日本重症心身障害学会誌
Online ISSN : 2433-7307
Print ISSN : 1343-1439
36 巻, 2 号
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一般演題
  • 長田 陽一, 篠原 誠, 木村 昭彦, 松葉佐 正
    2011 年36 巻2 号 p. 279
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 今回、われわれは「強い掻痒」を抱えた重症者2例に対して非定型抗精神病薬であるaripiprazole(APZ)を投与した。治療開始後、日常生活への支障をきたすことなく症状が改善したので報告する。 症例 2例ともに皮膚掻痒症に対する通常の外用薬を含めたスキンケア、内服薬を用いた治療に抵抗性を示し、かつ本人たちのQOLに重大な影響を与えていた。抗精神病薬の適応外使用に関しては家族の同意を得た。(1)52歳女性。麻疹脳炎後遺症。寝たきりで大島分類1。全身の掻破が年余にわたり続き、気切孔の周囲にも擦過傷が及ぶため時に部分的な身体拘束を要した。細菌感染を合併し、その都度抗菌薬による治療も繰り返されていた。APZを開始し、2週間後までに掻破と擦過傷は消失。同剤を9mgで維持し、日中の活気や食事などに問題なく、掻痒もコントロールできている。(2)51歳男性。精神遅滞と両側視力障害。独歩可能で大島分類5。自らの前額部や他患を激しく叩く行為等がありhaloperidol 2mgが投与されていた。2年前より衣類を脱いで上半身裸となり、全身を痒がる様子が見られ始めた。掻痒が強いときには看護詰所に入り込み物品を投げ落とす行為も伴った。掻痒は夜間に強く、昼夜も逆転した。APZを開始して1週間後までに痒がる様子はほぼ消失した。同剤15mgで維持量とし、haloperidolについては中止した。 考察 「激しく皮膚を掻く」行為を行動障害の一類型と捉え直し、APZによる薬物療法を試みたところ著しい有害事象なく症状が改善した2例を呈示した。普段われわれは、重症児(者)の「掻く」行為から本人の皮膚科的疾患を推定し治療やケアを行う。しかし、一部の難治な「強い掻痒」の背景には不快感の表現や自己刺激、あるいは感覚過敏など問題が背景にある可能性もあり、APZなどの抗精神病薬による薬物療法も選択肢の一つになりうると思われた。
  • 金村 英秋, 畠山 和男, 相原 正男
    2011 年36 巻2 号 p. 280
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症心身障害児(以下、重症児)では、運動低下や慢性の栄養障害により骨塩量低下を来たしやすい。しかし運動や摂食の促しは困難なことが少なくない。一方、重症児では外出の機会が少なく日照時間が不足し、骨形成に障害を来たすとされている。われわれは日光浴促進を行わなかった7歳重症児では骨塩量の1年間での明らかな変化を認めないことを以前確認した。今回、骨塩量低下を呈する重症児に対して日光浴促進による骨塩量への影響について検討した。 症例 大島分類1の在宅重症児5例(6〜8歳、男児3例、女児2例)。全例抗てんかん薬を服用中。また摂食困難のため3例で高カロリー栄養食を投与中である。 方法 Digital image processing(DIP)法により中手骨骨塩量の測定を行った。さらに最近1カ月間の晴天時外出時間を測定し、1日の平均日照時間を算出した。その上で家族に日光浴の重要性を説明し、外出機会の増加を促した。両親に同意を得た上で、その後3カ月間毎の日光浴時間を算出し、DIP法による骨密度を再測定し、1年間における変化を検討した。なお、全例で抗てんかん薬・食事内容の変更は行っておらず、全身状態に明らかな変化を認めていない。 結果 日光浴導入前の骨塩量は平均0.52(0.42〜0.59)であった。また1日の日光浴時間は平均0.48時間(0.28〜0.76)であった。導入後日光浴時間は平均1.6時間(0.9〜3.0)まで増大し、骨塩量の平均は3カ月後0.578(0.5〜0.62)、6カ月後0.652、9カ月後0.702、12カ月後0.736(0.69〜0.76)まで増加した。 考察 骨塩量の低下は様々な要因が関与しているものの、その改善に日光浴の促進が有効であることが示された。骨折予防は介護上重要な課題であるが、その対応として運動や栄養、抗てんかん薬の調整等は困難な場合が少なくない。日光浴は外出機会を増やすなどの対応で促進可能であることより、重症児への骨折予防に有効かつ導入しやすい対処法と考えられる。
  • 平 芳春, 熊谷 公明, 片山 雅博, 花田 華名子, 竹内 絵理子, 浅野 孝, 井上 英雄, 竹内 章人, 岡 牧郎, 大塚 頌子
    2011 年36 巻2 号 p. 280
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児施設入所者の加齢が進み、多くの施設で平均年齢の上昇が見られている。旭川荘でも平均年齢40歳代で、悪性腫瘍の合併も課題である。今回脳性麻痺・精神遅滞で入所中の33歳女子に多発性骨腫瘍を発見し、精査の結果甲状腺腫瘍による転移性多発性骨腫瘍と判明し、治療の選択に苦慮した症例を経験したので報告する。 症例は、昭和52年1月13日、4450gで出生し、新生児けいれんで3カ月入院した。その後の発育の詳細は不明ある。23歳時糖尿病、糖尿病性網膜症、29歳時膀胱膣瘻、31歳時卵巣機能不全を発症した。30歳時(平成12年5月)旭川児童院に、脳性麻痺、精神遅滞、てんかんで入所。脳回状頭皮、右斜視、過呼吸の反復を認め、ADLは全介助を要す。移動は坐位移動と背這いにより、視覚障害を認めるが聴覚は正常である。 平成22年3月(33歳)座位をいやがり、入浴時など股関節を動かすと痛がることで、整形外科を受診し経過観察となった。同11月痛みが増強したため、整形外科を再受診、骨病変を指摘され、CT、MRIなど実施、転移性多発性骨腫瘍と診断された。原発の精査のため岡大小児神経科入院、サイログロブリン異常高値で、転移部の骨生検を行い、甲状腺腫瘍濾胞癌と確定した。 治療の選択で、本来ならば甲状腺全摘、アイソトープ照射療法が最適であるが、家族の付添介護が難しく已むを得ず帰院した。両親と相談するも積極的治療は望まず、対症療法のみ実施している。現在左肩甲骨にも転移し、疼痛もひどく、緩和療法を継続している。甲状腺悪性腫瘍の中でも濾胞癌は、本来治療のしやすい疾患であるがアイソトープの照射が不可能な状況で、断念せざるを得なかった。初期診断に難渋したのは、乳房にも甲状腺にも腫瘤が触れず、股関節の痛みが初発症状であったためである。
  • 山本 重則
    2011 年36 巻2 号 p. 281
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児者の多くが重度の骨粗鬆症を合併しており、容易に骨折を来たしやすく、ADLやQOLが大きく損なわれているが、有効性が証明された治療法がなく、有効性の高い治療法の早急な確立が望まれている。国立病院機構重症心身障害ネットワークによる共同研究として、重症心身障害者でも比較的安全に使用できると考えられる第1世代の経口ビスホスホネート製剤であるエチドロネートを投与することにより、骨粗鬆症が改善し、脆弱性骨折の発生が抑制されることを期待し、これを証明することを目的として臨床研究を計画した。プロトコールに関しては昨年度の本学会で報告した通りである。代諾者である患者保護者に対して文書を用いて説明を行い、文書による同意を取得した。骨密度70%未満の骨粗鬆症を合併する患者を対象に、コントロール群とエチドロネート群との2群にランダムに分け、3年間の治療・経過観察を行うこととした。コントロール群では、これまで通りの治療を継続し、エチドロネート群では、これまで通りの治療に加え、エチドロネートを承認された投与法に従い投与した。期間中の脆弱性骨折の発生率を主要評価項目とし、治療前後での骨代謝マーカーの変化と骨密度の変化とを副評価項目として、評価を実施することとした。これまでに国立病院機構病院入院中の18歳以上の大島分類1〜4の重症心身障害児者350名を対象に臨床研究が開始された。これまでに登録されたデータを中心に報告する。
  • 木原 健二, 河崎 洋子, 水戸 敬, 高田 哲
    2011 年36 巻2 号 p. 281
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    目的 重症心身障害児(者)(以下、重症児者)において、身長計測は身体発育状態の定量的評価や栄養状態の評価などで有用である。多くの重症児者では運動機能障害のため立位身長の計測は困難である。立位姿勢が困難である場合の身長計測方法として脛骨長から立位身長を推定する方法があり、その信頼性について第57回日本小児保健学会で報告した。今回、測定法の臨床的有用性について検討を行ったので報告する。 対象および方法 重症心身障害児(者)施設入所もしくは外来通院中であるGMFCSレベルIV〜Vの重症児者47名 (男性30名、女性17名、平均年齢32.1±9.9歳) および健常成人44名(男性20名、女性24名、平均年齢34.4±9.3歳)に対して膝関節内側裂隙から内果下縁の距離を測定し、これを脛骨長とした。健常成人については立位身長を測定し、脛骨長から立位身長を推定する回帰式ならびに決定係数を算出した。さらに重症児者群と健常成人群の脛骨長平均値をMann-WhitneyのU検定により比較した(有意水準5%未満)。なお本研究は神戸大学大学院保健学研究科倫理委員会の承認を得て実施した。 結果 脛骨長から立位身長を予測する回帰式は、立位身長=3.1×脛骨長+53.2cmであり、決定係数は0.79であった。脛骨長平均は重症児者群31.4±2.9cm、健常成人群35.4±2.6cmであり、重症児者が有意に低値を示した。 考察 脛骨長から立位身長を予測する回帰式では決定係数が高値を示した。重症児者において脊柱側彎等の変形・拘縮の影響を除いた場合のプロポーションが健常者と近似すると仮定すると、この回帰式に基づいて立位身長の推定が可能であると考えられる。また重度脳性麻痺児者が健常者と比較して低成長となるという報告が過去になされており、今回の結果はこれと一致した。脛骨長測定は測定姿勢を選ばず短時間で測定が終了するため簡便に実施可能であり、重症児者の身長評価方法として臨床上有用であると考えられた。
  • 渡邊 理恵, 星野 綾, 木口 めぐみ, 加藤 美枝子, 宮沢 潤一, 小西 徹
    2011 年36 巻2 号 p. 282
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症心身障害児(者)では睡眠障害の合併が高頻度で、 障害重症度や障害時期によって合併率や種類が異なるとされている。当園では、睡眠障害に対して高照度光療法や運動療法を実施し、一定の効果があることを報告してきた。しかし、重症度の高い例では効果が部分的または無効が多かった。近年、慢性期脳血管障害者の意識障害に対して背面開放座位の有効性が報告されている。そこで、重症児(者)の睡眠障害に対し背面開放座位を試み、その有効性について検討したので報告する。 対象・方法 大島分類1で中等度から重度の睡眠障害があり、介助による端座位が可能な8名(胎生期障害3,出生後障害5)を対象とし、背面開放座位実施前・実施中の睡眠スコア(小西ら)を比較し背面開放座位の有効性について検討した。 結果 スコア4点改善1例(中等度から軽度睡眠障害に改善)、 2点改善2例、1点改善1例、不変3例、1点悪化1例で、ある程度の有効性が示唆された。そして、その内容は、中途覚醒の改善3例、悪化1例(計3点改善)>午睡の改善2例(2点改善)、起床時間の改善2例(2点改善)>入眠時間の改善2例、悪化1例(1点改善)>睡眠覚醒リズムの改善1例、悪化1例(0点)であり、運動療法と類似したパターンの効果を示した。障害時期別にみると、出生後障害では5例中3例でスコア2点以上の改善を認めたのに対して、胎生期障害では3例とも不変または悪化を示した。 考察 重度障害例の睡眠障害に対して背面解放座位はある程度有効と思われた。ベッド上の仰臥位や車椅子座位では、頭部から臀部まで背部がマットレス等に密着している。これに対し、背面開放座位は自分で体幹や頭部を保持する必要があり、運動したと同様の効果が得られるのではないかと考える。また、障害時期つまり睡眠障害の種類によりアプローチを変える必要があると思われる。
  • 田沼 直之, 齋藤 菜穂, 古島 わかな, 長澤 哲郎, 福水 道郎, 宮田 理英, 中島 啓介, 林 雅晴
