医療の質・安全学会誌
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1 巻, 1 号
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特別寄稿
論説
原著
  • 芳賀 繁, 中村 玲香, 山出 康世
    2006 年 1 巻 1 号 p. 15-22
    発行日: 2006/10/31
    公開日: 2009/02/27
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    看護職が自らのエラー傾向を自己診断するためのチェックリストを開発した. 第一に, 看護師からのヒアリングと専門家の助言に基づいて68の項目候補を収集した. 第二に, 3病院約200人の看護師がこれらのエラーや違反をどれくらいの頻度でおかすかを評定した. この回答を項目分析した結果, 項目数を48に削減した. 第三に, 4病院約600人の看護師からデータを集めた. 因子分析および項目分析の結果, 項目数を23まで減らし, 「業務エラー」, 「日常的なうっかりミス」, 「違反」の3つの下位尺度からなる「看護エラータイプチェックリスト」を構成した. 第四のステップとして, 7病院約400人の看護師を対象に, このチェックリストのほか, 認知的熟慮性―衝動性尺度, 誠実性尺度, 失敗傾向質問紙を含む調査を実施した. その結果, チェックリストの因子構造が再確認でき, 他尺度との関係から併存的妥当性も検証された. 最終的に, 我々は20項目からなる尺度を提案し, その利用方法について考察した.
  • ―入院中調査と退院後調査の比較を通して―
    小林 美亜, 坂口 美佐, 池田 俊也, 田邉 博子, 高橋 陽一, 堺 秀人
    2006 年 1 巻 1 号 p. 23-29
    発行日: 2006/10/31
    公開日: 2009/02/27
    ジャーナル 認証あり
    目的 : 入院中調査 (診療記録や病棟職員へのインタビュー), 退院後調査 (遡及的診療記録レビュー) で把握し得る有害事象やインシデントの頻度について比較を行うこと, またこれらにより発生した医療費の把握を行うことを目的とした.
    対象と方法 : 1急性期病院で, 入院中・退院後調査によって有害事象およびインシデントを把握し, それぞれの手法の精度を比較し, また有害事象・インシデントにより発生した医療費を把握した.
    結果 : 把握された有害事象は, 入院中調査では5件, 退院後調査では16件であり, 把握されたインシデントは, 入院中調査では28件, 退院後調査では58件であった. 有害事象を生じた症例の追加医療費は平均102,246円, インシデント症例の追加医療費は平均5,083円であった.
    結論 : 退院後調査の方が把握できることが明らかとなった. 有害事象やインシデントの予防策を講じることにより, 医療費を抑制できる可能性が示唆された.
総説
  • 飯塚 悦功, 棟近 雅彦
    2006 年 1 巻 1 号 p. 30-35
    発行日: 2006/10/31
    公開日: 2009/02/27
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    品質立国日本の原動力となったTQM (総合的品質管理) は「品質を中核とする全員参加の改善を重視する経営管理の一つのアプローチ」と表現できる. 多くの工業製品を世界一流に押し上げたこの経営ツールTQMは医療の質・安全にも有効なのか. 答えはYesである. TQMの本質は, 質に注目し, システム (プロセス, リソース) を対象とする点にあり, それゆえ広く深いTQMのフレームワークのすべては, 医療分野においても有効に機能しうる.
  • 研修医に求められるコンピテンシーと医療人教育の課題
    小泉 俊三
    2006 年 1 巻 1 号 p. 36-42
    発行日: 2006/10/31
    公開日: 2009/02/27
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    米国IOM (Institute of Medicine) の一連の報告書をきっかけに医療安全と医療の質に対する関心が高まるとともに, 医療職の育成と患者安全の確保にまつわる問題が鋭く意識されるようになった.
    一方, 医学教育改革の世界的な流れは, わが国においては, コア・カリキュラム, OSCE (Objective Structured Clinical Examination) を含む「共用試験」, 更には卒後臨床研修の必修化という形で急速に進んでいる. 一方, コンピテンシー概念を軸とした問題解決型の教育も浸透しつつある中で, 患者安全は最重要の学習 (研修) 課題と位置付けられている.
    しかし, 医療職, 特に医師の臨床研修の現場では, 今なお多くの患者安全上の課題が未解決のまま放置されており, 特に侵襲的手技の習得過程における患者安全の確保は従来の経験主義的な考えに支配されており, 最近になってようやくシミュレーターの活用が研修指導医や安全管理者の間で重視されるようになったところである.
    本稿では, わが国の医学教育, 特に卒後臨床研修の現状を患者安全の観点から概説するとともに, 米国医科大学協会が2003年に編纂した報告書「患者安全と卒後臨床研修」の内容を紹介し, わが国の実情に即していくつかの提言を行った.
