高等教育研究
Online ISSN : 2434-2343
14 巻
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
特集 高大接続の現在
  • 荒井 克弘
    2011 年 14 巻 p. 7-21
    発行日: 2011/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本論文は,日本の現在の高大接続を特徴づける3つの側面に注目し,その変化の方向を論じたものである.

     第1は,推薦入試,AO入試に代表される非学力選抜の普及である.非学力選抜による大学・短大への入学者数は18歳年齢人口の著しい減少にもかかわらず増加傾向にあり,マクロ的にみれば,大学・短大の帰属収入を維持するうえで大きな要因となった.第2は,学生の学力低下傾向である.大学・短大の収容力が増え,進学者が増加すれば,学生の学力低下は避けられない.幅広い学力層をカバーしようとすれば,入学試験の妥当性の低下は避けられない.そのことが受験生の学習意欲の低下を生じさせ,学力低下をさらに進行させる原因にもなった.第3は,各大学が実施する個別学力試験の変化である.個別学力試験は近年,試験科目の減少と選択性が進み,試験の軽量化が一段と進んでいる.その結果,大学入試センター試験に期待される部分が相対的に増大しており,センター試験の役割は高校教育の基礎的達成度を測るという範囲に留まることはできなくなっている.センター試験をいかに上手に利用するか,アドミッションポリシーの明確化,具体化が求められている.

     高大接続は従来の選抜機能から教育機能が重視される時代に入っている.しかし日本の現状は,教育よりも大学の経営が優先される場合がないとは云えず,帰属収入確保のために大学入学者選抜が利用される事例も少なくない.高大接続の現状をいかに本来の教育目的へ向かわせるか,それがこれからの課題である.

  • 教育接続の課題
    山田 礼子
    2011 年 14 巻 p. 23-46
    発行日: 2011/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     近年,日本の高等教育を取り巻く環境変化は著しく,学力・学習目的・学習動機・学習習慣の多様な新入生を受け入れる大学が急増している.初年次教育を大学生への移行を支援する教育として位置づけるだけでなく,「高校4年生のための教育」といった高校と大学の接続の側面を意識した教育として捉える動向もうまれつつある.この動向からは,従来,中等教育までの普通教育機関とは異なり,専門教育を担当する機関として,学校教育法によって扱われてきた高等教育機関に,新たな教育接続という視点で教育を提供することが求められているのではないか.こうした動向を視野にいれて,本稿では,「大学から見た高校との接続は何か」というテーマのもとで,高大接続についての論点を整理し,定量データから新入生の実像を探る.次に,日米の初年次教育調査結果から日米における高校と大学の接続の差異を浮き彫りにした後,日本の教育を中心とした高大接続の方向性を検討する.

  • 高大接続のもう一つの論点
    中村 高康
    2011 年 14 巻 p. 47-61
    発行日: 2011/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     「高大接続」といえば通常は「教育接続」であるが,高校生の視点から見れば「地域」の観点も接続問題にからんでくる重要なトピックとなりうる.そのことを示すために,本稿では,高校生を対象とするインタビュー・データを用いて,まず最初に,現代の進路多様校の高校生たちには「狭小ローカリズム」が作動していることを示す.続いて,このインタビュー結果を裏付ける量的データを示す.最後に,構造方程式モデルを用いて進学とローカリズムの因果の方向性を検討する.以上の結果から,大学進学率の上昇は若者たちのローカリズムを変容させる可能性があり,「教育接続」の議論の背後で進行するこうした社会変容の可能性を意識しておくことも重要であることを示す.