    2011 年36 巻2 号 p. 282
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))は重篤な脳障害から睡眠覚醒リズムが乱れていることが多い。重症児者にメラトニンを投与することにより睡眠覚醒リズムが改善したとの報告もみられる。しかしながら、重症児者において実際にメラトニン代謝を検討した例は少ない。そこで重症児(者)の尿中メラトニン代謝物を測定し、睡眠覚醒リズムとの関係を予備的に検討した。 対象と方法 当センターに入所中の重症児(者)の早朝尿を保護者より書面にて同意を得て採取し、GenWay Biotech社製ELISAキットを用いて尿中メラトニン代謝物(6-hydroxymelatonin sulfate, 6-OHMS)を測定した。得られた結果は尿中クレアチニン値にて補正した。また一部の重症児(者)については、尿中6-OHMSの日内変動を測定した。 結果 6-OHMSを測定した重症児(者)は13例(21歳〜51歳)で、正常対照(n=7)に比べて有意差を認めなかった(重症児(者)77.1±62.6ng/mgCre vs. 正常対照43.8±48.2ng/mgCre, mean±SD)。また、日内変動を測定した2例のうち1例は早朝尿の6-OHMSがピークを示したが、もう1例のピークは正午にずれていた。ピーク値がずれていた例では睡眠覚醒リズムが乱れ日中も傾眠傾向となっていた。 考察 これまでの研究から血漿メラトニン値は夜間にピークとなり、それを反映して尿中6-OHMSは早朝にピークとなることが知られている。今回の予備的検討でもこの事実を確認することができた。早朝尿のみでの6-OHMS測定に加えて日内変動をみることで、より正確に睡眠障害の病態を明らかにすることができると思われた。またメラトニン治療の前後での測定により効果判定にも応用できると考えられる。
  • 中村 全宏, 弘中 祥司, 大岡 貴史, 藤田 晴子, 荒井 康裕, 益山 龍雄, 岩崎 裕治, 有馬 正高
    2011 年36 巻2 号 p. 283
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))では、しばしば咬合異常を経験する。そこで、重症児(者)の咬合異常について調査し、その実態を把握した。さらに今回は、開咬症の予防に対して口腔内装置を小児期より応用する試みを報告する。 対象および方法 長期入所者94名を対象に歯数および歯列状態を精査した。記録は研究用模型作成や口腔内写真撮影などで行った。さらに、乳歯列期の入所者および外来患者を対象に開咬防止装置を作製し、使用状況を記録した。 結果 長期入所者の歯科初診時の年齢は30.8±14。1歳で、男性46名で女性48名であった。歯数は無歯顎および咬合関係のない歯列の方が3名であった。咬合異常は86名(91.5%)にみられた。そのうち、開咬症は51名(54.3%)であった。開咬防止装置を装着した者は6名であった。 考察 咬合異常の原因は、先天的なもの、小顎症などの顎骨異常によるもの、指しゃぶりなどの生活習慣によるもの、薬物による歯肉増殖症によるものなどが挙げられる。特に開咬症は舌突出や弄舌癖などの口腔周囲筋のバランスが崩れることによって起こり、さらに口唇閉鎖不全のため摂食嚥下障害の原因になる。歯科的な治療は歯列矯正や外科的手術などがある。しかし、どれも重症児(者)にとって、身体的、精神的および経済的に耐えうる治療法ではなく、効果的な治療法はない。そのため予防が必要になる。つまり、生活習慣や歯肉増殖症などに対する対策が考えられるが、全身的および先天的な要素もあると困難を極めることが多い。そこで乳歯列期の早期から開咬防止装置を応用して、永久歯列時に開咬状態にならないように誘導したい。 まとめ 重症児(者)では開咬症などの咬合異常を高率に生じるため、小児期からの開咬防止装置は有効と思われるが、今後長期経過観察しながら適応などについて検討していく必要がある。
  • 榎園 崇, 福本 裕, 望月 規央, 平井 久美子, 齋藤 貴志, 斎藤 義朗, 小牧 宏文, 中川 栄二, 須貝 研司, 佐々木 征行
    2011 年36 巻2 号 p. 283
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))では、精神遅滞や筋緊張亢進に伴う開口障害、骨格変形等のため、口腔ケアが不十分となりやすい。また、経口摂取が困難な患者では、唾液による自浄作用も低下し、口腔内は不衛生になりやすく、齲蝕や歯周病、口臭の原因になる。院内感染対策の一環で、重症児(者)の口腔内細菌叢の検討を行ったので報告する。 方法 対象は、重症児(者)病棟に長期入院中の男性16名、女性10名、計26名、8〜48歳(中央値26.6歳)で、検体はスワブで咽頭後壁を経口的に拭って採取し、分離培養検査を行った。全例経口摂取は不可能で、全例寝たきりであった。経管栄養の種類、気管切開と喉頭気管分離の有無、検体提出前1週間以内の抗生剤使用歴の有無で群分けし、口腔内細菌叢を比較検討した。 結果 分離頻度別では、Streptococcus mitisやC群溶連菌が高頻度であった。MRSAが10株、腸内細菌科が6菌種20株分離され、耐性化の傾向があった。患者背景毎の検討では、喉頭気管分離群(n=12、MRSA 7株、腸内細菌科6菌種15株)では、気管切開群(n=5、MRSA 2株、腸内細菌科2菌種3株)・気管切開なし群(n=9、MRSA 1株、腸内細菌科2菌種2株)に比して、MRSAや腸内細菌科の分離頻度が高い傾向があった。抗生剤使用あり群(n=10、連鎖球菌群15株、MRSA 6株、腸内細菌科5菌種11株)では、なし群(n=16、連鎖球菌群32株、MRSA 4株、腸内細菌科4菌種9株)に比して、連鎖球菌群の分離頻度が低く、MRSAや腸内細菌科の分離頻度が高い傾向があった。経鼻経管栄養群と胃ろう群では、差はなかった。 考察 喉頭気管分離群で、MRSAや耐性化した腸内細菌科の分離頻度が高かった原因は、基礎疾患の重症度が高く、抗生剤に暴露されるリスクが高い点が考えられた。抗生剤使用あり群で、連鎖球菌群の分離頻度が低いなど、重症児(者)の口腔内細菌叢は、医療や環境要因による影響を受けていることが明らかになった。
  • −療育の視点から−
    松尾 久美子, 高橋 広, 中村 紀子, 松本 利香, 待鳥 京子, 高嶋 幸男
    2011 年36 巻2 号 p. 284
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに ピアジェは乳幼児期を感覚運動期と位置づけ、感覚刺激の重要性を唱えた。特に視覚刺激は情報量の8〜9割を占めているとされ、最も大切な刺激である。10年間の眼科健診と視機能訓練が療育に有用であったので報告する。 研究方法 対象:入所者55名:眼科的診断は、白内障5名(手術2名)緑内障1名 網膜剥離1名(手術) 網膜色素変性症1名 小眼球症2名等期間:平成14年〜23年 方法:眼科健診レポートを10年間見直し各例について検討した。視力検査はTeller Acuity Card ®(TAC)にて測定36名〈65%〉(うちランドルド環4名)、不可能19名〈35%〉(うち盲7名)で測定結果は療育に活用できた。 結果 療育的視点 1.白内障手術にて盲から回復し自力歩行可能となったが聴覚優位。認知はうまくいかない。 2.網膜色素変性症では視力は低下したが頭部を前後左右に動かす行動の意味が理解できた(視野を拡大する行動であった) 3.両眼下転障害では目の高さまでスプーンを上げる意味が解った(見える位置まで上げていた) 4.脳室周囲白質軟化症で、入所時は皮質盲と診断されていたがファンツ理論(カラフルな色、縞模様)を使った視機能訓練によって視力が向上。聴覚優位も療育に活用した。 考察 「なんとなく見えている」ではなく、視力検査の結果、見える位置での療育は重要である。言葉のない重症児の眼科健診は早期発見につながる。PVL等の視覚発達遅滞は視機能訓練で発達の可能性がある。眼科的情報により重症児の行動の意味が分かり有用である。TAC検査に慣れ視力が上がることがある。眼鏡はてんかん等により1名のみである。以上より眼科健診は重症児にとって必要不可欠であり、積極的に健診し療育に生かす必要がある。
  • 橋本 真帆, 安井 泉, 麻生 幸三郎, 別府 玲子
    2011 年36 巻2 号 p. 284
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    当センター入所者で虐待性頭部外傷の後遺症を有すると推定される8名の障害児者の長期予後について検討した。全例において受傷時期は1歳未満(平均生後3.3カ月)で受傷後にけいれんや意識レベル低下などの症状を認め画像上、脳挫傷、硬膜下出血の所見がみられている。受傷後追跡期間は2〜29年(平均12年)で、75%は有意語がなく、重度の精神発達遅滞がみられている。また、全例、自力歩行はできず、88%は日常生活のすべての面で常時介助を要している。てんかんの合併は88%にみられ、50%はてんかん性スパズムも合併、難治に経過している。前例、加害者は両親のいずれかと推測されているが、逮捕、起訴に至っている例は一例もない。88%の例で両親は離婚もしくは別居しており、38%では加害者と推測される人物が親権者となっていた。入所後の家族の面会は極端に少なく、今後も家庭生活への復帰の可能性も低いと考えられる。
  • 竹下 絵里, 中川 栄二, 木下 典子, 高野 知行, 後藤 雄一
    2011 年36 巻2 号 p. 285
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに Rett症候群は、獲得した認知運動機能の退行を示す疾患で、典型例の80〜90%で原因遺伝子MECP2の変異が同定される。MECP2は4つのエキソンからなり、エキソン1、3、4でコードされる蛋白と、エキソン2、3、4でコードされる蛋白の2種類ができる。変異の大部分はエキソン4に位置し、エキソン1の変異は非常に稀である。今回、エキソン1に変異を認めたRett症候群の女児例を経験したので報告する。 症例 4歳2カ月、女児。周生期、乳児期早期は異常なし、3カ月頃から手の常同運動があり、1歳半健診にて運動発達遅滞を指摘され、同時期から喃語が消失した。自閉傾向、軽度の小頭症、軽度の高乳酸・ピルビン酸血症を認めた。臨床経過からRett症候群を疑い、MECP2遺伝子解析を施行した。直接シークエンス法で、エキソン1の11塩基の欠失(MECP2_e1:c.47-57del11,p.G16EfsX22)を同定した。 考察 今回、31例のRett症候群疑い例の遺伝子解析を行い、エキソン1の変異は1例のみ(3%)であった。エキソン1の変異は、検索したかぎり15例しか報告がなく、このうち12例はRett症候群典型例であった。本症例で同定された変異は、4例(典型例2例、軽症例2例)で報告があり、エキソン1の変異の中では頻度の多い変異であった。エキソン1に変異を有する15例の既報告では、4例が25歳までに死亡しており、他の部位の変異を有する例に比べ早期死亡が多い可能性がある。エキソン1、3、4でコードされる蛋白は、2004年に初めて報告され、それ以前に検索を行っている場合にはエキソン2〜4のみを調べ、エキソン1の検索は行っていない場合が多い。予後を予測する上でも、臨床経過からRett症候群が疑わしい場合は、エキソン1を含む全エキソンと近隣のイントロン領域の総合的な遺伝子解析が必要である。
  • 政平 憲子
    2011 年36 巻2 号 p. 285
