緒論:2007年頃より、国の調達は原則競争入札となり、国家公務員等の健診においては、毎年、競争入札により実施者が決定されている。競争入札制で健診実施者を決定するとき、落札するための過度な価格競争による健診品質の劣化が危惧されている。そこで、公益社団法人全国労働衛生団体連合会(全衛連)は、健診品質をいわゆる「安かろう、悪かろう」としないため、健診機関の責任者と事業場産業医を対象とした調査研究を2015-16年に実施した。その報告書は全衛連のホームページから閲覧可能である。本稿では、その内容の概略を述べる。
方法:本稿は、全衛連の報告書の引用による。
結果:健診機関に対する質問票調査で、入札あるいは健診委託事業者からの要求により、過度な料金割引が日常的にあり、特に、そのために将来的に引き起こされるであろう経営悪化を危惧している健診機関が少なくないことがわかった。産業医に対する調査では、健診機関選定において、健診の品質について理解している産業医ではなく、それを理解していない事業場の事務担当者が、廉価で健診を発注する費用削減効果によって高評価を得られるため、劣悪な健診品質の健診機関に健診を委託する傾向があることに産業医がかなり不満を持っていることが明らかとなった。また、産業医においては、競争入札などによる健診実施者の変更により、受診者個人の健診結果報告フォーマットなどが変更され、過去データとの継続性を確保するためには相当の追加負担が生じ、健康管理業務の劣化を招くリスクを懸念していることがわかった。
考察:健診の不当廉売による社会的損失の最も重要な点は、同業の他の事業者の事業活動を困難にすることである。その結果として、優良な健診機関の経営悪化に繋がり、健診市場から撤退すれば、優良な健診を受診し難くなり、「悪貨は良貨を駆逐する」社会的損失になる。
結論:低品質の健診や健診結果報告フォーマット変更などに起因する産業医の健康管理業務劣化防止のため、産業医は高品質の健診を提供できる健診機関が選定されるよう健診機関の選定に積極的に関与するべきである。
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