聖武天皇の治世下にあたる735(天平7)年・737(天平9)年、深刻な被害をもたらした疫病が起こった。本稿では、この疫病の実態を多面的に浮かび上がらせることを目的として、その被害状況について確認した上で、その交通に関わる諸現象を中心に検討を行った。具体的には、疫病を退散させるための道饗祭、対外交通に伴う疫病流入の可能性、治療法を記した太政官符の伝達方法、藤原麻呂という貴族に関わる呪符木簡と奥羽連結道路の建設事業について取り上げた。
本稿では、石見国(現・島根県西部)浜田外ノ浦の清水家所蔵の『諸国御客船帳』(1744〜1901年)を活用し、讃岐国(現・香川県)の粟島と若狭国(現・福井県南西部)の早瀬を事例に、北前船をめぐる海上文化史を論じる。この客船帳には、船印や帆印の他に船名、船籍、船主、沖船頭、入港や出港年月日なども記載されていた。また、売買記録から、当時の商品流通を知ることもできる。瀬戸内海に位置する粟島や若狭湾の早瀬は、日本海沿岸の諸地域と隣接諸国、時には大坂との中継ぎ港として重要な役割を果たしていた。
本稿の目的は、フランスにおいて都市間鉄道の時間帯・曜日別運賃が広く支持されている要因を2種類の社会・文化的側面から解明することである。第一の側面として、フランスでは、通勤・通学客を主体とする都市内交通と観光客を主体とする都市間交通が明確に区別されていること、第二の側面として、フランスに固有の政府のエンジニアが公共交通の価格設定や差別料金の理論化に取り組み、差別料金が社会全体の利益に貢献することが納得的に示されたことを明らかにした。
自動車の登場によって私たちの生活は大きく影響を受け、自動車にまつわる文化は、さまざまなところで生まれてきた。その中には自動車自身にまつわるモノの文化もあるが、生活のさまざまな場面で自動車によって形作られたコトの文化も多くある。ここでは、モノの文化としてインターフェースに関わる文化と、自動車によってライフスタイルが形作られた例として外食文化とアウトドア文化について、その歴史的背景も含めて紹介する。
アメリカの経済格差は、シカゴ等に代表される大都市圏において構造的であり、陸上交通システムもその格差構造に属している。人種や所得で居住地が分断され、それが交通モード選択に影響を与えている。富裕層は大都市郊外のカウンティに居住し、クルマ通勤を、貧困層は都心に居住し、公共交通機関を利用している。本稿は、アメリカ大都市圏の交通に関する人々の経済的・文化的な価値や慣習を「交通カルチャー」と定義した上で、都心の貧困層を交通面から支援する福祉政策の意義について、再分配政策の視点から評価する。
わが国の自転車文化は、欧米諸国とは異なる独特の発展を遂げてきた。本稿では、自転車利用環境を構成する要素を筆者なりに整理した後、わが国の自転車文化形成において重要な役割を担っているのがママチャリであるという立場から、傘差し運転、ながらスマホ運転、子供乗せ自転車等を取り上げ、筆者のこれまでの研究成果も紹介しながら、これからの都市における一交通手段としての自転車について、思うところを述べてみたい。
本稿では、都市交通計画の中の公共交通としての都市バスシステムを対象に、バスの持つ文化的な視点を踏まえ、バスの特徴といえる即地性、多様性、そして、しぶとさの3つの切り口で、具体的な事例を踏まえて議論を展開した。次に、それを基に、未来の都市交通の重要な3つのキーワード、walkable、reliable、enjoyableとバスとのつながりを論じた。さらに、以上の議論を基に、自動運転やMaaS等に代表されるモビリティ新時代ともいえる、現代から未来に向けての都市バスシステムは、どうあるべきなのかを考察した。
「飛び出し坊や」とは、子供の飛び出しに対する注意喚起をドライバーに促すために設置された、子供などの絵が描かれた看板である。滋賀県内では多数の飛び出し坊やが設置されている。これらは自治会やPTAなどの地域住民が自主的に設置したり、地域住民からの依頼によって地域の交通安全協会が設置したりしているものであるため、地域住民がどのような箇所を危険と感じているかを把握することができる。本稿では、滋賀県草津市、大津市の4小学校区を対象に「飛び出し坊や」の設置状況の実態調査を行い、その特徴を分析する。
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