  • 佐々木 隆生
    2011 年 14 巻 p. 63-86
    発行日: 2011/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     高大接続は,教育上の連続と選抜という2つの側面をもつ.日本の教育上の高大接続は,ナショナル・カリキュラムによって支えられながら,欧米諸国と異なり,教育上の連続を担保する達成度試験あるいはテストを欠き,進学者の学力把握は個別大学が行う学力選抜に依存してきた.80年代後半の大学収容力の低下などに端を置く「第3の教育改革」は,①高校の多様化,②高校教育課程の弾力化,③大学入学者選抜の多様化などをもたらしたが,それらは教育上の連続のための学力把握をより一層大学入試に依存する結果をもたらした.しかし,2000年代に入って間もなく始まる18歳人口の減少は,そうした日本型高大接続を機能不全に導き,「非学力選抜」や「少数科目入試」は,高大接続に必要な教育上の連続を困難なものとしている.そこで,日本型高大接続を転換し,高校における普通教育を再構築し,高大接続に必要な教育上の連続を担保し,同時に個別大学の学力入試に依存しない大学入学者選抜実現のための「高大接続テスト」―基礎的教科・科目の全体にわたり,高校での教育の目標に準拠し,十分な標準化によって複数回受験可能で,従来の素点表示とは異なる達成度評価法に基づくテスト―の構築・導入を,大学関係者と高校関係者で進めるべきであり,国はそれを支援する必要に迫られている.

  • 高大接続の真の課題は何か
    山下 仁司
    2011 年 14 巻 p. 87-106
    発行日: 2011/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     高大接続,特に大学生の学力低下と,それに伴う学力担保措置のありかたについて,公開データと共に,未公開のベネッセ教育研究開発センターが行った調査結果に基づいて考察する.同センターでは,高校生とその保護者に対する進学に関する意識調査,全国の高校進路指導部の教員に対する進路指導と大学改革に関するアンケートを行った.本論文では,それらの結果をもとに,近年のユニバーサル化に伴って大学生の学力低下が起きている問題の真のありかを検討するとともに,問題解決のために高大接続テストなどの学力担保措置に求められる適切な方法や形式について,示唆を試みた.

  • 大場 淳
    2011 年 14 巻 p. 107-126
    発行日: 2011/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     欧州では,近年,高等教育規模が継続的に拡大してきた.その間,福祉国家の見直しや新公共経営の導入に伴って高等教育の市場化が進展したが,高等教育は引き続いて公共財(public good)と位置付けられて,基本的には政府の責任の下で提供される体制が維持されている.多くの国は高等教育の無償制又はそれに近い制度(準無償制)をとるか学費を低廉に抑えている.

     高等教育の公的性格は関連政策全般の在り方に大きく影響し,大学進学についての平等性確保や差別除去が重視されている.そして無償制等と相俟って,高等教育への進学を国家試験合格者全てに認める制度(開放入学制)をとっている国が多い.最近では,形式的な平等を超えて社会的弱者に配慮しつつ,公平性(equity)を重視したより積極的な政策が展開されている.

     他方大学は,社会や政府からの進学拡大要求に対して,入学者の質低下や教育実施の困難等を理由に反対する場合が少なくなかった.しかしながら,近年はEU のリスボン戦略に見られるように知識経済の文脈で高等教育が政策対象となり,その発展に寄与する人材育成の観点から高等教育への進学拡大は不可避とされ,高等教育進学率や学位取得率の数値目標を設定している国も少なくない.大学はこれまでになく多様化した学生を受け入れるだけでなく,その学習成果を保証することを求められ,そのための手段の一つとして中等教育(高校)と高等教育(大学)の接続(高大接続)が重視されている.

  • 神原 信幸
    2011 年 14 巻 p. 127-148
    発行日: 2011/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     この論文では,高大連携の望ましい政策や実践を考察するために,日本とアメリカの高大連携教育の目的,アプローチ,実践の政策を比較する.

     現在の日本の高大連携は,高校と大学の間の教育の断絶を結ぶものとして導入された.しかし,高校レベルでは教育の質の低下,高等教育側では体系的な学士教育課程の不在という問題に挟まれ,商業化の介在,大学経営問題への矮小化,進学指導以上のものにはならないという生徒へのインセンティブの欠如等のために,本来の社会政策としての教育政策の質を失っている。

