1982年、筆者は福岡教育大学に留学を許可された際、科学教育のねらいは探究学習を通してこそ果たし得るものとかねてから確信してきたこともあって、当時使用されていた化学Iおよぴ 化学IIの7社の教科書の分析を手掛りに、日本の高等学校で探究学習がどのように進められているかを研究する好機に恵まれた。本報では、その結果とそれに基づく3つの提言を述べる。1.教科書の本文は当然内容解説を主流とするわけであるが、多くの説明図表をはじめ、演示実験あるいはドライラボを暗示した図や実験データなどの豊富な資料、頻繁な「問い」の設定、問題解法に関する反復演習、数多くの生徒実験の提供、表紙裏の見返しや口絵、巻末の各欄における諸資料で強化されている。2.探究学習の要ともいうべき生徒実験について、項目数やそれらの内容に各教科書独自の工夫が見られるが、寄せられている生徒実験の機能の傾向は、化学に関する知識の理解と定着とに多くを期待しており、副次的に薬品や器具の使用およぴ科学の方法の修得がねらいとされている。生徒実験における生徒の活動は、操作上の要点に従う実験操作と操作結果の考察などと指示されているが、実験の計画や準備、ましてや後始末など生徒の自主的な活動の側についての要請が明白でないからである。このような教科書の分析結果をふまえて、筆者は高等学校化学の学習指導改善に関する3つの提言に逹した。第1:手引き書に従って実験を操作し、報告書を提出するといった伝統的な生徒実験の因習を脱して、手引書を参考にしながら計画から後始末までをやりとげる全面活動の生徒実験になるよう、生徒の活動範囲を拡張させての生徒実験に改めたい。第2:書かれ、そして解説された化学の概念の後で、実証を通しての生徒の理解と定着とを図るという、追証型の実験を減らし、化学の概念形成に生徒実験からの生きたデータが参画できるよう生徒実験を先行させる。そのような学習指導をもっと増やしたい。第3:第1および第2の提言の実現は、一にかかってそれらが可能なための時問的ゆとりを教師にも生徒にももたらすに足る学習内容の精選にある。一層厳しく学習内容の精選をできるだけの理論と実践が望まれる。第3の提言はそれである。
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