小腸腸管内においてTh1/Th17細胞の多く存在する小腸粘膜固有層に対し、腸管上皮内においてもT細胞が多く存在する。その中でも腸管上皮内CD4細胞(CD4+Intraepithelial lymphocyte; CD4IEL)はいわゆる粘膜固有層内の細胞とは異なる細胞集団であり、腸内細菌依存的に誘導される免疫抑制系の細胞集団とされる(Sujino T, Science 2016, Barragan LC, Science 2018)が、同細胞の機能、誘導メカニズムは不明である。
近年、特定の細胞が解糖系Glycolisis、酸化的リン酸化Oxphos、ペントースリン酸回路、β酸化など、細胞特異的にエネルギー消費を利用することが明らかになりつつある。さらにエネルギー代謝を変更することで細胞療法を有効にしようという方法が検討されている。これまでにTregはOxphosを優位に使用しており、Th17細胞はGlycolisisを優位に使用していることが知られている。しかし生体組織内での細胞解析は行われていない。sea-horseを利用し腸管上皮CD4T細胞を脾臓naïve CD4T細胞と比較すると酸素消費量(oxygen consumption rate: OCR)は少なく、プロトン産生量(extracellular acidification rate: ECAR)は増加傾向にあった。以上より腸管上皮内細胞は脾臓細胞と比較し解糖系を消費する細胞集団であることが判明した。ミトコンドリアの膜電位、サイズをmito-trackerを使用し脾臓細胞及びCD4IELを測定した。IELは脾臓naïve CD4 T細胞と比較しミトコンドリア膜電位、サイズ共に小さいことを見出した。以上の結果はIELが解糖系を優位に使用する可能性のある細胞集団であると考えられた。
次に、CD4IELは菌の存在によりmatureな細胞集団となることより、無菌マウス、SPFマウスにおけるミトコンドリア電位を計測した(CD4IELGF, CD4IELSPF)。CD4IELGFはCD4IELSPFと比較し有意にミトコンドリア膜電位が高い細胞集団が存在することを見出した。CD4IELGF はCD4IELSPF構成における大きな差異はCD4+CD8aa+(DPIEL)細胞の存在であり、DPIELは12週のCD4IELGFの1割程度であるのに対しCD4IELSPFにおいて半数程度存在する。そこでミトコンドリア膜電位、大きさをDPIEL及びその前駆細胞であるCD4+CD8aa-(SPIEL)細胞集団で比較するとDPIELが有意に小さい分画に存在することが明らかとなった。
次に解糖系を制御する遺伝子群をPCRにて測定した。興味深いことにnaïve CD4T細胞と比較してSPIEL細胞ではmtorc1、hif1aが上昇しているのに対し、DPIEL細胞ではmtorc1は上昇しているがhif1の上昇は軽度であった。そこでDP IEL細胞分化における解糖系遺伝子の関与を検討するため、cd4cre: hif1f/fhif2f/f(DKO)マウスを作成した。DKOマウスにおいてはDPIEL細胞が増加しており解糖系マーカーであるhifがDPIEL分化に重要な役割を果たしていることを見出した。さらにhif1のネガティブレギュレーターであるvhlのノックアウトマウス(cd4cre: vhlf/f)を作成し、DPIEL細胞が逆に減少することを見出した。つまり、腸管上皮細胞は解糖系を優位に使用するが、DPIEL細胞はその中でもhif遺伝子に依存しない細胞集団であることが判明した。
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