした.
  • 中村 晋一郎, 乃田 啓吾, 木村 匡臣, 五名 美江, 渡部 哲史
    p. 100134-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    中山間地域は,多様な食料の供給,生物多様性の保全,就業機会の提供,防災を含む公益的効果の発揮等の多面的な機能を有しており,近年では国民の価値観の多様化を背景として,中山間地域の価値が再認識されている.しかしながら,中山間地域は自然的,経済・社会的な諸条件の下,少子高齢化,人口減少が進行し,地域としての衰退が顕著となってきており,このまま継続すると,地域としての存在そのものが危機に瀕するとの指摘もある.このような背景から,本研究グループは,森林水文学,農業工学および河川工学分野の若手研究者による議論を重ね,中山間地域の水害に焦点を当て,分野の枠組みを越えた治水計画の在り方について検討することを目的とし設立された.これまでの活動としては,2013年度に3回,2014年度に7回の勉強会と,2009年に大水害が発生した兵庫県佐用町を対象に現地ヒアリングを実施した.2014年度後半からは「大水害が中山間地域の持続可能性に与える影響」をテーマに研究活動を開始している.
【地下水・流出(1)】9月11日(金)9:00~10:15
  • 中川 啓
    p. 100031-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    地下水流れと流れの障害となる地質構造を評価する方法として,  地表面温度のサーモグラフィー画像を用いる方法を提案した.ガラスビーズが充填された浸透層を実験に用いた.障害物となるブロックを浸透層の底部にランダムに配置して実験を行った.障害物の分布は6パターンを設定し,それぞれのパターンごとに上下流の水頭差が5mmと8mmの場合の実験を行った.水道水を60℃に加温したものをトレーサーとして使用した.実験中は,地表面温度を所定の間隔でサーモグラフィーカメラにより撮影した.実験結果から,障害物の分布は,温度差に影響を与えることが示された.しかしながら,今回の実験方法では,障害物の分布の評価は,あまり判然としないものであった.
  • 高崎 忠勝, 河村 明, 天口 英雄, 石原 成幸
    p. 100032-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    都市貯留関数モデルに従う仮想流域を対象に,誤差を付加した観測値に対するパラメータ同定を2つの誤差評価関数を用いて行い,パラメータ同定値と真値の違いを確認する.
  • 谷 誠
    p. 100033-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    貯留関数のパラメータpについては,斜面方向の地表面流をパラメータ化することから推定されてきたが,その考え方はいくつかの斜面観測研究結果では受け入れられていない.そこで,本研究では,その物理的根拠を,土壌農内の鉛直不飽和浸透流における土壌物理性によって説明した.
  • 兪 完植, 中北 英一, 山口 弘誠, 国井 勝, 大泉 伝
    p. 100034-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    本研究は、近年、台風等による極端降雨に起因した洪水に対する予測の精度向上を目標として、まだ現業化されていない超高解像度の短期間アンサンブル降雨数値予測情報を、分布型流出モデルを用いたダム流入量、洪水予測という水文学的な応用に高度に実時間活用するための基盤を構築する。本研究で利用したメソスケール数値気象モデルと、大規模な出水や斜面崩壊のあった2013年台風18号に対する超高解像度の短期間数値アンサンブル降雨予測情報(48時間先まで)の紹介する。また、本研究で洪水予測を評価するために用いられた分布型流出モデルや、対象流域である桂川水系流域の特性についての記述を行う。
  • 神田 亜希子
