日本で大学の第三者評価制度が導入されてから20年が経つ.本稿ではこの間を振り返り,日本の大学評価の特徴はどのようなものであり,その焦点や方法がいかに変化してきたかを検討する.認証評価も国立大学法人評価も導入時には各大学の理念や目的・目標を重視し,評価を通じてマネジメントサイクルの確立を求め,評価結果の比較可能性を否定してきた.それゆえに評価への関心も高まらず,別の評価類似の取組が生まれることとなった.しかし,次第に学修成果の測定や研究成果の多面的測定が求められ,国立大学法人評価では分野ごとの共通的な観点や指標も検討されるようになってきた.さらに近年は,内閣府や財務省等から大学の教育研究の成果に対する客観的評価の要請も強く示されるようになっている.それに応えるためには,大学評価は制度的な見直しが必要となる.
導入から16年が経過した認証評価は,その目的である質の保証・改善については一定の成果がみられる一方,「社会への説明責任」は十分に果たしきれていないことへの懸念が示されてきた.法令適合性を重んじた外形的評価の限界や質保証の国際スタンダード化を背景として重点評価項目となった内部質保証には,今後,学生が身に付けるべきアウトカムを基軸とした「学位プログラム」の構築をはじめ,教育プログラムの質保証のより一層の充実が求められる.学修者主体の教育と学位等の国際通用性の確保を目指し,認証評価が高等教育と社会とを結びつけるプラットフォームとして機能していくために,社会的目線を伴うアウトカムに紐づいた参照基準や資格枠組みなどを,質保証制度に組み込んでいくことが重要である.
本稿では,「大学評価と資源配分の関係性」を主題とし,国立大学法人評価委員会による国立大学法人を対象とした法人評価の仕組みと近年新たな枠組みによる評価の仕組みが取り入れられたことによる資源配分との関係性,そして私学の資源配分にも競争的観点が取り入れられたその影響を検討する.その際,米国における州を中心とした評価と資源配分の関係性を検討することにより,日本との差異を明らかにし,日本における評価による資源配分が内包する問題を検討する.日本が文部科学省による中央統制システムの中で,全国の国立大学法人を対象として,かつ私立大学の助成も共通指標で評価しているのに対し,米国の評価と資源配分は州内のみの公立機関を対象に実施し,私立大学は評価と資源配分の対象にはならないという特徴がある.
日本の学術研究活動の水準は論文の被引用度等の指標において他の主要国に劣るという指摘があり,その改善に向けた論議も展開されている.日本の学術研究活動の向上のためには,他国の事例を参照しつつ日本の現状の理解を深めることも重要と考えられる.米国,ドイツ,英国はそれぞれ異なる学術研究システムやそれに対する支援システムを有しているが,本稿においては特に基盤的資金と競争的研究資金によるいわゆるデュアルサポートシステムについてそのメカニズムと評価について概観する.日本においては基盤的資金と競争的研究資金の一体的な改革が提案されているが,海外事例との比較を通して日本の取り組みへの示唆を探る.
国際的な成果主義・業績主義の流れの中で,教員の人事評価がいかなる背景と理論を持っているか,また,どの程度我が国で適用されているかを個別大学レベルで分析した.得られた結果は,成果志向・業績志向は政府・文科省の大学改革により急速に強まり,人事評価の結果を処遇に反映させることも浸透しつつあることである.この背景には,NPMの成果主義とスタッフの業績に応じた報酬を与えることでモチベーションが高まるとする期待理論がある.しかし,大学教員の教育・研究・社会貢献の成果を同精度で組織への寄与を含め測定することは,容易なことではない.したがって,人事評価の展開に際しても,業績測定の改善や教員の動機づけ要素並びに報酬の財源などに注意を払う必要があろう.
今日,質保証の観点から,教育の評価とマネジメントに関する課題を大学の内部質保証の推進課題として捉えることが必要となっている.本稿は,大規模大学の立命館大学および関西大学,小規模大学の清泉女子大学における内部質保証システムや教学IRの実践等に関する特質および課題を検討する.これらの大学は,いずれも2018年度に大学基準協会による第3期認証評価において適合となっている.たとえば,立命館大学は教学,教育研究等環境,入試,学生,大学運営・財務,社会連携の部門等に適切に対応した内部質保証システムを活用しており,そのシステムは大学の重層的な組織構造を認めるものとなっている.三つの大学の事例検討を通じて,大学におけるプロアクティブな教育の評価とマネジメントのあり方について論じる.
本稿は,主に2000年以降の20年を対象期間として,学習者や大学・高等教育機関の国際的な移動や活動に関わって,高等教育の取組みがどのように展開し,また,国際的に連携してきたのか,そのことは,大学の現場にどのような影響をもたらしてきたのか,さらに,今後の課題と展望はどのようなものかを,特に日本のあり方に焦点を当てて,世界の多様な動向を踏まえた上で明らかする.高等教育の質保証の国際的連携に関わる様々なアクター間の相互作用の分析により,日本では国際的動向を反映した質保証や評価の制度的精緻化は進行しながら,これが国際的な学生や人の流動性を高める推進力としては直接作用しておらず,各大学・高等教育機関が自らの包括的な国際化に主体的に関わる形で国や社会と対話し連携することが要請されていることを示す.
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