目的 : 日本における転倒・転落の疫学は明らかでなく, 本研究は大学病院における転倒・転落の疫学を明らかにすると共に, それらのデータを基にした各病棟の特性に応じた病棟リスクスコアの開発を試みた.
対象と方法 : 1220床の大学病院の小児科, 産婦人科, ICUを除く18病棟で2006年6月の1ヶ月間に入院した全患者について, 転倒転落アセスメントシートを調査し, その後の転倒・転落事故の発生をフォローした. 解析は記述統計に加え, 各病棟の変数を基に多変量ロジスティックモデルを用いて, リスクスコアを算出した.
結果 : 平均年齢60歳の対象患者1280人は中央値15日の在院中に37件の転倒, 8件の転落事故が発生し, 1000 patient-dayあたりの転倒は1.2件, 転落は0.3件の発生率であった. 転倒の発生率はリスク1群では0.8件であったのに対して, リスク2群及びリスク3群では1.9件であった. 病棟における転倒の独立関連因子はインシデントレポート総数, 看護助手数, 平日日勤看護師数であり, 転倒・転落リスク群の患者数を加えた変数で病棟転倒リスクスコアを作成したところ, 良好な予測能であった.
結論 : 本研究により, 大学病院における転倒・転落の現状の一端が明らかとなっただけでなく, 病棟リスクスコアは今後の転倒・転落対策介入の指標となると考えられる.
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