高等教育研究
Online ISSN : 2434-2343
19 巻
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特集 高等教育研究におけるIR
  • 金子 元久
    2016 年 19 巻 p. 9-24
    発行日: 2016/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     大学自己分析(IR―Institutional Research)には,一般に大きな期待がかけられる一方で,現実のIR組織は様々な困難に直面している.それは大学教育改革のあり方自体と密接に関わる(金子2011).大学教育改革はいまどのような点にたち,それがIRにどのような問題を投げかけているのか.本稿ではここ30年ほどの間のアメリカの事例を参考に,まず大学教育改革の中での大学評価,IRの役割を整理し(第1節),その背後にある二つの流れのダイナミクスを整理し(第2節),それと対比しつつ,日本の大学評価,IRの課題を検討する(第3節).

  • IR機能に伴う二面性と専門性を中心に
    山田 礼子
    2016 年 19 巻 p. 25-47
    発行日: 2016/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本論文では1960年代に誕生し,高等教育政策の流れの中で,IRの位置を模索してきた米国のIRの展開を検討することを目的とする.具体的には,AIRの年次大会分科会構成とジャーナル特集テーマを①実用主義と理論との相克という二面性,②IR専門職の拡大と技術向上のための方法の模索,すなわち専門性という視点から分析する.分析結果として,理論・科学性の追求と実用性への対応という二面性はIRが拡大している現状でも恒常的に存在していること,一方,IR養成プログラムの開発や研修機会の提供を通じて,方法論,学習成果の測定方法,新たなテクノロジー開発など,IR担当者の技量向上が可能となり専門職としての立場が強化されてきたことが明白になった.この知見は短期間で急速に発展している日本のIRへの示唆になる.

  • 浅野 茂
    2016 年 19 巻 p. 49-66
    発行日: 2016/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     日本の大学関係者のInstitutional Research(以下,「IR」という.)への興味・関心が急速に高まっている.一方,日本の多くの大学では学内に散在する各種情報を収集できず,IR業務を効果的に進めることが難しい現状にある.本稿では,こうした困難を打開する一助となるデータベースの構築について,具体的な方法と構築における課題等を提示するとともに,その過程でIR担当者が担う役割について述べることとする.

  • 学務データを用いたIRとしての研究の構造的困難
    岡田 聡志
    2016 年 19 巻 p. 67-86
    発行日: 2016/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿では,学務データを用いたIRとしての研究の構造的困難性と可能性について,IRの位置づけに由来する研究と実践とのジレンマ,「研究」として成立するための条件,IRが産出するエビデンスの質と中立性に対する懐疑,の観点から論じる.これらの点から,研究倫理や研究実施手続きに関する議論や方針整備の不備を指摘し,それらの検討がIR担当者個人に過度に委ねられている構造を明らかにする.今後IRが発展していくためには,個人(IR担当者,研究者),機関,学会が,それぞれの認識の相違を前提としつつもそれぞれが方針を明らかにし,議論や対話の繰り返しを通じて,高等教育研究における学務データを用いたIRとしての研究が可能となる枠組みについての共通の認識を構築していく必要性を指摘する.

  • もう一つの「学生調査とIR」
    大多和 直樹
    2016 年 19 巻 p. 87-106
    発行日: 2016/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿は,大学改革において形成的評価による課題の共有と議論を活性化のために学生調査をどう活用できるのかについて考察するものである.

     ここでは,まず①学生調査の視角の特長とその意義について確認し,②近年行われた具体的な調査に言及しながら学生調査の最も定番的なI-E-Oモデル(カレッジインパクト理論)の特質を把握しつつ,分析のインパクトを高めるべくI-E-Oモデルを微修正することを試みた(Ⅲ章).

     次に③現代の大学改革を捉え返す具体例として,どのような分析がありうるのかについて大学における主体的な学びを題材にしながら考える(Ⅳ章)とともに,④補足的に個別機関の調査おける分析の限界の克服を可能とする大規模調査やベンチマークの意義と動向についてみていく作業を行った(Ⅴ章).

  • 大学の組織特性をふまえた経営情報システム活用研究の展望
    中島 英博
    2016 年 19 巻 p. 107-120
    発行日: 2016/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,高等教育機関における経営情報システム活用に関する研究を概観し,今後の研究課題を整理することである.本稿では具体的な整理の軸として,諸外国で進められているAcademic Analytics研究と,大学組織における組織学習の特質という2つの視点を軸として,今後の日本の大学における経営支援のためのIRの方向性を示すことを試みる.本稿では,経営支援のためのIRを高等教育研究の立場から捉える上で,IRと大学組織の特性の双方に注目する研究の重要性を指摘した.特に,実証研究やアクション・リサーチでは,個別大学の組織能力や組織学習の特性を明らかにしならがIRの有効性を検討するタイプの研究が今後求められる.

論稿
  • その発生メカニズムと抑制可能性
    立石 慎治, 小方 直幸
    2016 年 19 巻 p. 123-143
    発行日: 2016/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,高等教育の大衆化がもたらす大学生の多様化のうち,特に退学と留年に着目し,その実態と発生のメカニズムを,学部を単位として実証的に検討し,抑制の可能性も視野に入れて考察することであり,その結果明らかになったのは以下の3点である.その結果,以下の3点を明らかにした.第1に,退学と留年を統合的に考察し,4類型に基づく学生の動態の規定要因を析出した.第2に,退学率と留年率の分岐点を探索し,学部がおかれた様々な文脈を考慮しつつ,退学と留年問題に取り組む必要性を,具体的に提示した.第3に,退学と留年に対する教育・学習支援の介入効果を分析する過程で,大学教育の効果研究に用いられる横断的調査の可能性と限界を批判的に検討した.

  • K大学専門職大学院ビジネススクール在学生へのインタビュー調査から
    出相 泰裕
    2016 年 19 巻 p. 145-163
    発行日: 2016/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     近年,社会人院生の数は停滞しているが,職業人が大学院に進学するにあたっては阻害要因が存在している.そこで専門職大学院に在籍する職業人学生にインタビュー調査を行い,阻害要因をどう克服し,進学への決断に至ったのかを,成人の教育機会参加に関する概念モデルを検証しつつ,考察した.その結果,今進学しないとチャンスはないというタイミングや他者の影響,大学院の取組により,進学が後押しされていたり,また学習が好きという学習志向性などによって動機が阻害を乗り越えるまでに強化されていたり,さらには人間行為力の強さから自ら阻害を軽減したりして,進学に至っていた.大学院は短期セミナーの提供などにより,受講者の進学動機を強化したり,教員が受講者と信頼関係を築いたりすることなどが肝要となる.

  • 二段階の「出口」―「就職」と「国家試験」に着目して
    速水 幹也
    2016 年 19 巻 p. 165-185
    発行日: 2016/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本研究では,薬学教育改革以後の6年制薬剤師養成課程を対象として,①就職(進路)と②国家試験という薬学教育における二つの「出口」に着目して分析を行い,改革の成果と課題を描出した.就職(進路)の分析からは,改革以後に病院・薬局など臨床現場への就職者割合が増加していることが明らかとなった.国家試験の分析からは,1.国家試験合格率が改革以後に低下傾向であること,2.国家試験合格率は学生の大学入学時の基礎学力によって規定されていることが明らかとなった.これら二つの結果から,改革の成果として高度な専門教育を受けた臨床現場への就職割合が増大する成果が確認された一方で,国家試験に合格できず高度な専門教育の効果を受けられない学生が生み出されているという課題が浮き彫りとなった.

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