シミュレーション&ゲーミング
Online ISSN : 2434-0472
Print ISSN : 1345-1499
31 巻, 2 号
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特集:規範とゲーミング
巻頭言
特集論文
  • 小山田 晋, 木村 美智子, 木谷 忍
    2022 年 31 巻 2 号 p. 90-103
    発行日: 2022/01/30
    公開日: 2022/02/18
    ジャーナル フリー

    本研究では,複数世代での風土保全を体験するゲーミングを開発・実施し,風土保全のための世代間倫理の創発の可能性を探求する.今回開発した「風土継承ゲーミング」では,各プレイヤーには村長という役割が与えられ,複数世代で村づくりに取り組む.これは一種のノベルゲームであり,各シナリオに対する村長の選択により村の社会経済状況と風景の状況が変化し,次の代のプレイヤーに引き継がれる.実験の結果,後の代になるほど風景に対する自身の関心に反し村全体のバランスを志向した選択をする傾向があること,そうした判断は先行世代の行動履歴を意識することによる可能性があること,そしてプレイヤーによっては直前世代の村長の意向に反する選択をする傾向があることが確認された.こうした結果は,プレイヤーが,個人の関心ではなく村全体にとって必要な選択を求める規範を意識して行動したことを示していると考えられる.

  • 川上 智, 粟飯原 萌, 古市 昌一
    2022 年 31 巻 2 号 p. 104-118
    発行日: 2022/01/30
    公開日: 2022/02/18
    ジャーナル フリー

    デジタル世界の情報を駆使して経営の意思決定を進めていく時代が到来する.その情報の多くはビッグデータとして収集されるが,これを容易に理解し経営判断するには情報表示に工夫が必要となる.本研究では,日々生成される市場のビッグデータをVisual Analytics技術により即時に可視化し,経営の意思決定に資するマップへの表示法(ビッグデータ・マーケットボード表示法)を提案し,これまで多く使われてきたグラフによる表示法と比較した.この比較のために短期間で意思決定を繰り返す特徴を持つマーケティング・ビジネスゲームを試作した.このゲームには,Agent-Based Modelingにより複雑な市場の消費者行動を模擬し,選択の余地ある推論を与え,高等な意思決定を迫るモデルを組込んだ.これにより模擬経営者に,大局観に至るまでの意思決定を繰り返させることで,表示法の有効性について評価した.この結果,視覚として情報取得できる表示法とすることで,即時に読み取れる情報に差が生じ,戦略策定の柔軟性が増して,経営の意思決定がしやすくなることが明らかになった.

依頼論文
  • 玉田 和恵, 松田 稔樹
    2022 年 31 巻 2 号 p. 119-129
    発行日: 2022/01/30
    公開日: 2022/02/18
    ジャーナル フリー

    本稿では,筆者らが情報モラル教育のために開発してきたゲーミング教材の変遷をふり返りながら,規範を育てるゲーミングの視点と,ゲーミングの規範としての設計原理に関する研究の視点から考察した.前者については,「3種の知識」,「情報的な見方・考え方」,「問題解決の縦糸・横糸モデル」という形で,修得すべき規範を統合・拡張してきた.これにより,情報モラルから,市民として社会情報システムを評価する能力の指導法に発展させた.後者については,類推,レディネス,汎用的方略,転移,メタ認知などをキーワードとして,ゲーミング教材の優位性に着目し,知識獲得モードと演習モード,ログの活用,知識の5W1Hフレームなどの設計原理を開発してきた.両者は,規範モデルをメタ認知知識として明示的に指導するという形で一度は一体化されたが,今後は規範モデルを複数のゲーミング教材で系統的に指導する新・逆向き設計のようなカリキュラム設計原理が重要になるだろう.

一般論文
査読論文
  • 横山 実紀, 大沼 進
    2022 年 31 巻 2 号 p. 130-142
    発行日: 2022/01/30
    公開日: 2022/02/18
    ジャーナル フリー

    本研究は,NIMBYとしての高レベル放射性廃棄物地層処分地選定問題を取り上げ,合意形成プロセスにおける無知のヴェールの有効性を探索した.本研究は,誰もが当事者となり得るということと,自分の利害関係について不明であるという無知のヴェールの二つの要素を決め方に適用し,NIMBYの合意形成促進における有効性を検討した.ゲーム構造として,プレーヤー全員が立地地域住民となり得るとし,そのうえで利害関係を知らずに価値基準を議論する役割のプレーヤーを設けた,「高レベル放射性廃棄物処分地選定合意形成ゲーム」を開発・実施した.ゲームでは利害の代弁者である地域の首長と,利害関係を知らない無知のヴェールに覆われた住民代表のプレーヤーが順番に価値基準を議論して決定する.その結果,無知のヴェールを適用した決め方は,公正と評価されていたが必ずしも受容にはつながらなかった.合意形成プロセスに無知のヴェールを組み込むことは有効だが,立地地域を絞り込む際は別の方法を組み合わせる必要性が示唆された.

  • 野波 寬, 坂本 剛, 大友 章司, 田代 豊, 青木 俊明
    2022 年 31 巻 2 号 p. 143-155
    発行日: 2022/01/30
    公開日: 2022/02/18
    ジャーナル フリー

    NIMBY構造を内包する忌避施設の立地をめぐっては,他のアクターよりも負担が集中する当事者の権利を重視すべきという判断がなされやすく,当事者の優位的正当化と定義される.しかし当事者の優位的正当化が自明視される場合,忌避施設の立地がなされず社会全体での共貧化や,あるいは忌避施設の問題に対する人々の関心の低下が生じる.本研究では,忌避施設としての地層処分場および保育園の立地を焦点とする「誰がなぜゲーム」 (WWG)を実施し,忌避施設が立地された場合に負担が集中する当事者と,利害が対立するもうひとつの当事者,つまり忌避施設が立地されなかった場合に負担が集中する当事者が併存する多極化構造を設定した.当事者が多極化した状況では,当事者の優位的正当化が抑制され,政府や行政の正当性に対する評価が向上した.2つのゲーム実施例をもとに,当事者に対する優位的正当化の発生と抑制の過程,およびWWGの展開可能性について考察した.

報告
編集後記
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