    p. 100035-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    1980年代,インドネシア・カリマンタン島では農業生産拡大と開拓民移住を目的としたメガライスプロジェクトが実施され,熱帯泥炭湿地林域の排水や灌漑のため人工排水路が造成された.排水された泥炭湿地では表層土壌の乾燥化と地下水位の低下が進行し,森林火災や土壌分解の拡大によるCO2の大量排出が地球規模の問題となっている.本研究では,排水路改修による地下水位回復効果を定量的に評価することを目標とし,まず,陸面過程や河川水位と連動した平面二次元飽和帯水層の地下水流動モデルを作成し,現状再現性を評価した上で,排水路建設以前の地下水位を推定し,排水路造成前後の地下水位の変動評価を行った.中央カリマンタン州を流れるカハヤン川とセバンガウ川を含む南北55km,東西46kmを対象領域とした.二つの河川の間にはドーム状の泥炭湿地林が存在し,メガライスプロジェクトにより二つの河川を結ぶカランパンガン水路と二つの河川に平行なタルナ水路が造成された.地下水流動解析には,連続式とDarcy則を基礎式として飽和帯水層を対象とした平面二次元の地下水流動モデルを用いた.Hortonの浸透能式に基づいた降水涵養量,河川と地下水間の交流現象を考慮している.空間解像度は100m,時間解像度は1hrで解析を行った.地表標高はSRTM衛星地形データ(1km解像度)から内挿補間して作成し,基盤標高は計算領域一様に-15mとした.降水量に関しては陸面過程モデルSiBUCによる対象領域での樹冠遮断量の試算に基づき地表到達降水量とした.河川水位はカハヤン川とセバンガウ川の観測値を利用し,カランパンガン水路水位は両河川との分岐点における平均水位,タルナ水路水深はカランパンガン水路との分岐点における水深と等しいと仮定した.地下水流動に関するパラメータに関しては,各種調査結果に基づき数値範囲を設定した上で感度解析を行い,対象領域に一様に与えた. 地下水流動解析の結果,泥炭ドーム中央のタルナ水路水位に影響され,排水路建設条件下では建設前よりも排水路周辺での地下水位が低くなっており,50cm以上の地下水位低下がみられる影響範囲は排水路周辺の約4kmに及ぶという結果となった.今後地下水モデルの再現性の検証や基礎データの補間方法の検討,流域全体の水文循環を含めた地下水流動解析を行い,さらに低下水位と影響範囲から対象領域におけるCO2排出量を推定し,排水路建設による地下水環境や気候変動への影響評価を行う.
【地下水・流出(2)】9月11日(金)10:25~11:55
  • 山田 将平, 山下 隆男, 田中 茂信, 田中 賢治, 浜口 俊雄
    p. 100036-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
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    ミャンマー国は、2011年に民主化を進め始めた影響で、社会経済活動が急速に変化している。主要産業が農業・工業であるこの国では、特に水資源・森林資源の有効利用は重要な開発課題である。

    気象特性としては、インド洋モンスーンの影響を強く受け、雨季と乾季がはっきり分かれており、地域によっても降雨量の差が大きい。地形特性としては、西、北、東を高い山地で囲まれており、南部でアンダマン海に面している箱形の盆地で、ここが経済、農林業の主要な地域となっている。

    本研究では水資源の効率的な利用の第一歩として、水文流出モデルBASIN-HSPFを基礎とした水循環解析モデルの構築をSittang川流域を対象に行う。このモデルの特徴は解析対象の領域を透水性の領域PERLND、不浸透性の陸域IMPLND、完全混合状態を想定した貯水池・水路RCHRESという3つに大分して考えていることであり、それぞれの領域によって必要データやパラメータの種類も違っている。加えて解析精度が一時間単位と細かく、水質や栄養面もパラメータとして入力できることも本モデルの大きな特長である。また解析の対象とした流域の総面積は約34380㎢、年間降雨量は上流部で約760㎜、下流部で約3800㎜である。モデルを検証するためには、河川流量の観測データが必要であるが、降雨データ、河川流量データの極めて少ない、いわゆるゲージレス地域であるため、降雨データはTRMM衛星データからの推定降雨量を用い、Sittang川の流量データは現地で入手した。さらに、DEM データはHydroShed、蒸発散を解析するための最高・最低地上気温データ(SWAT)、土地被覆データにはGLCFのデータを用いた。また、気象・地形特性の影響で、内地には少雨地域があり、こういった地域では水を確保するためにダムや灌漑用の貯水池が多く存在する。実際に国の水源の9割を貯水池に頼っている状況である。そのため、ダムの運用という人為的影響も無視できない。

    本研究では、Sittang川の流量データを用いて解析結果と比較することで、水文流出モデルBASINS-HSPFの検証を行い、主要なパラメターを同定できた。また、ダム・貯水池による人的水管理効果をモデルに導入することができた。
  • 藪 優太郎
