行動経済学
Online ISSN : 2185-3568
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9 巻
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論文
  • 藤澤 美恵子
    2016 年 9 巻 p. 1-11
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/03
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,既存住宅市場が拡充するために必要な情報開示について提言することである.そのために,本研究は,情報の非対称性のある既存住宅市場における住宅の質の情報の開示と均衡価格に関する理論モデルを構築した.理論モデルと実験経済学の手法によるデータを比較し,売出価格や成約価格および成約率について分析する.

    理論上は,情報が開示されると完全ベイジアン均衡は分離均衡となるが,一部でも情報が開示されないと一括均衡が存在する.実験においても同様な結果が得られた.一方,実験の成約価格は,理論価格よりも低い価格で成約しており,売主は必ずしも利益を最大化していない.情報開示量は,成約数と正の相関があり,成約価格や売主の売出価格の決定に影響を与えている.以上より,売主と買主の両者に公正な利益をもたらす規範的な情報開示は,理論ばかりでなく実験においても完全情報であるとの知見を得た.

  • 中川 宏道
    2016 年 9 巻 p. 12-29
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/18
    ジャーナル フリー

    貯めたポイントを1ポイント単位で使用できるロイヤルティ・プログラムにおいて,消費者はどのようなときにポイントを使用するのであろうか.中川(2015)のポイントに関するメンタル・アカウンティング理論から示唆される通り,ポイント残高がポイント使用意図や支払いの知覚コストに影響を与えるという仮説について,本研究では家電量販店およびスーパーマーケットのロイヤルティ・プログラムの会員を対象とした実験がおこなわれた.実験結果から,ポイント残高がポイント使用意図,支払方法の選択,支払いの知覚コストに影響を与えていることが明らかになった.従来の研究結果とは異なり,支払金額はそれほど影響を与えていなかった.ポイント残高が少ない消費者にポイント使用を促すことは,ポイントを全く使わない場合よりもかえって支払いの知覚コストを高めてしまう.したがって消費者にポイントの使用を促す際には,ポイント残高がある程度以上の場合にすべきであることが示唆される.

  • Mostafa Saidur Rahim Khan
    2016 年 9 巻 p. 30-41
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー

    This study examines the momentum effect in Japanese stock returns on the basis of market conditions. Although previous studies did not find a momentum effect in Japanese stock returns, this study provides evidence that significant momentum profits exist for a particular market condition. When the market is divided into UP and DOWN states, momentum profits are found in the UP market states. A further classification of UP and DOWN market states on the basis of subsequent continuation and reversion (UP-UP, UP-DOWN, DOWN-UP, and DOWN-DOWN) indicates that momentum profits are evident only in the reverting UP states (UP-DOWN). I argue that investors' under-reaction to information causes momentum profits in the reverting UP states in Japan.

書評
パネルディスカッション
第10回大会プロシーディングス
  • Eiji Yamamura, Alison Booth
    2017 年 9 巻 p. 65-67
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/01
    ジャーナル フリー

    In the speedboat racing in Japan, women racers can participate and compete in the race in the same condition as the men racer do. This paper used the individual level panel data of records of the racing during the period April 2014–October 2015 to examine how the men's dominated circumstance influence women's performance in the race. The data allows us to control for various factors such as unobservable individual fixed effect, one's lean in the race, popularity, her conditions in the race, and weather condition. After controlling these factors, based on the women's race sample, we observe that the women's time of mixed race loses by approximately 0.3% in compared with that of the women's race.

  • 山口 勝業
    2017 年 9 巻 p. 68-75
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/01
    ジャーナル フリー

    我が国の家計金融資産に占める有価証券投資の比率が低いのは,日本人のリスク許容度が低いためであろうか? リスク許容度はリスク選好度とリスク許容量の二つの要素で構成される.本研究では実際の我が国家計の財政状態によるリスク許容量を計測するため,「平成26年全国消費実態調査」の家計データを勤労者世帯と非勤労者世帯に分け,年齢層別・年収水準別・地域別の視点から分析した.一般に,勤労者世帯よりも非勤労者世帯が,若年層よりも高齢者が,金融資産総額が多いだけでなく株式や投資信託など有価証券(リスク性金融資産)を多く保有する傾向が見られた.これは家計のライフサイクル上で住宅ローン負債がリスク許容量への制約になっているためであると考えられる.