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    目的 B型通所施設に通う在宅重症心身障害児(者)の家族が生きていく上での思いを明らかにする。 方法 対象はB型通所施設を利用しながら在宅で重症心身障害児(者)の介護を5年以上行っている家族とし半構成的面接法によりデータ収集を行った。データは対象者ごとに逐語記録を作成し在宅重症心身障害児(者)の家族が介護を行う中で感じる支えの内容に焦点を当て分析した。 結果および考察 在宅重症心身障害児(者)の家族の思いは『子どもの存在』『社会資源』の2つの側面から構成されていた。『子どもの存在』は「心の安定」「家庭の位置づけ」「子どもとともにいる」の3つのコアカテゴリーにより構成され『社会資源』は「これからの子どもの居場所」「安全で安心できる施設」「家庭と同様の環境」の3つのコアカテゴリーから構成されていた。家族は障害のある子どもの出生後、障害告知による戸惑いをもちながらも“子どもの心を理解する関わり”を通して『子どもの存在』が親の「心の安定」となっていた。「家庭の位置づけ」は、子どもの“落ち着く場所”“満足できる場所”となり、親の「心の安定」につながっていた。「子どもとともにいる」では、家族が、家族以外に子どもを預けることに不安を感じ“家族だからの安心感”“家族の役割は子どもを守る役割”“家族は生涯子どもといたい”ということから自宅での子どもの存在が生きる支えとなっていた。家族は子どもの出生後から長期にわたる生活や介護を通して子どもの満足が家族の満足や生きがいとなっていると考える。また、家族は“将来の介護不安”“社会資源の量と質の不満”“やむにやまれぬ施設の利用”から「これからの子どもの居場所」に不安をもち施設に「安全で安心できる施設」「家庭と同様の環境」を求めていた。『社会資源』は子どもの介護が家庭で行えなくなった場合の家族の大きな支えであり在宅介護を行う上で必要不可欠重要なものであると考える。
  • 松下 彰宏, 大谷 早苗, 蘆野 二郎, 服部 英司
    2011 年36 巻2 号 p. 286
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 地域の障害者を支援していく上で、患者を含む家族のニーズ把握は重要である。しかし、障害者家族ニーズ把握のためのアセスメント指標がわが国では開発されていない。障害者対策総合研究事業「障害児家族ニーズの種類別アセスメント指標の開発研究」ではFamily Needs Survey (FNS)開発者の許可の下、日本版FNS(FNS-J)を作成し、現在その妥当性、信頼性検証を行っており、今回この研究に協力する機会を得た。 目的 当院利用中の障害児の家族ニーズを明らかにして、サービス提供の充実をはかる。 方法 協力の得られた当院利用中の障害児(幼児〜中学生)の父・母に対してFNS-Jを用いてニーズ(7種35項目)を調査し、同時に対象者や子どもの背景因子、自由記述による家族ニーズ(最大5個の記載欄)を把握した。自由記述による家族ニーズについて分析を行った。 結果 患児68人(通院67人、入院1人)に対して父49人母68人 計117人から回答を得た。自由記述によるニーズは父28人より100、母51人より192 計292あった。FNS-Jのカテゴリを利用してニーズを分類すると、家族・社会サポート180(62%)、経済面34(12%)、地域サービス24(8%)、情報23(8%)育児支援19(7%)地域サービス10(3%)などであった。家族・社会サポートの内容では、自分や家族の時間や健康に関するものが多く、また、FNS-Jでは項目にない心のゆとり、明るさなどの記述が目立った。医療的ケアの必要な17人では家族・社会サポートと経済面の割合が高かった。患児の主たる疾患で比べると、脳性まひ、ダウン症、発達障害に比べて、難治てんかんなどの重症児で経済面、育児支援、地域サービスのニーズの割合が高くなっていた。 考察 患者の属性によってはニーズ内容に差がみられた。サービス内容にこれらを反映させ、家族ニーズが満たされているかを含め家族とともに評価していきたい。 
  • 西田 利昭, 徳永 修, 宮野前 健, 大藤 祥子, 藤井 鈴子
    2011 年36 巻2 号 p. 286
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    目的 医療的ケアが必要な在宅重症心身障害児(者)が増加傾向にあり、京都府家庭支援総合センターがその対策を進めるに当たり、当院が準備会議メンバーとして参画し対策を検討した。この中で医療的ケアの基本的理解と地域生活支援のネットワーク構築が緊急の課題となり、この対応を図ったのでその経過を報告する。 方法 1.研究期間:平成20年11月から23年3月末。 2.研究方法:定例的な検討会議を開催し、事業所の実態や事例から課題を共有し、優先順位が高い要望を実施していく。 結果 1.連続講座の実施:非医療職の医療的ケアに関する理解を深めたいという要望が多くあり、4回の医療的ケアに関する連続講座を実施。内2回は当院医師が担当した。参加事業所は30を超え、参加者も当事者、家族を含め平均63名となった。 2.通所事業所看護師のスキルアップ研修の実施:通所事業所における看護師の医療的ケアに関する知識・技術が求められ、当院でスキルアップ研修を実施した。 3.ネットワーク構築:連続講座を通じて、事業所、行政機関等とのネットワーク構築が進展した。 考察 検討会の中で、地域での在宅支援体制の弱さ、社会資源の不足が指摘されたが、その要因に、サービス提供側の理解や知識不足も挙げられた。その点で連続講座の実施および通所事業所の看護師の実地研修は、医療的ケアを必要とする在宅重症心身障害児(者)に関わる職員への支援アプローチとして奏功していると考えられた。さらに、これらの取組みにより当時者・家族の要望を反映するかたちで、地域の事業所、行政機関等との支援ネットワーク構築に進展がみられた。医療的ケアを必要とする在宅重症心身障害児(者)にとって、重症心身障害児施設の果たす役割は大きく、今後も在宅重症心身障害児(者)のニーズの実現に向けて、地域支援システムの構築とその充実に努力したい。
  • 小林 拓也, 神前 泰希, 二宮 悦, 篠塚 宏, 芳賀 香織, 浅葉 友里菜
    2011 年36 巻2 号 p. 287
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    横浜市には約1000人の重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))がいるが、その中で800人以上の在宅重症児(者)が地域生活を送っている。医療ケアを要する児も多く、在宅重症児(者)の中でも50%を越えている。 私たちは、10年前より小児科クリニック併設の障害児一時預かり施設を運営し、在宅重症児(者)の地域生活支援を行っている。 障害児一時預かり施設『ケアハウス輝きの杜』は、平成11年に開設。現在は、障害者自立支援法上の日中一時支援施設として運営している。定員は22名で、午前8時から午後6時まで、障害の種別・重さに関わらず、事由の如何に関わらず預かりを行っている。全登録者71名で、障害種別は重症児(者)50名(70%)、知的障害児21名(30%)である。重症児(者)50名の中で医療ケアを要する児が42名(84%)で、この中には在宅人工呼吸器6名、在宅酸素9名、気管切開8名など重症児が含まれる。利用者の年齢は1歳から19歳まで、平均10.7歳。平成22年は3702人、1日当たり平均15名以上が利用している。利用頻度は年数回から週5回まで様々である。一部の利用者に限定ではあるが、自宅と施設、特別支援学校と施設間の送迎も行っている。 利用は1)定期利用、2)予約利用、3)臨時利用の3つの形態に分かれているが、定期利用をしているケースが50名と多く、特に重症児ではほとんどのケースが定期利用をしており、回数も多い。具合が悪く、点滴等の治療が必要な場合は、臨時利用の時間を通して預かり中に治療を行う場合も少なくない。重症児(者)、特に重症児の在宅支援では、まず重症化に対応できる医療体制と定期的な利用が重要である。定期利用は介護負担軽減、予防的レスパイト、体調管理などに有用であると考えている。
  • −薬剤師の立場から−
    森本 真仁, 浜田 茂明
    2011 年36 巻2 号 p. 287
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 平成23年3月11日に発生したマグニチュード9.0の大地震では、震源地から遠く離れた徳島県においても大津波警報や避難勧告が発令された。震災当日の当センターでの対応および、医療救護班の一員として参加した現地での活動状況を薬剤師の立場から報告する。 大津波警報に対する当センターの対応と課題 当センターは徳島県の東部、紀伊水道に面した小松島市に位置する190床(身障者療護施設50床を含む)の、主に重症心身障害児者を中心とした療育センターである。建物は2階建で港から近く、比較的低い土地に在る。地震発生後ただちに外来診療とリハビリテーションを中止し、1階フロアの入院患者を2階へと避難させた。特に被害もなく翌日には避難解除となったが、薬剤部門における災害対応への課題を検討し対策を立てた。 現地での医療救護活動 3月16日〜20日、日本赤十字社徳島県支部の医療救護第2班として、岩手県山田町にて活動を行った。震災後1週間を跨ぐ早期ということもあり、通信やライフラインが未復旧であったことから、われわれ医療救護班自身もサバイバルな活動となった。救護所での現状は、主に津波で常用薬を流された方が多く、外傷などの震災関連疾患は少なかった。しかし衛生状態の悪化から、感染性胃腸炎を疑う嘔吐・下痢が増加し対応に苦慮した。 活動を振り返って 今回の大震災において、医療救護班や各職種にとってどのような活動が求められたのかを様々な方面から振り返って考察した。特に重心施設では、患者避難やその後の病状を安定させるためには、市中一般病院よりも積極的な災害対策が必要となるであろう。今回の経験を、今後発生が予想される南海・東南海地震等の災害医療活動につなげていきたい。
  • −在宅重症児看護の向上を目指して−
    中澤 真由美, 石原 道子, 川又 協子
    2011 年36 巻2 号 p. 288
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症児の在宅療育支援を目的とする東京都在宅重症心身障害児(者)訪問事業を東部訪問看護事業部は受託し特別区(23区)を担当している。訪問看護ステーションの医療保険による看護と異なり必要に応じて退院前支援や受診等の同行、連絡訪問も実施している。 目的 事業実績等を分析することにより今後の重症児訪問看護の充実を図ること 方法 東部訪問看護事業部実績報告、対象者決定通知書(平成17〜22年度)、事業部データベースによる分析。個人特定につながらないように配慮し事業部内でデータ処理した。 結果 平成15〜22年度に都が決定した対象者は年間209〜279人(平均246人)、超重症児は65〜83人(平均30.4%)で準超重症児との合計は7割である。レスピレーターの使用は増加し22年度は47人(19%)で医療ケアの重度化が進んでいる。 また、平成15〜22年度の新規対象者は年間51〜90人(平均69人)で、申請時年齢は0歳児が4割に増加、1歳以下で7割を占めるなどNICU等からの退院の受け皿となっている。22年度の新規原因疾患の第1位は先天奇形(46%)で個別の疾患では18トリソミーが12人(17%)と多い。平成17年以降に関わった18トリソミーの子ども(36人)では0歳児の死亡は12%(現在0歳児の2人を除く)で、出生前から始まる選択的医療や呼吸が安定していない児への高度な看護技術、通園や特別支援学校への就学前支援など医療ケアだけではない療育を保護者から求められている。 結論 1.高度な医療ケア、体調管理と重症児の発達を保障する療育支援を総合した在宅生活支援が必要である。 2.病院ごとに異なる重症児の在宅移行に即した地域の多関係機関によるネットワークが重要である。 3.生命予後が厳しい重症児を抱える家族への支援は生命倫理、障害の受容を含めた看護の質が問われている。
  • −事例検討による看護内容の検討−
    佐々木 佳子, 五島 敦子, 清水 啓, 土屋 由利子, 有本 梓, 中澤 真由美
    2011 年36 巻2 号 p. 288
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    目的 平成21年度の東部訪問看護事業部の訪問看護対象者262名、その中でひとり親家庭は22事例であった。ひとり親家庭の多くは多様な事情を抱えており個別性も高いため事例検討を通して看護内容を整理して見直すこととした。 方法 1.平成21年8月〜平成22年2月に開催した事例検討会(月1回)で使用した担当看護師が記載した記録用紙と逐語録の分析。 2.平成23年4月〜8月に2事例を取り上げて事例検討を行い、看護内容をまとめた。 結果 1.全事例に共通して相談相手がいない、または不足していた。 2.ひとり親家庭への看護(22事例):全事例で、看護師は保健所を中心に医療機関、療育機関など複数の関係機関と連携を取っていた。訪問看護師は8割以上の事例に対して医療ケア、療育、相談、関係機関連絡、危機管理を実施していた。 3. 2事例に対する看護内容:家庭の問題により生活が安定しない事例Aでは、看護導入時の配慮として「母を急がせず、関係を保ちながら子どもの成長発達を最優先に支援する」ことに心がけた。訪問看護開始後、療育機関との関わりを持つことができた。就労と家事・育児・介護の両立に励む事例Bでは「仕事を続けたいという母の気持ちを汲み取り、重症児の安全に配慮しながらケアを実施する」ことで母の心情に変化が見られた。母親はそれまで拒否してきた関係機関との話し合いの場に出席することができるようになった。 考察 看護師は家族の生活スタイルを尊重し家族と重症児に必要な支援を見きわめながら慎重に関わっていた。どの事例も訪問看護開始後に徐々にだが変化はみられ、関係機関連携や必要なリハビリの開始などの成果があらわれていた。看護師は家族の相談に乗りながら信頼関係を築き関係機関との橋渡しなど、ひとり親家庭の重要な支援者となっていた。
