生命倫理
Online ISSN : 2189-695X
Print ISSN : 1343-4063
ISSN-L : 1343-4063
31 巻, 1 号
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
目次
巻頭言
依頼論文
  • 児玉 聡
    原稿種別: 依頼論文
    2021 年 31 巻 1 号 p. 4-11
    発行日: 2021/09/28
    公開日: 2022/08/01
    ジャーナル フリー

     COVID-19(新型コロナウイルス感染症) のパンデミックについて、生命倫理学が検討すべきなのはパンデミック対策の倫理性、すなわちパンデミック対策のために行われる政策や活用される科学技術の持つ倫理的・法的・社会的含意である。本稿では主に公衆衛生的な側面に議論を絞り、市民的自由の制限、公平な資源配分、予防行動の責任という三つの倫理的課題について論じる。これらは生命倫理学においてこれまでにも議論されてきた問題であるが、今回のパンデミックにおいて、改めてその重要性が浮き彫りになったものと言える。いずれも直ちに答えの出せる問題ではなく、本稿でも主に課題を説明するだけに留まるが、理論的かつ実践的な課題として今後十分な議論が必要である。今回のパンデミックを受けて我々にできることは、生命倫理学の観点からパンデミック対策を詳細に吟味することにより、この経験から少しでも多くの教訓を学び、次回以降のパンデミック対策に活かすことである。

  • -生政治と生命倫理の交点-
    美馬 達哉
    原稿種別: 依頼論文
    2021 年 31 巻 1 号 p. 12-19
    発行日: 2021/09/28
    公開日: 2022/08/01
    ジャーナル フリー

     2020年に発生したCOVID-19のパンデミックによって、世界各地で医療資源(特に人工呼吸器に象徴される二次救命措置の可能なICU病床)が逼迫し、その配分の必要性がICUトリアージとして論じられた。本稿では、①高齢者の扱い、②医療資源配分時の優先順位、③医療資源再配分の問題の三つを中心に、パンデミック時のICUトリアージについての生命倫理学的な議論を概観した。そして、①年齢を治療の除外基準とすることは高齢者差別になること、②優先順位については、不要とする説、医学的必要性による順位とする説、治療的有効性による順位とする説があったが、トリアージの有用性に関するエビデンスが不十分であること、③功利主義的なICUトリアージで医療資源を再配分することは刑法上の問題になり得ることを指摘した。また、生政治の観点から、パンデミックのような例外状況で功利主義的なトリアージが論じられる意味を分析した。

報告論文
  • -生殖補助医療/技術に関する臨床研究の倫理課題-
    松井 健志, 高井 ゆと里, 山本 圭一郎, 井上 悠輔
    原稿種別: 報告論文
    2021 年 31 巻 1 号 p. 20-28
    発行日: 2021/09/28
    公開日: 2022/08/01
    ジャーナル フリー

     従来、革新的な生殖補助医療/技術(ART)は、通常の医療技術開発のプロセスと異なり、臨床研究はおろ か、それ以前の基礎研究や動物実験での十全な検証を経ないままに、「診療」の名の下で一足飛びに人で臨床応用され、通常医療に導入されてきたという特殊性を有する。またそのため、ARTをめぐる研究倫理上の問題は、従来の生命倫理上の議論から抜け落ちてきた。しかし近年、革新的な現代のARTの多くが臨床研究の段階を経る方向へとシフトしつつある中で、被験者保護を主題目とする研究倫理から見たARTの臨床応用をめぐる問題について検討することが必要となっている。本論では、ART臨床研究の倫理的な特殊性について検討し、その特殊性ゆえに、ベルモント・レポートに基づく既存の研究倫理の原理的枠組みでは捉え切ることのできない困難な問題をART臨床研究が抱えていることを論じる。

  • 高井 ゆと里, 松井 健志
    原稿種別: 報告論文
    2021 年 31 巻 1 号 p. 29-36
    発行日: 2021/09/28
    公開日: 2022/08/01
    ジャーナル フリー

