精神発達遅滞を伴う成人の未手術硬軟口蓋裂の治療を経験し,音声言語の聴覚印象による評価,構音時の口腔内の視診,鼻咽腔ファイバーおよび造影X線ビデオによる観察を行った.聴覚印象による評価では顕著な開鼻声が認められ,構音は/p,t,k,b,d,g,t∫,ts,dz,d3/が咽頭破裂音,/s,∫/が咽頭摩擦音,/r,m,n,j/が歪み音となっていた./s,∫/は咽頭破裂音となることもあった.構音時の口腔内視診では舌背の挙上はみられず,舌根部が咽頭後壁に向かって水平に移動した.鼻咽腔ファイバーと造影X線ビデオによる観察では舌根部と咽頭後壁で閉鎖が認められ,舌根のみと中咽頭後壁が接触する中咽頭型の咽頭破裂音と考えられた.本症例では未手術のため鼻咽腔閉鎖機能不全が持続したこと,小顎症による舌の後退により構音時に舌の後方移動がおこりやすいこと,精神発達遅滞があったことによって多くの音にわたって咽頭破裂音が出現したと考えられた.
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