  • −当施設入所児(者)の入所経路の検討より−
    勝連 啓介, 中村 恭子, 仲本 千佳子, 安藤 美恵, 泉川 良範
    2011 年36 巻2 号 p. 289
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 2000年に障害児(者)地域療育等支援事業を沖縄県内で初めて受託したことを契機として、地域完結型の療育を目指してきた。その中で沖縄県北部において、周産期医療・福祉の月例地域調整会議「ひびきの会」の立ち上げに参加する機会を得た。県福祉保健所の保健師、県立病院小児科医・看護師、当施設医師・障害児等療育支援事業担当看護師・市町村障害者相談支援事業の相談専門員で構成されている。2000年以降10年間の入所児の入所経路を検討し「ひびきの会」が果たしてきた役割と今後の課題について報告する。 方法 2000年から2009年までの10年間に、当施設に入所した21名を対象として、入所経路を検討した。「ひびきの会」立ち上げから現在に至るまでの変化や関わりについて検討した。 結果 当該地域の基幹病院からの入所は7名(9カ月〜2歳7カ月、平均1歳5カ月)、在宅からの入所は4名(6カ月、1歳10カ月、12歳、19歳)で、その中で8名が「ひびきの会」から入所につながっていた。そのうち5名は、入院中から重症児通園を利用し、のちに入所となっていた。一方、「ひびきの会」を経由せずに入所した10名は、他圏域の急性期病院からの入所4名(5カ月、6カ月、2歳、16歳)、他の重症児施設からの入所6名(1歳〜47歳、平均27歳)であった。 考察 地域基幹病院および在宅重症児の入所経路において「ひびきの会」が連携の中心的役割を果たしていることを示した。NICU入院中から訪問リハビリを開始し、地域支援担当看護師が家族支援に加わり、重症児通園へ親子で通園できるようにした。出生早期から親子通園を体験し、愛着形成の育みを願っての活動である。その後、通い慣れた重症児施設へ入所している間に、在宅環境を整え、在宅へつないだ。これらの活動をふまえて、平成23年策定の沖縄県周産期保健医療体制整備計画では、後方支援コーディネーターの配置と、後方支援連絡協議会の設置を計画するに至っている。
  • 岸野 美由紀, 武内 典江
    2011 年36 巻2 号 p. 289
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    目的 重症心身障害児(以下、重症児)の出生・養育は、保護者にとって精神的負担が大きく、療育上の困難を高めている。そこで、保護者に必要な支援を明らかにするために、家族支援プロジェクトを立ち上げ、保護者特に母親の抑うつに影響している危険因子と保護因子を調査した。 方法 島田療育センターに通院する0-12歳の脳性まひ他の利用者をもつ保護者を対象に自記式質問紙にて調査を行った。内容は、うつ病の自己評価尺度CES-D、PSI育児ストレスインデックス、PBI他より、基本的属性・夫との関係・婚姻状態・年収・母親自身の養育体験・産後の抑うつと、重症児スコアである。調査は当センターの倫員委員会の承認を受け行った。 結果 対象者は脳性まひ他の利用者(平均年齢6.8±2.4歳)をもつ母親67名。(平均年齢37.2±4.8歳) 母親のCES-D平均得点は、11.5±8.2点。31%(21名)がカットオフ値を超えていた。単変量・多変量ロジスティック回帰分析の結果、危険因子として、産後の抑うつと子育ての話題を共有できない社会的孤立、保護因子として、母親自身のリフレッシュを可能にする社会との関係があげられた。 考察 母親の31%が抑うつ状態であり、正常被検者で想定される15.7%に比べ著しく高かった。障害の重症度と母親の抑うつには関係性が見られなかった。重症児は、出産直後に診断が明確なことが多く、母親の出産直後からの抑うつが現在における抑うつに影響している可能性があるため、保健師・看護師による産後の早期介入の充実をはかることが必要と考えられる。また、同年代の子どもを持ち、同じような悩みを持つ保護者同士の交流や、先輩の保護者の体験談を聴く機会を作り、社会的孤立を防ぎ、母親自身のリフレッシュを可能にすることが抑うつの予防的ケアにつながると考えられる。今後は地域の関係機関と連携をとりながら、このような支援を実践していくことが望まれる。
  • 宮川 奏子, 後藤 一也
    2011 年36 巻2 号 p. 290
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 当院では、契約制度導入に伴い成年後見人が選任され5年が経過した。その大半は親族後見人であり、高齢化、業務放棄等の問題から、第三者後見人へと移行するケースも増えつつある。養育熱心な保護者たちからも「業務の煩雑さ」や、「親亡き後の問題」といった将来への不安を抱える声も聞かれている。今回、親族後見人の想いを把握し今後の福祉支援に役立てるため、実態調査を行ったので報告する。 方法 対象者:親族が成年後見人の89名手続き:後見業務の現状、将来の後見人について、第三者後見人に関するアンケート調査を実施した。 結果 親族後見人の約8割は両親(年齢分布は32〜86歳)で、兄弟13人、その他8名であった。高齢化に伴い後見人業務について、なんらかの負担を感じている人が多かった。しかし、親の会や病院職員からのサポートを受けていると認識している人も多かった。次の後見人の候補について家族を挙げた人が多かったが、第三者後見人を検討している人の割合も少なくなかった。一方で、親族以外の第三者も後見人として認められることを認識していない人もみられた。さらに、第三者後見人に期待することとして、医療的な同意に関する内容も挙げられた。 考察 後見業務について負担に感じている人が多く、高齢化に伴い、手続きにかかる身体的なストレスを「負担」と感じていることが可能性として考えられる。後見人が認識している親の会や病院職員からのサポートは、後見人の感じる様々な「負担」軽減に寄与し、ソーシャルサポートの重要性を示唆している。次の後見人候補としては家族を挙げた人が多く、「後見人」としてだけではなく、「家族」としての想いも強く反映されていることがうかがえる。第三者後見人に関して多くの意見が出され、関心の高さもみられた。今後は、第三者後見人についての知識を家族により正しく理解してもらえる工夫が求められる。
  • 伊是名 若菜
    2011 年36 巻2 号 p. 290
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 近年、重度心身障害児者の医療重度化・高齢化に伴い在宅生活を支える家族の高齢化がすすんでいる。高齢世帯が在宅生活を維持するためには、家族への支援が必要である。そこで今回、医療重度の重度心身障害者の高齢家族が、施設での看護介入を経て当初困難と考えられていた在宅生活を実現できたケースを報告する。事例は病院の倫理審査会に準じて個人が特定されないように配慮した。 症例 A氏、40歳代女性、亜急性硬化性全脳炎。心・腎不全。父・母(70歳代)・兄(50歳代)と同居。約40年間家族だけで介護をしていた。肺炎のため約1年半入院となり、その間に胃瘻造設術・気管切開術・喉頭閉鎖術・右腎腎瘻造設術を施行した。退院指導を受け、自宅退院するが4日で心不全にて再入院し、その後、 在宅調整目的で当園入所となった。 入所時、両親はA氏を「生きがい」と言い、家族だけの在宅生活を強く望んでおり、社会資源の導入を拒んでいた。再入院の原因の一つは入院前よりも医療重度となったA氏の状態と在宅生活の変化がイメージできず、在宅環境が整っていないためと考え、「家族力の育成」を軸にした看護介入を計画・実践した。家族の強みを生かし、自信と意欲をなくさないように配慮しながら医療ケアの指導をするうちに家族は社会資源の必要性に気付き、家族自らが社会資源を選択・導入し、在宅生活にもどることができた。 考察 長い介護生活を労い、無理に社会資源の導入を促すのではなく、家族が自然にその必要性に気付くよう関わったこと、その中で家族がケア度の高さの認識や具体的な在宅生活のイメージがついたことが結果につながったと考えられる。出生時や幼少の頃より介護している家族にとって子どもの変化は受け入れられない傾向が多い。そのとき、病院ではなく、一時利用として施設という生活の場での指導が家族に受け入れやすい場合もあり、施設が担う役割の一つだろうと考える。
  • 徳光 亜矢, 鈴木 啓子, 斉藤 剛, 岩佐 諭美, 鳥井 希恵子, 楠 祐一, 平元 東
    2011 年36 巻2 号 p. 291
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))における経腸栄養を原因とする亜鉛欠乏は以前から報告があったが、われわれは経口で食事をとっている重症児(者)が、亜鉛欠乏から著しい貧血と味覚障害を引き起こした例を経験した。この症例を契機に、当園に入所している重症児(者)における血清亜鉛濃度の測定を行った。 方法 2011年4月1日からから8月31日までの5カ月間に、当園で年に2回施行している定期の血液検査時に血清銅、亜鉛値を測定し、栄養の投与方法や食事内容、同時に測定する血清総蛋白値などとともに比較検討する。 結果 本抄録提出時において測定人数は125人 、平均亜鉛血中濃度は62.37μg/dlと正常値を下回っていた。この125人を、血中亜鉛濃度の正常下限とされる65μg/dl以上(正常亜鉛群)と65μg/dl未満(低亜鉛群)に分けると、正常亜鉛群は59人、低亜鉛群は66人であった。食事摂取方法は、正常亜鉛群では経口摂取が48人、経口摂取と経腸栄養の併用が3人、経腸栄養単独が8人であったのに対し、低亜鉛群では経口摂取が42人、経口摂取と経腸栄養の併用が4人、経腸栄養単独が20人と、経腸栄養が多い傾向にあった。また一日摂取カロリー別にみてみると、正常亜鉛群は1214kcal、低亜鉛群は1169kcalであり、両者に著しい差はなかった。 考察 今の時点で、栄養を経口摂取していても低亜鉛血症をきたす場合が少なくないことがわかった。低亜鉛血症の誘因として、発汗過多、吸収不全、慢性炎症の存在などが考えられる。重症児(者)の亜鉛欠乏のリスクファクターやその対策なども含めて検討し、報告する。
  • 足立 真由美, 山本 智子
    2011 年36 巻2 号 p. 291
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 当センターでは、平成21年3月より入所棟において、注入時間の短縮、離床時間確保の目的で半固形化栄養を8名の重症児に導入した結果、注入時間の短縮により余暇活動の参加ができるようになった。今回、外泊時に半固形化栄養を取り入れた結果、母親の介護負担軽減、家族の満足度が得られた1症例について報告する。 対象 13歳男児 病名:溺水後遺症、てんかん、四肢麻痺、呼吸不全2歳から当センターに入所。気管切開し、人工呼吸器装着。経鼻経管栄養であったが、平成21年7月胃ろう造設。同年8月から1日3回半固形化栄養の注入を実施、脈拍の上昇・腹部膨満がみられたが、注入量や速度を調整し徐々に不快症状は落ち着いた。 経過 母親の面会・院内外泊時に、半固形化栄養の手技の説明・確認を行い、注入手技が確立できた。その結果、4回の外泊時に家族が食事をミキサーでペースト状にしたものや、とろみをつけた経腸栄養剤を注入し半固形化栄養を実施することができた。母親にアンケートや面接を行い1.注入の様子、2.家族の関わり、3.母の思いについて半固形化栄養導入の前後で比較をした。 結果・考察 1.1回の注入時間が1〜6時間で1日17時間半かけて注入をしていたが、導入後は半固形化栄養の注入が1回20分、水分注入が2時間半となり1日3時間半となった。結果、注入時間の短縮となり、母親の睡眠時間の確保ができ介護負担やストレスの軽減につながったと考える。 2.介護は主に母親のみが行っていたが、導入後は祖母がペースト食の食事を作るなど家族の協力が得られるようになり、家族のつながりを深めることができたと考える。 3.以前から家族と同じものを食べさせてあげたいという思いがあり、導入後は家族皆が同じ食事を食べることができうれしいとの言葉が聞かれ、家族の満足度が得られたと考える。
