高等教育研究
Online ISSN : 2434-2343
12 巻
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特集 変容する大学像
  • 構造・機能と変容に関する定量分析
    村澤 昌崇
    2009 年 12 巻 p. 7-28
    発行日: 2009/05/23
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     近年の我が国の高等教育は,機関間の機能別分化を要請しつつ,大学院重点化・部局化,大学設置基準における「講座制」「学科目制」の削除,国立大学の法人化などをドライビングフォースとする機関の自立と機関内組織変容をも求めてきている.こうしたことから大学経営・組織の研究の重要性が高まりつつあるが,過去我が国の大学組織・経営研究は,これまでの政策的関心の低さも併せ,理論実証の両面において充実しているとは言いがたい.そこで本稿では,クラーク(Clark)の高等教育組織の整理分類枠組みに準拠しながら,入手可能な各種実証データを駆使し,我が国高等教育の内部組織の変容と機能を素描し,高等教育組織・経営研究の課題と可能性を探った.

  • 供給構造と資金配分の変動がもたらしたもの
    浦田 広朗
    2009 年 12 巻 p. 29-48
    発行日: 2009/05/23
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,1990年代以降の高等教育システム変動の中で,我が国の大学がどのように変化し,何がもたらされているかを明らかにすることである.設置認可行政の変化による大学教育供給構造の変化,大学院拡大による教育条件と学生の変化,国立大学の法人化による資金配分の変化を取り上げ,それぞれが高校生の進学行動,学生と教員の関係,国立大学の序列構造および教員への資金配分にどのような影響を及ぼしたかを分析した.

     分析結果は次の通りである.大学教育の供給構造は大きく変化し,1990年までに一旦縮小した地域間格差は,その後拡大を続けている.大学院拡大は実際の授業場面での教員当り学生数増加をもたらしており,修士課程学生の質的変化も進んでいる.財政規模からみた国立大学の序列構造は大きくは変化していないが,研究費配分にみられる教員間格差は拡大している.すなわち,大学の変容に翻弄されているのは,大学教育を受ける機会が相対的に乏しい地方の高校生と,変質した学生と不安定な研究費に直面している大学教員である.

  • 水田 健輔
    2009 年 12 巻 p. 49-70
    発行日: 2009/05/23
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     政府の財政システムにつながる高等教育機関には,財政の三機能を果たすことが求められている.よって,財政学的な見地から公的資金投入の正当性を確認することも必要となる.高等教育を取り巻く資金フローは,この20年の間に公的経常財源が伸び悩む半面,競争的・選択的な方法で外部から流入する研究資金は急激に拡大している.また,公的金融(財政投融資)を積極的に活用している点も日本の特徴であり,財投改革の結果として,高等教育機関も間接的ながら金融・資本市場に資金を依存する形態に変わった.さらに,財投を使用した貸与奨学金の所得再分配効果は明らかであり,このような形で政策的優先度を財政学的視点から検証していく研究が今後も必要とされる.

  • 教育・研究活動を中心として
    大膳 司
    2009 年 12 巻 p. 71-94
    発行日: 2009/05/23
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は3つある.

     1つは,臨時教育審議会が設置された1984年以降の様々な審議会答申の中に示された期待される大学教員像をふまえて,1990年以降の大学教員の構造的変化を明らかにすることであった.2つ目は,それらの大学教員の構造的変化や意識の変化が大学教員の教育活動や研究活動にどのように影響を及ぼしているのかを明らかにすることであった.目的の最後は,それらの結果から,大学教員の諸活動を促進するための方途を明らかにすることであった.

     過去20年間における大学教員の構造的変化の特徴は,新任大学教員に対する大学以外の職場を経験した大学教員の比率の増加,全大学教員に対する女性大学教員の比率の上昇,外国人大学教員比率の上昇(1983年の1.2%から2007年の3.4%)であった.全大学教員に対する自校の修了生の比率は,1割程度の減少に止まっていた.

     続いて,大学教員の構造的変化,教育活動や研究活動に対する意識や行動が,大学教員の関心の所在,FD への参加レベル,1週間の総教育活動時間数,1週間の総研究活動時間数,過去3年間の総研究成果量,にどのように影響しているのかを確認した.

     次の4点が明らかになった.

     まず,大学教員の性の違いは,彼らの教育活動や研究活動に関する意識や行動に有意な影響を与えていなかった.

     続いて,大学以外の職場を経験したことのある大学教員の研究成果量は,大学以外の職場を経験したことのない大学教員の研究成果量よりも多かった.