    p. 100037-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    本研究は、水文シミュレーションフレームワークの超高解像度化を必要不可欠なものととらえ、その実現のために解決すべき課題を洗い出すこと及び超高解像度化がもたらす現象把握への影響を定量的に把握することを目的としている。  研究手法としては、水文シミュレーションフレームワークで用いられる入力データおよびパラメータを空間内挿により複数解像度用意し、また入力データの受け皿であり河道モデルに対して出力値を与える陸面過程モデルを複数用意し、入力とその受け皿を様々に入れ替える事で出力結果の性質を比較し、各要素の高解像度化が現象把握にどのような影響をあたえるのか、またそもそも現状の水文モデルの限界はどこにあるのかを追及した。本研究で対象とする水文シミュレーションフレームワークの構成要素としては、入力データ、陸面過程モデル、河道モデルの3つが挙げられる。当研究では、陸面過程モデル及び河道モデルを従来の水文シミュレーションフレームワークで用いられていたものから更新すると共に、そこで用いるパラメータ、フォーシングデータを高解像度化・高精度化することにより、より現実に即した水文動態の表現を試みると同時に高解像度化による現象の出現傾向の変化を定性的に評価している。
  • 佐山 敬洋, 小杉 賢一朗
    p. 100038-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    近年の森林水文学の観測知見は、風化花崗岩などの地質を有する山地流域において、基岩中に地下水体が存在していること、それが降雨に対して比較的早い応答を示すことを明らかにしてきた。また地下水の変動は、森林流域の主要な降雨流出過程である飽和側方流の挙動にも影響を及ぼすことが示唆されている。本研究は山体地下水の流動を簡潔に表現する分布型流出モデルに、時空間起源追跡法(T-SAS法)を適用することによって、六甲山地の風化花崗岩の流域における河川流出量のうち、どの程度の割合が山体地下水によって供給されているかを数値シミュレーションで推定する。モデルの妥当性を流量ハイドログラフ、地下水位の変動、流出の同位体比によって検証したうえで、山体地下水の寄与率を推定した結果、2011年の年間流出量のうち51±9%が山体地下水によって供給されていると推定された。
  • 小林 優, 浅野 倫矢, 田中 茂信, 田中 賢治, 浜口 俊雄
    p. 100039-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    洪水氾濫は陸域の水・熱の動態に大きな影響を及ぼす現象の一つである.陸面過程解析において,氾濫水域により放射収支・熱収支・水収支の各項目で顕著な変化が見られ,特に水資源量に関しては氾濫による蒸発損失により大きく低下するとされている.このことより,河道流下中の水収支の追跡だけでなく,氾濫水域の時空間的な拡がりまで評価することが求められる.本研究では,陸面過程モデルSiBUCおよび河道流下モデルを中心とした陸域水循環モデルを構築し,その両モデルの結合方法について比較検討を行った.結合方法は大きく3つに分かれ,まず1つ目は陸面過程から流出量を引き継ぎ,河道流下過程をKinematic Wave法で解く[-Kine]である.2つ目は[-Kine]と同様の変数を引き継ぎ,氾濫水域を考慮したCaMa-Floodとの結合,[-Cama]である.CaMa-Floodではサブグリッドスケールの地形情報をもとに,各グリッドの貯水量,水深,浸水面積の関係についてより現実的な考慮がなされており,計算単位となるグリッドでは,近接グリッドと不均一な面積となっている.また河道の運動方程式に局所完成方程式が用いられており,緩やかな勾配における水理量の高い再現性を有する.3つ目はSiBUCとCaMa-Floodの双方向結合である.CaMa-FloodからSiBUCに引き継ぐ変数は氾濫面積および地表面貯水量であり,これらによりSiBUCの初期パラメータである地表面状態も日々更新される.解析領域は赤道直下のビクトリア湖を主な源流とする白ナイル流域である.解析期間は流量実測データが得られた1979年から1982年である.白ナイルの大きな特徴としては,中流域に当たるSuddに大規模な湿地をもち,そこで河川が氾濫を起こしていることが挙げられる.この氾濫の影響が大きいとされる流域に,陸面過程モデルと河道流下モデルを3つの異なる結合方法で適用し,陸面過程解析結果および河川流量解析結果の結合方法間での比較を行った.その結果,両モデルの双方向結合により,氾濫水域における流出遅れの再現をしたことによる水資源の蒸発損失や地下浸透を考慮した解析が可能となった.それにより,これまでの解析において水資源量の発生域とされてきた流域が水資源の損失域になることを明らかにした.
