福島第一原子力発電所の事故により,放射能や放射線に対する関心が高まっている。身の回りの放射線量を知ることは重要である。そのため環境放射線の線量率のモニタリングと東京23区東部のマッピングを行った。放射線量率のモニタリングは東京都墨田区北部の木造モルタル2階建ての屋内と屋外で行った。3月15日の爆発事故後から1日に2回の測定を実施した。測定器はポケット線量率計マイレートを用いた。3月15日に線量率の最大値,1μSv/hを記録した。このときは放射性核種の降下は起きなかった。3月21日と22日に降雨があり,このとき放射性核種の降下が生じたものと考えられている。その後,11月25日までに線量率の大きな変化はない。線量率変化が人工核種に起因するものかどうか調べるために,東京都港区のビルの屋上でガンマ線スペクトロメータを用いて,エネルギースペクトルを測定し,応答行列法(湊,2011)により放射性核種を推定した。その結果,
131I,
137Csおよび
132Teとその娘核種である
132Iなどが検出された。3月23日には
131Iが12kBq/m
2という値を示したが,1週間後には低下した。以上のことから,放射性核種が降下したのは事故発生直後であり,2011年4月以降における降下物はほとんどないものと考えられる。放射性セシウムは既に土壌やコンクリートあるいはアスファルトの骨材などに吸着され,ほとんど移動しなくなっていると推定される。
東京都23区東部における線量率マッピングの測定範囲は東西約10km,南北約15km,測定点数は566である。線量率の分布は概ね北東から南西方向に低くなる傾向にあるが,局所的に高いところもある。その場所は北東を向いた堤防法面や緑化されたスーパー堤防などである。文部科学省が公表したデータとも整合性が良い。細田ほか(2011)は,原発事故前の東京都葛飾区の線量率分布を示した。事故前は緑地の多いところでは線量率が低く,コンクリートやアスファルトが多いところで高かった。事故後は,その傾向が逆転し,緑地の多いところで線量率の増加が著しい。事故前の線量率の平均値は,39nGy/hであったが,事故後は158nGy/hとなった。東京都内でも事故前の約4倍に増加している地域があることがわかった。
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