地域漁業研究
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46 巻, 1 号
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論文
  • 西田 明梨, 片岡 千賀之, 柳 延坤, 金 大永
    2005 年 46 巻 1 号 p. 1-23
    発行日: 2005/10/15
    公開日: 2022/10/11
    ジャーナル オープンアクセス

    1996年,日本,中国,韓国は相次いで国連海洋法条約を批准し,北東アジアにも新しい漁業秩序が形成しつつある。一方,共同利用水域・資源を有する3国による協調的な管理は実現していない。本報告では新漁業秩序の内容を明らかにし,協調的な資源管理実現への土台を探ることを目的とし,韓国TAC制度について,その導入の背景,制度の概要(管理対象,決定・割当・管理方式),2004年末までの実施を検証し,課題を考察する。

    韓国のTAC制度は新日韓・韓中漁業協定発効前の1999年から実施された。対象魚種はサバ類,マアジ,マイワシ,ベニズワイガニ,ズワイガニ,ウチムラサキガイ,タイラギ,済州島サザエ,ガザミの9魚種である。対象業種はTAC魚種の漁獲実績が高い沿近海漁業で,長官管理漁業と知事管理漁業に分けて個別割当方式である。ただし,割当は漁獲実績・漁船規模を基に,配分は均等に行われる。また,TAC管理は漁業者と委託販売者による漁獲量報告を原則とし,オブザーバーと漁業監督員が監視取締りを行っている。TAC関連規定への違反者には罰則も設けられ,TAC参加促進のための支援事業も行われている。しかし,現状はTAC割当・漁獲実績・消化率が不安定で漁獲物の小型化もみられる。また,対象業種の限定,外国漁船への適用除外,TAC非参加漁船,漁民要求量や漁獲実績を過度に重視したTACの設定,資源調査不足によるTACの信頼性の低下,業種・地域間の漁業調整機能の欠如,漁獲量の報告漏れ,オプザーバー不足による漁獲量調査や共同乗船の不徹底,罰則規定の欠如,過剰な漁獲努力量が問題をもたらしている。

  • 白 銀栄, 中居 裕
    2005 年 46 巻 1 号 p. 25-49
    発行日: 2005/10/15
    公開日: 2022/10/11
    ジャーナル オープンアクセス

    韓国における水産加工業は,近年,構造変化の過程にある。それは,韓国の水産加工業が主に外需向けの輸出産業として発展を遂げてきたものであり,輸出環境の変化に伴う水産加工品における輸出の減退を背景に当該加工業の構造再編を余儀なくされているからである。さらに国内における水産物市場の拡大を背景に内需向けの産業としての業態転換や市場のシフトが進んでいるからである。

    ワカメ加工業は,そうした韓国の水産加工業において主要な一翼を占めるものであり,また海藻類の加工においてノリ加工業とともに2大業種をなすものである。当該加工業は,当初から主に日本市場向けの輸出産業として,就く1970年代から80年代にかけて日本市場向けの湯通し塩蔵ワカメの加工業として発展を果たしてきたものである。しかし,1990年代に入ると日本市場における中国産製品の輸出攻勢のもとで急激な輸出減退を招くとともに輸出市場からの撤退を余儀なくされ,湯通し塩蔵ワカメの加工業は加工業者の大幅な縮減や加工産地の集約化など急激な構造再編を招いている。しかし,その一方においてワカメ加工業の再構築も図られており,それは加工における湯通し塩蔵ワカメから乾燥ワカメヘの製品転換と市場対応における外需向けから内需向けへのシフト,の二つの方向から進展している。

    本論では,韓国のワカメ加工業をめぐる構造変化を明らかにするため,その加工拠点である全羅南道莞島郡莞島邑(以後,「莞島邑地区」と称する)における実態調査を基に分析を行っている。ここでは,第1に韓国のワカメ加工業における再編過程と莞島邑地区における産地形成,第2に莞島邑地区におけるワカメ加工業の企業・経営の構造,第3に同様にワカメ加工業の展開をめぐる原料,労働力,加工体制,販売対応,第4にワカメ加工業の課題と展望,について考察している。

  • Deシルバ D.A.M, 山尾 政博
    2005 年 46 巻 1 号 p. 51-69
    発行日: 2005/10/15
    公開日: 2022/10/11
    ジャーナル オープンアクセス

    スリランカにとって,マグロは,国内向け・海外向けともに,エビについで経済的価値の高い水産物である。本論文の目的は,第1に,スリランカのマグロ産業の現状を明らかにすること,第2に,継続的に輸出を行っている企業と,スポット的に輸出に参入する企業について,技術革新の影響,海外業務に対する努力,輸出阻害要因に対する経営者の認識,輸出における公的制度の利用について分析することである。スリランカからの主要な市場向け輸出が減少している。マグロ輸出企業の輸出行為の96%は試行した独立変数によって説明できる。継続的に輸出を行う企業は,スポット的に輸出を行う企業に比べ,技術革新に対する関心度が高く,種々の取り組みも活発である。さらに,これらの企業は,技術革新以上に,海外ビジネスのほうに力を注いでいる。経営者の認識を考慮すると,国の外部阻害要因が輸出をすすめるうえで大きな負担になっており,スポット的に輸出を行う企業もこれに苦しんでいる。公共的な施設は,輸出の向上にとっては中立的である。貿易振興措置は輸出企業の間には広く普及しているが,スポット的な輸出を行う企業にとってはあまりなじみがない。

