交通社会資本の老朽化に対する公共政策の推移を、道路施設を中心に概観する。公共によるインフラ老朽化対策は3層からなる。国全体による体系的な対策は、2012年12月2日の笹子トンネル事故を起点として開始された。国土交通省のそれは当該事故の直前より立案されていた。また、道路施設の老朽化対策はそれより前から取り組まれており、国全体の対策指針の作成を先導した。5年周期のPDCAサイクルは一回りし、道路施設の老朽化対策の体制は完備したように見えるが、2つの課題が残存している。それは、財源確保とインフラ縮退への対応である。
本稿は、内閣府が公表している「日本の社会資本2017」の社会資本ストックデータを用いて日本のインフラの老朽化の現状を明らかにしている。社会資本ストックデータに基づく老朽化指標から、部門別に差異はみられるものの、都市の規模による老朽化度合いの差異はほとんどみられなかったことが明らかになった。また、インフラの老朽化は、全ての部門で進んでおり、インフラの質を維持するための資源投入が不十分であることが明らかになった。
NEXCO中日本が管理する高速道路は総延長約2,100㎞で、その約6割が開通後30年以上を経過している。特に、首都圏・東海圏・関西圏の東西軸を結ぶ東名高速道路、名神高速道路の全線が開通後50年を経過し、全国の高速道路の中でもNEXCO中日本が管理する高速道路の老朽化が顕著である。重要な交通インフラである高速道路を持続的に良好な状態に保つとともに、より一層の安全・快適な高速道路空間を確保するため、橋梁床版の取替等の高速道路リニューアルプロジェクトに取り組んでいる。
わが国の道路整備の方向の一つとして、「交通を通す断面」としての量的整備から、「拠点間の移動性」という視点に軸足を移し、つかう時代に合った幹線道路ネットワークへの再編の必要性が挙げられる。拠点間の移動において、沿道アクセス性や移動性といった階層の異なる道路が効率的に利用され、拠点間の目標旅行時間が定められたとき、それを実現できる階層の組み合わせの中で幹線道路ネットワークも位置づけられる。本稿では、これらについて説明した上で、幹線道路が有すべき速度サービスを実現するために不可欠な幾つかの要件について論じている。
歩行者の交通安全が依然、大きな課題となる一方、対策としての信号機の老朽化や維持管理費用の増大も問題となっている。信号に頼らずに安全な横断機会を与えるための横断施設として、無信号横断歩道の構造改良、特に単路部の二段階横断が近年注目され、国内の導入事例でも、車両の停止遵守率や速度抑制等の面から高い効果が得られている。本稿では、無信号横断施設の構造改良による安全・円滑性の向上効果や道路階層に応じた設置の考え方について、国内外の事例を整理する。
富山市はJR西日本から老朽化したローカル鉄道の富山港線を引き継ぎ、約3年間で全国初の本格的LRTとして再生した。そして、その開業は、全国の関係者に大きなインパクトを与えることとなった。運行を第三セクターの富山ライトレール㈱が担い、施設の建設・維持管理等は富山市が担う、公設民営方式を導入するという特徴を有し、富山ライトレール㈱の経営の安定を図った。また、日中の運行を15分間隔(JR時代の約3.5倍に増便)としたことや新駅を設置する等、利便性を格段に向上させたことにより、利用者数は、平日約2.2倍、休日約4.7倍に増加し、収支は黒字となった。
今後しばしば起こることが予想される高速鉄道の大規模更新について、どのような政策的対応を取るべきであるかということに関する論点を整理する。また、現行のプロジェクト評価手法が大規模更新を想定しているか、代替交通機関・代替鉄道路線の中でも特に並行在来線は、更新時の需要の受け皿として機能しうるか、更新時の費用負担や行政の支援はどうあるべきかという観点から、大規模更新を視野に入れた新しい政策の枠組みの必要性が主張される。
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