     さらに,現在の職場を卒業した大学教員のFD への参加レベルは,自校出身でない大学教員よりも低い.また,現在の職場を卒業した大学教員の研究成果の総量は,自校出身でない大学教員の研究成果の総量よりも多かった.

     最後に,過去3年間の研究費の多い教員は,過去3年間の研究費の少ない教員に比べて,研究に対して強い関心を持っており,より多くの研究成果を出していた.その傾向は1992年よりも2007年において強くなっていた.

     1992年よりも2007年においての研究時間数が減少しているにもかかわらず,総研究成果の総量は拡大した.これは,競争的研究費の総額は拡大し,大学以外の職場から有能な研究者が採用されたからだと思われる.

     今後,大学教員の教育活動,研究活動,社会サービス活動の質を高めるためには,管理運営時間を減らしてその他の活動時間を増やすこと,大学改革を支援する予算を拡大すること,大学機能を支える有能な人材(社会人,女性,外国人)を養成・採用することに加えて,大学教員の活動を支援する職員の職能開発が重要ではないかと思われる.

  • 山本 眞一
    2009 年 12 巻 p. 95-112
    発行日: 2009/05/23
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     近年,知識社会化やグローバル化の中で変容が著しいわが国の大学において,大学職員の役割拡大やその拡大された役割の遂行に必要な能力開発は,大学の将来を決める重要課題であるという認識が日増しに強まりつつある.しかしその認識の高まりと職員が置かれている現実の状況との間には相当なずれがあり,この関係を変えないと事態は改善しない.本稿は,職員に関わる問題の重要性に鑑み,その問題を捉える視点を明らかにするとともに,筆者が実施したアンケート調査から得られたデータに基づき,設置者別に見た大学職員の現状や能力開発に関する職員の意識等を分析し,教員と職員との協働や大学に置かれるべき専門職集団を含め,今後の大学運営に大きな役割を果たすべき職員の在り方を論じるものである.

  • 溝上 智恵子
    2009 年 12 巻 p. 113-129
    発行日: 2009/05/23
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     1991年の大学設置基準大綱化以降,20年間に及ぶ大学改革が大学教育にもたらした変容と実態を明らかにした.なかでも学士課程教育に焦点を合わせ,まず,大学審議会や中央教育審議会の答申における教育課程や教育方法の改善の動きを概観した後,改善がもたらした大学や学生の実態について,既存の調査結果をもとに検証した.さらに,それら大学の改革により,大学教育にもたらされた変容を考え,今後の針路について提言した.なお,教育課程や教育方法をめぐる改善には,様々な方策が含まれるので,本稿では,主に教育の実質化の観点から,学期完結型教育,すなわちセメスター制,単位の実質化の問題,および教育課程の体系化の問題に絞って分析した.

  • 小林 信一
    2009 年 12 巻 p. 131-154
    発行日: 2009/05/23
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     1990年代以降の研究活動の改革を含む大学改革は,3つの理念により先導されてきた.第1は1990年代前半からの「基礎研究シフト」や博士後期課程の拡大などによる拡大モデルである.これは,90年代半ばから徐々に,イノベーション・モデルとも呼ぶべき,科学技術と社会経済的価値との関連性を重視した改革モデルと,ニューパブリック・マネジメント・モデルとも呼ぶべき改革モデルに置き換えられていく.改革は,90年代には大学の研究活動を拡大する方向に働いたが,2000年代には改革の成果があがっているとは言いがたい.むしろ,大学間格差の拡大,ポスドクの増加などが顕在化し,「選択と集中」の方向性は妥当なのか,システムに矛盾はないのか,制度的な対応に偏りすぎていないか,などの問題に直面している.

  • 臨時教育審議会からの総括
    吉田 文
    2009 年 12 巻 p. 155-165
    発行日: 2009/05/23
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本特集は,近年の大学改革の結果,日本の大学に何がもたらされたのかを検討することを目的としており,大学の7つの側面に関して分析した論稿で構成されている.こうした検討結果に基づき,臨時教育審議会以来の改革の総括をするのが,本論文の目的である.日本の大学システムは,さまざまに変容しているが,それらからは,改革によって大学間の格差が拡大していると総括することができる.格差を社会問題とするのは,それが大学の役割である教育と研究の弊害となることが危惧されるからである.実際にも研究面では弊害をかいまみることができたが,まだ十分に明らかにできていない面も多い.20年間の改革を問い返す視点での研究が,今後一層必要であろう.

