日本理科教育学会研究紀要
Online ISSN : 2433-0140
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26 巻, 2 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
  • 中島 齊
    1985 年26 巻2 号 p. 1-7
    発行日: 1985年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    台湾の科学教育に関して、前報では義務教育課程について述べたが、本稿では高級中学校の科学教育について、次の事項を中心に報告し、我が国の現状と比較検討した。 1. 高級中学校科学教育課程の改訂とその主旨 2. 自然科学各科目の目標と内容 3. 新課程実施に対する措置 4. 日本の高等学校理科教育との比較について

  • 菅田 良仁, 佐伯 敬一
    1985 年26 巻2 号 p. 9-15
    発行日: 1985年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    電磁石の教材は、現行の小学校学習指導要領(昭和53年)では、 6年生で初めて扱われている。その中に「電磁石の強さは、電流の強さや導線の巻き数などによって違う」と記されている。各社の教科書の取り扱いは種々であるが、電磁石の強さは吸引力と理解されている。吸引力Fの理論式は、文献によると、と表現され、磁束φ、極の面積 S、真空の透磁率μ0に関係している。教材として使用されるU字型電磁石の市販品を用いて、上の理論式が適用するか否かの検討を行なった。そのため磁束計を使用して、電流と磁束の関係を求め、ついで電磁石に錘のついた鉄片を吸引させて、吸引力を測定した。磁束と吸引力の関係を求めると、上記の理論式が成立しない場合があった。その原因は、磁極と吸引する鉄片との問の僅かな隙間にもとづくことが判明し、磁極を削り直して理論式が精度よく成立することが確かめられた。以上により、実験的に混乱している電磁石の教材の問題点の解明に役立つ研究ができたので報告する。

  • 全仁 煥
    1985 年26 巻2 号 p. 17-24
    発行日: 1985年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    1982年、筆者は福岡教育大学に留学を許可された際、科学教育のねらいは探究学習を通してこそ果たし得るものとかねてから確信してきたこともあって、当時使用されていた化学Iおよぴ 化学IIの7社の教科書の分析を手掛りに、日本の高等学校で探究学習がどのように進められているかを研究する好機に恵まれた。本報では、その結果とそれに基づく3つの提言を述べる。1.教科書の本文は当然内容解説を主流とするわけであるが、多くの説明図表をはじめ、演示実験あるいはドライラボを暗示した図や実験データなどの豊富な資料、頻繁な「問い」の設定、問題解法に関する反復演習、数多くの生徒実験の提供、表紙裏の見返しや口絵、巻末の各欄における諸資料で強化されている。2.探究学習の要ともいうべき生徒実験について、項目数やそれらの内容に各教科書独自の工夫が見られるが、寄せられている生徒実験の機能の傾向は、化学に関する知識の理解と定着とに多くを期待しており、副次的に薬品や器具の使用およぴ科学の方法の修得がねらいとされている。生徒実験における生徒の活動は、操作上の要点に従う実験操作と操作結果の考察などと指示されているが、実験の計画や準備、ましてや後始末など生徒の自主的な活動の側についての要請が明白でないからである。このような教科書の分析結果をふまえて、筆者は高等学校化学の学習指導改善に関する3つの提言に逹した。第1:手引き書に従って実験を操作し、報告書を提出するといった伝統的な生徒実験の因習を脱して、手引書を参考にしながら計画から後始末までをやりとげる全面活動の生徒実験になるよう、生徒の活動範囲を拡張させての生徒実験に改めたい。第2:書かれ、そして解説された化学の概念の後で、実証を通しての生徒の理解と定着とを図るという、追証型の実験を減らし、化学の概念形成に生徒実験からの生きたデータが参画できるよう生徒実験を先行させる。そのような学習指導をもっと増やしたい。第3:第1および第2の提言の実現は、一にかかってそれらが可能なための時問的ゆとりを教師にも生徒にももたらすに足る学習内容の精選にある。一層厳しく学習内容の精選をできるだけの理論と実践が望まれる。第3の提言はそれである。

