高等教育研究
Online ISSN : 2434-2343
8 巻
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
特集 学士学位プログラム
  • 絹川 正吉
    2005 年 8 巻 p. 7-27
    発行日: 2005/04/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     大学学部(学士課程)卒業者に対して与えられる「学士学位」は,いかにして同定されるか,という問題を,リベラルアーツ教育を基軸にして論評する.「学士学位」を同定するための法的根拠は,大学設置基準である.しかし,同法令の内容は,学部(学士課程)のシステムに限定されていて,学部(学士課程)の教育内容にまでは及んでいないから,同法令を「学士学位」の同定根拠にすることは,ほとんど意味がない.そこで,さらに大学基準協会の「学士課程基準」および大学審議会答申「21世紀の大学像」(1998年)の提示する学士課程像とAALE(The American Academy for Liberal Education)のリベラルアーツ教育基準を比較検討することにより,「学士学位」を同定する基準について論ずる.

  • 杉谷 祐美子
    2005 年 8 巻 p. 29-52
    発行日: 2005/04/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     学士学位の授与を目的とした教育プログラムの構築にあたっては,カリキュラムとして統合性を与えることと,共通性をもたせることの2点が重要である.こうした視点に基づき,本稿では,日本における学士課程カリキュラムの構造を教養教育と専門教育との関係に軸をおき,実証的に明らかにした.

     既存調査データ(2001年)の再分析と共同研究で実施した調査結果(2003年)から,次の知見が導き出せる.現状では,教養教育の履修要件が専門分野により異なり,教養教育は専門基礎教育と学習スキルの習得で大部分が占められ,教養教育と専門教育との有機的統合は教養教育の内容が専門教育に強く規定されることを意味する.その結果,専門学部の見地に立った統合論が専門分野を超えて共通の学習を与えるはずのカリキュラムの共通性を著しく損なっている.

  • 宮田 敏近
    2005 年 8 巻 p. 53-70
    発行日: 2005/04/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     この試論においては日本における学士課程教育について考える.まずアメリカにおける学士課程教育を直接の観察とアーサー・レビーン,マーク・エドモンソンらいくらかの大学人の言葉をとおして見る.その目的は比較することではなく,一考することにある.次に日本の高等教育について,専門機関の一般教育課程で教壇に立った経験を基礎に考える.最後にリベラルであれ専門化したものであれ学士課程教育においてなにが真に大切なのかを追究する.

  • 日本との比較分析の視点から
    吉田 文
    2005 年 8 巻 p. 71-93
    発行日: 2005/04/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿は,アメリカの学士課程カリキュラムの構造と機能を,日本との比較の視点で検討することを目的とする.アメリカでは,先行するliberaleducation に専門教育が導入されたという歴史的な経緯があるために,学士課程教育の理念はliberal education に,実態は専門教育に傾斜という関係が,組織構造上の矛盾として存在し,その延長上でカリキュラム改革は繰り返されてきた.日本にあるもの・ないもの,アメリカにあるもの・ないものという2軸で日米を比較すると,両者ともカリキュラムの編成形態は類似しているが,日本にはアメリカのliberal education の理念はなく,アメリカには一般教育と専門教育の教員組織を別にしていたという日本の形態はなく,編成されたカリキュラムの背後にあるものが異なっていることが明らかになった.

  • 近代オックスフォードの古典学優等学士学位を中心に
    安原 義仁
    2005 年 8 巻 p. 95-120
    発行日: 2005/04/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     現代イギリスの学士学位(Bachelor Degrees)は,1800年の試験学則(Examination Statutes)制定に始まるオックスフォード大学の学位試験制度改革にその淵源を求めることができよう.いわゆる優等学位試験制度(Honours Examination System)の成立であり,これはやがて他の大学にも拡がっていった.イギリスの学士学位プログラムとは一体,どのようなものなのか.学士学位の構造と内容はどのようになっているのか.本稿はこの問題を,1892年度版『学生便覧』(The Student’s Handbook to the Universityand Colleges of Oxford, Twelfth Edition, Oxford,1892)を手がかりに,学士学位のモデルとなったオックスフォード大学の古典学(Literae Humaniores)優等学士学位の事例に即して具体的に明らかにしようとするものである.

