公共政策研究
Online ISSN : 2434-5180
Print ISSN : 2186-5868
19 巻
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巻頭言
会長講演
特集 公共政策とトラスト
  • 宮脇 昇
    2019 年 19 巻 p. 14-21
    発行日: 2019/12/10
    公開日: 2021/10/02
    ジャーナル フリー

    公共政策過程の実施主体は,実施対象からの信頼を獲得することが望ましい。しかし,主体に対する,あるいは主体間の信頼は,アプリオリに存在するわけではない。なぜなら立案主体,決定過程の参加主体と決定主体,実施主体それぞれの意思や調整をめぐる情報は,明示的なものであれ,黙示的なものであれ,完備情報化・完全情報化されないためである。さらに国際公共政策は,主権国家による外交政策決定過程を交えるため,一層のこと不完備・不完全情報の社会を対象にする。本稿ではトラスト(信頼)の先行研究を瞥見し,決定過程の完備情報・完全情報化を1つの理念型として想定する。その後,主体別(国内・国際)にトラストの構図を整理したうえで,完備情報社会に抗う複雑性・専門性と完全情報社会を浸食する時限性の要素を抽出し,国際・国内公共政策の決定過程におけるトラストのあり方について最後に提示する。

  • 小野 英一
    2019 年 19 巻 p. 22-30
    発行日: 2019/12/10
    公開日: 2021/10/02
    ジャーナル フリー

    本稿は,自治体の人事システムについて,情報の非対称性および信頼という観点から考察を行うものである。人事行政は行政にとって重要な位置付けにあり,公務員人事システムは行政マネジメントにおいても核心となる。専門知識や技能を提供する様々な市場において情報の非対称性が問題を引き起こすが,人事システムが関連する労働市場もその一つである。情報の非対称性は,市場メカニズムが通常ならば有している資源の最適配分を達成させる機能を損なわせてしまうこととなる。本稿の構成は以下のとおりである。はじめに,エージェンシー理論を踏まえながら情報の非対称性から生じる問題について整理する。次に,自治体の人事システムから任用に関わる複数の個別システムを取り上げ,情報の非対称性という観点から考察する。以上により,自治体の人事システムの様々なところで情報の非対称性の問題が生じているということについて論じる。また,人事システムにおける長期的な取引関係の中で築かれる信頼が情報の非対称性がもたらす問題を改善するという点についても論じる。情報の非対称性の問題は人事マネジメントに少なからず影響を与える問題であり,自治体の行政パフォーマンスを損なわせないようにするためにも,人事システムで生じる情報の非対称性の問題を的確に把握し対応していくことが求められる。

  • 玉井 雅隆
    2019 年 19 巻 p. 31-39
    発行日: 2019/12/10
    公開日: 2021/10/02
    ジャーナル フリー

    本来,メディアの役割としては市民と政府の間の不完全情報の状態を解消し,より良き統治を志向するものである。この不完全情報は国民国家体制であれば単なる統治の問題となるが,多民族国家の場合は統治民族と被統治民族の間の問題となる。また国際社会に目を転じると,民族間の不完全情報が国家間の不安定化をもたらす点も存在している。冷戦期の欧州では,CSCEを中心に情報の移動に関して議論がなされた。西側諸国は情報の自由移動を主張するのに対し,東側諸国は「信頼醸成としての情報」を主張し,メディアからの情報の国家管理を主張した。この議論は平行線をたどり,冷戦終結にいたるまで解消されることはなかった。冷戦終結後,その東側諸国が主張した「信頼醸成としての情報」が民族問題への対処として注目を集めるようになる。しかしながら冷戦の記憶により,その信頼醸成としての情報の概念がCSCE/OSCEにおいて受容されるようになるまでには6年の年月を経ることとなった。「信頼醸成(トラスト)」であっても,その主体が何であるのかという点に関しては,国家間から民族間へと,その主体を変えることになったのである。

  • 川口 貴久, 土屋 大洋
    2019 年 19 巻 p. 40-48
    発行日: 2019/12/10
    公開日: 2021/10/02
    ジャーナル フリー

