産業動物臨床医学雑誌
Online ISSN : 2187-2805
Print ISSN : 1884-684X
ISSN-L : 1884-684X
13 巻, 5 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
原著
  • 石井 一功, 前田 啓治, 風間 啓, 新井 佐知子, 恩田 賢
    2022 年13 巻5 号 p. 195-199
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/11/30
    ジャーナル フリー

    ホルスタイン種乳用牛の子宮蓄膿症に対する早期治療として,プロスタグランジン(PG)F2αおよび安息香酸エストラジオール(E2)の筋肉内投与に加え,アンピシリン(ABPC)の子宮内投与を併用した際の治療効果を検討した.分娩後28~45日に子宮蓄膿症と診断したホルスタイン種乳用牛204頭を,初診時の処置方法で,PGF2α類縁体クロプロステノール(0.5 mg)およびE2(2 mg)の筋肉内投与に加え,ABPC(500 mg)の子宮内投与を行った76頭(ABPC投与群)と,PGF2αとE2の筋肉内投与のみ行いABPCの投与は行わなかった128頭(ABPC非投与群)の2群に分け,空胎日数をKaplan-Meier生存分析およびlog-rank検定により比較した.ABPC投与群の空胎日数中央値と150日空胎率は124日と31.9%となり,ABPC非投与群の197日と67.9%に対し,有意に短縮または低下した.また,12~17日後の再診時に子宮内膿貯留が消失していた割合をカイ2乗検定で比較したところ,ABPC投与群は90.8%であり,ABPC非投与群の63.3%に比較して有意に高値を示した.以上より,子宮蓄膿症に対し分娩後28~45日にPGF2αとE2の筋肉内投与に加えABPCの子宮内投与を行うと,ホルモン製剤の筋肉内投与のみの場合と比較して12~17日後に膿貯留が消失する割合が高くなり,空胎日数を短縮することが明らかとなった.

症例報告
  • 土谷 佳之, 安樂 みずき, 和田 賢二, 木村 淳, 一條 俊浩
    2022 年13 巻5 号 p. 200-205
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/11/30
    ジャーナル フリー

    牛における下顎骨骨折に対する治療には,ワイヤー固定,ラグスクリュー固定,創外固定およびプレート固定が選択されることが多い.一方で,プレート固定などの手法が確立されてきた背景もあり,ピン挿入による固定術の報告は少なく,治癒率も高くない.著者らは黒毛和種子牛の下顎骨骨折に対し,創外固定用のピン挿入による内固定を行った.症例は酪農場のパドックにて3頭飼いされていた4カ月齢,雄の黒毛和種子牛で,発咳を主訴に往診した.初診時,体温39.8℃,食欲不振,肺胞音粗励に加え,左下顎側面の腫脹が認められた.第10病日まで抗菌薬による治療を行い,呼吸器症状は改善した.しかし,左下顎の腫脹は改善せず,口腔内の観察とX線検査を実施した.その結果,左下顎第2前臼歯から吻側へ約2 cmの歯肉部にて下顎骨の骨折片の一部が視認および触知された.また,X線画像にて左下顎骨の骨折および短縮性軸転位が認められた.口腔内観察とX線画像診断の結果から,左下顎骨の開放骨折と診断した.その後,第17病日に手術を実施した.症例牛を右側横臥位保定し,キシラジン・グアイフェネシン・ブトルファノール混合液の点滴投与による鎮痛不動化処置下で手術を行った.左第2切歯基部の歯肉部を切開し,ドリルにて孔を形成後,創外固定用の皮質骨用ピン1本を吻側の骨折遠位部に挿入した.腹側に転位した骨折遠位部を持ち上げながら,骨断端同士が接着するようにピンの先端を尾側の下顎体に挿入し固定した.第50病日には骨断端同士の癒合が認められ,ピンを抜去した.第73病日には骨折線の不明瞭化と骨増生が認められた.整復術直後より,採食,飲水および反芻などの機能に異常は認められず,症例牛は順調に発育し,子牛市場へ出荷された.以上の結果より,子牛の下顎骨骨折治療において創外固定用のピン挿入による固定術が適応可能であることが示唆された.今後は適応となる症例について検討するために,症例数を重ねていく必要があると考えられた.

  • 田村 倫也, 庄野 春日, 北島 ちひろ, 関 まどか, 千葉 恵樹, 九十九 美月
    2022 年13 巻5 号 p. 206-212
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/11/30
    ジャーナル フリー

    岩手県で飼養されている2歳の去勢小格馬において,左眼の白濁を主訴に往診し角膜炎を伴う眼性糸状虫症と診断した.オキシテトラサイクリンと自家血清を混合した点眼薬およびフルニキシンメグルミンの静脈内投与により角膜炎の治療を行った後,全身および局所麻酔下にて注射針による角膜穿刺を実施し,生理食塩水を用いた眼房内の灌流操作により虫体の摘出に成功した.術後は点眼薬による治療を併用した.術後59日には限局した角膜肥厚が残っていたものの経過は良好であった.摘出した虫体は形態学的観察および分子生物学的解析から指状糸状虫(Setaria digitata)と同定された.イベルメクチン製剤による発症後の内科療法は効果が乏しいと推察され,治療法としては外科的摘出が推奨されると考えられた.その手法として,注射針による角膜穿刺と眼房内灌流の有用性が確認された.さらに,テトラサイクリン系抗菌薬および自家血清の点眼療法は術前術後の補助療法として有用であると考えられた.感染経路については,近隣農場からの同年夏季の感染,あるいは前年に同居していた牛からの感染の可能性が推察された.

  • 猪熊 壽, 原田 俊之, 永田 健樹, 前澤 誠希, チェンバーズ ジェームズ, 内田 和幸
    2022 年13 巻5 号 p. 213-218
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/11/30
    ジャーナル フリー

    5歳7カ月齢のホルスタイン種乳牛の第四胃変位整復術時に第四胃周囲腫瘤を触知した.腸骨下リンパ節がわずかに腫大しており,直腸検査で直径1~3 cmの腫瘤を複数触知したためリンパ腫を疑診した.血液検査ではリンパ球増多症がみられたが,リンパ球の異型度は小さかった.末梢血リンパ球のB細胞クローナリティ解析ではマイナークローナルなピークを伴うポリクローナルを呈した.BLVプロウイルス量は623コピー/10 ng DNAと軽度高値を示した.血清LDH活性は2,586 U/ℓと高値を示したが,チミジンキナーゼ活性は2.0 U/ℓ未満であった.腸骨下リンパ節の細針吸引細胞診ではリンパ腫の所見は得られなかった.リンパ腫の診断に至らないまま7カ月間経過観察を行ったが発症はなく,乾乳時に自家廃用となった.病理解剖では第四胃周辺に脂肪壊死腫瘤が2個認められた.腸間膜や骨盤腔内,直腸周辺にも直径1~3 cm程度の脂肪壊死塊が複数みられた.左右飛節には化膿性飛節周囲炎が認められた.本症例は牛伝染性リンパ腫との鑑別が困難であったホルスタイン種乳牛の脂肪壊死症例であった.

特別講演2022
資料
書評
feedback
Top