医療の質・安全学会誌
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16 巻, 1 号
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報告
  • 鳥谷部 真一, 平賀 智之, 冨樫 礼子, 伊藤 圭子, 石川 卓
    2021 年 16 巻 1 号 p. 5-11
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー
    目的:説明同意文書に特化した監査を行うことで,インフォームド・コンセントの質の改善を目指す. 方法:全診療科の説明同意文書を対象として,2016年度から毎年,21の監査項目を定めて二段階監査を行った.第1段階の監査者は,院内でもっとも患者の視点に近いと考えられる事務職員とした.監査結果を踏まえて,改善に向けた提言を毎年行った. 結果:監査項目のほとんどが80%以上の説明同意文書で適切に記載されていた.ただし,診療行為の他の選択肢の説明と,患者からの質問の有無は不十分だった.改善を求める提言を行い,経年的に改善がみられた.説明文書の内容は,概ねわかりやすいという評価だった.監査者間の評価は概ね一致していた. 結論:説明同意文書に特化した監査を,患者目線に近い事務職員が行うことで,院内のインフォームド・コンセントの現状を把握し,課題を抽出し,改善につなげることができた.
  • 粂 哲雄, 野村 光永, 安田 陽子, 佐藤 淳也, 梅坪 翔太, 鴨志田 武, 石川 寛, 篠 道弘
    2021 年 16 巻 1 号 p. 12-17
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー
    がん薬物療法に携わる薬剤師には,抗がん薬の適正使用と安全管理が求められている.しかしながら,がん薬物療法を実施する際の確認事項は,薬剤師の経験年数や知識等に委ねられがちである.今回,電子カルテシステムの中にレジメンチェックシステムを構築した.構築したシステムを用いて,薬剤師ががん薬物療法レジメンの事前確認を行ったうち,医師へ問い合わせを行った件数について調査した. 薬剤師から医師へ問い合わせた95件のうち,検査に関わるものが46件(48.4%),支持療法に関するものが12件(12.6%)で,問い合わせ件数について経験年数による差はみられなかった(p=0.933,Fisherの正確検定). 今回構築したシステムを活用することでがん薬物療法レジメンの確認事項は均てん化できる.また,同システムを利用することで,がん薬物療法を安全に実施できる手段と考える.
学術集会報告
  • 松村 由美
    2021 年 16 巻 1 号 p. 19-27
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー
    2011年に発生した持続的血液浄化療法施行中の医療機器取り違えによる肝移植後患者死亡を教訓事例として取り上げた.膜型血漿分離器と持続緩徐式血液濾過器の取り違えがあり,それに気づくことがなく透析を続けた結果,死亡に至った事例である. 事故が公表され,関係学会がリスクを共有し,製造販売業者に製品の規格変更を行いフールプルーフの視点に基づいた形状変更を申し入れた.当該医療機関は,院内事故調査を行い,ヒューマンエラーの背景について分析した報告書を日本急性血液浄化学会に提出した.再発防止策としては,当該医療機関内で取り組むべき部分とどの医療機関でも発生し得るリスクへの対策の2通りがある.後者については,製造販売会社の協力なくしては成しえない. 製造販売業者は,医療機器の包装の表示の視認性向上,誤接続防止のためのコネクタの変更に取り組んだ.厚生労働省,医薬品医療機器総合機構では検討会議を行い,規格変更の動きを支援し,新規格を承認した.2011年の事故発生から各方面での活動を経て,ISO80369-7という誤接続防止コネクタの規格を使用し,膜型血漿分離器の接続ポートの形状変更が完了した.8年間の時間を要したが,フールプルーフ型の対策によって類似事故の発生リスクを無くすことができた. 事故を報告し,共有することは,医療をより安全にするためのひとつの重要な方策である.
