私は,東京大学東洋文化研究所の関寛治教授のお誘いで,1990年にJASAG創立の際,発起人に加わることになった.その当時,私が政治の分析でどのような問題意識を持ち,何を考えていたか,また当時の学問的状況の中でどのような課題に取り組もうとしていたか,さらには,JASAG設立直後の揺籃期に,会員はシミュレーション&ゲーミング研究にどのような姿勢で接しようとしていたのか,それらを関寛治教授との交流や私の初期の書物を手掛かりに描いて見た.
筆者がダブルループ学習に関心を持つに至ったのは,30数年前,某私立大学(A大学)の経営立て直しに携わったときからである.ここでの経験から筆者は,コンピュータを使ったマイクロワールド(Microworlds)が組織のダブルループ学習を可能にする強力な手法であることを認識した.この大学は,長い沈滞のあと急に活性化し高いパフォーマンスを上げるようになった.なぜコンピューターシミュレーションが,組織学習を通じて大学を劇的に変革する上でかくも役立ったのか.コンピューターシミュレーション以上に有効な手法がほかにあるのか.緩やかな結合の状況のもとでの組織学習に効果的な手法を開発することは,可能なのか.これらの疑問が筆者の研究の出発点となった.筆者は20以上のポリシーエクササイズを開発し,実施した.そしてこれがコミュニケーションとリーダーシップ研修用のゲーミング・シミュレーションの開発へとつながっていった.開発されたゲーミングシミュレーションは,京葉コンビナートの現場中核人材の研修に10年以上継続的に用いられている.
本論文では,社会心理学においてゲームシミュレーションが研究や教育の方法として利用されてきた経緯を振り返り,ゲームシミュレーションの課題と今後の可能性について議論する.社会学の教育プログラムとしてのSIMSOCを社会心理学の研究方法として利用するためにゲームの仕組みを大幅に改変した仮想世界ゲームは,リーダーシップの発生や社会的アイデンティティの獲得,さらには社会的ジレンマの解決のダイナミックなプロセスを分析する有用な道具であることが確認できた.また,人々の望ましくない行動によって生じる社会問題の解決策を発見するために,様々なゲームシミュレーションが社会心理学者によって開発されて,大学だけでなく地域において教育プログラムとして利用されるようになった.そうしてゲームシミュレーションは社会心理学では実験室実験や社会調査の代替的な研究・教育方法としての評価が得られるようになった.今後の課題としては,高レベル放射性廃棄物の地層処分のようなNIMBY問題など人々の価値観の対立によって合意形成が困難な問題の解決策を検討するためのゲームシミュレーションを開発し,解決策を促進阻害する要因を発見することが必要となるであろう.
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