     アメリカの高大連携は,社会発展と高等教育の目的に応じ,学術・学芸のイノベーション人材を育てる英才教育としてアプローチ,知識とスキルを備えた人材を輩出することで経済的な発展をもたらす人材養成目的としてのアプローチ,そして教育機会保証によって社会正義を実現するためのアプローチと分化発展し、それぞれ特徴のある政策・制度・実践の形態ができてきた. 日本の高大連携を改善し,本来の目的を達成するためには,高等教育のミッションを念頭にしながら,全学校制度をひとつの「教育事業」に見立てて,初等・中等教育から高等教育までをつなぎ目のない一つの体系と考えて教育課程を再編することが必要である.高大連携が大学に進学する学生層の質と量との底上げを図り,社会発展に結びつくように,異なる教育段階の間で,教育内容と学生の学力がどのくらい重なり合うのか検討し,大学の単位として認定するインセンティブを組み合わせることを施策に取り入れるべきである.

  • 大学入学者選抜方法の改革に焦点をあてて
    南部 広孝
    2011 年 14 巻 p. 151-168
    発行日: 2011/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     東アジア諸国では,急速な量的拡大や大学の自律性の拡大などを背景に高等教育の多様化が進み,後期中等教育との関係をより適切なものにするための努力が行われている.そのうち入学者選抜方法の改革を取り上げて韓国,台湾,中国の状況を検討した結果,程度や方向性には違いがあるものの,どの国でも,全国統一型学力試験の見直しが進められていること,評価尺度の多元化として学力試験の結果以外の要素が考慮される選抜方法が導入されていること,高校での多様な活動の成果が考慮されてきていることが明らかになった.同時に,一国内でも大学によって多様な方法がとられるようになっている.今後は,そうした機関レベルでの具体的な取り組みや,広義の接続関係に含まれる方策まで視野に入れたきめの細かい検討が必要になるだろう.

  • 吉田 文
    2011 年 14 巻 p. 169-181
    発行日: 2011/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿は,この特集「高大接続の現在」に寄せられた8本の論稿をもとに,日本,欧州,アメリカ,東アジアにおける,近年の大学と高校の接続の課題は何か,その背景は何か,それらの課題に対してどのような政策的対応がなされているかを,比較検討することを目的とする.

     検討にあたって,接続においてもっとも重要な役割を果たしてきた入学者選抜に関して,その基準(学力か非学力か),その主体(高等教育か後期中等教育か)の2軸で構成される4つの象限に,それぞれの社会を位置づけた. 検討の結果,どの社会においても高等教育進学者の増大にともない,従来の選抜方法が十分に機能しなくなり,多様な方法,多元的な評価が導入されていることが明らかになった.また,選抜の局面での接続だけではなく,後期中等教育と高等教育の教育課程での接続を図るための諸方策が実施されていることも,共通の傾向として見出すことができた.

     さらに,欧州やアメリカでは,従来,接続の問題は教育機会の社会的不平等の問題として扱われてきたことを特徴とする.近年,接続が教育課程の問題となることで,教育機会から学習成果の社会的不平等が研究課題になっている.日本においても研究領域の拡大の検討が必要であることを指摘した.

論稿
  • 現職教員の認識に注目して
    長谷川 哲也
    2011 年 14 巻 p. 185-205
    発行日: 2011/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本研究では,回顧的な大学時代の状況のみならず,現在働く学校現場の状況にも着目しながら,現職教員が教職課程の教育効果を評価する過程を検討した.質問紙調査の結果からは,活動熱心度や大学満足度といった大学時代の状況だけではなく,職務満足度や在職年数といった現在の状況が,教育効果に対する評価の規定要因となりうることが明らかとなった.さらにインタビュー調査の結果からは,入職後の経験が重視されるという学校現場の文脈から,教職課程の教育効果が評価される過程の一端が示された.教育効果を測定することで大学教育へのニーズをより具体的に把握するためには,職場の文脈によって形成される個々の認識に基づき,教育効果が評価されていく過程を詳細に描き出すことが求められよう.