  • 浦松 雅史
    2021 年 16 巻 1 号 p. 28-33
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー
    東京医科大学病院は,2002年から2004年に発生した医療事故に遭われた患者さんのご家族との対話を通じ,メモリアルデーを作り開催してきた.事故の後に,病院とご家族とが対話をすることができたのは,両者が第三者による医療事故調査委員会の報告書を受け入れ,共有したからであった.この共有なしに,その後の対話はなかったといえる.対話を通じ,ご家族から出された提案の一つにメモリアルデーがあり,毎年,事故を思い出し,講演を聞き,医療安全を誓う機会としている. とくに事故に遭われた患者さんのご家族から,直接講演いただいたことは,病院職員にとって,事故がご家族へどれほどの影響を与えるものなのかを知る,印象的なものであった.時間の経過とともに,メモリアルデーに対する病院側の受け取り方は,反省から医療安全へ関心へと変化してきている.また,一時期は風化の兆しともとれる雰囲気もあった.病院と家族は,こうした変化や雰囲気をも共有することで,メモリアルデーを,事故を風化させず,医療安全を誓う日として,現在まで行ってきた. メモリアルデーや医療安全誓いの碑というものは,当院が反省を示すために作ったのでもなく,家族から強く要求されて作ったというものではない.事故を共有し,対話を繰り返した先に,たまたまメモリアルデー,あるいは医療安全誓いの碑といったものが出来たのである.まず対話があり,その結果,有形無形の文化が出来上がると考える.
  • 松村 由美, 豊田 郁子
    2021 年 16 巻 1 号 p. 34-42
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー
    医療事故調査制度開始から5年が経過した.この医療事故調査制度には,遺族への情報開示を行い,説明責任を果たすという特徴がある.情報開示プロセスには5つの段階がある.最初に,遺族に患者の死亡を伝え,医療事故調査・支援センターへの報告前に遺族に状況を説明し,調査開始後は必要があれば遺族に質問し,調査終了後は調査結果について説明し,最後に,必要があればその後も遺族と対話を続ける.しかし,患者安全のためのこの自律システムが,意図せず,裁判に利用されることを懸念する医療者も少なくない.今回,この情報開示がもたらす影響を評価するために,医療事故に遭遇した遺族と医療者側の双方に医療事故経験についてインタビューを行った.遺族の多くは,事故発生当初は,医療機関に対して大きな不信感を有していたが,事故調査が行われ,病院の対応を受け入れられるようになったと語った.医療事故の当事者は,病院の情報開示が遺族の心の回復につながり,それが当事者の回復にもつながると語った.5年間で15件の医療事故調査を実施した医療機関では,遺族からも医療者からも調査に肯定的な意見を得ており,民事裁判になったのは1件にとどまる.医療事故調査制度では,法律の下で,遺族と医療者の対話が設定されており,それが,双方の回復につながる可能性がある.
  • 廣瀬 稔, 加納 隆, 新 秀直, 青木 郁香, 高倉 照彦, 木内 淳子
    2021 年 16 巻 1 号 p. 43-50
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー
    2007年の第5次医療法改正により,すべての医療施設に医療機器安全管理責任者の設置が義務付けられた.これにより医療施設での医療機器の安全確保は向上していると考える.しかし,医療施設間での医療機器安全管理責任者の医療機器の保守管理に関する知識レベルや保守点検レベルに差があること,保守管理に必要な人員の確保ができないなどの問題がある.医療機器安全管理責任者に関するアンケート調査では,臨床工学技士がいる病院の70%で臨床工学技士が医療機器安全管理責任者の任についており,医療機器の安全管理の効率化や定期的な安全使用の研修など,きめ細やかな安全管理が実施されている.その反面,医療機器安全管理責任者の負担も徐々に大きくなっている現状がある.臨床工学技士がいない中小規模の病院では,医療機器の安全管理が十分実施されているとは言い難く,医療スタッフは医療機器の安全管理の必要性や重要性を感じているものの,その取り組みについて苦慮している可能性が伺われる.今後も医療現場では多くの新たな工学的医療技術と医療機器が普及と拡大し続けることから,医療機器安全管理責任者の役割と医療機器の安全管理体制の充実は,今後の医療の質と安全の確保のために益々重要になる.今後さらに医療機器の安全管理を押し進めるためには,病院管理者の医療機器の安全管理に対する重要性を十分理解し,最低限の医療機器の安全管理が実践できるような環境整備と支援が必要である.
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