  • 下野 洋
    1985 年26 巻2 号 p. 25-33
    発行日: 1985年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    生徒が野外で生の自然現象に直面したとき、彼らはそこからどれだけの事実を読み取り、それらを総合的に解釈したり、抽象化したりできるか、つまり生徒の科学的思考力がどの程度育成されているかを知ることは興味深いことである。ここでは、生の自然を直接体験させることは困難であったので、間接経験としての写真を用いて評価せざるを得なかった。本研究で明らかにされた知見は、次のように要約される。(1)写真を見て気づいたことを自由に記述させた場合は、 「山奥」、「緑の木」、「紅葉」、「雪」などにはよく気づくが、 「谷の地形や川原の様子」などについての観察は行き届いていない。(2) 課題を設定し、観察の視点を与えて写真を見せた場合は、「川の流れる向き」、「写真の地域」、「斜面の角度」などは6~8割の者が適切な回答をしている。しかし、さらに観察を深める必要のある「樹木の種類」や観察の結果を表現する「地図化」などの項目については約 2割の者が妥当な回答をしているにすぎない。(3)写真の観察の際、事実の読み取り、事実の解釈やまとめなどの「科学的思考」が十分に働いているとは言えない。

  • 飯田 真也, 碇 寛, 丹治 一義
    1985 年26 巻2 号 p. 35-43
    発行日: 1985年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    教育学部学生が将来小学校教員になった場合の理科教育指導上の不安要因を因子分析法により分析した。小学校理科学習指導要領の中から、小学校で指導すべき内容を25項目抽出し、それらに対する指導上の不安要因を学生達に記述式に書かせた。得られたすべての不安要因を22項目に集約し、これらに対し、 SD法により、不安の程度を再度解答させた。これを因子分析法により解析し、指導上の不安の背景にある潜在要因を抽出した。抽出因子の内、寄与の大きい順に、第 1因子は、時間、空間的に巨大なスケールの内容、又観点を変換する必要のある内容に関係した因子であり、複雑な視点変換が要求される内容と関連した因子と考えられる。第 2因子は、理科教材理解不足、知識不足等による不安に関係した因子。第 3因子は、イメージ化困難、視覚化困難に関係した因子である。これらの抽出因子から判断して、特に第 1、第 3因子に注目すると、学生達は、複雑な視点変換の必要とされる内容に対し、指導上潜在的に強く不安感を持っていることが明らかになった。このことは、一方では理科指導上の問題点の指摘にとどまるばかりでなく、学生達が受けてきた、小・中・高校での科学教育での理解困難の潜在要因とも考えられる。すなわち、科学の理解のための基本的能力として、視点変換の概念がきわめて重要であることが示された。

  • 西岡 正泰
    1985 年26 巻2 号 p. 45-51
    発行日: 1985年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    小学4年の理科に、「乾電池と豆電球」の学習がある。この単元では、回路を流れる電流は、方位磁針を使って測っている。この方法には、いろいろむずかしい点が多い。例えば、①方位磁針のそばに鉄製のものがあると、その影響を受け正しく電流が測れない、②磁針と導線が離れすぎると、磁針の振れは小さい、などである。このように方位磁針の使い方によって、実験結果が大きく違ってくるので、回路を流れる電流について、正しく理解させるのが困難であった。そこで、今回、回路に流れる電流を正しく理解させるために、導線に流れる電流によって、電線の色が変化する「変色電線」とその電線を使用した「電流回路板」を新しく考案した。変色電線は溢度上昇によって、色が変化する感熱材料(サーモテープ)を電線に被覆したものである。電線に電流が流れるとき、その熱作用によって、湿度が上昇し、その温度上昇で感熱材料の色が変化し、目で見て電線に電流が流れているのが明確にわかるようになっている。しかも、感熱材料の色変化量の大小によって、ある程度の電流量の大小も測ることができる。この変色電線を用いて、浪示実験用の教具として乾電池と豆電球の電流回路板を試作した。この電流回路板を大学の講義で大学生に見せたところ、彼等のこの教具に対する評価は高かった。