  • 日本の学士課程改革への示唆
    川嶋 太津夫
    2005 年 8 巻 p. 121-154
    発行日: 2005/04/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     1999年の「ボローニャ宣言」を契機として,学生の移動を容易にし,国際的にも競争力のある「欧州高等教育圏」を2010年までに構築すべく,国際的な取組が行われている.欧州内の多様な高等教育制度を,相互に理解可能で比較可能なものにするために,期限までに署名各国の高等教育制度をundergraduate 課程とgraduate 課程に整理し,3年ないし4年の第一段階で授与される学位をバチェラーに,第二段階で授与される学位をマスター(及びドクター)として標準にしようとするものである.各国の学位の理解しやすさと比較可能性を保証するために,学習成果からバチェラー学位の再構築を目指す努力も精力的に取り組まれている.わが国でも,国際的に通用性のある学士学位とするために,アウトカムからの再構築が必要である.

論稿
  • 英国及び豪州の大学の海外進出の事例分析
    大森 不二雄
    2005 年 8 巻 p. 157-181
    発行日: 2005/04/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿は,国境を越えて教育を提供する英国・豪州の大学を分析対象とし,グローバル化論者が主張するように,国民国家の枠組みによる教育システムがこれらの大学を統制し得なくなっているのか,との問いに迫ることを目的とする.英国ノッティンガム大学及び豪州モナシュ大学のマレーシアへの進出事例の分析を含め,この課題の分析結果は,出自国や受入国は,国境を越えて教育を提供する大学というアクターの戦略的行動に直面し,質保証等の政策目的による統制手段を放棄するどころか,むしろ新たなアクターに対応できる国家の機能を整備していることを示唆する.

     この分析結果は,日本の大学の海外校及び外国大学日本校を認めようとしている日本の政策転換にとって,重要な含意を持つ.

  • 「広播電視大学」学習センターにおける在学者と学習の実態
    劉 勇
    2005 年 8 巻 p. 183-203
    発行日: 2005/04/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿は中国農村部の「広播電視大学」を事例とし,2000年10月から2001年11月にかけて実施した実地調査をもとに,農村部を都市部との比較という視点に立って,また新政策実施以降の新・旧タイプの学生間の比較をも視野に入れながら,その在学者と学習の実態を明らかにするとともに,学生の教育満足度を,その学習活動と学習環境との関連で分析してきた.その結果,農村部の教育用資源が貧弱であるため,新政策が「農村部に向けて」という方針を持つにもかかわらず,教育機会の上で都市部とは比較にならないほどの格差があるし,新・旧タイプの学生の学習形態がほとんど変化しなかった.農村部の学生から学習センターへの期待が高いことによって,放送授業の充実ということを具体案として掲げることもひとつの方策として考えられる.

  • 学問的発展の特徴
    木本 尚美
    2005 年 8 巻 p. 205-224
    発行日: 2005/04/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿は,わが国の家政学を一つの集団とみなして,制度化の過程を社会学的視点から検証し,学問的発展の特徴を明らかにすることを目的とした.

     その結果,家政学の制度的形態は,典型的な「制度先導型」であることが明らかにされた.こうした制度化の過程を踏まえれば,1.他学問に比べて家政学の発展が遅れたのは,制度的・意識的要因に阻まれ,明治期に先進欧米諸国から学問体系を移植できなかったことに起因しているといえる.そのため,2.家政学は,新制大学に制度化されるまで,固有の職業集団を形成することができなかった.つまり,3.家政学の知識体系は,第2次世界大戦以前に帝国大学ですでに樹立していた近接学問を,戦後応用科学という形で移植することにより,整えていくことができたと考えられる.

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