公共政策研究
Online ISSN : 2434-5180
Print ISSN : 2186-5868
8 巻
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
巻頭言
特集 環境サステナビリティの実現をめざして
  • 植田 和弘
    2008 年 8 巻 p. 6-18
    発行日: 2008/11/20
    公開日: 2019/06/08
    ジャーナル フリー

    環境サステイナビリティという理念はいかに公共政策に組み入れられるべきか,そして現実にでのように取り入れられつつあるか,そこでの課題は何かについて検討した。公共政策の目標との関連で最初に,環境と成長のトレードオフという通念を破る発想に具体的な制度・政策的内容を与えた脱物質化論,ポーター仮説,二重の配当論等を紹介した。いずれの議論にも,環境を大切にする社会は,同時に雇用や福祉など他の社会的目標もあわせて逹成する社会であるべきだとする立場が共通しており,そこに,社会の制度・政策イノベーション能力の源泉があった。第三次環境基本計画は目標としては,持続可能な地域社会を志向しているものの,その実現を図る政策指針を持ちえていない。持続可能な(地域)発展に明確な定義を与え,包括的で測定可能な判定基準を理論的に提示したダスグプ夕の理論を適用すると,持特続可能な地域社会の構築には,地域の資本資産を充実させることと,その資本資産を有効に活用する制度をつくりあげること,が求められる。そうした環境的・経済的・社会的持続可能性を統合した持続可能な地域社会づくりには,地域社会のトータルなデザインが不可欠であり,総合行政の主体として自治体が本来の総合性を回復することが前提となる。同時に,環境的・経済的・社会的持続可能性を統合的に実現するための知的基盤や社会的基盤を形成するとともに,住民が自治の担い手としての力量を高めることが不可欠であり,自治体公共政策の方向性が確認される。

  • オラン ヤング
    2008 年 8 巻 p. 19-28
    発行日: 2008/11/20
    公開日: 2019/06/08
    ジャーナル フリー

    社会生態システムを持続可能なものに移行させるには,社会生態システムのガバナンスを向上させなければならない。まず分析ツールの見直しが必要であることを述べる。そして科学への3つの課題と,政策への6つの教訓を述べる。科学の3つの課題では,問題の枠作り(フレーミング)およびフィットやミスフィットという視点を提示する。政策への教訓は,低い割引率を使用して長期的結果に注意すべきこと,不確実性を伴う気候変動問題に関しては国家安全保障なみの取扱いをすべきこと,社会的学習と適応的管理の強化などである。

  • 松本 泰子
    2008 年 8 巻 p. 29-39
    発行日: 2008/11/20
    公開日: 2019/06/08
    ジャーナル フリー

    気候変動問題に取り組む国境を超える環境NGOネットワークである「気候行動ネットワーク(Climate Action Network: CAN)」は,資源,情報,知見,専門性の相互補完と恒常的で密なコミュニケーションによって政府間交渉に対し政策提言を行ってきた。世界全大陸から集まった多様な環境NGOが,優先課題を共有し「一致した主張(one voice)」を提示する能力は,CANが政府間交渉に対して一定の影響力を維持してきた重要な要因のひとつである。

    ここ数年,適応問題が政府間交渉における最優先課題となって以来,CANにオックスファム(Oxfam)やクリスチャン・エイド(Christian Aid)などの国際協力NGOが参画するようになり,これまで科学や経済の視点から気候変動問題のフレイミングを行ってきたCANに,これまでと異なるフレイミング,すなわち「開発と貧困」「社会正義」の視点からのフレイミングがもたらされた。今後もCANはone voiceをつくることができるのか。

    本稿は,異分野のNGOへのネットワークの拡大によってCANという国境を超える政策提言ネットワークに起こりつつある変化とその背景を論じ,その変化が今後のネットワークの進化に対してもつ意味について考察する。また,2つのフレイミングの基底をなす「規範や価値についての交渉と学習の場」としての,ネットワークがもつ潜在的可能性を指摘する。

  • 髙村 ゆかり
    2008 年 8 巻 p. 40-50
    発行日: 2008/11/20
    公開日: 2019/06/08
    ジャーナル フリー

    京都メカニズムは,市場メカニズムを利用して費用対効果の高い方法で排出削減を可能にする京都議定書の制度である。市場メカニズムの導入は,京都議定書の制度形成,とりわけ遵守手続の制度形成に影響を及ぼし,市場メカニズムの適正な運営の確保という要請を背景に,不遵守に対する厳格な対応が指向された。さらに,遵守委員会が課す措置の不遵守が,当該国が認可した私人の利用資格をも失わせることで,私人からの事実上の圧力を利用して遵守確保制度の実効性を高めるしくみを組み入れている。

    市場メカニズムを通じて誕生した炭素市場の拡大は,その炭素市場に多大な利害を有する主体を生じさせ,交渉主体である国や利害関係者の利害関係を変容させ,市場メカニズムの継続と拡大を支持する方向に主体を向かわせている。市場メカニズムが,温腹化防止の国際制度の大枠を規定するのに加え,近年では,市場メカニズムを利用したより実効的な制度の構築が模索されている。

