高等教育研究
Online ISSN : 2434-2343
13 巻
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
特集 スタッフ・ディベロップメント
  • プログラム化・カリキュラム編成の前提のために
    寺﨑 昌男
    2010 年 13 巻 p. 7-21
    発行日: 2010/05/25
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     職員の組織的な能力開発(SD)は,その必要性と重要性にもかかわらず,効果的なプログラムの実現,体系的なカリキュラムの編成の面で多くの課題を抱えている.本稿では,現在日本の大学で実現されている五つの能力開発ステージを取り上げて,おのおののメリットとデメリットを点検し,今後の活用方法を考察する.次いでSD のミニマム・エッセンシャルズを,①大学の本質への理解,②自校理解の形成,③大学政策への理解という3点に絞って提言する.さらにSD の目標は企画能力の養成にあるのではないかという観点から,職員のライフステージに即応したSD プログラムが必要ではないかと論じ,さらにFD と結合したSD のあり方を論じ,職員の専門性を保障する人事コースをどのように創るかというテーマについて提案を試みる.

  • 羽田 貴史
    2010 年 13 巻 p. 23-42
    発行日: 2010/05/25
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本論は,近年勃興している大学職員論のメタ評価を試み,高等教育研究としての課題を整理したものである.近代日本の大学制度の展開において,国立大学職員組織は,幹部職員と大学採用の格差構造,大学職員と文部省職員の二重構造,学長と事務局長の二元構造という特徴を持つようになった.60年代の大学紛争後に,大学運営の民主化としてこの二元構造の克服が提唱されたが実現せず,90年代には少子化などを背景に,私学の大学職員論が生起し,1998年大学審議会答申を機に,国立大学職員論も展開されるようになった.しかし,国立大学職員論には,教員と職員の対抗図式の上に立って,職員の役割拡大と専門性向上を主張し,国立大学の職員組織の構造が視野に入っていないなどの問題がある.大学職員論を発展させるための研究的な課題と,高等教育研究を発展させるための大学職員論の課題双方を指摘した.

  • 大学職員の視点から
    福島 一政
    2010 年 13 巻 p. 43-60
    発行日: 2010/05/25
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     大学がユニバーサル化段階に入ったと言われ,大学職員の能力開発(SD)の必要性が強調されている.しかしながらその実態は,研修の積み重ねであったり,スキルアップに傾き過ぎているように思えてならない.大学職員の視点から,SD の目的を「大学改革実現へのマネジメント業務のできる職員の能力開発」と定め,その目的達成のためには,大学職員は,自律的・組織的にSD に取り組む必要性があると同時に,大学は職員への大胆な権限委譲を行う必要があるとの問題提起をしている.大学行政管理学会のSD プログラム検討委員会での検討も踏まえて,職員の能力開発についての政策動向や,大学関係団体の取組やいくつかの大学の事例も紹介し,今後の課題についても言及した.

  • 加藤 毅
    2010 年 13 巻 p. 61-79
    発行日: 2010/05/25
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     大学を取り巻く経営環境の悪化や,求められる経営の質の高度化・複雑化を受けて,大学職員に対する期待や要求が高まりつつある.断絶的ともいえる大きな改革を実現するための有効な手段となることが期待されるSD に関して,過去十数年間の間にさまざまな議論が蓄積されてきた.そこで展開されるSD 論は,意欲ある大学職員を励まし,時には理論的支柱となり,あるいは旺盛な学習意欲を受け止めるという重要な機能を果たしてきた.同時に,SD の必要性に関する社会的認知も高まり,SD 論に対して,個別性の高い具体の問題状況に応えることが求められるようになりつつある.

     ところが現実には,現時点においてSD は,大学経営の効率化や高度化という目的を達成するための,可能性を有する手段の一つに過ぎない.そのため,本来であればSD の有効性に関する説得的な議論や,質の高い職員を効率的に養成するためのSD の在り方の解明がすすめられるべきところ,「権威主義的な考え方」のもとで,SD 論はこういった課題への取り組みをほとんど行ってきていない.最近になってようやく,大学院教育を含む研修全般について,業務実績と結びつけることの重要性が認知されるようになり,そのための方策が模索されはじめた.

