産業動物臨床医学雑誌
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8 巻, 2 号
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総説
  • 金澤 朋美
    原稿種別: 総説
    2017 年 8 巻 2 号 p. 51-66
    発行日: 2017/11/01
    公開日: 2019/05/09
    ジャーナル フリー

     牛の胚移植(ET)の受胎率向上を図るためには,黄体サイズを基準とする現行の受胚牛選定方法を改良する必要がある.また,牛における妊娠診断は,直腸検査または超音波画像診断装置を用いて人工授精後25 〜40日以降に行われている.しかし,牛の発情周期は平均21日であるため,不妊であった場合は次回の発情を見落とす可能性がある.近年,新しい黄体機能の評価方法として,超音波カラードプラ法(CDUS)を用いて測定した黄体の血流量が着目されている.そこで,CDUSを用いて測定した黄体血流量に基づく受胚牛選定法と,早期妊娠診断法の有用性を検討することを目的として研究を実施した.試験1として,CDUSを用いて受胚牛のET前後(Day 3,5,7および14;Day0 = 発情日)の黄体血流量の解析を行い,受胎牛と不受胎牛における推移の比較を行った.黄体血流量の指標として,黄体血流面積(BFA)およびらせん動脈の黄体側基部における時間平均最大血流速度(TAMV)を用いた.その結果,受胎牛では不受胎牛に比較してDay 7および14でBFAが有意に高値を示し,Day 14でTAMVが有意に高値を示した.さらに,従来から用いられている黄体面積や血漿プロジェステロン(P4)濃度に比較してDay 7ではBFAが妊娠予測に有用であり,カットオフ値を0.43 cm2に設定することで,高い感度(79.4%)と特異度(75.0%)を同時に得ることができた.また,Day 14においてはBFAとTAMVが妊娠予測に有用であり,BFA 0.63 cm2 かつTAMV 50.6 cm/sをカットオフ値に設定することで,最も高い感度(85.3%)と特異度(91.7%)を同時に得ることができた.性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)製剤の投与により,黄体形成ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)が急速に増加する.LHとFSHは黄体の血管新生因子の制御に関与していることから,GnRH製剤の投与により黄体の血管形成が変化する可能性がある.そこで,試験2として,Day 5にGnRH製剤を投与した牛と非投与牛のET前後(Day 3,5,7および14)のBFAとTAMVを解析し,黄体血流量および妊娠予測精度に及ぼす影響を検討した.その結果,Day 7および14において,GnRH投与群のBFAは対照群に比較して有意に高値を示した.さらに,GnRH-受胎群では,対照群およびGnRH-不受胎群に比較してDay 7および14のBFAが高値を示した.Day 7においては,BFAのカットオフ値を0.52 cm2に設定することで,高い感度(83.3%)と特異度(90.5%)を同時に得ることができた.Day 14においては,BFA 0.94cm2 かつTAMV 44.93cm/s をカットオフ値に設定することで,高い感度(97.1%)と特異度(100%)を同時に得ることができた.試験1で得られた予測精度と比較すると, Day 14における妊娠予測の精度が有意に向上することが明らかとなった.以上より,CDUSによるBFAとTAMVの測定は,受胚牛の受胎性の評価や受胚牛の選定および超早期妊娠診断に有用であり,Day 5 にGnRH製剤を投与することで超早期妊娠診断の精度が向上すると考えられた.

  • 高橋 知也
    原稿種別: 総説
    2017 年 8 巻 2 号 p. 67-85
    発行日: 2017/11/01
    公開日: 2019/05/09
    ジャーナル フリー

     乳牛は脂質代謝が盛んに行われる.近年,ヒトにおいてイオン交換高速液体クロマトグラフィー(AEX-HPLC)法で高密度リポタンパク質(HDL-C),低密度リポタンパク質(LDL-C),中間密度リポタンパク質(IDL-C)および超低密度リポタンパク質(VLDL-C)を迅速かつ正確に測定できるようになった.しかし,牛においてAEX-HPLC法による解析は応用されていない.本研究ではAEXHPLC法による牛リポタンパク質分画測定の基礎的検討を行った.HDL-CおよびLDL-Cは,クロマトグラムにおいて溶出分画が明確に分離され,同時および日差再現性において変動係数(CV)10%未満と良好な結果が得られ,希釈直線性において良好な直線が描かれた.また,AEX-HPLC法と超遠心分離法およびゲルろ過(GP-)HPLC法と測定値を比較したところ,有意な正相関が確認された.以上より,AEX-HPLC法を用いて牛リポタンパク質分画の測定は有用であることが判明した.次にAEX-HPLC法を用いて管内の泌乳量および繁殖成績が優良なS酪農家と不良なⅠ酪農家で,飼養された牛群間で泌乳ステージごとのリポタンパク質分画の比較を行った.LDL-CのTotal-Cに占める割合(LDL-C/Total-C,%)は2群間で有意な違いが認められ,S酪農家では,初期から中期にかけて上昇し,後期以降低下した.一方,Ⅰ酪農家では初期から乾乳期まで大きな変動を示すことなく推移した.これはS酪農家における泌乳量増加により,乳腺への中性脂肪(TG)の運搬が盛んに行われる結果,VLDL →IDL →LDLという代謝経路が活性化したことが考えられた.最後に分娩前後の脂質代謝に着目し,AEX-HPLC法を用いて健常牛のリポタンパク質分画推移の参考値を算出した後,周産期疾患発症牛19頭のリポタンパク質分画測定値との関連性を調査した.AEX-HPLC法は,超遠心分離法ではできなかった分娩後の肝臓からのTG動員の遅れを検出した.周産期疾患発症牛と健常牛の比較では,脂肪肝群および乳熱群においてHDL-CおよびLDL-Cが低値を示す傾向が認められた.LDL-Cの低値は肝臓からのVLDL-Cによる脂質排出低下を予測し,治療の介入に利用できる可能性が示唆された.

一般講演
学術シンポジウムI  繁殖の未来を担う新潮流:遺伝子研究から配偶子操作を経て個体生産へ
学術シンポジウムII 福島原発事故が警戒区域の飼養家畜にもたらしたもの
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