  • (調理作業の衛生レベル判定と対策の評価)
    宇佐川 瞳, 中山 裕子
    2011 年36 巻2 号 p. 292
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    目的 施設器具・手指の衛生レベルを判定し、洗浄・消毒等の作業を検討して利用者に安全で健康に過ごして頂くために衛生管理の向上を目指す。 方法 1)現状分析調査として簡易細菌拭き取り検査を各3菌種「黄色ブドウ球菌、大腸菌群、一般生菌」作業中の20件に実施し、コロニー数で判定した。 2)改善箇所への衛生強化対策として業者による衛生指導、洗浄・消毒法のマニュアル化、勉強会を実施した。 3)評価として対策実施前後の検査結果比較と、職員10名を対象に意識調査を行った。 結果 1)対策実施前の検査全20件中黄色ブドウ球菌は陰性で衛生レベル「適」であった。大腸菌群はスポンジ、まな板の2件に検出され、衛生レベルは「不適」であった。一般生菌では全20件検出し、特にスポンジ、床、まな板、手指等は菌数多数で衛生レベルは「不適」であった。 2)結果よりスポンジ、床、まな板、ミキサーの4箇所を衛生強化箇所に設定し洗浄・消毒法を変更した。 3)再検査では黄色ブドウ球菌、大腸菌群ともに陰性で衛生レベルは「適」となった。一般生菌では「まな板」が陰性で衛生レベル「適」に、他の3箇所は菌数減少するが衛生レベル「不適」でさらに対策強化が必要と判明した。 4)職員意識調査は「意識が変わった(10)、手洗いの徹底が必要(4)、検査の継続を希望(10)」と改善した。 考察・まとめ 今回の検査から作業中20件の衛生状況が把握でき、改善箇所が判明し強化対策を実施した。再検査により対策の適否を判定し、対策の見直しとマニュアル改訂を行った。衛生レベルを保つためには、作業中に適時の洗浄・消毒が必要であることを再確認した。今後も効果的な洗浄・消毒法を確立し、衛生管理向上に努めたい。細菌は目に見えないことから衛生管理が難しいが、客観的に分析するために定期の検査を実施して意識を高めたい。
  • 村上 則子, 山倉 慎二, 浅野 一恵, 村上 哲一, 府川 恭子, 鈴木 崇之
    2011 年36 巻2 号 p. 292
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 胃ろうによる経管栄養法はメリットも多いが、ダンピング症候群がしばしば問題になる。本症例は、経腸栄養剤注入30分後の血糖値が220mg/dl代、2時間後40〜60mg/dl代になり後期ダンピングと診断された。主治医と連携し食物を胃に停滞させる目的で半固形化経腸栄養剤の注入を開始したところ、食後高血糖はなくなりダンピング症状は改善したが、難治性下痢にて経腸栄養剤は中止せざるを得ず、ペースト食のシリンジ注入を行い経過良好であった。しかしこの食物をシリンジで手押し注入する方法は、学校や多くの施設では前例なく対応困難となる場面が多いため、今回イルリガードルで滴下可能な流動食を開発し、ダンピングや下痢に対しても良好な結果が得られたので報告する。 方法 市販かゆ酵素(でんぷん分解酵素の粉)と全粥をミキサーにかけ、全粥をサラサラの液状にする。その液状の粥と副食をミキサーにかけ、こし器を通す。これをイルリガードルに入れ、クレンメの手動調節で250mlを1時間かけて胃ろうから滴下し、その落ち方を観察した。 また、30分毎の血糖値(BSmg/dl)測定、心拍(HR回/分)と酸素飽和度(SpO2%)をパルスオキシメータでモニタリング。児の様子を医師、看護師、栄養士、調理師、OT、家族とともに観察した。 結果 食前BS65、30分後BS93、120分後BS82。一時HRは130代まで上昇したが、児の様子に特に変化はなく許容範囲と判断した。滴下状況は食物成分の沈殿に対し撹拌やクレンメ調節は必要であるが全量滴下可能であった。 まとめ 今回胃ろうから自然食の滴下に成功した。また、本症例を通して家族や友達と同じ自然食を摂れる経験をし、これまでの胃ろうからの食事について考え直す機会となった。重症心身障害児(者)は、障害が重くなるほど、生命維持のケアに懸命になり食事の楽しさを忘れがちだが、各部門スタッフと連携を図り、食事の喜びも経験できるよう支援していきたい。
  • 神田 ゆう子, 村田 尚道, 江草 正彦, 宮脇 卓也
    2011 年36 巻2 号 p. 293
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    目的 重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))における摂食・嚥下機能障害について近年注目され、他職種との連携が図りやすくなってきている。しかし、重症児(者)の摂食・嚥下機能に適した食形態が家族などの思いから提供困難なこともあり、統一したアプローチを図れないこともある。今回重症児の定義とその障害の程度を表している大島分類の改訂版である横地分類と、摂食・嚥下機能との関連性について検討したいと考え、症例を交えて今後の課題について紹介する。 症例 8カ月男児。在胎38週、2618gにて出生。新生児仮死なし。生後3カ月にてけいれん発作出現、その後発作増加し、Miller-Dieker症候群と診断された。生後5カ月から頻繁にけいれん発作出現し、平成23年4月中旬に合成ACTH療法のため当院へ入院となる。開始7日目より体温上昇したため、一時中断。5月上旬より再開し、現在状態安定してきている。 評価 横地分類A1、全身の過敏がみられ、後弓反張が強く後頭部と臀部が接していた。未定頸、吸綴反射(±)、探索反射(−)、咬反射(+)。栄養は母乳とミルク、1日2回の離乳食中期を大さじ2杯程度母親の抱っこにて摂取。口唇閉鎖(+)、舌突出(−)、嚥下反射(+)。食事摂取10分経過後、傾眠傾向、体幹の筋緊張亢進、閉塞様呼吸が出現。また食事中に発作が出ることもあった。 考察と今後の展望 本症例は横地分類ではA1で重度障害ではあるが、嚥下問題は見られない。現在経口摂取量がわずかに増加傾向にあるが、食事時間後半になると後弓反張が強く、呼吸が荒くなってきている。今後成長に伴い、咽頭・喉頭腔が広がることから嚥下障害のリスクが高まってくると考えられる。今回は8カ月の乳児にて評価を行ったが、今後様々な年齢層の障害児(者)の評価を行い、横地分類を用いての関連性について検討を行っていきたいと思う。
  • 石田 修一
    2011 年36 巻2 号 p. 293
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 近年、内視鏡における嚥下評価が注目を浴び、歯科、耳鼻咽喉科およびリハビリテーション科領域を中心に多くの施設で利用され始めている。当院で小児科医が行った嚥下内視鏡の経験を報告する。 対象 平成23年1月から7月の間に、当院重症心身障害病棟に入所中で、スタッフが嚥下評価を必要と感じ、本人または保護者の同意が得られた11名。 方法 OLYMPUS社ENF typeP4®またはPENTAX社FP-7RB®S2を使用し、ベッドサイドで経鼻的に咽頭喉頭を観察した。次に、いつもの摂食姿勢をとってもらい、色つき水5ml、3%とろみ色つき水3ml、ゼリー、ペースト食、ビスケットなどを本人がいつも食べている食形態に準じて摂食してもらい、嚥下を観察した。観察者は小児科医、看護師、言語聴覚士であり、希望がある場合には保護者にも立ち会っていただいた。 結果 対象者は男性6名、女性5名であり、年齢は8-51歳(中央値40歳)だった。対象者の大島分類はすべて1であった。胃瘻3名、経鼻胃管2名.気管切開や経鼻エアウエイ使用者はいなかった。解剖学的異常として舌根沈下7名、披裂部の腫脹2名。機能異常として唾液の喉頭進入2名、食物の喉頭進入10名。検査後の検討で、経口摂取開始可能の判断が6名、食形態の変更が必要との判断が3名だった。食事から経管栄養や胃瘻での流動食に変更した方はいなかった。保護者の立ち会いが5名あった。 考察と感想 嚥下の様子を保護者やスタッフに直接みていただけたことで、「よくわかった」との感想があった。また、食形態の選択、変更についてスムースに理解していただけた。食事開始が可能となった方がいたことで、スタッフのモチベーション向上にも役立った。本人や保護者になじみのある小児科医が嚥下内視鏡を行うことは、本人のQOL向上に意義あることと思われた。
  • 宮崎 弥生, 山中 美和, 池村 幸代, 森田 佳子, 村田 博昭
    2011 年36 巻2 号 p. 294
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))の多くは、摂食嚥下のメカニズムにおいて獲得が不充分で嚥下方法は様々である。リスクの高い嚥下に対して、統一した援助方法で繰り返し実施することが必要ではないかと考えた。そこで嚥下メカニズムから考えた摂食嚥下機能評価表(以下、評価表)を作成し、個々の障害の段階を抽出することを試みた。さらに個々の問題点に対して統一して取り組みやすいように、評価表に合わせた訓練表を作成したので報告する。 期間 平成20年4月〜平成22年3月 目的 個別に応じた摂食嚥下機能の評価および訓練法の抽出ができる。 方法 1.摂食嚥下の院内研修メンバーのうち看護師4名で、摂食嚥下機能評価表と訓練表の作成  2.各重心病棟で評価表を使用(経口摂取患者69名中、ランダムに59名に使用)  結果 評価表の活用で個々の障害の段階が明確にできた。同時に、嚥下メカニズムを評価する上で、姿勢の保持にも援助の統一性がなかったことが明らかとなり、正確な評価ができず評価結果に誤差が生じた。このため、個々に応じた姿勢の見直しが必要となった。また手技(スプーンの抜き方、介助ペース、1口量など)や援助方法(食具の適性、訓練皿の置き方、分割時の1回量、汁ものに対するトロミの有無など)も同様に統一性がなかったことが解明したため、これらも見直しが必要となった。 考察 嚥下メカニズムから評価したことで、個別の障害の段階が明確にでき、具体的な援助内容も明確にすることにつながった。しかし、患者が長年を通して行ってきた嚥下方法や姿勢を極端に変更することは、逆に誤嚥のリスクを高めかねない。このため援助の基本を見直し習慣づけた上で今後少しずつ訓練法を導入していくことが、訓練効果に期待できる。 結論 嚥下メカニズムの評価表は、個々の障害の段階を抽出し、具体的な援助につなげることができる。
  • 山口 健次朗, 山形 照文
    2011 年36 巻2 号 p. 294
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 緑ヶ丘療育園3階療育棟は、行動障害を有する利用者が多い。様々な特徴的行動が認められる中で「食に対するニーズ」が高く、視覚・味覚で楽しみながら食事をする人が多い。しかし近年、嚥下能力低下による誤嚥が急激に増加し、それに伴った食事形態に変更してきている。そこで、これまでの変化をまとめ、今後の食事摂取のあり方、また利用者の特徴を踏まえた、「楽しい食事」への取り組みと課題に対する改善策の一例について報告する。 調査方法  1)過去5年間の食事形態変化の調査 2)変わりゆく食事形態の中でのスタッフの意識調査 結果  1)データ収集により、5年前に提供していた食事に対し、平成22年4月よりソフト食が導入され、大幅に形態が変化した。その後、摂食時におけるリスク回避の観点から摂食機能評価およびVFが行われる。その結果、誤嚥または誤嚥の可能性が判明し、対応の変更が増加している。 2)職員の意識調査結果 安全な食事環境、個々のニーズに応えた食事の提供への意識が高い。 考察 今回の調査により予想以上に利用者の嚥下能力の低下が判明した。食事形態の変更・トロミの使用により誤嚥のリスクが軽減されたと思われるが、自力摂取者には食事の摂取方法等について本人の理解と協力を得ることは難しい。また、さらなる誤嚥リスク軽減の観点から、業務改善プロジェクト等と連携し環境面の改善に取り組み、現時点では一定の効果が認められている。 まとめ 利用者の嚥下能力の変化に対し、安全面を基底に、形態・介助方法・環境面の改善を図り効果を得ているが、その反面、食事そのものに費やす時間が多くなり他の業務の過密化を招くという新たな課題も出ている。食生活を取り巻く様々な状況の変化に対してタイムリーな対応が継続的に必要と考える。われわれは現状を的確に捉え、情報を共有し、この課題に対し取り組んで行きたい。
