産業動物臨床医学雑誌
Online ISSN : 2187-2805
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1 巻, 4 号
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原著
  • 渡辺 大作, 安藤 貴朗, 浅井 沙央理, 大塚 浩通, 高岸 聖彦, 大橋 修一, 熊田 昇二, 芝 文彦, 及川 正明
    2010 年 1 巻 4 号 p. 177-183
    発行日: 2010/12/31
    公開日: 2013/05/01
    ジャーナル フリー
    黒毛和種肥育牛の飼料給与および各肥育ステージにおける血液成分の変動を調査し,肝障害の指標としての血漿γ-グルタミルトランスフェラーゼ(GGT)値との関連を検討した.供試牛は青森県内の5農場で飼育された8~32カ月齢の黒毛和種肥育牛305頭で,肥育前期(9~13カ月齢:69頭),肥育中期(14~18カ月齢:70頭),肥育後期(19~23カ月齢:95頭)および仕上期(24カ月齢~出荷まで:71頭)の各肥育ステージに分類した.血漿ビタミンA(VA)およびβ-カロテン値は肥育前期に比べて肥育中期以降に低値を示した.血漿総コレステロール(TC)とGGT値は中期以降に,尿素窒素(UN)値は後期に高値を示した.血清銅(Cu)値は中期以降に低値を示し,血清鉄(Fe)とセレン(Se)値は後期と仕上期に高値を示し,血清亜鉛(Zn)値は変化がみられなかった.血漿GGT値と月齢,血漿UN, TCおよび血清Se値との間には有意な正の相関が,血漿GGT値と血漿VAおよびβ-カロテン値との間には有意な負の相関がみられた.血漿GGT値を目的変数とし,肝障害で変動する血清CuとZnを除いた重回帰式(R2=0.21, p<0.001)では,最も高い相対寄与率を持つ要因は月齢53%,次いで血漿VA 値25%,血漿UN値14%であった.以上の成績から,血漿GGT値の増加には月齢,血漿VAおよびUN値が強く関連していることが示唆された.
  • 松田 敬一
    2010 年 1 巻 4 号 p. 184-189
    発行日: 2010/12/31
    公開日: 2013/05/01
    ジャーナル フリー
    黒毛和種肥育牛にウルソデオキシコール酸(250mg/頭/日)を10カ月齢で導入後から出荷前々日(31カ月齢)まで投与して肥育期間中の血液性状および枝肉成績を調査した.投与群では非投与の対照群に比べ,血清ビタミンA濃度は13カ月齢で有意に低値を示し,19カ月齢で有意に高値を示した.血清GGT活性値は19および28カ月齢で有意に低値を示した.血清T-Cho濃度は16カ月齢で有意に高値を示した.血清TG濃度は25カ月齢で有意に高値を示した.血清NEFA濃度は25カ月齢で有意に低値を示した.枝肉成績は,両群間に有意な差は認められなかったが,雌の枝肉重量が重い傾向があった(p=0.09).肝臓廃棄率と鋸屑肝の発生数は低かった.両群の肥育期間中において血清GGT活性値は19カ月齢前後および25カ月齢以降で高値を示した.肝臓廃棄になった牛は25カ月齢以降の血清GGT活性値が高値であった.以上の結果から,ウルソデオキシコール酸の長期間低用量投与は肥育期間中の肝機能低下および肝臓廃棄の予防に効果的であると考えられた.
  • 生田 健太郎, 岡田 啓司, 佐藤 繁, 安田 準
    2010 年 1 巻 4 号 p. 190-196
    発行日: 2010/12/31
    公開日: 2013/05/01
    ジャーナル フリー
    泌乳牛が暑熱ストレスを受けた場合,どの血液成分が,どのように変化するかを明らかにすると共に,飼料摂取状況や乳生産性との関連性を検討するため,乳牛45頭を分離給与または完全混合飼料(TMR)給与で飼養管理し,1年間に渡って毎月代謝プロファイルテストを実施した.得られた延べ277頭のデータを給与法毎に適温期と暑熱期(6~9月)に分け,各調査項目を比較した.分離給与では適温期に延べ81頭,暑熱期に延べ43頭のデータが得られた.これらを比較した結果,乾物摂取量(DMI, p<0.05),代謝エネルギー摂取量(p<0.01),乳量(p<0.01),乳脂率(p<0.05),乳蛋白質率(p<0.001),ヘマトクリット(Ht, p<0.001),血糖(p<0.001),血清総コレステロール(p<0.01),リン脂質(p<0.001),総蛋白質(p<0.05),カルシウム(p<0.01)およびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST, p<0.05)が暑熱期に有意な低値を示し,血清β-リポ蛋白(BL, p<0.001)が有意な高値を示した.一方,TMR給与では適温期に延べ110頭,暑熱期に延べ43頭のデータが得られた.これらを比較した結果,飼料摂取状況と乳量に差はなかったが,乳脂率(p<0.05)と乳蛋白質率(p<0.01),Ht(p<0.001)および血清AST(p<0.01)が暑熱期に有意な低値を示し,血清BL(p<0.001)とアルブミン(p<0.01)が有意な高値を示した.以上のように,分離給与では暑熱期にDMIと乳量が低下し,血液成分は13項目中8項目に変化がみられた.一方,TMR給与では暑熱期でもDMIと乳量が低下せず,血液成分は4項目にのみ変化がみられた.従って,暑熱による泌乳牛の血液成分の変化は飼料摂取状況や乳生産性が受けた影響によって異なることが示唆された.