  • 自己評価・他者評価の可能性
    杉谷 祐美子, 吉原 惠子, 白川 優治, 香川 順子
    2011 年 14 巻 p. 207-227
    発行日: 2011/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本研究は,大学生が共通に身につけることを期待される能力を汎用的能力と措定し,その評価手法の開発に向けて,自己評価とともに教員及び友人による他者評価の可能性を検討した.質問紙調査の結果,他者評価では学習場面や他者との関わりの中で見えやすい行動の評価が比較的容易なこと,また,友人評価は教員評価に比べて全般的に高く評価し,被評価者との交流の有無によって影響を受けやすいことが確認された.さらに,学生と教員が評価の手がかりとして想定する場面は一致するとは限らず,特に学生は態度・志向性や統合的な学習経験について,大学教育外での経験をもとに判断する傾向が明らかになった.ここから,汎用的能力の評価は,各能力項目の特性にあわせて評価者および評価手法を選択的に用いることが必要だと指摘できる.

  • 1970年代を中心に
    川崎 成一
    2011 年 14 巻 p. 229-247
    発行日: 2011/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿は,1970年代を中心とした日本の私立大学の資金調達行動が資産規模により異なっていることを明らかにした.1960年代後半から70年前後までは,規模にかかわらず市中金融機関からの借入が中心で,70年代半ばにかけては短期借入金が急増,長期借入金では市中金融機関より財団融資の比率が相対的に高まった.しかし,70年代後半に入ると,規模による資金調達行動の差異が顕著となった.中小規模大学では財団融資の比率が一段と高まる一方,大規模大学では,財務状況が好転する中,金利動向を睨んだ財団融資の返済と資金調達の多様化が進み,市中金融機関からの融資比率が高まりを見せた.これは,長期資金と短期の資金繰りに苦しんだ時期から,市場指向型の新しい資金調達の姿が大規模大学で出現しつつあることを示すものである.

  • 横断的大学格付けと全入時代到来期待時刻シミュレーションを踏まえて
    大山 篤之, 小原 一仁, 西原 理
    2011 年 14 巻 p. 249-270
    発行日: 2011/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿の研究は,次の手順で行われたものである.全国公私立大学を対象とする大学格付けに基づき,全大学を群化し,別途構築する志願者数推移シミュレーションモデルを用いて各大学群に対して全入時代到来確率を算出する.これにより,各大学群に属する大学の一覧及びそれぞれの大学群に与えられる全入時代到来までの猶予期間が明示される.結果として,これが,大学経営ならびにそれを支援する組織にとっても,経営政策の意思決定を行う上で,非常に有効な情報となり得ることを示唆する.

  • 中島 英博
    2011 年 14 巻 p. 271-286
    発行日: 2011/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿は,大学職員が管理職として必要な資質を,業務を通じて獲得する過程に注目した質的研究により考察した.本稿の主要な結論は,以下の通りである.第1に,大学職員が管理職として業務を遂行する力を身につける上で,業務を通じた学習が重要である.第2に,大学の職場において,部下の業務を適切に設計して与え,業務を通じた学習を促進できる課長職の育成が,急務の課題である.第3に,それらの実現においては,大学職員が顧客志向の信念を持てる人事制度面の整備が急務である.第4に,大学職員の職場において特徴的な学習内容は,組織内部に関する学習であり,教員組織を含む他部署の要求を把握し,満足度を高める方法で業務を進めることである.

  • 半田 智久
    2011 年 14 巻 p. 287-307
    発行日: 2011/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     当研究は国際的な観点から大学の成績評価制度におけるGPAの受容と運用の実態を知るために33ヵ国,311大学に実施した質問紙調査の分析報告である.主たる結果は次のとおりであった.米国,欧州,アジア,豪州に分けてみると,GPA制度の運用実態は地域によって大きな違いがあり,米国と日本以外のアジアの大学では9割以上で運用されている反面,欧州での運用は約2割に留まっていることがわかった.レターグレードによる成績等級とGPとの関係をみると,米国の大学ではGP の最大値を一般に4.0にしているが,これを国際的な標準とみなせる証拠は見いだせなかった.現況,同指標の国際的な通用性は成績に当該科目の単位数を関係させるというGPA 制度の根幹をなす算定原理についてのみ認めることができた.

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