日本理科教育学会研究紀要
Online ISSN : 2433-0140
Print ISSN : 0389-9039
25 巻, 2 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
  • 丹治 一義, 碇 寛, 鈴木 正恵
    1984 年25 巻2 号 p. 1-10
    発行日: 1984年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    自己評価能力は,学習者に効力惑を培う上で重要な学力である。しかしながら,これまで自己評価が評価として位置づけられることがすくなかったのは,それが客観的評価と比べて恣意的性格の強いものとみなされてきたからである。本報では,客観的評価と自己評価の恣意的表われとの関係をできるかぎり客観的,数量的に検討した。延べ958項目の生徒の自己評価をもとに,教師の評価に対する過大・過小評価を手がかりに,自己評価の観点別,行動要素別,男女別特徴を調査すると共に,これらを評価基準との関係で考察した。その結果,次の事柄が明らかになった。1. 評価観点,A:知識・理解,B:探究の過程,C:興味・関心では,観点のちがいによって恣意的なあらわれに差があるとは言い難いこと。2. 評価が恣意的になるのは,評価基準が曖昧であったり,具体的で狭すぎるからで,行動的要素には関係ないこと。3. 同じ評価基準を教師は達成目標に,生徒は向上目標に位置づけて評価する傾向があること。4 観察法は,ずれも少なく,評価基準が他者の視線を意識させるものでは恣意性は少なく,評価法として適当であること。

  • 藤島 弘純
    1984 年25 巻2 号 p. 11-18
    発行日: 1984年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    植物の体細胞分裂観察法の一つにフォイルゲン核染色法を用いた方法がある。本法は染色体を特異的に染色することで細胞学研究の分野でよく利用されるが,細胞分裂観察実習の方法としてもすぐれた方法の一つとされている。しかし,本法を文献的に,また追試的に検討を加えた結果,従来の方法について,2,3の改善すべき点が見出された。本法でこれまで常用されていた45%酢酸の押しつぶし液に変わって,0.2%酢酸オルセインを,また細胞質の染色のためには同じく45%酢酸に代って0.5%~1.0%酢酸オルセインを用いれば,細胞分裂の過程を重視した観察実習のためには従来の方法よりも効果的であると思われた。さらに,理科の単位授業時間が50分であることを前提として,改善されたフォイルゲン核染色法の基本的手順を提案した。その要点は次の①~⑤である。①根端の採取 ②固定,酢酸アルコール(1:3)液 ③IN HCI処理,60℃ 8min。④シッフ試薬による染色,1~2hr,冷蔵庫内では24hr以上可 ⑤押しつぶし,押しつぶし液は0.2%酢酸オルセイン使用。

  • 難波 治彦
    1984 年25 巻2 号 p. 19-26
    発行日: 1984年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    国内に多く産する斜プチロル沸石の熱的特性を調べ,沸石の教育的利用と吸着剤としての教育的利用を考えた。島根県玉造産斜プチロル沸石を分離・濃集し沸石の加熱による構造変化をX線回折法により調べ加熱湿度と吸湿量の関係を熱重量分析により求めた。そして沸石の熱的性質と吸湿量の関係をもとにして教育への利用として次の4実験を試みた。1) 沸石水の確認実験 2) 空気中の湿度測定 3) ガス吸着実験 4) 混合ガスの分離実験 その結果として次の1,2のことが判明した。1. 結晶破壊を起こした沸石は吸湿作用が著しく低下するため利用にあたり注意を要する。2. 教育への利用として行った4つの実験は,中学校理科教育,高等学校理科教育において実験可能であり資源としての沸石価値を知ることに適する実験であり,身近な物質の実験材料としても適することが判明した。

  • 田村 直明, 高野 恒雄
    1984 年25 巻2 号 p. 27-33
    発行日: 1984年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    観察と記録は,科学の方法において最も基礎的な位置を占めており,理科の学習はまさにこれらに始まるとも言える。また,観察したことは,記録に表現してはじめて意味のある観察事実となり,一方,記録に表現することは,逆に観察に何らかの触発的効果を及ほすであろう。このように両者は互いに密接にかかわっており,それらの間の関係を知ることは非常に有意義である。本研究では,生物・地学分野において特によく用いられる記録であるスケッチを研究対象に取り上げた。具体的には,小学校6年生に対しアジサイとクリの葉を渡して,自由に観察させる群とスケッチをしながら観察する群とを比較分析した。その結果得られた基礎的知見は次のとおりである。(1) 観察の際にスケッチをすることは,観察の視点を選択的にし,観察を促進するだけでなく,阻害する面もある。(スケッチ効果)(2) スケッチには描いていても,それを観察事実としては意識していないという「意識化されないスケッチ」が存在する。(3) 観察とスケッチとの関係で重要な鍵となるのは,観察対象の「意識化」ということである。

  • 久田 隆基
    1984 年25 巻2 号 p. 35-42
    発行日: 1984年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    科学的記述をする上で定性から定量への橋わたしをするともいうべき,程度や量の強弱・大小などを表すことば(大きい・強い・高い・多いやこれらの反対語など)の小学校理科教科書における使用の実態についての調査結果を報告する。調査の結果,教科書の中で使われていることばの種類や使用数などについて次のような知見を得た。(1) 最も多く用いられていることばは「大きい・小さい・大きさ」であり,次いで「重い・軽い・重さ」であった。(2) 教科書の学年別使用状況については,すべての種類のことばは3年生用の教科書で出そろい,4年生用教科書で大幅に多く使われるようになる。その後も同じ傾向が続いている。また,上級学年用の教科書では,「大きい・小さい・大きさ」は非空間的な量に関するものやことの大小を表すのに使われる用例がふえている。(3) 領域別使用状況に関しては,物理領域における使用が圧倒的に多い。また,ある科学用語に対して,程度や景の強弱・大小などがどんなことばで表現されているかを調べてまとめてみたところ,次の3つの場合に類別できることがわかった。(1) 1つの科学用語に対して,1種類のことばだけが使われている場合。(2) 1つの科学用語に対して,2種類またはそれ以上のことばがそれぞれ異なった意味で使われている楊合。(3) 1つの科学用語に対して,2種類またはそれ以上のことばがほぼ同じ意味で使われている場合。上記の知見に基づき,これらのことばの使用上の問題点や指導上の留意点などを指摘した。また,これらのことばの使い方について,科学用語と抱き合わせて検討することを提言した。