  • 稲葉 一人
    2006 年 1 巻 1 号 p. 43-48
    発行日: 2006/10/31
    公開日: 2009/02/27
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    目的 : 医療安全と司法との関係が問題となるのは, 「医療事故」についての法的責任が問われる司法 (刑事・民事) 手続きである. 医療安全の方向性を考えるにあたり, 司法が医療安全にどのような機能・役割を果たすことができるのか, のぞましいのかを検討する.
    方法 : 主として文献により, (刑事・民事) 医療過誤訴訟の果たす機能を分析し, 司法のできたこと (できなかったこと) を同定した上で, これが医療安全にどのような影響を有するのか (当該事例を通じた当該機関の医療の質改善, 当該事例を通じての他の医療機関の医療の質向上, 医療安全全体への指針) を検討した (司法制度・訴訟→医療安全).
    結果・結論 : 個別事例に即した医療安全に対して, 司法固有の機能が果たす役割は, 小さいが, 副次的効果はある. また, 最高裁判所判例の示す点は大きい. 今後は, 司法が作動する前に医療としてすることはなにかを検討する必要がある.
  • オントロジーによる意図の管理技術
    松本 斉子, 徃住 彰文
    2006 年 1 巻 1 号 p. 49-56
    発行日: 2006/10/31
    公開日: 2009/02/27
    ジャーナル 認証あり
    複数の知識エージェントが関わる医療現場での言語コミュニケーションは, 複雑で重要な内容の効果的な伝達を可能にする半面, 誤解とエラーの発生源でもあり, 医療の安全を脅かすこともある. 言語コミュニケーションでは, 意図の認識と意味の交換という2つの要素が重要であり, 意図と意味に関する知識体系を整理することで, 言語コミュニケーション上のエラーの発生を減少できる可能性がある. 知識の体系化をおこなううえで, 有用な概念やツールを提供するのが, 近年発展してきているオントロジー研究である. そこで本稿では, オントロジーに関する研究の中から, 医療の場におけるコミュニケーションに役立つ知見を話者の意図という観点から再整理し, 医療の質と安全にどのように貢献できるかを考察する.
報告
  • 原田 賢治, 永井 良三
    2006 年 1 巻 1 号 p. 57-62
    発行日: 2006/10/31
    公開日: 2009/02/27
    ジャーナル 認証あり
    職員教育は, 医療安全の向上における最重要の課題である. 職員教育を効果的なものとするために, 現場でのトレーニング, 講演, eメール, ウェブ, ポケットマニュアル, 動画, さらにeラーニングシステムなど, さまざまな手法の特徴を理解し組み合わせることが重要である. 当院においては, 医療安全ポケットマニュアルに基づいて, オンライン問題集としてのeラーニングシステムを開発した. このeラーニングシステムは, 現場でのトレーニングや講演などと相互に補完することを目指している. eラーニングシステムによって, 職員は短い空き時間を医療安全の学習に活用することができる. また個々の職員が病院のルールや通知・通達を理解しているかどうかを, eラーニングシステムにより本人にフィードバックすることは, 自発的学習の端緒となる. さらにeラーニングシステムの結果は, 病院の管理者が次にどのようなプロジェクトを行うかを考える際にも活用できる.
  • ―エラーリスクの低減を目的として―
    山出 康世, 芳賀 繁, 土屋 文人
    2006 年 1 巻 1 号 p. 63-69
    発行日: 2006/10/31
    公開日: 2009/02/27
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    紙ベースのカルテシステムに比べて, 電子カルテ等の医療情報システムは多くの利点があるといわれている. しかし, 医療情報システムを採用したことによって起こる医療ミスについての指摘はされているが, このエラーのリスクに焦点をあてている研究は少ない.
    医療情報システムを用いることが原因であるエラーリスクを同定するために, 我々は量的・質的な方法を用いて調査を行った. 調査協力者は46の病院に所属する51人の医師と3人の薬剤師であった. 調査の結果, 調査協力者が日常の業務においていくつかのリスクを経験していることが明らかになった. また, 多くの改善されなければならないリスク要因が明らかとなった. その要因は, (1) マン・マシン・インターフェイスに関するリスク要因, (2) システム運用に関するリスク要因, の2つのカテゴリーに分類された.
  • 小川 祥子
    2006 年 1 巻 1 号 p. 70-75
    発行日: 2006/10/31
    公開日: 2009/02/27
    ジャーナル 認証あり
    医療事故の発生予防, 再発防止のためには, 医療事故の発生原因を踏まえて対策を検討することが重要である. 一方で裁判を通じての紛争解決には課題も多く, 患者側, 医療側双方に大きな負担がかかっている. また, 医師が自ら行う異状死の届け出を端緒として刑事責任を問われるのであればリスクの高い医療を担う医師がいなくなるのではないかという懸念もある. 平成16年9月30日, 日本医学会加盟の主な19学会は, 診療行為に関連した患者死亡の届け出について, 中立的第三者機関創設を求める共同声明を発した.