    公正な選挙の実現は民主主義の根幹である。しかし,2016年米大統領選挙に代表されるように,外国からの選挙介入・選挙干渉(election interference)によって,選挙の公正性・信頼性が疑われる事態が生じた。本稿は2016年米大統領選挙を事例に,デジタル時代の選挙介入がもたらす政治不信(political distrust)の構造を明らかにする。現時点で確認されたロシアによる2016年米大統領選挙への干渉の手法は,(1)サイバー攻撃による政党・候補者に関する機密情報の窃取と暴露,(2)政府系メディアやソーシャルネットワーク(SNS)等での偽情報流布や政治広告,(3)投開票等の選挙インフラに対するサイバー攻撃に大別される。2016年米大統領選挙への介入がもたらした不信について,次の点が指摘できる。第一に,外国政府による選挙介入は候補者や政策等の「特定対象」および選挙や民主主義そのものといった「政治制度」の双方に対して不信を拡大させるのであった。そして,「特定対象」への不信は「政治制度」への不信に転じる可能性があり,逆もまた然りである。第二に,選挙活動や投開票等の選挙プロセスがデジタルインフラに依存度を高めるにつれ,サイバー空間やSNSを通じた選挙介入は,(1)攻撃者の匿名性の問題,(2)介入の規模と有権者の曝露量,(3)個人データに基づくターゲティング等の観点で,介入の効果を向上させるものであった。

  • 横田 匡紀
    2019 年 19 巻 p. 49-58
    発行日: 2019/12/10
    公開日: 2021/10/02
    ジャーナル フリー

    地球環境問題は現代国際社会が取り組むべき重要な課題の一つであり,その影響は国境を越えて波及するため,解決のためには多様なアクターの参加が求められる。こうした文脈で地球環境ガバナンスに対する注目が集まっているが,本稿は地球環境ガバナンスにおけるトラストの問題を考察する。まずトラストの問題について,「危ない橋は渡らない」という消極的側面,多くのアクターの間でのリスクの共有と分散という積極的側面という分類に注目する。次に地球環境ガバナンスとは何かを示し,その構成要素である制度,アクターの問題をとりあげる。また現在直面する地球環境ガバナンスの課題として自国第一主義,非国家アクター主導の地球環境ガバナンス,多様な制度形態について言及する。最後に地球環境ガバナンスとトラストとのかかわりについて,冒頭で言及した消極的側面,積極的側面の観点から示していく。トラストの消極的な側面については,他の問題領域と比べて地球環境問題の事例では,相対的に決定過程の透明性が確保されている一方で,国内要因や大国の責任の問題などで課題が残る点を指摘した。積極的側面については,地球環境ガバナンスではその視点がより求められ,様々な地球環境問題の国際レジームでもその視点を反映させようと試みられている一方で,実際に達成させるには課題があることを指摘した。

  • 藤本 吉則
    2019 年 19 巻 p. 59-67
    発行日: 2019/12/10
    公開日: 2021/10/02
    ジャーナル フリー

    本稿は,電子政府,透明性,信頼の関係について論じる。日本は1990年代後半から電子政府の構築に取り組んだ。「透明性の高い政府」「信頼される行政」を実現することが目標として掲げられ,国民の電子的情報アクセス環境の整備が進められた。国民が政府活動を知ることは健全な民主制のためには必要不可欠のことであり,電子政府によりそのことを促進することが期待されている。電子政府と透明性,信頼の関係について,既存の研究から信頼と関係があると推測されている (1)業務効率化,パフォーマンス,(2)電子的な国民向け行政サービス,(3)市民へのエンパワーメントの三点に注目して概観する。また,電子政府の機能のうち,政府による情報提供に焦点をあて,(1)信頼と不確実性,(2)情報の非対称性,(3)参加とオープンデータについて考察を行う。情報の非対称性が解消されることで国民と政府の間に信頼関係が構築されることが期待できる。また,オープンデータの提供など情報量の増加,質の変化により,主体的な参加が促され,社会的信頼の強化につながる。電子政府,特に電子的な情報提供によって,国民と政府の間の信頼関係に好影響を与える可能性がある。一方で,電子政府による情報提供には限界があり,情報処理能力,情報への永続的なアクセス保障,情報の任意提供など検討を要する事項が存在する。