  • 武田 尚子, 荒川 とよ子, 纐纈 有美子, 山田 美恵子
    2011 年36 巻2 号 p. 295
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 水頭無脳症1例に聴覚刺激と反応に着目した言語聴覚療法と、摂食の取り組みを行ったので報告する。 症例 7歳0カ月の女児(H23年6月現在)。水頭無脳症。脳幹と小脳虫部の一部が認められるのみで、小脳、間脳、大脳はない。脳下垂体もなく汎下垂体機能不全にてホルモン補充療法を受けている。現在までにV-Pシャント術と胃瘻造設術を受け、Calendar age(CA) 4:7時ABR検査にて右耳60dB左耳50dB、CA 5:7時VF検査にて誤嚥なしと確認した。 方法 聴覚刺激についてはH21年9月(CA 5:4)から1年間、週1回、純音、楽器音、人の声への反応を観察、ビデオ録画した。摂食についてはH22年1月(CA 5:8)から1年4カ月間、食べる手続きを統一して取り組み、摂食の様子をチェックシートに記録、ビデオ録画した。 結果 言語聴覚療法では、聴覚刺激に驚愕反射、耳性眼瞼反射、入眠時聴性開眼反応が出現し、呼びかけに規則性のある瞬きと眼球の動きを確認した。摂食については、5種類の食材を日替わりで1回10匙まで食べるようになった。摂食開始頃は取り込み時の口唇や送り込みの舌の動きは弱く、食べた後には新規な刺激に反応してか眼球がグルグル動いていた。日替わり摂食開始頃には口唇や舌の動きが力強く活発になり、積極的に食べるようになった。 考察 言語聴覚療法では一度の聴覚刺激を1つとし、反応後にはニュートラルな間を挿入した。このように刺激と反応を1セットにしてつながりやすくしたことで、児の反応に規則性が確認できたと思われた。摂食では同じ働きかけが毎日繰り返されたことで摂食状況が安定し、食べる機能が向上したと思われた。またいろいろな物が食べられるようになりQOLも向上したと考えている。 まとめ 刺激を1つにすることや働きかけを統一することにより、大脳や間脳を介さない児の反応にも規則性と向上が期待できるとわかった。
  • 松延 かおり, 瓜生 九二子
    2011 年36 巻2 号 p. 295
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    目的 重心患者は疾患的に筋緊張,過敏などがあり、少しの刺激で筋緊張が増強する傾向にあることが多い。そこでモーッアルトの音楽を用いてリラクゼーションを図ることで、快適な生活を提供できるのではないかと考え、研究に取り組んだ。 研究方法 1.対象 四肢麻痺のため、ベッド上での生活が中心で、快または不快の表出が明確にある重心患者5名(男性3名、女性2名) 2.方法 唾液アミラーゼ値、脈拍数、患者の様子について、モーッアルトの音楽を30分間用い音楽聴取前、直後、15分後の3回測定を行った。 倫理的配慮 対象とした患者は意志表示や意思決定が困難なため、保護者または後見人に研究の趣旨、患者への影響と安全性について口頭および文書にて説明し同意を得た。 結果 5名中3名において唾液アミラーゼが音楽聴取前より音楽聴取15分後に下がる傾向にあった。2名においては、一定の傾向はみられなかったが、調査期間中全患者、緊張なく穏やかな表情で音楽を聴くことができていた。 考察 患者の様子において音楽の心地よさといった快の表現を言葉にすることは困難ではあるが、5名ともに不快の表現である指しゃぶりや上肢・全身の伸展動作が減少し、笑顔の表出など快の表現が見られたことから、重心患者に対し、音楽療法は有効であったと考える。 結論 1.音楽聴取中に患者はリラックスした反応を示した。 2.音楽聴取中の脈拍の変化はなかった。 3.音楽聴取中の唾液アミラーゼ値は、患者により差がみられた。
  • 中村 恵美子, 山田 眞理子
    2011 年36 巻2 号 p. 296
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 自己表現が困難な超重症児(者)に対し、音楽療法を用いた活動を実施し、リラクゼーションや快反応の表出効果が得られたので、ここに報告する。 方法 対象者:大島分類1の4名(平均年齢21歳、男性1名、女性3名) 活動内容:対象者の音に対する反応を捉えニーズを評価し、音楽活動プログラムを作成、実施した。 始まりの歌、名呼、リラックス体操、ウィンドチャイムを使った楽器演奏、感覚遊び、終わりの歌 評価方法:(1)音楽療法の効果測定に有効と考えられる活動前後のバイタルサインと唾液アミラーゼを用い、分析・評価した。 (2)対象者の快反応と不快反応、リラックス状態、緊張状態を定義づけし、各活動場面の反応をビデオと記録用紙に残し、分析・評価した。 結果 (1)バイタルサインは、活動後、4名全員について、血圧が平均5%(5mmHg )低くなり、脈拍は平均12%(毎分10回)減少。呼吸回数と体温について変化は見らなかった。唾液アミラーゼ活性値(KU/L)は、ストレスに起因して上昇するとされているが、活動前に比べ減少していることから、ストレス度が、A氏42%、B氏50%、C氏83%低くなり、D氏は全くなくなった。 (2)快不快反応、リラックス状態の変化 A氏とB氏は7回の活動中、不快反応と緊張状態は100%見られなかった。C氏とD氏は、名呼、リラックス体操、楽器演奏で、時折不快反応と緊張状態が現れたが、活動に慣れると不快反応や緊張状態は見られなかった。 考察 自己表現が困難な超重症児(者)に対し、個々のニーズにそったプログラムを工夫し、活動を実施することで快表情やリラックス状態を増やすことができると考えられる。そのためには、超重症児(者)の反応変化を捉える方法を模索し、活動評価に役立てることが重要である。バイタルサインや唾液アミラーゼデーターの数値を用いた評価を行うことで、活動効果の客観的評価につながると考える。
  • 大澤 和子, 小林 信や, 鹿島 房子, 若林 洋志
    2011 年36 巻2 号 p. 296
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    目的 重症心身障害医療はいのちを支える医療であり、その医療において心を育て、人生の質を向上させるという療育は大事であると考えている。当院において音楽療法を療育に取り入れ8年間行ってきた。その間に患者さまの表出に変容がみられるようになり、音楽療法が医療の現場でも有効であると確信するようになった。対象者6名に音楽療法の効果を主観的な「表出」に、客観的な「生化学的指標」を加えて検討した。 方法 1)事前バイタル・唾液アミラーゼ測定 2)音楽療法プログラムをビデオ撮影 3)事後バイタル・唾液アミラーゼ測定 4)「表出」はビデオ記録を観て5活動を4項目別に分析し、6段階に数値化 5)「生化学的指標」はニプロ唾液アミラーゼモニター測定器®テスト用スリップを舌下に30秒挿入後測定 結果 音楽療法では、身体を前後に揺らし視線を合わせ、笑顔で自己表現が表出されるようになった。生命活動を表すバイタルの数値に異常値は見られなかった。スリップによる唾液アミラーゼ測定は予測通り協力は得られず、唾液の多い測定者の数値は誤差が大きかった。音楽療法における前後のアミラーゼ活性の平均値を比較してみると、療法後に低下する症例のみならず、変化のない症例もあり、有意な変動ではなかった。 考察 音楽療法では、受動敵・能動的活動により5感が刺激され、注視運動・四肢緊張からの解放・感情表現・笑み等の自己表現が認められた。唾液アミラーゼ活性では予測した有意な低下は見られなかった。音楽が必ずしもリラックスさせるものものではなく、人によっては交感神経が刺激され、唾液アミラーゼ活性が上昇すると解釈した。目的を高揚か、リラックスか、あらかじめ決めて測定することに有用性はあると考える。 結論 今回の検討から、次世代の音楽療法士が医療分野で活躍できるためにはさらなる研究・検討が必要であり、そのように進めていきたい。
  • −癒しの効果−
    安永 哲也, 木下 真由
    2011 年36 巻2 号 p. 297
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症心身障害者の問題行動には自傷、他害、興奮、奇声などさまざまなものがあり、その原因は一概には断定できない。それらの問題行動に対して、行動分析やアロマによるリラクゼーション、音楽療法など多くの試みがなされている。今回、重症心身障害者施設に入所しているコミュニケーション障害、問題行動のあるA氏に、オルゴール療法を実施し、問題行動が減少したのでここに報告する。 研究の目的 オルゴールのリラックス効果により、問題行動が減少するか検証する。 方法 対象者は31歳男性、病名は精神発達遅滞、てんかん、自閉症。1カ月間、オルゴール療法を実施した。実施前後で 1.唾液アミラーゼ活性値 2.バイタルサイン 3.心電図のRR間隔 4.興奮・奇声、他害の回数を測定し、比較した。 倫理的配慮 倫理委員会の承認を受け、対象者および家族に口答、書面で説明し承諾を得た。 結果 唾液アミラーゼ活性値は、実施後に値が減少した。バイタルサインでは、実施後体温の上昇、脈拍・血圧・呼吸数の減少がみられ、心電図ではRR間隔の延長が認められた。1カ月間の興奮・奇声回数は実施前より減少した。 考察 オルゴール療法はα波が増加し、沈静作用やリラックス効果が高いと報告されている。今回、実施後に唾液アミラーゼ活性値の減少、体温上昇、RR間隔の延長したことはストレスが減少し、リラックスしたのではないかと考える。加えて、興奮・奇声回数が減少したことは、ストレスの減少が興奮や奇声など問題行動の抑制につながることが推測される。問題行動への対応で最も大切な視点は、予防的関わりである。本研究は一事例研究にすぎないが、ストレスを軽減させ、リラックス効果のあるオルゴール療法も予防的視点として有用な手段と考える。
  • 山崎 美知子, 小林 拓也, 二宮 悦
    2011 年36 巻2 号 p. 297
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    神奈川県立金沢養護学校は、平成19年に開校した知肢併置の特別支援学校である。開校と同時に、近隣の特別支援学校から、訪問籍の児童生徒も転校してきた。本校では、前校で“訪問籍であった児童生徒を通学籍へ”の取り組みを、診療所併設の障害児一時預かり施設であるケアハウス輝きの杜の協力を得ながら行った。1.輝きの杜の移動支援…家庭支援と授業時間の確保*医療的な問題からスクールバス利用ができない子どもの定時登校が行えた。2.輝きの杜の日中支援…子どもたちの体調管理*週5日登校できない児童生徒のディケアと放課後支援で、大きく体調を崩すことなく学校生活を過ごすことができた。*栄養注入の量・時間を検討、学校で不足した分を輝きの杜で補うなど子どもの活動時間を保障するための生活の組み立てを行った。3.輝きの杜での研修…医療ケア、摂食指導等*初任者を中心とした研修で教員の力量アップが図れた。4.輝きの杜スタッフによる校内での自主研修会…てんかんの学習会、ミキサー食の作り方、気管切開児のプール指導等*知識と技量の向上が図れた。 19年の開校に向け、本校に入学・転学してくる児童生徒がスムーズに新しい学校生活が始められるよう、18年から耀きの杜との連携を行った。 開校となり、集まった教員すべてが輝きの杜との協働を受け入れられたわけではない。しかし、教育は子どもの命の上にのみ積み上げられるものである。医療は“生きる”ことを、教育は“活きる”ことを目指していくものだと考える。輝きの杜との連携は金沢養護学校の子どもたちの“生活の質を高める”ためには必要不可欠である。 診療所長である小林医師はじめ、輝きの杜のスタッフには感謝している。今後も連携を深めていけることを願っている。
  • 神谷 直美, 石田 修一, 野澤 六朗, 中村 ひとみ, 小暮 寿子, 鎌倉 律子, 碓田 美保
    2011 年36 巻2 号 p. 298