  • 田口 功
    1985 年26 巻2 号 p. 53-58
    発行日: 1985年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    中学校において"帯電体どうしは空間を隔てて互いに力を作用しあう”という事を理解し、力の量的な見方を養うという事を目標としてあげている。セルロイドの下敷をマフラーなどでこすると帯電し、紙や髪の毛をひきつけたり、軽い金属箔なども引きつける。つまり帯電した下敷は仕事をするためのエネルギーを持つ事になる。帯電体を作るには直流電圧を加えて電荷をためる方法、摩擦により静電気を発生させる方法などがある。最近ピストル型の静電気発生器などが考えられているが、構造が意外に複雑でありプラックボックス的になりやすい。やはり小学生の時下敷を髪でこすりその帯電したセルロイド製の帯電体を髪の毛につけて遊んだ経験を持っている人は多いと思われる。小学校、中学校を通じて身近な電気教具の中で静電気を利用した実験装置はほとんどみうけられない。本研究ではこの下敷をこする要領で静電気を発生させ、静電誘導現象を利用して、だれでも出来る簡単な電気教具を製作し、①摩擦電気を光のエネルギーに変換するための実験、②発光ダイオードを発光させる実験、③発生させる電圧の波形をオシロスコープを用いて観察する実験、④電磁誘導現象を発光ダイオードを利用して確かめる実験などを行なった。さらに工作用紙とアルミニウム箔を使用して身近に出来る円筒形の発電装置も作製した。この円筒形の発電装置を用いれば1個か2個の発光ダイオードを発光させることが出来る。この実験を通して静電気のエネルギーを光に変えたり、力に変えたり、さらに静電気エネルギーをフェライトを介して一度磁気エネルギーに変え、磁気エネルギーをコイルを通じて電気エネルギーに変換し、発光ダイオードを点灯させている。すなわち、電磁誘導現象の実験を行ない、エネルギー伝達実験をこころみると同時に本装置の電気の発生メカニズムの解析も行なってみた。

  • 岩田 広己
    1985 年26 巻2 号 p. 59-68
    発行日: 1985年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    長崎の人、志筑忠雄の『暦象新書」(上編 1798、中編 1800、下編 1802)は、英人John-Keil(l671~1721)の『天文学入門』の蘭訳本(1741)を原典とし自己の解釈をまじえつつ訳述したもので、我が国における最初の本格的なニュートンカ学の紹介書とされている。本研究は、この『暦象新書』に見られる訳語や翻訳概念の明治期初頭理科教科書への影響を調べたものである。本研究は、次の二点より行った。1.志筑の『暦象新書』とそれ以後の江戸時代の科学書及ぴ明治期初頭理科教科書に見られる「慣性」「質量」「運動量」にかかわる訳語と訳語の示す意味内容を調査すること。2.志筑及び後の蘭学者・洋学者、明治期初頭理科教科書の翻訳者の人脈的系譜の調査をすること。以上の研究の結果、次の三点が結論として得られた。1.幕府の天文方・蕃書調所・開成所が、江戸時代におけるニュートンカ学の受容の中心をなしていたと考えられる。2.明治期初頭理科教科書の翻訳者の多くが、蕃書調所・開成所の教職員だった。3.江戸時代の科学書の訳述者、明治期初頭理科教科書の翻訳者は、志筑に始まる学統に属すると考えられる。

  • 加藤 尚裕, 荒井 豊
    1985 年26 巻2 号 p. 69-78
    発行日: 1985年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    過去において、筆者らは、効果的な野外観察指導の工夫として、野外観察実施前に事前学習を実施したり、野外観察の実施結果に関係機関から収集した地下の様子を示すボーリングデータを組み入れた事後学習を実施したりした。これらの授業実践において、筆者らは、地質事象に対する児童・生徒の観察能力の実態を考慮することなく実施してしまった。そこで、筆者らは、より効果的な野外観察指導を目指し、今後、地質事象に対する児童・生徒の観察能力の発達の実態を十分に考慮した野外観察指導を実施するために以下のような調査を行った。石、砂、土を小学校4年生~6年生、中学校1年生~ 3年生に自由に観察、記録させ、その記録を集計した。その結果、次の事項が明らかになった。(1)初歩的な観察段階では、ほとんど視覚と触覚だけで情報を収集している。(2) 観察の対象物が小さくなるにつれて、触覚による情報の収集が多くなる。(3) 観察能力の発達の段階は、量的にも質的にも生長期と定着期をくりかえす。(4)小学校・高学年では、感覚的なものの観点が多く、中学生になるにつれて、操作的なもの、あるいは既習知識的なものの観点が増える。

  • 森本 信也
    1985 年26 巻2 号 p. 79-88
    発行日: 1985年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    学習者一人ひとりの認知能力に「適合」させて学習指導を行うための条件を探り、この条件に合致した理解カリキュラム評価の方法論について検討した。その結果、学習者一人ひとりの認知能力に「適合」した学習とは、学習において必要とされる認知能力と学習者のそれとが一致した時に成立するということが明らかになった。更に、この考え方を具現化するための理科カリキュラム評価の方法論として、中学校第一分野化学領域を例とした、科学概念一認知能カマトリックスを作製した。これを用いることによって、学習者一人ひとりの現在の科学概念及び認知能力の発達段階を要易に固定できることが明らかになった。この方法論が、学習指導計画の際に適用されるならば、上述の考え方が具現化された学習が成立すると思われる。

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