聴能言語学研究
Online ISSN : 1884-7056
Print ISSN : 0912-8204
ISSN-L : 0912-8204
3 巻, 1 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
  • 稲枝 道子, 竹内 愛子, 高橋 真知子, 員見 芳房
    1986 年3 巻1 号 p. 1-9
    発行日: 1986年
    公開日: 2009/11/18
    ジャーナル フリー
    失語症者196名にPICA (Porch Index of Communicative Ability)の変法である失語症検査を施行し,失語反応の把握における多次元評価法の有効性について検討した.結果は以下の通りである.
    (1) 多次元評価法を用いることによって,○×採点では把握できない関連,再刺激,不完全,遅延,自己修正,歪みなどの中間的反応が全反応の約20%にみられた.
    (2) 中間反応の出現率は,失語症の重症度と下位検査の困難度との組合わせによって異なっていた.
    (3) 失語症者の反応の推移をみると,同一反応カテゴリー内にあっても失語重症度によって反応の質的特徴は異なっていた.すなわち,失語が重度である程,2回目検査時には,悪化する反応が多いのに対して,軽度群ではその逆の傾向を示し,後者の群での改善の良さを裏付ける反応の推移がみられた.
  • 高橋 真知子, 竹内 愛子, 河内 十郎
    1986 年3 巻1 号 p. 10-19
    発行日: 1986年
    公開日: 2009/11/18
    ジャーナル フリー
    漢字に選択的な失読失書と視覚心像の障害とを呈した1失名詞失語症者(H.Y.,発症時53歳,大卒,左角回を含むT-P-O移行部損傷)について,漢字の使用頻度と表意性を統制して作成した熟語検査を実施し,漢字障害の性質を検討した.その後,対照例の成績と比較し,以下の結果が得られた.
    (1) 本症例の漢字の音読・書字力は対照例と比較して,正答率と反応時間の点で明らかに低下していた.また,抽象的な漢字ではなく,使用頻度の低い字での困難が著明であった.
    (2) 音読の誤反応の分析から,本症例の音読の困難は意味レベルの障害ではなく,漢字からその音価を引き出せない,視覚-聴覚連合の障害によることが示唆された.
    (3) 書字反応の分析及び関連する諸検査の結果,本症例の反応の一部には特異な誤りが見出され,本症例の書字障害には,聴覚入力による文字の想起の障害と,文字の視覚心像自体の障害とが加わっていることが推測された.
  • 記号子-記号母のパラダイムの機能の再編成を通じて
    手束 邦洋
    1986 年3 巻1 号 p. 20-27
    発行日: 1986年
    公開日: 2009/11/18
    ジャーナル フリー
    パロル行為の改善を目標として左被殻出血による1重度失語症患者に対して行った言語治療の経過を報告する.症例は45歳右利き男性,右片麻痺を伴っていた.発語開始に困難を示し,ひとたび開始するや可変的反復を伴う音綴断片や語新作を現し,有意味な発語はなかった.聴理解は単語レベルから不確実で,パロル行為の混乱,困惑が著しく,身振りも障害されていた.この患者に対し日常生活行為のバラダイムを非音声的手段(描画,身振り)によって意識化させ,言語理解,表出における記号子-記号母のパラダイムの機能を再編成するという方法によって言語訓練を行った結果,音綴断片や語新作は軽減,有意味な発語もある程度出現し,聴理解,身振りにも改善を見,パロル行為の混乱,困惑が解消した.意義過程の訓練の素材としての記号子は,自己の生活行為を患者に可能なやり方で分類させることの中で患者自身によってとり出されるべきであると考えられた.
  • 錦織 美知, 白石 希美子, 新田 初美, 畠山 征也
    1986 年3 巻1 号 p. 28-34
    発行日: 1986年
    公開日: 2009/11/18
    ジャーナル フリー
    痙性両まひタイプの脳性まひ児で,音声言語の聴覚認知に機能的障害を持っているのではないかと考えられる症例に出会った.3年間の治療過程で,次の様な臨床症状の特徴が見られた.
    (1) 純音聴力検査で聴力に異常がないにもかかわらず,人の話しかけに対し聞き返しが多く,また騒音の多い所では理解力が低下する傾向があった.
    (2) 音声言語の模倣が育ちにくく,発語がなかなか増加せず,自発語は構音に一貫性のない誤りが多く不明瞭であった.
    (3) 視覚ルートを媒介とした聴能訓練に長時間の学習を必要とし,言語の了解が困難であった.
    (4) 1年間の聴能訓練後,WPPSIの言語性IQや,ITPAの聴覚-音声回路の上昇は認められず,聴覚を介しての言語学習がきわめて困難であった.
    こうした症状の背景について若干考察をくわえ訓練上の工夫と早期発見の留意点についてのべた.
  • 山本 正志, 阿部 博香
    1986 年3 巻1 号 p. 35-41
    発行日: 1986年
    公開日: 2009/11/18
    ジャーナル フリー
    自閉症児の発話が非伝達的である要因の一つとして,日本語圏では文末運用の不適切さがあると考えられる.今回文末の一例として,依頼の終助詞「テ」をとりあげて分析した.症例は2語を組み合せながら会話に応じることが一応可能な7歳の男児である.本児と日中6時間ともに行動し,依頼や要求の発話行為を記録した.その結果,本児の発話資料中「テ」は3例のみであり,そのうち適切なものは1例のみであることが認められた.しかし要求の発話行為は少なくないことも確認された.
    健常幼児は動詞獲得とともに「テ」を使い始め,以降も頻用する.それと比較すると,本児の「テ」使用の少なさは他の語彙獲得と対照的に不均衡であった.「テ」は対人関係を直接形成する言語表現である.本児の「テ」使用の少なさを,ことがらを叙述する言語表現の獲得との不均衡として考察した.
feedback
Top