    COVID-19パンデミック下において、研究者たちは新型コロナウイルスと対峙するための治療法やワクチン の開発に挑んでいる。しかし、そうした治療薬やワクチンの殆どすべては、妊婦に使用されることを想定していない。それらが妊婦に使用される場合の有効性や安全性は、研究されていないのである。妊婦という集団 は、COVID-19関連研究から排除されることによって、COVID-19に対処するための治療やワクチンから遠ざ けられている。歴史的に、妊婦は臨床研究から排除されてきた。それは妊婦と胎児を守るという「倫理的な理由」に基づくものであった。本論文では妊婦が研究から排除されてきた歴史を整理したのち、妊婦の積極的な研究包摂を説く議論や運動が近年急速に高まっている米国の状況を確認する。その作業を通じて、妊婦の研究包摂を積極的に支持する議論を正当化するにあたって「正義」の概念が重要な役割を果たすことを確認する。

  • -先天性異常による免責が争われた裁判例を踏まえた考察-
    村岡 悠子, 加藤 和人
    原稿種別: 報告論文
    2021 年 31 巻 1 号 p. 37-45
    発行日: 2021/09/28
    公開日: 2022/08/01
    ジャーナル フリー

     昨今、民間保険会社において遺伝情報の利用規制に関する検討が重ねられている。本稿では、契約後に発病した被保険者の疾病が遺伝性疾患であることを理由に、支払査定時に「先天性条項」を適用して保険会社の免責を認めた裁判例から、遺伝情報の利用規制において検討すべき課題を明らかにする。同裁判例は、遺伝子検査によらず臨床診断に基づき遺伝性疾患と診断された場合、被保険者が当該疾患により不利益な取り扱いを受けても遺伝情報に基づく差別的取扱いと認識されないこと、そのため、遺伝情報の利用規制によっても不利益取扱いを回避できず、規制の趣旨を没却する可能性があることを示唆する。医療情報と遺伝情報の峻別が困難であることを前提に、利用規制が対象とする「遺伝情報」とは何なのか、議論を尽くす必要がある。さらに、遺伝性疾患を有する者に生じる本裁判例のような不利益に対しどのような介入が可能なのか、保険業界のみならず社会全体でのオープンな議論が望まれる。

  • 秋葉 峻介
    原稿種別: 報告論文
    2021 年 31 巻 1 号 p. 46-54
    発行日: 2021/09/28
    公開日: 2022/08/01
    ジャーナル フリー

     COVID-19感染拡大に伴う「緊急事態」における自他関係は相互的/互恵的な関係が前提となっており、自 己への配慮と他者への配慮とが一致するような議論が活発化している。とりわけ注目を集めているのが医療資源の不足をめぐる議論、緊急事態におけるトリアージの議論である。従来からも様々に論じられてきた主題であるが、今般の議論においては〈緊急時におけるトリアージに関する問題〉と〈自己決定における自他関係の問題〉とが混在し、論点と批判とが相互に合致していない。そこで本稿では、まず、「COVID-19の感染爆発時における人工呼吸器の配分を判断するプロセスについての提言」を参照しつつ、〈緊急時におけるトリアージ に関する問題〉と〈自己決定における自他関係の問題〉 との関係を検討する。そのうえで、他者への配慮としての「自己への配慮」を手掛かりとして自己決定と「関係的自律」との関係を検討し、全体の理論構造を明らかにする。

  • -関係的自律の検討を通して-
    田淵 綾
    原稿種別: 報告論文
    2021 年 31 巻 1 号 p. 55-63
    発行日: 2021/09/28
    公開日: 2022/08/01
    ジャーナル フリー

     バイオエシックスにおいて、自律の尊重は自己決定権と強く結び付けられて議論された。その自律概念は患者の社会的文脈や対人関係を十分に考慮しないため、医師が患者を過度に非自律と判断し、パターナリズムを 正当化すると批判されてきた。本論文は、バイオエシックスの自律概念を批判する議論の中から、2000年以降 の「関係的自律」を巡る議論に注目し、特に自律に関する「強い実質的説明」、「弱い実質的説明」、「自己応答可能性」を条件とした説明をとりあげて、個人的自律の問題を克服し、医療者が患者の選択や行為を支えるような自律の尊重のあり方を検討した。その結果、自己応答可能性による説明が医療・ケアに応用可能で、より望ましい自律を提供すると評価した。この説明は、患者を自律的か非自律的かに分けるのではなく、自律を程度の問題として多様に捉えることを可能にし、医療者が非自律的な患者に対する侮蔑的態度の形成を回避し、全ての患者に対する寛大で、粘り強い態度を形成することを促すことが期待できる説明といえる。

第32回日本生命倫理学会年次大会プログラム
著作権規定と投稿規定
編集後記
feedback
Top