  • 近森 秀高, 永井 明博, 牛嶋 仁美
    p. 100040-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    ある流域面積に対して起こりうる最大洪水ピーク流量の推定に洪水比流量曲線が用いられる。より正確な洪水比流量曲線を求めるために必要なDAD(面積雨量-面積-降雨継続時間)式の適応性について検討し、この結果に基づいて推定した洪水比流量曲線を用いて将来の確率洪水比流量の変化を調べた。解析対象資料には,岡山県吉井川流域(2110km2)を対象に、現在の雨量データには1988年~2000年の13年間のレーダー・アメダス解析雨量データを、将来のデータには気象庁により開発された地域気候モデルである雲解像領域大気モデルによる2075年~2099年の25年間の出力雨量データを用いた。これまで用いてきた4定数のHorton-Sherman型のDAD式と6定数型のDAD式とを比較した結果,6定数型のDAD式の方が適応性が高いことが確認された。また,現在と将来の確率面積雨量を比較した結果,降雨継続時間が1時間の場合、将来の確率面積雨量は流域面積にかかわらず現在よりも増加することがわかった。4時間の場合、現在と将来の確率面積雨量の大小関係は流域面積によって異なった。20時間の場合、流域面積が約800km2以下であれば,将来の確率面積雨量は現在よりも減少したが、それ以上では現在よりも増加した。6定数型の確率DAD式を用いた200年確率洪水比流量曲線の現在と将来を比較したところ,洪水比流量は、流域面積にかかわらず将来の方が現在を上回った。その増加率は流域面積が大きくなるに従い小さくなるが、80 km2程度以上になると再び増加率が大きくなった。
  • 小西 遼, 嶋寺 光, 近藤 明, 高見 京平
    p. 100041-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    ここ数10年で地球の温暖化が観測されており,気温の上昇は今後も引き続き進む可能性が高いと考えられている.気候変動は河川流域に対して洪水の増加や渇水の危険性の増大など水循環への悪影響が考えられるため,河川流域の水循環について論じる際には気候変動の影響を考慮する必要がある.先行研究において,淀川流域における将来の水循環を評価するために,水文モデルを将来の流域の気候を予測することが出来る気象モデルと統合し,現況の気象客観解析値を使用することで気象/水文統合モデルによって河川流量の現況再現が可能であることを確認した.本研究では,General Circulation Model(GCM)による現在および将来の予測結果を気象/水文統合モデルに用いて計算し,気候変動が河川流量に及ぼす影響を評価する.
【流域水管理・開発】9月11日(金)12:55~14:10
  • 田中丸 治哉, 小澤 亮介, 中尾 泰規, 多田 明夫
    p. 100042-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    兵庫県・丹波篠山地区では,ため池による洪水軽減を目的として,営農に支障がなく治水効果も期待できる9,10月にため池水位を下げ,11月~翌年3月下旬を水位回復期とする事前放流手法の取り組みが始まっている.本研究では,その一環として,長期流出解析で推定した水位回復期の確率流入量に基づく事前放流手法を検討するとともに,ため池による地区全体の雨水貯留容量を推定し,水田貯水容量及び近傍の一庫ダムの洪水調節容量と比較した.その結果,丹波篠山地区のため池の雨水貯留容量と水田貯水容量の合計は,一庫ダムの洪水期の洪水調節容量に匹敵することが示された.