    市場メカニズムは,地球温暖化の国際制度形成に多大な影響を及ばしているが,市場の利用そのものが問題を解決するわけではない。市場メカニズムは,適切な削減目標設定と制度設計を政策決定者がなしえてこそ,その潜在力が十分に引き出され,問題への実効的対処が可能になる。政府の規制の代替ではなく,適切な政府の規制(公的介入)なしには期待される効果を発揮しえない規制を補完する制度として機能している。

  • 大島 堅一
    2008 年 8 巻 p. 51-62
    発行日: 2008/11/20
    公開日: 2019/06/08
    ジャーナル フリー

    欧州においては,1990年代後半から再生可能エネルギーの普及が気候変動対策の重要な要素として位置づけられ,制度的枠組みが形成されてきた。再生可能電力指令では,再生可能エネルギーに関するグリーンペーパー,ホワイトペーパーに関する討議を経て,一次エネルギーの12%を再生可能エネルギーでまかなうことを満たす政策目標(2010年までに電力の22.1%を再生可能エネルギー源によってみたす)が設定された。だが,この数値目標は義務的なものではなく,指示的なものとされた。加えて,欧州内での協力の枠組みが形成されないという問題が残った。その後,再生可能エネルギー政策は,欧州共通エネルギー政策を形成する新たな流れのなかで,よりいっそう高い位置づけが与えられた。こうした流れにそって,2007年に出された「再生可能エネルギー・ロードマップ」においては再生可能エネルギーに関する新しい指令を定めることが示された。新しい司令では,再生電力指令の欠点が克服され,数値目標は義務的なものにされることになった。2008年1月には新しい「再生可能エネルギー指令」案が欧州委員会によってだされた。欧州委員会の意図するグリーン証書取引は指令に含まれる可能性は低いが,欧州共通の政策協力のための枠組みについては形成されるとみられる。こうした指令ができれぼ,ドイツ,デンマーク,スペインなど,個別の国で成功していた再生可能エネルギー普及が欧州全体に爆発的に進む可能性がある。

  • 尾崎 寛直
    2008 年 8 巻 p. 63-73
    発行日: 2008/11/20
    公開日: 2019/06/08
    ジャーナル フリー

    今日,環境政策は,「サステナブルな社会」実現を掲け,領域的・空間的にも,時間軸においてもかつてとは比べものにならない広がりをみせているが,従来日本の環境政策は,産業政策に対して後追い的に,公害・環境問題に対して事後的・対症療法的に対策を行うという制約を受けてきたがゆえに,現在においてもなお深刻な「環境被害ストック」を再生産し続けている。

    フローとしての環境汚染はある程疫緩和され,表面的に「公轡は終わった」ように見えても,環境政策が不徹底のままその手を緩めてしまえば,長年蓄積された被害は,環境被害ストックとして解決不能な状態で「放岡」され,被害者・家族や彼らをとりまく社会に絶対的な損失をもたらしうる。それは環境被害を解決するどころか,ますます環境被害ストックを増大させていく政策になりかねない。21世紀のサステナブルな社会づくりのためには,前提として前世紀の環境被害ストックをなくしていくことが不可欠である。そうした環境問題の解決のためには,汚染の除去などフローの対策だけでなく,いまや福祉政策(広い意味で社会保障的な政策)が必要であり,その意味で環境政策と福祉政策の政策統合の視点が必要とされるのである。

  • 原 圭史郎
    2008 年 8 巻 p. 74-86
    発行日: 2008/11/20
    公開日: 2019/06/08
    ジャーナル フリー

    都市は様々な機能を有したシステムの集合体であり,人々の生活や社会経済活動を支えている。国連は,2005年頃をターニングポイントとして世界中の人口の約半数が都市部に住み始め,今後も都市人口の増加は継続する,と推測している。地球規模で進む都市化の進行は,すなわら,都市の有り様が地球のサステイナビリティを具現化していく上でも重要な鍵となってきていることを意味している。本稿では,都市サステイナビリティを理解するためのフレームワークを提起した上で,持続可能な社会形成の実践へ向けた政策的方向住を示すことを主目的としている。そのため,次のような枠組みで議論を展開する。まず,①既往研究のレビューを通して,都市サステイナビリティの要素や概念を整理し,サステイナビリティを理解するためのフレームを提起する。その上で,②環境的・生態学的側面から都市サステイナビリティを理解し評価するために重要となる視座を数例示す。この議論の過程においては,アジアの都市における水資源管理等,具体的事例を引用する。さらに,③都市サステイナビリティ形成に向けて有効な手段である「サステイナビリティ評価法」についてレビューを行った上で,独自の評価法を適用した中国におけるケーススタディ実施例を紹介する。最後に,④日本を対象として,中長期の未来を見据えた上で都市サステイナビリティの形成における政策課題を提示し,本稿をまとめる。

論文
  • 秋吉 貴雄
    2008 年 8 巻 p. 87-98
    発行日: 2008/11/20
    公開日: 2019/06/08
    ジャーナル フリー