  • 三輪 宏太郎, 植田 一博
    2017 年 9 巻 p. 76-80
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/01
    ジャーナル フリー

    本研究では,時間外取引を行う投資家が少ない状況下でも,どのような取引時間延長が有効となりうるか分析を行った.特に,プレマーケットセッション,アフターマーケットセッションの導入及び,どの程度の長さのセッションの導入が有効となるか,人工市場モデルによるシミュレーション分析を行った.結果,上記の状況下では,多くの場合,取引時間延長により,価格効率性及び価格安定性が低下することがわかった.しかも,導入される時間外取引時間帯が長く,アフターマーケットセッションを導入した場合,この傾向は顕著であった.一方で,短期間のプレマーケットセッションであれば,時間外取引の参加者が少なくても,価格効率性や価格安定性を改善しうることがわかった.

  • 犬童 健良
    2017 年 9 巻 p. 81-84
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/01
    ジャーナル フリー

    本論文は,アレの背理における共通比効果(あるいは確実性効果)の要因を分析するため,クジ間の比較を交差的注目ネットワークモデルとしてモデル化し,先行研究(犬童,2013)の交差的注目の実証データを再解釈した.交差的注目とは,仮想的に選択されたクジの一つの可能な結果を条件として,選択されなかったクジの別の結果に注目することである.草的注目ネットワークでは,一対のクジ間の比較における認知的活動を,一方のクジの可能な結果を仮想的な参照点として,もう一方のクジの可能な結果がどれだけ気になるかの指標としてポテンシャル値が各枝に割当てられる.またこのネットワークはポテンシャルゲームとして解釈される.本論文では経路の追加が混雑を悪化させる交通現象のゲーム理論モデルであるブライスの背理が,アレの背理を引き起こす交差的注目ネットワークにおいて起きることが確認され,また参照点の設定との関係が論じられた.

  • Mostafa Saidur Rahim Khan, Hideaki Kiyoshi Kato
    2017 年 9 巻 p. 85-90
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/01
    ジャーナル フリー

    This study examines whether short-sales constraint is really significant in the presence of a centralized lendable stock market. We hypothesize that a centralized lendable stock market reduces search frictions considerably that reduces cost of borrowing stocks and make short-sales less constrained. Using six-month daily data, we provide evidence that cost of borrowing stocks is not generally significant in the centralized lendable stock market in Japan. Costs of comparable borrowing stocks are also found to be lower in Japan than that in the USA. Our results also show that conventional recall risk is not observed under a centralized lending market. We also examine future return behavior of short-sales constrained stocks to test Miller's (1977) overvaluation hypothesis but have not found any evidence in support of the hypothesis. Overall, our results support the prediction of Kolasinski et al. (2013) that a centralized lending market reduces short-sales constraints and improves the efficiency of the market.

  • 佐々木 周作, 若野 綾子, 平井 啓, 大竹 文雄
    2017 年 9 巻 p. 91-94
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/01
    ジャーナル フリー

    看護師は利他的であることが望ましい,という通説がある.しかし,本研究は,行動経済学の利他的選好のうち,“純粋な利他性”を強く持つ看護師ほど心理的に燃え尽きやすいことを実証的に示した.本研究では,日本国内の医療機関に勤務する看護師501名を対象にインターネット・アンケート調査を実施し,その中の仮想的実験質問を使って看護師の利他的選好の種類を識別した.重回帰分析の推定結果から,他人の効用が自分の効用と正に相関する純粋に利他的な看護師は,いずれの種類の利他性を持たない看護師に比べバーンアウト指標の中の情緒的消耗感が高いこと,また,精神安定剤・抗うつ剤を常用している可能性が高いことがわかった.