  • 山上 亜紗美
    2019 年 19 巻 p. 68-77
    発行日: 2019/12/10
    公開日: 2021/10/02
    ジャーナル フリー

    本稿は,2014年から実施されている欧州連合(European Union: EU)の対ロシア制裁における「信頼(trust)」について,検討する。具体的には,EUの対ロシア制裁が利益を回復する主体(以下,利益回復主体)であるウクライナ政府から「信頼」を得る手段となり得ることを考察する。まず,経済制裁と「信頼」の関係について整理する。本研究は経済制裁は利益回復主体と制裁実施国の「信頼」を構築とし,Hardinが提唱した「AはBがXすることを『信頼』する(A trust B to do X)」という定義を用いて,利益回復主体であるウクライナは制裁実施国であるEUがロシアに対して経済制裁を行うことを「信頼」するという仮説を立てる。次に,EUの対外政策を歴史的経緯に基づいて整理する。EUの経済制裁は現在,CFSPの枠組みの中で実施されている。CFSP開始以前から,EUの経済制裁は共通通商政策の一環として行われていた。そのため,CFSP開始以前のEUによる経済制裁は,対外政策とは切り離して説明される必要がある。まずはCFSPまでのEUの対外政策についての変遷を整理する。そして,EUの対外政策の一環となった経済制裁の変遷について概観する。CFSPと経済制裁の歴史的経緯を俯瞰した後,ウクライナのEUに対する「信頼」について検証する。そしてEUの対ロシア制裁はEUとウクライナの「信頼」を構築する手段となり得るかについて考察する。EU一ウクライナサミットの共同声明によると,EUとウクライナはEUの対ロシア制裁について,ロシアによるウクライナの主権と領土侵害に対する強い非難として認識している。そのため,ウクライナはEUが対ロシア制裁を実施することを「信頼」していると考えられる。

投稿論文
  • 鈴木 潔
    2019 年 19 巻 p. 78-89
    発行日: 2019/12/10
    公開日: 2021/10/02
    ジャーナル フリー

    本稿では,児童虐待防止行政の質的研究を通じて,自治体の幹部職員(本庁管理部門および出先機関の幹部職員)が,ストリートレベル官僚制を管理するために用いる手法を検討した。その結果,児童相談所幹部と第一線職員の間には,ケースワークの専門性を基盤とする一定の協力・信頼関係が醸成されていることが明らかになった。また,生活保護行政で観察された官僚制的な管理手法に加えて,児童虐待防止行政では,ケースカンファレンスやスーパービジョンに基づく専門職的な管理手法が用いられることを見出した。ケースカンファレンスとスーパービジョンは,上司と部下の命令服従関係に依らずに,第一線職員の裁量を統制するための手法であり,人材育成とも結びついていることに特徴がある。さらに,第一線職員経験者を本庁福祉主管課に配置することは,本庁と出先機関との情報の非対称性を是正し,両者の葛󠄀藤や対立を回避しやすくすることを指摘した。福祉,保健,医療などのヒューマン・サービス分野では,程度の差はあれ,ケースカンファレンスやスーパービジョンが導入されていることから,本稿で指摘した専門職的な管理手法は,ストリートレベル官僚制を管理するための標準的な手法の1つと考えられる。

  • 竜 聖人
    2019 年 19 巻 p. 90-102
    発行日: 2019/12/10
    公開日: 2021/10/02
    ジャーナル フリー

    近年,厚労省は急速な高齢化に対処するため,医療政策において「医療機能の分化・連携」というアイディアに基づいた改革をかなリ一貫して進めている。しかし,近年の日本の福祉国家改革に関する研究は,首相や政権党の言説に注目することが多く,こうした動きが見逃されてきた。これに対し,本研究はアイディアの政治理論に基づいて近年の医療制度改革の展開を分析する。これにより,医療機能の分化・連携というアイディアを核とした政策変容のメカニズムを明らかにする。また,理論面では,アイディアを重視する政策過程分析の研究では,制度・構造を,アイディアを制約する要素と捉えることが多い。本研究はそれをアイディア実現の有利・不利に関係する機会構造として捉えることの重要性を示すことで,政策過程分析の方法的発展にも寄与する。

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