OSBORNE et al.1)は臨床面接と質問紙により水の状態変化に関する子供の概念の調査を行い、水の状態変化に関する子供の見方が科学者のそれと違っていることを報告している。我々はOSBORNE et al.1)とほぼ同じ質問や選択肢を用い、小学校3年から中学校3年を対象とした沸騰・蒸発・結露に関する子供の見方の調査を行なった。ここでは、自由筆記と選択肢の2つの調査方法による独立した標本集団における調査結果を比較しながら考察するという手法をとった。その結果次のようなことが明らかになった。(1)沸騰している水中の泡を「空気」と見る者が多い。また、この問題に関しては学習直後に上昇した正答率が、 1~ 2年後には急激に低くなる点でニュージーランドにおける調査結果と対照的である。(2) 中学生以下の児童・生徒のなかには蒸発について誤った見方をしている者がかなりいる。(3) 中学生ではほとんどの生徒が結露について正しい見方をしている。この他、結果をOSBORNE et a1.1)と比較すると、沸騰・結露については正しい見方を持っていると思われる者の割合いは本調在のほうが多いこと、 2つの調査の結果に見られる誤答の背景として、問題設定場面と視覚的によく似た内容についての先行学習経験との混同が挙げられるらしいこと等が明らかになった。
本研究では、オーストラリヤ・中等教育・理科教科書ならびにシラバスを資料にして、教育目標、教育内容ならびに教科書内容と学習者の認知との適合度等を議論した。その分析の手法には、ブルーム(Bloom B. S.)をはじめ多くの先行研究を参考にし著者らの考えを加えて創案した手法を採用した。その結果から、以下のことがわかった。1) New South Wales州(以後N.S.W.州と呼ぶ)の理科シラバス(School Certificate Science)は、自然ならびに環境と人間の関係に関心を持たせることに主目標をおき、人間と環環との相互作用、すなわちオーストラリヤの動・植物をはっきり認識させたり、麻薬の影響、人口の動き、情報処理の方法等の学習内容を規定している。2)同じくWestern Australia州(以後W.A州と呼ぶ)のシラバス(Syllabus for lower Secondary Science )は、汚染が人体に及ぼす影響、地下資源の保護、人種、人口増加と人口調査など環境や社会に於ける科学の役割等を規定している。3) 両州とも、その内容は、物、化、生、地、総合科学等の分野から均等に取りだし`基本的な科学概念として構造・エネルギーに重点をおいている。4) 6種類ほどの中等・理科教科書が出版されているが、その中で広く採用されている更更Concepts of Science,,とそれを学習する生徒との適合度は教科書の前半部でよく適合し、後半部では少しむつかしい。5)本論でとりあげた分析手法をさらに一般化して行く必要がある。
中学校理科の「物質の分離」の項で、教科書に記載のある「みりんの蒸留」を取り上げ、みりんの原液および留液をガスクロマトグラフィーで分析することによりエタノールと水との分離を調べた。この実験により得られた結論は次のとおりである。1)教科書に記載の試験管を用いた蒸留装置は、十分な分離性能(留液中のエタノール濃度: 65% 程度)を持つこと。2)みりんの量を多く用いた方が、留液中のエタノール濃度が高いこと(最高: 74%程度)。3) 中学生による蒸留の実験で高濃度エタノール留分を得るためには、原液の加熱と蒸気の冷却とに注意を払わせることが必要であること。また、みりんと同じく醸造物である、醗酵みりん、みりん風調味料、および赤ワインの教材としての妥当性を調べ、次の結論を得た。1)みりん風調味料では留液のエタノール濃度が低く、醗酵みりんでは留液に他の香気成分による異臭が混ざり、ともに留液中のエタノールの確認には難点があること。2) 赤ワインは蒸留に伴う色調の変化と留液中のエタノールの確認(気化熱、炎)とを併用すれば、蒸留教材として十分適切なものであること。その外、留液中のエタノールの確認法についても検討し、教科書の指示どおり留液を脱脂綿につけて燃やすよりも、グラスウールやスプーンにとって火をつけた方が、より低濃度から確実にエタノールの炎が観察できることを明らかにした。