     他方,これからのSD の在り方を考える上で必須と考えられる現状の理解水準についても,十分とはいえない.例えば,大学経営の現場では,従来型業務の効率化や高度化は依然として大きな課題として残されており,これに加えて,問題発見や課題解決などの業務に対応するための新たな取り組みが求められつつある.正反対の性質を持った2つの要求の板挟みにあい,大学職員は引き裂かれつつある.この重要な動向についても,従来のSD 論ではほとんど理解されていない.

     このような問題状況の中で,本研究では,我が国において実践されている先進的な研修の試みについて,インテンシブな調査および分析を行った.その結果,業務と研修が一体化することにより,業務の効率化と高度化が同時に実現するとともに,担当者に求められる新しい実務能力も着実に向上する,という,SD における新たな構図(OJD2)の可能性を見いだした.そしてこの構図の延長上に,先進的な大学の現場で,業務プロセス全体が研修プログラムとして機能するというスタイルのマネジメントがすでに展開されていることを発見した.

  • 小貫 有紀子
    2010 年 13 巻 p. 81-100
    発行日: 2010/05/25
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本研究は,我が国の教育支援に携わる職員の専門職能開発への示唆を得るために,過去20年間における米国学生担当職の専門職能開発の体系化を取り上げた.その目的は,質保証制度としてのPD の位置づけや,近年の大学教育改革の影響によるPD の新たな展開と専門性の変化について明らかにすることである. 現在,米国学生担当職のPD は,実践活動の質を保証するための重要な要素として位置づき,質保証モデル自体は,徹底した同僚主義と市場の調整によって保たれている.また,学生の学習に焦点化した学生支援活動のあり方は,学生担当職の専門的コンピテンシーの統合への原動力となるとともに,その専門性の中心要素として,アドバイジングなどの学生に直接関わるスキルが求められるようにと変化していることが明らかとなった.

  • 特集の趣旨をめぐって
    伊藤 彰浩
    2010 年 13 巻 p. 101-112
    発行日: 2010/05/25
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     近年スタッフ・ディベロップメント(SD)への関心が高まってきた.その背景には,職員が大学運営の主要な担い手とみなされるようになってきたこととともに,そのことと連動して職員のための学会や大学院が相次いで創設されたといった事情がある.今号の特集ではこうしたSD をとりあげ,それがもつ課題と,今後において高等教育研究としてのSD 論が向かうべき方向性について検討することを試みた.本稿では以上のような特集の趣旨とその背景を明らかにするとともに,5本の特集論文の内容を検討し,そこに指摘された今後の検討課題を整理する.そして,実践と研究との往復関係をもった学術研究としてのSD 論のさらなる展開の必要性を論じた.

論稿
  • 米国のインスティテューショナル・リサーチに注目して
    中島 英博
    2010 年 13 巻 p. 115-128
    発行日: 2010/05/25
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿では,米国の大学を対象にして,IR 室の経営支援機能の必要性について実証的に分析することを目的とする.本稿では,学長の当該大学における学内経験が,組織内で経営の意志決定に必要な情報を収集するチャンネルを増やす効果があると仮定し,学長の学内経験と,IR 室の規模,および,経営情報システムの設置状況の関係を検討した.本稿の主要な結論は,米国では,学内の情報流通チャンネルを持つトップがいる大学ほど,IR 室の機能は縮小し,経営情報システムが置かれない傾向があるというものである.この結果は,トップマネジメントの多くを学内から輩出している大学では,経営支援の専門部署としての役割や,IR 専門職人材の育成は,必ずしも必要とはいえず,IR 室は事実データの収集とその流通を担う機能が望ましいことを示唆する.

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