  • 皆川 裕樹, 増本 隆夫, ウォンぺット ジュティテップ
    p. 100043-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    農業用水利用と氾濫のシームレス一体型モデル開発にむけて、分布型水循環モデル(DWCM-AgWU)に湛水や洪水氾濫の計算過程を組み込むための改良を行った。計算セル内で流量>河道容量となると洪水発生と判断し、その地点より下流に属する地域では計算手法を切り替える。その際、容量を超えた水量は堤防越流により氾濫原に流入するとし、河川流量はバックウォーターの影響を考慮できるように不等流として取り扱う。次に、道路や鉄道により囲まれた地区(多くは水田農地)における氾濫水貯留を考慮するため、道路等の標高を分割セルの間に存在する堰の標高とみなして氾濫水の移動を追跡した。開発したモデルを、2011年に70年確率規模で発生したタイ国チャオプラヤ川流域の低平域に適用した結果、下流域のアユタヤ観測地点における水位ハイドログラフは、観測値と計算値の間で相対誤差が28%との結果を得た。ただし、氾濫域の再現に関しては、衛星データから得られた最大氾濫域に対して、モデルによる推定結果はその41%程度の推定域に止まるなど、十分な結果は得られなかった。これらの点を精査しさらなる改良を加えることで、提案したモデルにより、流域を対象に農業水利用と氾濫の諸過程を同時にあるいは連続して解析することが可能になる。
  • 浜口 俊雄, 田中 茂信, 角 哲也
    p. 100044-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    重力コンクリートダムの設計時には,まず基本断面を考え,そこに転倒安定性/滑動安定性/許容応力耐性を満たすよう同断面形状が設計される.その際に地理的・経済的理由から上流側法面にフィレットを導入すると,フィレット高と堆砂高の大小関係によって静水圧や堆砂圧の鉛直作用力式表記が場合分けされるため,フィレット高と堆砂高のいずれかがダム設計諸元になった場合には静水圧や堆砂圧の鉛直作用力式が連続であっても微分不可能なものとなる.その導関数の不連続性から従来の最適化手法の適用が難しくなることが多かった.本研究では第一に0-拡張論を用いて上記作用力式とその導関数を1つに表せるようにした上で,その式群に対して,導関数の利用が不要な人工群知能を用いてダム設計諸元の最適化を行う方法を提案した.事例として挙げた現存のダムはフィレットのないダムであるが,仮想的にフィレットを有する断面として断面設計の最適化を図った.その結果から基本断面の断面積を7%減少させることに成功し,同時に堆砂容量にも余裕が生まれていることがわかった.具体的には,堆砂高が8.9m高く出来る,つまり堆砂容量が約1.68倍にできることが算定できた.本提案手法は,0-拡張論の寄与で様々な形状のダムにも比較的容易に適用可能である.ダム建造時の最適設計だけでなく,嵩上げ設計や近年顕現してきたダムの老朽化問題の対策立案材料としても役立つと期待できる.
  • 峠 嘉哉, 田中 賢治, Khujanazarov Temur, 中北 英一
    p. 100045-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    アラル海流域では,大規模な灌漑開発の影響で水需要量が増大し深刻な渇水問題が発生した.これは灌漑面積の増加に加え,灌漑効率が悪いことが原因である.しかし,使用可能な統計データが限られた当該地域では実際の灌漑操作について分からないことが多い.加えて近年では種々の水循環モデルが構築されており,灌漑スキームが結合されているが,観測事例の少ない途上国において農地レベルでの具体的な灌漑操作を正しく設定できているのか不明である. そこで,筆者らはウズベキスタンで気候条件の異なる二地点の試験農場において集中定点観測を行った.まずBayavut農場はシルダリア川中流域の年降水量200~300mmの半乾燥地帯に位置し,綿花,冬小麦,ソルガム,コメが塩性化土壌で灌漑されている.農場内ではBY2011とBY2012の2つのステーションが設置されている. Kyzylkesec農場は,キジルクム砂漠の年降水量約110mmの乾燥地帯に位置する.当地域にはソ連期に自噴井戸が複数作られ,その水を利用してアルファルファ,ソルグム,メロン,果物等の灌漑が小規模に行われている. 観測の結果,まず土壌水分量の変動をみると,BY2012において灌漑に伴って土壌水分量が変動しており,灌漑期には体積含水率0.4前後を下回らないように灌漑が行われている.観測が行われていた2012年6月から2013年6月の間に計5回の灌漑が行われ,土壌水分量の最低値には約2~3週間かけて低下している.灌漑期間は6月から8月であった.また,KZ2011では,気候が乾燥し土壌が砂質であるため蒸発強度や浸透強度が高いため灌漑の頻度が高く,年間に15~16回程度の灌漑が行われている. 次にEcの変化を見ると,まずBayavut農場においてリーチング操作の影響が土壌水分量の増加とEcの低下,地下水位の増加によって観測された.またBY2011では,年ごとにEcの値が増加している.毎年灌漑期を過ぎると春先まで増加し,その後リーチングの影響で低下する.BY2012においては,灌漑が行われるとEcも減少していることが分かり,灌漑操作自体も短期的にはEcを減少させるように作用することが分かる.