    このような背景を踏まえ, 日本内科学会が実施主体となって平成17年9月から「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」が実施されている. このモデル事業は, 死因の究明と再発防止対策の検討を目的とし, 第三者である臨床医, 法医, 病理医, 弁護士の協力の下, 解剖と事案調査を通して, 事実関係を明らかにしていくという試みである.
    このモデル事業は将来の新しい制度につながっていく重要な事業である. そして, これらを通して医療の安全を確保し, 医療に対する信頼を確保することを目指す.
  • 後 信, 堀口 裕正, 木村 眞子, 森脇 睦子, 坂井 浩美, 野本 亀久雄
    2006 年 1 巻 1 号 p. 76-82
    発行日: 2006/10/31
    公開日: 2009/02/27
    ジャーナル 認証あり
    財団法人日本医療機能評価機構 医療事故防止センターでは, 平成16年度より, 医療事故の発生防止と医療安全の推進を目的として, 法令に根拠をおく事業として, 医療事故報告制度である医療事故情報収集等事業を開始した. 当センターでは, 事業開始当初より, 医療事故を報告しやすい環境の醸成に努めてきた. また, 従来厚生労働省が行ってきた, ヒヤリ・ハット事例の収集も引き継いで行っている. 収集した情報は, 医療機関において役立つのみならず, 社会において医療安全の推進を考える際の有用な資料ともなるように作成している. また, 当機構が中立的第三者機関であるという立場を踏まえ, 偏りのない視点から収集, 分析を行って情報提供を行っている. 事業開始後約2年が経過したが, 我が国の医療事故に関する有用な情報提供ができつつあるのではないかと考えている. 本稿では, 当該医療事故報告制度の創設の経緯から事故情報の集計結果等について述べる.
  • 武田 裕, 中島 和江, 八田 かずよ
    2006 年 1 巻 1 号 p. 83-86
    発行日: 2006/10/31
    公開日: 2009/02/27
    ジャーナル 認証あり
    平成13年国立大学病院長会議の「医療機能強化を目指したマネジメント改革」の提言を受け、平成14年秋に国立大学病院医療安全管理協議会が発足した。事務局を大阪大学病院中央クオリティマネジメント部、会長を同部部長が引き受け現在に至っている。発足当初には、国立大学病院における医療安全管理体制の基本モデル、インシデントレポートの運用、医療事故防止・対応の組織化、医療事故の定義などについてコンセンサスを得た。また管理者・選任リスクマネジャ・事務担当による3分科会を設け、各々の役割・機能について討議を重ね、マニュアル等の公表などを行ってきた。平成16年の国立大学法人への移行後はさらに、医療損害賠償保険、事故後の対応など新たな課題について検討を行っている。今後さらに、リスクマネジャ研修などを継続的に実施するとともに、積極的な医療事故の公表などについて、国立大学病院が先導する患者安全を目指して、本協議会の役割を果たすべく事業を推進していく予定である。
  • 「危険薬の誤投与防止対策NDPベストプラクティス」の策定
    我妻 恭行, 高橋 英夫, 菅野 一男, 菅野 隆彦, 杉山 良子, 跡部 治, 上原 鳴夫
    2006 年 1 巻 1 号 p. 87-97
    発行日: 2006/10/31
    公開日: 2009/02/27
    ジャーナル 認証あり
    我々 (NDP) は, 医薬品の誤投与防止対策の指針である「危険薬の誤投与防止対策NDPベストプラクティス (BP) 」を策定した. BPは以下の16項目から構成される : 1. 危険薬の定義と啓発, 2. 高濃度カリウム塩注射剤の病棟保管の禁止, 3. 採用薬品の見直し, 4. 類似薬の警告と区分保管, 5. 救急カートの整備, 6. 注射指示の標準化, 7. インスリンSSの標準化, 8. コンピューテッド調剤監査システムの導入, 9. 与薬のユニット・ドース化, 10. 投薬に関する患者取り違え防止策の徹底, 11. 輸液ポンプの操作・管理方法の標準化, 12. 入院時持込薬の安全管理, 13. アレルギー情報等の明示と確認方法の標準化, 14. 経口用液剤の計量方法の標準化, 15. 癌化学療法プロトコールの院内登録制度の確立, 16. 薬剤部での注射剤ミキシング. (NDP: 医療のTQM実証プロジェクト, http://www.ndpjapan.org/)
  • 八重 ゆかり, 吉田 雅博, 津谷 喜一郎, 山口 直人
    2006 年 1 巻 1 号 p. 98-104
    発行日: 2006/10/31
    公開日: 2009/02/27
    ジャーナル 認証あり
    緒言 : 1990年代に欧米で始まったEBMの流れを受けて, 日本でも医療技術評価が注目されるようになり, その成果を適切に活用するEBMの実践が医療現場に求められるようになった. このEBMの日本における普及と推進を目的とした情報センターとして, 2002年4月にMindsが設置された.