  • 高橋 義明
    2017 年 9 巻 p. 95-98
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/01
    ジャーナル フリー

    高齢化等とともに日本の国民医療費は増加を続けている(2013年40兆円).うち薬剤費が医療費の22%を占めており,政府は医療費節減の柱としてジェネリック医薬品(GE)のシェアをなるべく早い時期に80%以上とする目標を掲げた.目標達成のために品質等に関する信頼性向上,情報提供の充実などを進めるが,目標は達成できるのであろうか.本研究では全国25~44歳の男女に対して行った経済実験(n=4,589)から,処方箋のデフォルトを新薬またはGEにした場合のそれぞれのGEの選択率を算出した.また,情報提供の方策として差額通知があるが,差額を通知した場合に選択率に有意な差が生まれるかを検証した.その結果,処方箋のデフォルトをGEとした場合(GEの原則化)は政府目標を達成できることが明らかになった.GEの原則化には予算措置等の追加費用がほとんどかからず,2兆円前後の削減効果が見込まれ,費用対効果も大きい.一方,差額通知は差額が大きい場合にはGEシェア引き上げ効果があるが,GEの原則化をしない場合には政府目標に届かないことが予想された.今後は一人当たり医療費が多い高齢者を対象とした研究などが必要である.

  • Yosuke Hashidate
    2017 年 9 巻 p. 99-101
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/01
    ジャーナル フリー

    This paper investigates preferences over menus, i.e., sets of alternatives, to analyze a decision maker who randomizes alternatives in a menu. We identify preferences for randomization, by studying anticipated utility from the viewpoint of subjective uncertainty. The effect of randomization in one's mind stems from several cognitive or psychological effects ranging from complements between alternatives to aversion to timing of earlier decision-making. The main axiom in our analysis is a monotonic condition for preferences for randomization, named as Randomization. We show that Randomization, along with other standard axioms, axiomatically characterizes the main result, that is, a random anticipated utility representation. In the model, the decision maker's subjective belief for the effect of randomization is uniquely identified. In addition, we characterize preferences for a desire to randomization, and an aversion to randomization, respectively.

  • 伊藤 高弘, 窪田 康平, 大竹 文雄
    2017 年 9 巻 p. 102-105
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/01
    ジャーナル フリー

    本研究は,一般的信頼,互恵性,利他性などのソーシャル・キャピタルが,所得・従業上の地位・管理職という労働市場でのアウトカムと幸福度に与える影響を個人に関する独自のアンケート調査をもとに検証した.ソーシャル・キャピタルの内生性に対処するために,小学生の頃に通学路および自宅の近隣に寺院・地蔵・神社があったか否かという変数を用いた.分析結果は操作変数法の有効性を示しており,推計結果からはソーシャル・キャピタルが高くても労働市場でのアウトカムには影響しないが,幸福度および健康水準を高めることが示唆された.また,労働市場でのアウトカムを高めない理由として,ソーシャル・キャピタルが高いと地域間移動が減少するという事実を示した.

  • 三浦 貴弘, 犬飼 佳吾, Pacharasut S., San S., Thanee C., 佐々木 勝
    2017 年 9 巻 p. 106-109
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/01
    ジャーナル フリー

    本研究では,アンケートを用いたリスク選好の測定の代替案の1つとして,実験室におけるサーチ実験を行い,観測された被験者のサーチ行動からリスクに対する選好の程度を測定した.その結果を用いて,性別間でリスク回避度に違いがみられるのかを日本,タイの被験者を用いて比較分析を行った.本研究から得られた結果として,日本では男女間でリスク選好に違いは見られなかったが,その一方でタイではリスク選好は女性のほうが統計的に有意にリスク愛好的であることが明らかになった.また,アンケートの結果から測定したリスク選好は日本,タイどちらの国でも有意な違いはみられなかった.この結果から,求職行動に関連するリスク選好の男女差は文化によって異なることが示唆される.