  • 増本 隆夫, ウォンペット ジュティテップ, 皆川 裕樹, 工藤 亮治
    p. 100046-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    農地水利用の長期的な解析に対し、各地で頻発する氾濫、旱魃等は単発的な短期間現象として単独解析が行われてきたが、広域に渡る極端現象の再現や農地や水利施設群の一体的管理のため両者を連続的に取扱う必要がでてきた。そこで、巨大灌漑ダムを有し、その水管理が下流の大規模氾濫にも影響したタイ国チャオプラヤ川流域を対象に、DWCM-AgWUモデルの改良と適用を行って、両極端現象や独特な水利用を連続解析するにあたっての適用モデルの有効性と限界を具体的に示した。
【気候変動・地球環境】9月11日(金)14:20~15:50
  • 小林 健史, 浅沼 順, 開發 一郎, Davva G, Oyunbaatar D
    p. 100047-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    土壌水分は,水循環において重要な変数であり,それを広域的に観測することはとても有用である.近年,広域的な土壌水分の観測で注目されているものの一つとして衛星リモートセンシング観測がある.衛星リモートセンシング観測ではregionalからglobalスケールまでの観測が可能であるが,その衛星土壌水分プロダクトの質の向上のためには地上の観測データと比較し検証を行う必要がある.衛星土壌水分の地上検証においては2つの問題点があり,一つは地上観測のスケールと衛星の観測スケールの差が大きいこと,もう一方は土壌水分の空間変動性が大きいことである.本研究では,北東アジア乾燥地域における13年間の地上観測表層土壌水分データを用い,衛星フットプリントスケール土壌水分の空間変動に与える降水の影響の評価を行った.その結果,土壌水分の高い空間変動性は, 空間的に不均一な降水によってもたらされること,更に,降水前の初期土壌水分が乾燥した状態の場合に, 特に降水の影響が大きいことが明らかになった. また土壌水分の空間分布の年々変動について調べた結果,土壌水分の空間分布について異なる時間において,似た空間分布を示した期間がある一方で,降水の影響を大きく受けた期間は土壌水分の空間パターンが大きく乱されることが明らかになった.本研究の結果は広域の土壌水分を解析する際の基礎的な情報となり,土壌水分の衛星観測の検証に貢献できると考えられる.
  • Pavetti Infanzon Alicia, Tanaka Kenji, Tanaka Shigenobu
    p. 100050-
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    Changes in vegetation traits are capable of affecting the exchanges processes of momentum, heat, and moisture between the atmosphere and the surface influencing climate over different spatial en temporal scales. Paraguay had dense forest cover until 1970 but due to agricultural expansion, the country lost two thirds of its Atlantic forest. This study aims to assess the impacts of the actual land cover changes, produced in Paraguay between the years 2000 and 1990, on the climate under wet and dry conditions. For this, the meso-scale numerical prediction model CReSiBUC was used to perform two sets of simulations for November (wet setting) and July (dry setting) 2006-2012. Each of these simulation sets used different vegetation scenarios and NDVI data but kept constant all other boundary and initial conditions. Thus, the potential effects of land-use change on precipitation were modeled and the mechanisms that may drive changes in local/regional climate were studied. 
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