論稿
  • 教員需要推計の事後検証をもととして
    潮木 守一
    2009 年 12 巻 p. 169-187
    発行日: 2009/05/23
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     近年さまざまな論者によって,「証拠に基づく政策」の必要性が主張されている.本論文は教員需要推計を行った経験に基づき,「証拠に基づく政策」が成立するための要件を具体的に示すことを目的としている.本論文執筆者は2002年度から2007年度までの6年間について,全国47都道府県別に公立小学校の教員需要数を推計した.まずそのために児童数の推計を行ったが,この推計値の90%が±5%の誤差の範囲内に収めることに成功した.またこれをもとに教員数を推計したが,これまた90%を±5%の誤差の範囲内に収めることに成功した.ところが毎年の教員採用数を推計したところ,±5%の誤差の範囲内に収まったのは,全体の7%しかなかった.その理由は,教員の離退職率を全国一律と仮定して推計したためである.このような便宜的な手法を用いたのは,都道府県別の離退職状況が公表されていないためである.

     この例が示すように,「証拠に基づく政策」が成立するためには,なによりもまず第三者による検証が不可欠である.さまざまな研究成果が発表されるが,それがどれだけ正確で,信頼できるか,外部社会はそれを求めている.第三者の検証を促進するためには,研究者は使用したデータ,それの加工過程をすべて公開する必要がある.そのためには学会が中心となってウェッブサイトを立ち上げ,そこに第三者でも検証できるように,分析に使用したデータとその処理過程を公開する必要がある.

  • 潜在クラス分析を用いた追跡調査モデルの提案
    木村 拓也, 西郡 大, 山田 礼子
    2009 年 12 巻 p. 189-214
    発行日: 2009/05/23
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本研究は,国際的に通用する「学士」水準の維持・向上が求められて行く中で必要とされる「大学教育効果」の測定方法論について検討したものである.本研究では,サンプルサイズ,多量の質問項目,従属変数にまつわる追跡調査と大学生調査が孕む構造的問題について,潜在クラス分析を用いることでその解決を試みた.まず,大学入学前後の状況を表した「高大接続情報」を用いて,潜在クラス分析を行い,5つの学生群にクラス分けした上で,学生の各クラスへの帰属確率を求めた.次に,因子分析によって,多量の質問項目をカテゴリー化して因子得点を求め,各学生群の帰属確率との間でノンパラメトリック回帰分析を行った.こうした分析方法により,各大学が学生の特徴に応じた「学士課程教育の構築」に資する基礎情報を過誤なく獲得する可能性を提示することができた.

  • 編入学・転学者の進路選択構造と適応に着目して
    立石 慎治
    2009 年 12 巻 p. 215-236
    発行日: 2009/05/23
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本研究は,編入学制度が学生に対していかなるインパクトを有しているかを示すことを課題とし,全国の23学部に在籍する239名の編入学者が対象の振り返り調査データを用いて,短大,高専,専門学校からの編入学者ならびに転学者の満足度や学習意欲,学業の自己評価を編入学前後で比較検討した.また,変化を引き起こす要因について自由記述を通して考察した.

     その結果,短期高等教育機関からの編入学者では満足度や意欲,学業の自己評価の低下を経験する一方で,転学者では満足度や意欲は改善するが,学業の自己評価は改善しないことが明らかになった.移動を前提としていない日本の高等教育システムの構造ゆえに直面する,対人関係の課題,ならびに編入学直後に職業社会への移行を考え出さざるを得ない状況について論じた.

  • 標準性に注目して
    原田 健太郎
    2009 年 12 巻 p. 237-253
    発行日: 2009/05/23
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿では,大学の教科書を分析対象にして,大学教育の標準性の実態について基礎的・試験的な検討を行った.これまでの大学の教科書に関する研究の蓄積について整理した上で,索引を用いて,大学の教科書における標準性の共時的差異と通時的変化を明らかにした.標準性を測る指標としては,浦田(1987)で作成された合意度という指標を用いた.この分析に加えて,記載の頻度の高い単語に注目し,教科書の内容の変化についての検討も行った.結果としては,調査した三つの専門分野全てで標準化が進んでいること,文系分野よりも理系分野で標準性が高いこと,文系分野では会計学が教育学よりも標準性が高いこと,また,記載頻度の高い単語は,物理学では変化の程度が低く,教育学では変化の程度が高いことなどを明らかにした.

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