  • 山並 千佳
    2017 年 9 巻 p. 110-113
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/01
    ジャーナル フリー

    本稿では,競争への選好と労働成果の因果効果を明らかにする.選好や価値観といった行動を基礎づける要因と労働成果の関係を示す分析は少ない.そこで独自調査を実施し,過去に形成された個人の価値観や選好が現時点の労働意欲や賃金に影響を与えるのかを検証する.計量分析では,独自調査の設計により生育環境や居住地など価値観形成と労働成果にかかわる個人属性をできる限り落とさないように注意する.また,観察されない個人属性が真の因果効果を見えにくくする,すなわち競争選好が内生変数となる可能性を考慮するために操作変数による推定を行う.分析の結果,第一に,青年期に不況に直面した者は競争選好を持ちにくいことがわかる.また,競争選好を持たないことと年収には因果関係はないものの,労働意欲に対しては負の効果が確認される.不況期に育ち競争選好を持たなかった者は,就労期に労働意欲を失いやすいと言える.

  • 後藤 晶
    2017 年 9 巻 p. 114-117
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/01
    ジャーナル フリー

    実験経済学の観点からは価値誘発理論に基づいて,適切なインセンティブを設計する必要がある.しかしながら,通常の紙面およびWebを利用したアンケートでは価値誘発理論を満たす調査を実施することは困難である.

    しかしながら,クラウドソーシングを利用すれば,低費用かつ短時間で十分な量のデータを収集することが可能である.その上で,適切な設計を行うことにより価値誘発理論を満たした実験の実施が可能であることを示唆する.本研究においてはクラウドソーシングを利用したオンラインアンケートを実施した.その結果の概要を報告すると同時に,今後の課題について報告する.

  • 湯川 志保
    2017 年 9 巻 p. 118-121
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/01
    ジャーナル フリー

    本研究は,公益財団法人家計経済研究所が実施する「消費生活に関するパネル調査」を用いて,子どもの誕生が男性の労働時間に影響を与えるのかについて分析し,仮に影響を与えるのであれば,それは家庭内分業によるものなのかについて検証を行った.家庭内分業によるものなのかを検証する際,比較優位の指標として夫婦間の学歴差を用いた.

    分析の結果,子どもの誕生は男性の労働時間を増加させることが確認された.さらに,自分の学歴が妻の学歴よりも高い男性の方がその他の男性に比べて子どもの誕生による労働時間の増加が大きいことが示されたことから,子どもの誕生により家庭内分業が発生していることが示唆される.最後に,家庭内分業が男性の生産性の代理変数である賃金に影響を与えるかについて分析したが,賃金に関しては有意な影響は観察されなかった.

  • 林 良平
    2017 年 9 巻 p. 122-131
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/01
    ジャーナル フリー

    本稿では「設定1分ですぐに始められる経済実験」をコンセプトに開発されているオンライン経済実験教材(XEE.JP)について,設計方針とシステムの特長,インターフェースの特長を述べた後,実装済み実験を紹介する.本システムを用いることで教育目的実験が手軽で確実に実施できるようになる.また,本システムの特長を活かした研究目的実験への応用可能性も指摘する.

  • 佐々木 周作, 平井 啓, 大竹 文雄
    2017 年 9 巻 p. 132-135
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/01
    ジャーナル フリー

    本研究は,行動経済学におけるリスク選好が日本人女性の乳がん検診の受診行動に及ぼす影響を検証する.乳がん検診の主対象である40歳台・50歳台の女性のうち,自治体検診・主婦検診の乳がん検診の対象者と想定できる者602名に対し,インターネット・アンケート調査を実施した.その中に,プロスペクト理論に基づいた仮想的実験質問を設定し,回答者の,利得局面と損失局面それぞれでのリスク回避度を抽出した.分析結果から,利得局面でリスク回避的に意思決定する人ほど乳がん検診を受診する確率が低いこと,また,損失局面でリスク愛好的に意思決定する人もまた受診する確率が低いことが分かった.さらに,追加分析によって,乳がんに関わる選択の結果を利得局面で認識する人と損失局面で認識する人の両方が存在する可能性を示した.

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