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 当院では、約10年前からムーブメント教育・療法を取り入れている。今回、当初からムーブメント教育・療法に参加している超重症児M氏の10年間を振り返り、まとめたのでここに報告する。 研究方法 1.対象:M氏(27歳男性。脳性麻痺、精神運動発達遅滞、低酸素性虚血性脳症後遺症) ・H8.当院重症心身障がい児(者)病棟入院。 ・H17.心肺停止し蘇生された。以後終日呼吸器管理。 2.方法:H12〜H22の10年間のムーブメント活動時の前後の表情の変化、心拍、酸素飽和度を、ビデオ等を用いて記録して分析した。 結果・考察 表情は、当初は眼球の動きや笑顔がみられていた。H17の心肺停止後、病状回復に伴い2カ月後から活動を再開したが刺激に対して反応がみられなくなっていた。蘇生5カ月後より眼球が左右に動き、その後目を大きく開ける、口を動かす、といった反応がみられるようになった。現在では、呼吸状態が落ち着いていればトランポリンに乗ることもあり、揺れに対して笑顔を見せる様になってきている。心拍数は、安静時に比べて活動後に増加していたことから、活動により刺激され、変化がみられたのだと考える。酸素飽和度は、比較的活動後の方が低下しているが、普段の酸素飽和度から考えて呼吸状態が悪化した値とは考えにくく、体を動かすことで痰の喀出につながり影響がでた可能性もあると考えられる。 おわりに 今回の表情の変化は、病状が回復してきたことも関係していると思うが、日々の関わりの中でスタッフや両親がM氏へ話しかけ、触れることで刺激を与える機会が増えたこと、また活動で普段と違う刺激を与えることが表情の変化につながったのではないかと考える。ムーブメント教育・療法を個々に適した方法で行ったことでM氏のQOL向上につなげられた。
  • −共同注意の視点から−
    小宮山 則彦
    2011 年36 巻2 号 p. 298
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    目的 共同注意は言語発達の基礎といわれる。定型発達児(15カ月)は目標物を共同注視する児ほど、24カ月時点の語彙が豊富である(Delgado 2002)。重度障害児でも共同注意の形成が言語発達につながる報告もある(古山、徳永 2005)。今回、成人期でも共同注意を用いてコミュニケーション行動に促進が見られた2症例と、改善が見られなかった1症例と対比して報告する。 事例報告 症例:50歳代男性(以下、M氏)と60歳代女性(以下W氏)、20歳代男性(以下、Y氏)。診断名はともにCP、精神運動発達遅滞。 ベースライン評価:M氏は平成21年6月時、改定大島分類横地案(以下、横地案)でA1、遠城寺・乳幼児式分析的発達検査表(以下、遠城寺)で言語理解11カ月、発語11カ月、対人関係11カ月。W氏は横地案B1、遠城寺で言語理解1歳5カ月、発語11カ月、対人関係1歳1カ月。Y氏は横地案A1、遠城寺で全領域3カ月以下の発達段階。3氏ともに受動的態度中心だった。評価前から月2回程度の訓練を実施していた。  目標/方針/内容:1.共同注意行動の促進2.自発的発話の促進3.認知の拡大、に取り組み、QOLを高めるとした。内容はボール遊び、音の出る玩具、羽目板、事物名称カード等を実施。 経過:頻度・時間は週1回で40分とし、平成21年7月〜平成22年5月に実施。前半は能動性、後半はコミュニケーション行動の促進に取り組んだ。  結果:M氏は横地案でA1→B1へと変化し、遠城寺で1〜3カ月伸びた。W氏は横地案は変化なく、遠城寺で0.5〜3カ月伸びた。両者ともに自発的関わりが増えた。Y氏は変化がなかった。 考察・結論 共同注意の視点から成人CP3症例の訓練を実施し、2症例でコミュニケーション行動が促進された。小児だけでなく、1歳程度以上の知的水準のある成人も共同注意を促すことによりコミュニケーション行動が促進され、QOLの向上につながる可能性が示された。今後も症例数を重ね、統計的に有意な結果を得たい。*インフォームド・コンセント済み。
  • 山田 建
    2011 年36 巻2 号 p. 299
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 当センターでは2008年度よりボランティア増加・活性化へ取り組み始めました。その柱に受入れ体制の整備がある。スタッフの役割を検討し編成して取り組んだ結果を報告する。 目的と研究期間 ボランティア活動の活性化。2008年4月〜2011年2月 方法 窓口対応するコーディネーターを固定。各現場にボランティア係を設置し、ニーズを細かく抽出し、具体的な対応を各職員に指示した。 職員研修会を行いボランティアへの認識を高めた。 結果 ボランティア延べ人数は減少傾向だったが、取り組み後増加した。総人数は2006年度1605名、2008年度1654名、2010年度1714名。病棟活動者は2006年度334名、2008年度351名、2010年度425名。通園活動者は2006年度210名、2008年度313名、2010年度314名。(病棟や通園活動は、本読み、活動参加、食事介助、ベッド拭き等。数字は各年度4月1日〜2月10日のもの)。ボランティアへのニーズが増加した。個別支援計画での依頼件数は2008年度5件から2010年度18件と増加した。新来者の継続率(来園者のうち5回以上継続した割合を継続率として算出)が2008年度17%から2010年度38%へ増加した。 考察 コーディネーターの固定で全体の把握ができ、ボランティア係が現場の状況に即した対応ができた。両者が連携でき、病棟活動者数の増加につながったと考える。職員の対応も向上し良い循環を生んだ。活動が定期的になり、利用者の生活の一部になりつつある。ベッド拭きなど、療育活動以外の際も利用者への声かけがあり、QOL向上につながっている。職員もボランティアの可能性に気づき、定期的な関わりや散歩をしてほしいなど、ニーズの増加につながった。しかしそのすべてに応えられてはおらず課題が残った。
  • 吉田 淳子
    2011 年36 巻2 号 p. 299
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 当センター長期入所中の人工呼吸器使用者(:利用者)は療育活動や訓練等において、他の利用者に比べ車椅子乗車の機会が少なく、ベッド上で大半の時間を過ごしている。利用者をそばで支える家族から直接不満の声は聞こえてこないが、いろいろな思いがあるように感じている。今回利用者家族5名へのインタビューを通して家族の思いを知り、望む生活に近づけることは家族の安心へとつながり利用者のQOL向上にも役立つのではないかと考えたのでこの研究に取り組んだ。 対象と方法 研究対象:A病棟に長期入所している人工呼吸器使用者の家族5名。 研究期間:2010年9月〜11月 研究方法:質的研究。調査方法はインタビューガイドを作成し、家族へ半構成的面接法を実施、KJ法にて内容分析する。 倫理的配慮:院内倫理審査委員会の承認を得た。家族に研究の主旨を文書にて説明。協力の有無による不利益を受けないことを保障。 結果および考察 初めに5人を個々に『入所生活における家族の思い』をKJ法A型で図解化した。次に5人に共通する部分をふまえ、『家族の考える充実した1日の過ごし方』および『介護ケアに関する思い』をKJ法A型で図解化した。今回のインタビューから家族との個別面談や面会時の会話からは出てこなかった“不安、不満、要望、思い"が多く聴かれた。家族の考える充実した1日の過ごし方に共通点はあるが、内容は5人それぞれ異なるものであった。「充実した生活」に近づけるために家族の思いを皆で周知し、個別に具体的支援を対策していく必要がある。また家族の抱えている思いは日常会話では出てこない内容が多く、これからも意図的に、家族の思いを探っていく必要がある。そのためには日頃から家族と良好なコミュニケーションをとり信頼関係を築いていくことが大切であり、継続して家族看護に取り組んでいくことが重要であると考える。
  • 鶴田 幸, 賀川 敏江, 吉田 容子, 谷口 宜子, 和田 美智子, 住友 美智代
    2011 年36 巻2 号 p. 300
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))は、関節の拘縮や筋肉の萎縮による血流障害があり、足先は冷たく時にチアノーゼがみとめられる。A病棟スタッフに聞き取りを行ったところ、多くの患者に末梢冷感があると答えている。今回、足浴が困難な寝たきり患者や変形や拘縮の強い患者にも行える方法として保温効果がある米糠を使用したパックを作成実施し保温効果が得られないか検証した。 研究目的 対象者に米糠パックを下腿の約半分に実施し保温効果を明らかにする。研究の仮説末梢循環障害のある重症児(者)に対し、米糠パックを実施することで足浴と同程度の保温効果が得られる。 研究方法 看護師が冷感を感じ、保護者の同意が得られたA病棟入院患者1名に足浴と米糠パックを実施、足部表面温度を皮膚赤外線体温計で測定比較する。 倫理的配慮 対象患者保護者に文書で研究の趣旨を説明、結果は個人が特定されないように処理し本研究以外では使用しないこと、同意が得られなくても患者の看護に影響がないことを説明し了承を得る。 結果 足浴・米糠パックとも保温効果があり有意差はなかった。足浴は時間経過とともに表面温度は徐々に低下するが、米糠パックは15分以降の低下はほとんど見られず60分後もほぼ同温に保たれた。体温、脈拍については、足浴・米糠パック共実施前後でほとんど変化はなかった。 考察 米糠パックは足浴に比べ保温効果が持続すると考えられる。足浴が困難な患者にも使用可能であり、安全安楽に行えるケアである。また繰り返し使用でき安価で準備が手軽、看護師1名でも実施可能である。 結論 1. 米糠パックでも足浴と同様に保温効果が得られるという仮説は明らかになった。 2. 米糠パックは足浴が困難な寝たきりで変形や拘縮の強い患者や、体動の激しい患者にも使用可能である。 3. 患者の体温・脈拍は、足浴、米糠パックとも実施前後でほとんど変化はなかった。
  • 宮本 加奈子, 山﨑 愛子, 田首 恵美子, 乾 幸子
    2011 年36 巻2 号 p. 300
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 長時間、車椅子を使用すると坐骨や仙骨など骨の突出部に痛みや褥瘡を伴うことがある。車椅子の種類や座る人など条件の違いにより座圧がどう変化するかを検討したので報告する。 対象 一般成人(女性4名、20〜50代)利用者(男性2名、10〜30代・女性3名、30〜60代)GMFCSレベルⅢ、2名、レベルⅣ、1名、レベルⅤ、2名。 方法 リクライニング式車椅子の90°、75°、60°、45°の角度にて左右坐骨、仙骨に加わる圧を携帯型接触圧力測定器(以下測定器とする)にて測定した。角度は角度計にて測定し基本軸は座面シートに合わせ、移動軸はバックレストに合わせた。測定器のパットは左右坐骨と仙骨など骨の突出部に当てた。測定時における基本姿勢は、頭部をバックレストに接して深く座り、足底は床面から浮かないようにした。各部位3回測定し平均をとった。利用者が現在使用している車椅子でも同様に測定した。 倫理的配慮 研究内容、目的、得られたデータを研究以外には使用しないこと、個人の特性が明らかになるようなデータの扱いはしないように配慮し、当センターの倫理委員会の承認を得て実施した。 結果・考察 一般成人と利用者の座圧の値を比較すると、利用者の値が高い傾向にあった。また、身体特徴が違うために個人差が大きかった。次に、リクライニング式車椅子と利用者が現在使用している車椅子を比較した結果、現在使用している車椅子の方が左右坐骨と仙骨ともに値は低くかった。これは利用者の身体特徴に合わせたテーブルや座面シートなどの工夫により、除圧や分圧がされているためと考えられる。 結論 今回、使用した測定器では簡易に数値化でき、また短時間で測定可能であった。数値化したことにより、利用者の身体特徴に合わせた車椅子を作製することの重要さを再確認できた。今後も、利用者の方々が車椅子でより快適に過ごせる様に努めていきたい。
  • 奥村 奈美子, 中野 恵, 山本 貴美子, 岡見 敏子, 清水 三花
    2011 年36 巻2 号 p. 301
