新型コロナウイルス感染症の流行は社会のあらゆる分野に多大な影響をもたらしたが、それはモビリティの分野においても同様である。旅客輸送においては大幅な需要減少がみられたのに対し、物流、特に宅配輸送においては需要の伸びが顕著である等、人々の生活や社会構造に起きた変化の影響が如実に反映された。仮に人々の生活様式が一定程度、不可逆なものとして長期的に残存するならば、モビリティを取り巻く環境も、従前には戻らない可能性がある。本稿では、かかる動向を踏まえ、今後のモビリティのあるべき姿、目指すべき方向性についてアカデミアの視点から議論した結果をまとめたものである。
20㎞/h未満の電動車を活用した小さな移動サービスであるグリーンスローモビリティは、2010年代に輪島や群馬で取り組みが開始されたものをルーツとする。ゴルフ場で使われるゴルフカートを公道で走らせるには多大な苦労があり、本稿では、輪島での取り組みの歴史を示し、そこに込められた関係者の思いから、後にグリーンスローモビリティと命名された電動小型低速車の利点などを述べていく。さらに、その後の動き等を示し、今後に向けた展望を記す。
中山間地域である秋田県北秋田郡上小阿仁村(かみこあにむら)の道の駅「かみこあに」を拠点とし、内閣府・国土交通省による戦略的イノベーション創造プログラム(SIP事業)の枠組みを活用した自動運転サービスが、実証実験を経て、2019年11月30日から社会実装が実施されている。自動運転サービスの導入経緯および現状について報告する。
「モノを動かす」ということは、経済活動の基本的な行為であり、物流はフィジカルインターネットとも呼ばれるほど、インフラに近い存在である。しかし、生産年齢人口の減少や物流量の増加に伴い、配送行為の末端の現場への負荷が非常に高くなっている。本稿では、こうした社会課題を解決するために活躍が期待されている屋内での配送ロボットや、近年、注目度が高まっている屋外、特に公道での配送ロボットの開発、実証、実用化の状況について論じる。そして、搬送ソリューションとして継続的に事業を行うために必要なステークホルダーへの役立ちや社会受容性の実現状況についても紹介する。
道路では、限られた空間をさまざまな主体が共有しなければならないという難問に、これまでさまざまな関係者が頭を悩ませ、知恵を絞ってきた。近年では新たなモビリティの登場もあり、共有の仕方をさらに考えるべき時期が来ている。本稿では、交通規則を最小限にして歩車分離を無くし、交通主体の注意力を向上させることで安全な道路を実現するという思想から始まった「シェアードスペース」の概念について、より歩行者の安全性や快適性に重きを置いた普及が進んでいるという事例を見ながら、今後の道路の共有について考える一助としたい。
欧州では人力キックボードは玩具、電動のものは車両とする枠組みが整い、道路交通上は、おおむね自転車の規則を援用する方向性に落ち着きつつある。電動キックボードのシェアサービスでは、違法駐輪と都市内での偏在が大きな課題である。行政によるモニタリングの仕組みの構築と、前者に対しては、さらに事業者の撤去責任を制度化し、これら課題に対処する方向である。都市交通全体の中で、電動キックボードが徒歩など、他の交通手段をどう代替し、その結果、交通政策目標に対して、どのような影響を及ぼすかは、さらなる研究が必要と考えられる。
新たな電動モビリティの安全性の課題を検討するために、原動機付自転車、自転車、車いす等が関係した交通事故に関して、ヘルメット、走行位置、縦断勾配、尾灯、前照灯、運転免許の有無に着目した分析を実施した。ヘルメットは、高速での衝突時に効果が高いこと、車種ごとに縦断勾配別事故発生割合が変化すること、尾灯、前照灯の見えやすさが不足している場合があること、運転免許保有者は自転車通行方法の遵守割合が高いことなどが示され、新たな電動モビリティの安全面のさまざまな課題が推察された。
電動キックボードは、自転車と同程度のサイズや速度帯であるが故に、利用者が交通ルールを必ずしも守らず、道路環境に応じて走行位置を変える恐れがある。本研究では、アンケート調査を行い、電動キックボード利用時の希望通行位置と個人属性や道路交通条件との関係性を分析した。歩車道区分がある道路では、路肩幅員が広いと路肩や車道走行を選択しやすく、区分のない道路では、歩行者交通量が多いと車道を、自動車交通量が多いと路側帯を選択することがわかった。また、普段利用する交通手段と通行位置選択傾向の関係を明らかにした。
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