    事例 : Mindsでは, 2004年5月から診療ガイドライン公開を開始し, 2006年9月までに26疾患のガイドラインを公開している. その他, 診療ガイドライン作成後のエビデンスを補完する情報として, ランダム化比較試験とメタアナリシス論文の構造化抄録, コクラン・レビュー・アブストラクト日本語版, 診療ガイドラインのレビュー, 診療ガイドラインの一般向け解説と医学用語解説を, Mindsオリジナル情報として提供している.
    考按 : 掲載診療ガイドラインをさらに充実させるとともに, Mindsオリジナル情報のよりいっそうの充実が求められている.
  • 佐藤 りか
    2006 年 1 巻 1 号 p. 105-110
    発行日: 2006/10/31
    公開日: 2009/02/27
    ジャーナル 認証あり
    Oxford大学で作られている「患者の語り」のデータベースDIPEx (Database of Individual Patient Experiences) は1,000人を超える患者のインタビューを収録したデータベースである. その一部はインターネットを介して一般に公開されており, 患者や家族, そして医療提供者がビデオ映像を通して様々な疾患の患者の「病 (やまい) 」経験に触れることができる. このデータベースからは優れた質的研究の学術論文が生み出され, さらにそのデータを2次利用することにより量的な研究も可能である. 我が国ではNBM (Narrative-based Medicine) をEBM (Evidence-based Medicine) の対抗概念と捉える傾向があるが, DIPExを作ったのが英国EBMをリードしてきた人々であることを考えると, EBMとNBMを「量 vs 質」の二項対立として捉えることが誤りであることがわかってくる. 現在, 日本版DIPExの設立を目指し準備が始まっている.
短報
  • 嶋森 好子, 野本 亀久雄, 木村 眞子
    2006 年 1 巻 1 号 p. 111-113
    発行日: 2006/10/31
    公開日: 2009/02/27
    ジャーナル 認証あり
    医療安全管理者の教育・研修指針を作成するために, 既にわが国で行われている, 医療安全管理者の業務やその育成のための教育・研修の現状を明らかにすることが本研究の目的である.
    医療法施行規則の一部改定等を受けて, 専任の医療安全管理者を配置する医療機関が増加した. しかし, その役割や育成のあり方については, 明確にされていない. また, 1999年以降, 医療の専門職能団体や各種団体による医療安全管理者の教育・研修が行われているが, その教育内容や研修の方法等について, 共通認識に至っていない.
    そこで, 本研究では医療安全管理者のための教育・研修について内外の情報を収集し整理した. その結果, (1) 医療安全管理者として必要な能力の明確化, (2) 教育プログラムの開発, (3) 各プログラム間の受講者要件や到達度レベルの標準化, (4) 現任者のレベル・アップのための方策の検討, (5) 講師等の確保, の5点の課題があることが明らかになった.
  • 宮本 智行, 三輪 全三, 鵜澤 成一, 稲田 穣, 土屋 文人, 海野 雅浩
    2006 年 1 巻 1 号 p. 114-117
    発行日: 2006/10/31
    公開日: 2009/02/27
    ジャーナル 認証あり
    目的 : 医療機器安全管理の方法として電子タグ (Radio frequency identification : RFID) を用いて, 簡便かつ的確に医療機器の所在およびメンテナンス情報を管理するシステムを試作した.
    方法 : 本装置は電子タグ, 送信周波数13.56MHz近接型微弱電波方式電子タグリーダライタ装置, 独自に開発した管理ソフトより成り, 使用者は機器使用時及び返却時に, 使用者のIDカードおよび機器の双方の電子タグを読み込むことで使用実績を記録する. また, メンテナンス情報や故障などの情報が入力可能で, 自動的に警告を発令する機能を有している. 試験運用に先立ち, 本システムが医療機器に関する影響を調査するために対象医療機器の電磁波に対する安全性調査を行った. 試験運用は本学歯学部附属病院病棟にて平成18年1月より開始した.
    結果 : 本装置による医療機器への電磁波干渉はなかった. 管理実績では調査対象期間中, 記録忘れが発生したため使用記録と実績とは完全には一致しなかった.
    結語 : 今後運用上の問題を含めさらに研究調査を続けていく予定である.
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