    わが国の航空輸送産業では,幼稚産業保護の観点から運輸省航空局の厳しい規制によって事業者間の競争が徹底的に回避され,1980年代には規制改革が試みられたものの「管理された競争」にとどまった。しかし,90年代後半から急激に改革が行われ,改正航究法では欧米並みの「自由競争」への政策転換が図られた。なぜ,このような改革が達成されたのか。この問いに対して,知識とそのコンテクストの変化に注目する「知識の政治」という観点から説明することが本稿の目的である。

    1990年代に入ると知識のコンテクストが大きく変化した。景気後退を背景として政府規制の間題が認識され,規制緩和が政策課題に位置づけられた。また,航空政策の認識コミュニティにおいても,規制緩和を志向する交通経済学者を中心に研究が急速に進められた。

    このコンテクストの変化から,新しい政策知識が提示された。理論的知識として,新しく競合可能性理論とインセンティブ規制理論が紹介された。また,米国の動向が経験的知識として提示され,政府規制の根拠がないことが認識コミュニティで確認された。

    そして,規制緩和への圧カが高まる中,航空局は漸進的な改革を行ったものの,機能せず,行政改革委員会規制緩和小委員会から徹底した自由化が求められた。運輸省は自由競争の重要性を認識し,1996年12月には需給調整規制が撤廃され,改正航空法では「参入・退出の自由」「価格設定の自由」が認められ,自由化が達成されたのであった。

  • 高橋 洋
    2008 年 8 巻 p. 99-111
    発行日: 2008/11/20
    公開日: 2019/06/08
    ジャーナル フリー

    本稿では,内閣総理大臣が主導する諮問機関の役割について考察する。かねてより総理府には数多くの諮問機関が設置されてきたが,総理の交代にかかわらず関係省庁の官僚主導で運営されてきたものが多かった。本稿では,総理が国会演説で言及し,専門事務局を有するものを特に「総理主導の諮問機関」と定義し,総理や官邸がその設置や運営に主体的に関与することにより,特に1990年代後半以降,「政策実現」や「政権維持」の手段として活用するようになったことを主張する。さらに森内閣のIT戦略会議を取り上げ,その政策過程を分析することを通して,これらの点を具体的に検証する。

研究ノート
  • 三牧 直美
    2008 年 8 巻 p. 112-124
    発行日: 2008/11/20
    公開日: 2019/06/08
    ジャーナル フリー

    行政評価制度が,日本の地方自治体に導入されてから,10年以上が経過した。しかしながら,いまだにその効果を疑問視する声が高い。また,行政評価制度の活用度・影響度が低下している状況も見受けられる。先行研究では,行政評価制度の課題として,支出カット目的の評価による行きづまり,政策志向ではないこと,リテラシーの不足,などが指摘されてきた。しかしながら,行政評価制度の効果を考察する場合には,地方自治体が最も重視している予算・組織編成ツールとしての機能を分析する必要がある。

    今回の分析では,行財政改革下における行政評価制度の予算編成への反映状況について,事例分析を行った。すべてのケースにおいて,厳しい財政状況下での行財政改革が行われていた。このような状況下で,各自治体とも行政評価制度の機能強化の必要性を指摘している。しかしながら,厳しい財政状況下での予算編成に対する有カなツールは行政評価制度ではなく,「ゼロベース」の視点から「全事業」を見直すことが可能である「事業仕分け」制度であることがすべてのケースで確認された。厳しい財政再建計画を前提とした行財政改革への取組みが一刻の猶予もない状況下においては,より即効性の高い成果が求められる。このような状況下では行政評価制度の機能は十分に発揮できず,このことが評価制度の活用度や影響度を低下させている要因となっていることを確認した(1)

  • 河 東賢
    2008 年 8 巻 p. 125-135
    発行日: 2008/11/20
    公開日: 2019/06/08
    ジャーナル フリー

    近年,マニフェストは,日本と韓国の政治改革の1つのテーマになっている。日本は2003年から,韓国は2006年からマニフェスト導入が訴えられ,政治改革運動として展開されている。アイディア移転によって共有されたマニフェストというアイディアが,両国で異なる展開を見せたのはなぜか。本稿は,政治文脈から生み出された構成の原理に注目する。同じアイディアの異なる解釈と政治結果との関係を,日韓のマニフェスト現象から論じる。

    分析の結果,マニフェストというフレームを構成する過程(フレーミング)に異なる原理が働いていることがわかった。日本のマニフェスト導入は,統治構造の再構築を目指した。選挙を起点に有権者と政治家の間の合意をマニフェストという形で引き出し,分散化した権力構造を集中化する。これを通じて,アカウンタビリティが不明確である日本の政策決定構造の間題を解決しようとする試みであった。一方,韓国は,新たな市民運動の手法としてマニフェストを導入した。根底には,政治の権限濫用に対するけん制という韓国市民運動の構成論理が働き,それに基づいてマニフェスト概念の具体化を図った。このように異なるフレーミングの原理は,マニフェスト運動の論理と強調点の相違をもたらした。

書評
その他
feedback
Top