  • 佐藤 雅彦, 今西 晶子, 岡田 啓司, 安田 準
    2010 年 1 巻 4 号 p. 197-202
    発行日: 2010/12/31
    公開日: 2013/05/01
    ジャーナル フリー
    乳汁中のアデノシンデアミナーゼ(ADA)活性の臨床的意義を検討した.まず臨床的に健康な搾乳中のホルスタイン種成乳牛35頭の乳汁を初乳と常乳(泌乳初期,泌乳最盛期,泌乳中期,泌乳後期)に区分し,乳清中のADA活性値を測定した.常乳の乳清ADAは0.03±0.01 IU/ℓと著しく低値だったが,初乳は11.9±2.9 IU/ℓ(平均±標準誤差,以下同)と,常乳に比べて高値を示した.次に,ホルスタイン種成乳牛11頭について,分娩前後の血清ADA活性値と末梢血リンパ球幼若化能を調べた.また初乳および分娩1週間後の乳清ADA活性値と初乳中リンパ球幼若化能を測定した.これらの結果は,乳汁CMT変法検査が陰性牛の非乳房炎牛(6頭)と陽性牛の潜在性乳房炎牛(5頭)に分けて検討した.分娩前後の血清ADA活性値は,潜在性乳房炎牛が非乳房炎牛に対して高値を示す傾向が認められ,初乳の乳清ADAでも非乳房炎牛が13.5±1.7 IU/ℓ,潜在性乳房炎牛が23.0±5.1 IU/ℓで,潜在性乳房炎牛が非乳房炎牛に対して有意(p<0.05)な高値を示した.分娩前後の末梢血リンパ球幼若化能は,非乳房炎牛では分娩時に低下する傾向がみられたが,潜在性乳房炎牛ではそのような傾向は認められず,分娩時にも高い反応性を示した.初乳中リンパ球幼若化能は,いずれのマイトージェンで刺激した場合も,潜在性乳房炎牛が非乳房炎牛に対して著しい高値を示した.PHAによる刺激指数がきわめて高値を示した個体では初乳中ADA活性も高値を示した.以上のことから,潜在性乳房炎を伴う初乳中のADA活性は炎症反応により活性値が上昇するため,乳房炎診断を同時に行う必要性が考えられた.リンパ球幼若化能とADA活性値の明らかな相関は見出せなかったが,初乳中のADA活性値は乳汁中のリンパ球,とくにCD4T細胞機能を反映することが推測され,簡便なリンパ球系細胞の免疫能評価に応用できる可能性が示唆された.
症例報告
  • 前田 まりか, 薮田 拓生, 矢野 啓, 阿部 省吾, 遠藤 祥子
    2010 年 1 巻 4 号 p. 203-206
    発行日: 2010/12/31
    公開日: 2013/05/01
    ジャーナル フリー
    尿腟を呈する7歳齢ホルスタイン経産牛において胚移植を実施後,妊娠30日から39日の間で胚死滅を認めた.原因調査のために血液検査,超音波画像診断,子宮灌流液の性状,膀胱内および腟内貯留尿の細菌検査を実施したところ,子宮灌流液および尿中からEnterococcus faeciumが多数分離された.Enterococcus属菌は腟内常在細菌の一つであり,子宮に感染を起こすが一般に内膜の病変形成にかかわらないとされている.子宮は,妊娠期は本来無菌であるが,胚死滅を確認した2日後の子宮から多数分離されたことから,同菌の子宮内における増殖が本症例における胚死滅の一因として考えられた.腟内常在細菌の子宮内感染が胚死滅の一因となりうることが示唆され,それが尿腟に起因したものであると考えたが,追加調査でそれを裏付けることはできなかった.しかし,尿腟牛における不受胎と子宮内細菌調査に関する報告は少なく,今後も継続して調査していく必要があると考えられた.
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