高等教育研究
Online ISSN : 2434-2343
18 巻
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特集 高等教育改革その後の10年
  • 水田 健輔
    2015 年 18 巻 p. 9-28
    発行日: 2015/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     高等教育のガバナンス構造を外部利害関係者との相互作用としてマクロ的にみてみると,(1)NPMの導入による政府の役割の変容,(2)市場や政治の要請に対する敏感な応答,(3)序列化や種別化といった機関の多様化の3つの動向を確認できる.その背景には,高等教育機関を他の公共サービス提供機関と同様に効率化しようとした意図があり,また,産業界や政治の世界から目に見えやすい功利主義的な成果の実現が求められている状況がある.さらに政府は,財政再建の観点から資源配分の選択と集中を志向しており,上記の動向と方向性がシンクロしている.結局,政治,産業界,財政当局に共通の利害が,高等教育セクターに強い圧力をかけており,国立大学等の公的機関の未来に向けた選択は,市場における自由選択とはかけ離れた状況にある.

  • 山本 清
    2015 年 18 巻 p. 29-47
    発行日: 2015/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿は1990年代以降の我が国の高等教育改革において,機関レベルの大学組織がどのように変遷してきたかを検証し,現在の課題と将来展望を述べる.高等教育改革に伴い大学組織にどのような変化が生まれてきたかを論じるには,まず,用語の概念と定義を明確化し大学組織の構造と意思決定過程をモデル化することが必要である.そして,実質的にどのように運用され変化しているかに焦点をおいて分析する.組織は法制度の影響を受けるが,自ら主体的に変革していく存在でもあり,意図した状態と実態は異なることが少なくないからである.分析の結果,大学は「知の共同体」から「知の経営体」に置き換わったのでなく,過去の組織を基盤に変化した堆積層として新しい組織が出現していることが示される.

  • 濱名 篤
    2015 年 18 巻 p. 49-67
    発行日: 2015/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,日本の高等教育における「質保証」に関する政策評価である.質保証の対象として,高等教育の「入口(設置認可)」「出口(卒業時)」に「中身(教育過程)」を加えた3つの観点からとらえる.

     大学設置基準の大綱化以降,規制緩和と自由化が進んだ.設置審査(入口)については,不祥事等の度に見直され規制強化の方向に向かってきた.これと対をなすのが,認証評価(中身)であるが,連携や相互補完関係は不十分である.他制度との“接続”の側面を考慮した質保証(多様性とチューニング),「学習成果」の具体的内容についてのコンセンサス,測定の方法論や尺度の設定等,質保証のメカニズムには高等教育関係諸制度の相互連携なしに政策の効果は期待できないと評価できる.

  • 批判の背後にある企業人の未経験
    濱中 淳子
    2015 年 18 巻 p. 69-87
    発行日: 2015/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,ここ5年間で事務系・技術系総合職の採用面接を担当したことがある者2,470人を対象に実施した質問紙調査のデータを用いて,大学院が置かれている立ち位置を改めて分析し,そこから政策の課題を提示することにある.日本において,大学院修了者を積極的に採用しようとする企業はいまだ少ないが,社会の大学院を見る目にもその理由があるのではないか.こうした問いを据えつつ検討を加えた結果,(1)事業のグローバル展開のなかで学歴格差に直面する経験,大学院生の面接経験,あるいは評価者本人の大学時代における学習経験が乏しければ,人材としての大学院生の価値に気づくことは難しいこと,(2)日本では,そのような経験を有している者がまだ少ないこと,の2点が明らかになった.そのうえで,企業人は追体験(他社の動向)によって経験不足を補っている側面があることに触れながら,大学院改革そのものの推進のみならず,ビジネスにおいて大学院修了者が活躍した事例をめぐる情報が発信されることに,現状打破の糸口がある可能性を指摘した.

  • 塚原 修一
    2015 年 18 巻 p. 89-104
    発行日: 2015/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     日本のバブル経済が1990年に崩壊したのち,1995年には科学技術基本法が誕生して政府の研究開発投資が拡大された.東日本大震災をへて,科学技術イノベーション政策が2013年から加速された.このような科学技術政策の変遷が高等教育政策に及ぼした影響として,政府の研究開発投資の拡大が大学をうるおした.しかし,成果である論文発表数は,90年代に増加したのち,2000年以降は伸び悩んだ.また,投資が一部に集中して大学格差を広げた可能性があり,高等教育政策と科学技術政策の協調と役割分担が期待される.科学技術イノベーション政策への高等教育の関与のあり方についても,検討を深めることが望ましい.