  • 角屋 重樹
    1984 年25 巻2 号 p. 43-50
    発行日: 1984年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    本研究は,仮説テスト方略に影響すると考えられる2つの要因(専修差,条件推論操作)を検討するとともに,学生が仮説をどのように解釈しているかを調べることから,教育学部学生の仮説テスト方略の実態を解明しようとした。このため,選択法による4種の仮説テスト方略課題と評価法による条件推論課題4つから成る質問紙調査を行った。 4種の仮説テスト方略課題とは封筒,発芽,4枚カード,および脂質の各問題であり,4つの条件推論課題とは前件肯定,前件否定,後件肯定,および後件否定の各問題であった。対象は,教育学部学生(主に3年生)185名であった。結果は次のようになった。(1) 4種の課題に現れた仮説テスト方略には,専修差が見られなかった。(2) 仮説テスト方略と条件推論操作との間には,対応関係が見られなかった。(3) 約50~55%の学生が,仮説を双条件文として解釈していた。

  • 三島 嶽士
    1984 年25 巻2 号 p. 51-56
    発行日: 1984年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    一般に天体現象は,場所と時刻に依存するため,教材研究のための充分な資料は印刷物としては得られない。そこで,マイクロコンピュータを用いて天体の位置を計算させ,小・中学校の教育内容を踏まえて天体現象の教材研究用プログラムを作製した。プログラムは,場所の選択と年・月・日等の入力により,任意の場所,任意の日時の天体現象のシミュレーションを行うようになっている。今回,作製したプログラムは,日影曲線と月の動きに関するものである。本プログラムを用いて教材研究を行うことにより,天体現象を充分に把握することが可能で,地域に密着した適切な指導計画をたてることが期待できる。また,子供の観測したデータを吟味したり,直接,教材としても利用できる。勿論,学部学生に対する天体教材の指導にも使用できる。このプログラムは,現場教師から,高い評価を得た。

  • 流田 勝夫
    1984 年25 巻2 号 p. 57-63
    発行日: 1984年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    教育現場に普及しつつあるパソコンを用い,地域の特性を図形化することを地学領域で試みた。人類との関りが密接な宮崎市の沖積世平野を題材としてとりあげ,都市化でその全体像の把握がむづかしくなっているので,いくつかの地形を図形化した。生徒が教師と一緒に現地を視察できること,自然に対する人間の営みの歴史が推測・検証でき,教科書の記述がその地域で体験できることを主眼としている。筆者等の開発したプログラムで各地域の教材作成を行い,データ作りに生徒が参加できるプロセスの工夫を積極的に進めると教育効果が上ると思われる。

  • 小川 正賢, 高野 雅英, 高瀬 一男
    1984 年25 巻2 号 p. 65-72
    発行日: 1984年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    VTR教材を製作する場合にBGMを挿入すべきか否かを判別しうる規則があれば,VTR教材を自作するのに好都合である。本研究は,予備的段階として,実際のVTR教材を分析してそのような規則を抽出することが原理的に可能か否かを調べることを目的としている。NHK学校放送「小学校理科教室」シリーズから36番組540シーンをとりあげ,そのBGM挿入手法を多変量解析法の一種である林数量化II類を用いて解析した。その結果,原理的にはこの方法を用いて,BGMを挿入すべきか否かを判別する実用的な経験則を抽出できることがわかった。

  • 兼松 馨
    1984 年25 巻2 号 p. 73-79
    発行日: 1984年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    金属の酸化や金属酸化物の還元の学習は,中学校における化学変化の概念形成に重要な教材であり,中学校学習指導要領理科第一分野(3)物質と原子,イ 化学反応(ア),(イ)の質量保存の法則,定比例の法則の中心教材として位置づけられている。金属の酸化については,「閉じた系内における金属の燃焼実験装置」を開発したので,金属酸化物の還元についても,閉じた系内(水素中)で爆発の危険性が全くなく,操作が簡単で生徒実験として行わせることのできる実験装置の開発のために本研究を行った。反応管(ガラス管)にポリ袋をつけ,その中に金属酸化物と水素だけの閉じた系を作り,温度コントロールと加熱範囲を拡大するために,ニクロム線を用いた発熱管で反応管の外部から加熱する本実験装置による還元実験を行ったところ,次の結果を得た。(1) 生徒実験用装置 ①黒色の酸化銅(II)が金属光沢をした銅に変化していく様子が観察でき,酸化銅(II)と銅の質量比CuO/Cuは実験誤差の範囲内で理論値である1.25を得た。②還元の進行と同時に,系内に水が生成されることが視覚でとらえられ,酸化銅(II)の重量減少分と水素の減少量分だけ系内で水ができることが,実験誤差の範囲内で検証できる。③定性的に水素の消費が確かめられる。④爆発の危険性が全くなく,操作が簡単である。(2) 演示実験用装置 ①酸化銅(II)以外の金属酸化物―SnO2, PbO, Pb3O4, Cu2O, Fe2O3―を還元することができる。

feedback
Top