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症心身障害児(者)では、運動障害とともに姿勢保持の障害や筋緊張の異常がある。さらに、骨、関節に変形、拘縮をきたしやすい。これにより二次的な姿勢、筋緊張の異常や運動障害を引き起こすという悪循環に陥ることがある。そのためポジショニングは重要と言える。Z病棟の研究結果から 1:ポジショニングの効果を評価 2:個々の患者に対する必要性を明確にする 3:個々の患者に応じた具体的な看護計画を立案し、方法をわかりやすく表示することで、ポジショニング実施の向上につながるのか明らかにした。 方法 対象:Z病棟看護師18人  方法:患者4名についてポジショニングに関するアンケート調査・研究結果から得られた上記3点を実施・アンケート、カルテ調査、SPSSを用いて分析を行った。 結果考察 4名の患者の実施率は平均31%から75%へと向上した。介入前後のアンケートで自信、アドバイス、PTからの知識、クッション、正しさ、看護計画、チーム内での協力、危険回避について有意差が見られた。今回の研究でPTによる患者個別の勉強会を実施したことで、「患者個々の状態に応じたポジショニングの必要性」の理解となり、実施率の向上につながったと考える。また、個々の患者に応じた具体的な看護計画を立案することで手順が明確となり、患者の写真で示すことは視覚に訴えることができ文章よりも理解しやすくなったため実施率の向上につながったと考える。 結論 1:患者個々の状態に応じたポジショニングの必要性が理解できたこと 2:理学療法士のアドバイスを受けながら、個々の患者のポジショニングの目的を明確にし、具体的な看護計画を立案し、方法をわかりやすく表示すること以上のことでポジショニングの実施率は向上した。
  • 郷間 英世, 上野 みづほ, 牛尾 禮子
    2011 年36 巻2 号 p. 301
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    目的 特別支援学校に在籍する「医療的ケア」を必要とする重症児への対応は、様々な変遷を経て2005年度から看護師が配置されることで一定の安定を見ている。しかし、学校や地域によりケア実施者が異なるなどの問題点を有する現状がある。そこで、ケアの現状や課題を調査した。 方法 近畿圏内の肢体不自由児が在籍している特別支援学校46校に対し校長会を通じて、ケアの内容や実施者・問題点などを調査した。37校(78.7%)から回答が得られ、そのうち36校(回答の97.3%)に「医療的ケア」が必要な子どもが在籍しており分析の対象とした。 結果と考察 すべての学校で看護師が配置されていた。行われているケアの内容は「(咽頭より手前の)吸引」94.4%、「胃ろうからの経管栄養」83.3%、「気管切開部の吸引」80.6%が多く、その他「導尿」63.9%、「酸素投与」58.3%、「人工呼吸器の管理」47.2%などであった。ケアの実施者は「主に看護師、一定のケアのみ教師」が38.9%、「主に教師、難易度の高いケアは看護師」25.0%で学校により異なっており、その他「養護教諭」や「保護者」等があった。通学バス内で「医療的ケア」を行っているのは19.4%(看護師11.1%、保護者8.3%)と少なく、他の通学方法は「自家用車」80.6%、「地域生活支援センター等の送迎」13.9%、「福祉タクシー」8.3%などがあった。リスクマネジメント対応は、すべての学校(100.0%)でなんらかの緊急時の対応マニュアルがあり、研修を行っている学校も多かった(97.2%)。しかしながら「医療的ケア」の実施体制については「十分」との回答は8.3%と少なく、課題として「看護師の人数不足」、「看護師の雇用形態」、「通学や行事のときの対応」、「障害の重度重複化・多様化への対応」などが挙げられており、検討と対応が必要と考えられた。
  • ーケアの現場のニーズの検討ー
    菅井 裕行, 田中 総一郎
    2011 年36 巻2 号 p. 302
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 医療的ケアを日常的に必要する子どもの増加に伴って、これらのケアを非医療者が行えるような法整備も進み、医療と他職種との協働でケアを支えていく方向性がしだいに明確になってきている。ケアの現場(教育・福祉)ではケア技術に加え、協働でケアを実施することの意義について学ぶ機会が必要だと考え、研修会を実施してきた。 方法 今回考察の対象とするのは、宮城教育大学で実施している5回のケア研修会と特別支援学校での教員研修会である。研修内容は、ケア研修会では昨年報告した内容に加えて、1)医療的ケアと教育、2)てんかん発作の観察・対応、3)気管切開と胃瘻、4)導尿、を取り上げた。参加者全員に配布したアンケート(質問紙)を資料として質的データ分析を行い、さらに学校研修会への参加教員やコーディネーターからの聞き取りも考察対象とした。 結果 研修会の対象としてはヘルパー・福祉施設職員・訪問看護スタッフらの他に、学校勤務の看護師、養護教諭をも対象とした。参加者から回収したアンケートを分析することを通じて、「新しい知識・技能の獲得」「技術面での向上」「協働することの重要性」「コミュニケーションとしての意義」「医療以外の場での支援の在り方」「生活という視点」「生命の尊厳」など今後、教育をはじめ様々な場で医療的ケアを実施していく上で重要になる視点が帰納的にコーディングされた。 結論 今後、医療的ケアが日常性を獲得していく上で、医療・教育・福祉のスタッフが相互に協力しながら研修会などの支援を行い、知識・技術の普及、現場でのコラボレーションの仕組みづくり、ケアそのものの意義の確認について取り組んでいくことが必要と考える。
  • 雨宮 馨, 辻 尚子, 冨田 直, 三山 佐保子, 小沢 浩
    2011 年36 巻2 号 p. 302
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児は嚥下障害や筋緊張の問題、重度の変形などの合併により様々な痛みや苦痛を抱えることが多い。特に呼吸障害は生命に関わる重大な問題であり、筋緊張や消化管障害などを悪化させることも多く、呼吸苦をどのように緩和するかは、重症心身障害児の生活の質をあげることにつながる。それに対して私たちは、口鼻腔内持続吸引、喉頭気管分離術、非侵襲的陽圧換気療法など様々な方法で対応してきた。しかし、重症心身障害児の看取りの場面でどのように呼吸苦を緩和するかは文献上議論が少なかったように思われる。今回われわれは、重度の嚥下障害と呼吸不全を伴う重症心身障害児の1歳男児の看取りの際、その児の呼吸苦に対し塩酸モルヒネを使用し、呼吸不全を緩和しえた一例を経験した。その一例を通じて、看取りの場面での呼吸苦への緩和ケアを考える。
  • −家族と施設職員からのアンケート調査の比較−
    安西 有紀, 麻生 幸三郎, 樋口 和郎, 佐藤 倫子, 津川 敏, 大矢 達男
    2011 年36 巻2 号 p. 303
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 近年、医療の発展に伴い重症心身障害児者(以下:重症児(者))も医療の重症化や高齢化が進んでいるが、現在まで重症児(者)の看取りや終末期ケアへの調査研究は少ない。今回われわれは、重症児(者)の医療的介入の進め方や看取りについて、長期入所者の家族や施設職員を対象に意識調査を行った。 方法 全国の済生会重症児(者)施設へ長期入所中の入所者家族および施設職員(医師、看護師、生活支援スタッフ)へ調査を行い、4者の回答を得られた193組を対象に各群の回答を比較検討した。 結果 基礎疾患に対しては、家族は「非常に重度」と捉える傾向が強く、次に医師が重く捉えていた。一方、日常の健康状態に関しては、家族では「十分健康」(48.2%)「おおむね健康」(35.8%)の回答が、職員に比し多かった。急変のリスクに関しては、各群で「あるかもしれない」の回答が最多であったが、家族では「実感なし」(25.4%)の回答も目立った。過度の医療行為に対する意見は、「状況次第で賛成」が各群とも最多であったが、他の回答を含めその比率は様々に分かれた。また、急変時の心臓マッサージや呼吸器装着に対する意見も様々であった。 結語 基礎疾患については「非常に重度」と認識しながらも、日常の健康に関しては「十分健康」と回答し、比較的落ち着いた状態と認識する傾向が特に家族で目立ち、急変リスクの実感の低さとも一致していた。急変時の過度な医療行為に対する考え方は、「状況次第で賛成」の意見が多かったものの、各群の比率は異なり意見が分かれ、この考え方の違いを反映してか、心肺停止時の心臓マッサージや呼吸器装着についての意見も分かれた。これらの結果をふまえ、重度の基礎疾患をもつ重症児(者)施設の長期入所者への今後の選択的医療を考えていく場合には、多職種の意見交換を行う必要があり、家族を中心に施設職員も加わり、本人に合わせた選択が行えるよう準備をすすめていく必要がある。
  • 神前 泰希, 小林 拓也, 二宮 悦, 篠塚 宏, 芳賀 香織, 浅葉 友里菜
    2011 年36 巻2 号 p. 303
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    医療法人拓では、医療型日中一時支援施設ケアハウス輝きの杜を平成11年から運営している。平成23年5月31日現在で延べ約140人の登録者を数え、毎日10-15人前後の利用者があり、在宅支援を行っている。重症心身障害児は、呼吸・循環・栄養・易感染性などの問題を抱えており、日常生活において様々な医療的支援が必要であることは周知の事実である。当施設では、個別性に留意しながら、呼吸リハ、経管栄養の充実、感染症の治療、医療ケアの指導を家族、主治医、教育・療育機関との橋渡しをしながら、在宅支援を行ってきた。しかしながら、不幸な転帰をたどった症例が15例を数える。今回、現在までの死亡症例についての検討を行った。 内訳は、超重症児8名、準超重症児4名、軽症児3名であった。重症度スコアは平均で21.3点であった。疾患別には周生期障害5名、心停止後遺症2名、急性脳症後遺症1名、筋ジストロフィー症2名、心疾患1名、奇形症候群3名、代謝異常症1名である。主な医療ケアとしては、吸引・吸入15名、経管栄養13名、在宅酸素1名、気管切開3名、人工呼吸器2名、下咽頭チューブ2名、在宅自己導尿1名であった。死因としては、呼吸障害5名、基礎疾患の悪化1名、感染症1名、突然死7名、心不全1名であった。重症度別には、超重症児では呼吸障害3名、基礎疾患の悪化1名、突然死3名、心不全1名であった。準超重症児・軽症児では呼吸障害2名、感染症1名、突然死4名であった。また、dystonic CPの死亡例が7症例と多く、自宅や定期入所中の急変も6名を数えた。 在宅支援・入院適応・主治医との連携などの検討と、保護者への精神的支援の観点からも今後の課題と方向性について考察を行った。また、併設する能見台こどもクリニックでは月1回精神科医による家族・遺族外来を開設しておりこちらも合わせて紹介としたい。
  • −折口調査とSMIDデータベースからみた経年変化−
    今井 雅由, 佐々木 征行, 本荘 哲, 宮野前 健, 折口 美弘
    2011 年36 巻2 号 p. 304
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    目的 重症心身障害児(者)の死亡退院に関する経年変化を分析することにより、今後の病棟運営に寄与する資料を作成する。 方法 基礎データとして折口が構築した1982年から1999年までのデータ2,427例、2000年から2009年まではSMIDデータベース1,071例の3,498例を用い、28年間の分析を行う。 結果 死亡退院者数の推移をみると、平均117.61±20.66例で、100例以下は6回であった。折口データ、SMIDデータともに肺炎が死因のトップであった。年齢群別にみると、50歳未満では年齢が高くなるほどその割合が低くなり、50歳以上では再び高くなる傾向に変化はなかった。悪性新生物は折口報告で37例(1.6%)に対してSMIDでは26例(2.01%)であった。死亡平均年齢は加齢化に伴って上昇がみられたが、年齢群別死亡割合は20〜40歳代が2%未満で推移しているのに対して、年を追う毎に60歳以上では上昇が、20歳未満では減少がみられた。死亡時間帯は28年間を4期に分けて分析を行った結果、2002年まで最も高値だった深夜帯後半の数値が低くなり、均等化がみられた。 結論 28年が経過した現在に於いても、肺炎が死因のトップであり年齢層での差異にも変化はみられなかったが、加齢化に伴い悪性新生物が増加し死亡平均年齢が高くなっていることがデータから裏付けられた。死亡時間帯の均等化は、モニター管理と人工呼吸器の積極的使用がその背景と考えられる。今後さらに詳細な分析を続けていきたい。
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