  • 大学・政府・市場
    米澤 彰純
    2015 年 18 巻 p. 105-125
    発行日: 2015/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿は,日本における高等教育の国際化と高等教育改革との関わりについて,留学生受入れ10万人が達成された2003年以降に焦点を当てて検討を行う.第一に,日本の動向に影響を与えたと考えられる,高等教育の国際化に関わる世界の議論と実践の動向を整理する.第二に,日本の政府が高等教育の国際化とそれに関連する高等教育改革促進のためにどのような政策を打ち出し,これが産業界や学生の動向などの「市場」的要因とどう関わっていたのかを検討する.第三に,日本の大学や高等教育機関が,これら世界の動向や政府・市場との関わりにおいて,国際化に関わるどのような改革を行ってきたのかを分析する.最後に,結論と次の10年の研究に向けた示唆を述べる.

論稿
  • 「IFEL厚生補導部門」の実態とその役割を中心に
    蝶 慎一
    2015 年 18 巻 p. 129-149
    発行日: 2015/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿は,文部省及びCIEが実施したIFELのうち,「厚生補導」をテーマとした講習(以下,「IFEL厚生補導部門」と略記)の実態と役割に着目し,戦後日本の「厚生補導」の端緒を実証的に明らかにする.戦後の大学行政は,新たな制度等の導入とともに各種の研究会,講習会が実施された.そこで「IFEL厚生補導部門」の実態とその役割に着目し,「理念」,「活動内容」,「普及」の視点から分析した.分析の結果,「IFEL厚生補導部門」では,①米国人講師が先導して新たな「理念」を紹介したこと,②日米の講師が分担することで学生生活全般の「活動内容」が提示されたこと,③この「理念」,「活動内容」を「普及」させるため,指導者・実践者の育成が図られたこと,を考察した.以上の3点より,「厚生補導」の端緒が構造的に形づくられた.

  • 昇給および勤勉手当について
    天野 智水
    2015 年 18 巻 p. 151-170
    発行日: 2015/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿は国立大学教員の昇給と勤勉手当制度を取り上げ,主として部局長および学科等の長を対象とした質問紙調査の方法により,その決定方法と基準に関する実態と,組織長たちの問題意識を探った.その結果,全体として昇給・勤勉手当は教員の活動・業績を幅広く,地域貢献を除いて概ね等しく反映させて決定されていたこと,および,その決定に際しては教員集団による審議や,学科等の基礎組織の長が与える影響は小さく,部局長の判断がはるかに大きな影響を及ぼすという実態が明らかになった.また,問題意識の分析からは,部局ではなく学科等レベルに相対評価を持ち込むことは,業績主義にとって重大な問題となりうることがうかがえた.こうした結果を踏まえ,教員給与制度の現状とあり方について考察を行った.

  • 教員養成分野のミッションの再定義
    小方 直幸
    2015 年 18 巻 p. 171-190
    発行日: 2015/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿は,2012年から2013年にかけ策定された,国立大学改革プランを取り上げ,教員養成分野のミッションの再定義に着目することで,現代における政府と大学の自治の関係を,以下の3つの視点から問い直すことを目的としている.第1は,文科省と政府との関係で,文科省が,なぜ教員養成分野の改革に本腰を入れる必要に迫られたか,まずは概観する.第2は,文科省と教員養成大学・学部との関係で,事例考察を通して,政府と大学の自治を考察する上で鍵となる,両者の具体的やり取りを明らかにする.第3は,高等教育局内部の関係で,所掌の異なるアクターの改革行動を析出し,それが実際の改革に及ぼす影響について考察する.

  • 作家志望に着目して
    喜始 照宣
    2015 年 18 巻 p. 191-211
    発行日: 2015/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿では,作家志望の学生の卒業後進路選択に着目し,彼らの語りをもとに,美術系大学において就職者率の低さが生じるメカニズム解明を試みる.分析では,まず作家志望者の学卒後メインルートである大学院進学とアルバイト等の選択理由を検討し,それぞれの進路選択に含意された学生の意図や戦略を確認する.つぎに,彼らにとって就職が選ばれにくい背景として,実技重視の教育体制のもと,就職を「制作の休止・趣味化」とする独自の意味が生成されていることを指摘し,それは実技系教員―学生間,学生同士の相互行為により維持・強化されることを示す.しかし他方で,就職は制作継続のためであれば必ずしも忌避されておらず,彼らは大学界と美術界の論理の狭間で進路をめぐる不安や葛藤を経験していることを最後に明らかとする.

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