  • ―中国遼寧省における沿岸漁村を事例に―
    冷 傳慧
    2005 年 46 巻 1 号 p. 71-88
    発行日: 2005/10/15
    公開日: 2022/10/11
    ジャーナル オープンアクセス

    中国沿岸漁村における干潟漁場利用システムは,1979年からの改革・開放政策が打出された後,海外市場の開拓につれて,ほとんどはかつてのオープンアクセス利用から排他的利用に転換した。利用システムの転換に伴い,多様な干潟漁業の経営体が形成した。また,操業秩序の維持,リスク対応能力,輸出権獲得のため,などのことで経営形態が常に変容する。大規模な干潟を単位として経営していることが特徴として注目されている。

  • 前潟 光弘, 山本 尚俊
    2005 年 46 巻 1 号 p. 89-105
    発行日: 2005/10/15
    公開日: 2022/10/11
    ジャーナル オープンアクセス

    台湾における遠洋鮪延縄漁業は,日本への刺身マグロ市場への参入を基に拡大し,特に1990年代以降は台湾船によるマグロ漁獲量は増加の傾向にある。漁船数を見ても同様の傾向にあり,100t以上の延縄漁船数は2000年が597隻で最も少ないものの,以降は増加の傾向を示している。

    本論文では,台湾行政院農業委員会漁業署の統計をベースに,さらに遠洋鮪漁業の基地である高雄市で行った台湾区遠洋鮪漁船魚類輸出同業組合および台湾遠洋旋網漁業最大手のT水産会社での聞き取りを中心に,台湾遠洋鮪漁業の現状およぴ今後の展望について述べる。

    懸案とされていた便宜地籍漁船問題については,2000年にOPRT(社団法人責任あるまぐろ漁業推進機構)が設立され,設立と同時に台湾区遠洋鮪漁船魚類輸出同業公会も加盟し,2004年3月現在,台湾延縄漁船の597隻が登録されている。

    便宜地籍漁船問題に一応の解決を見た現在,今度は台湾の旋網漁業問題が浮上してきている。台湾では大型旋網漁船の建造が相次ぎ,T水産会社では延縄漁船8隻に対して,旋網漁船10隻を所有している。経営の面からも旋網漁業の利益が大きいとされ,資源問題を含め,旋網漁船のFOC化が今後の大きな課題となってくるであろう。

    輸出が拡大傾向を示す一方で,国内消費は低迷しており,台湾区遠洋鮪漁船魚類輸出同業組合は国内刺身市場の拡大にも取り組んでいる。

    台湾における遠洋鮪漁業は,日台間の問題に留まらず,特に資源管理面で国際的な議題となってきている。今後さらに遠洋旋網漁業がその対象となる前に関係国間での解決が重要である。

    台湾漁船に漁獲された鮪類は,国内外の市場拡大を模索しているとはいえ,日本市場が中心であることは間違いない。両国間では漁法,資源問題などまだまだ解決する問題は多いものの,双方の努力により遠洋鮪漁業の存続・維持の形での解決が望まれる。

  • 中原 尚知
    2005 年 46 巻 1 号 p. 107-123
    発行日: 2005/10/15
    公開日: 2022/10/11
    ジャーナル オープンアクセス

    クロマグロ養殖は,高価格かつ高リスクという特徴を有していたが,近年においては,価格低下が進むものの,依然高リスクを保有している状況である。そこで,本稿においては,養殖経営における課題と対応について,リスクの視点から検討することを目的とした。

    種苗の確保から販売の中に存在する課題と,それらが有するリスクの性質,養殖経営における課題への対応について検討を行った結果,特に重視されるべき課題は,天災による影響と価格変動であることが明らかになった。

    天災に関しては,養殖適地における発生頻度と被害額の大きさから,本来的には保険による対応が望ましい。しかし,共済の対象魚種になっておらず,一般の保険料は高額かつ新規加入が困難であるため,経営内部における対応が必要となる。価格変動に関しては,現在,量販店との取引を選択することによって,価格の急激な低下というリスクの除去を目指す方策が選択されている。これは一定の価格と取引量を保持するための対応であるが,価格の川下規定が強い現状では,養殖魚の品質向上が価格に反映され難い状況にもつながると考えられる。

    そのため,養殖経営においては,養成段階における損害発生の最小化と品質の向上と共に,販売段階における取り組みの再検討が重要となっている。さらに,川上から川下に至るプロセス全体をマグロ養殖産業として捉え,その中での利益配分の適正化とリスクの相互共有・転嫁が可能なシステムの構築が求められている。

  • ―水産インフラのデータを利用して―
    全 相俊
    2005 年 46 巻 1 号 p. 125-159
    発行日: 2005/10/15
    公開日: 2022/10/11
    ジャーナル オープンアクセス

    この研究は,近代東京の水産インフラと関連のインフラとの経済発展を証明するために,基本的にKindlebergerとRosenstein-Rodanの理論に基づいて実証研究している。特に,東京は「Hub-and-Spoke (HS)」としてのメトロポリスであったが,現在も主な日本のHSである。このような地理的な集中ということから,Rosentein-Rodanのビッグプッシュは需要の不可分・供給関数の不可分・そして貯蓄の供給という観点から水産インフラ面を証明できるのである。この研究の中のビッグプッシュ理論は水産インフラのVARテストの結果によって説明できる。つまり,川のインフラが陸地のインフラに長期間影響を与えていることである。特に,回帰分析の結果,加工品の貨物が水産貨物に対して正の関係にあることが明らかであった。結局,ビッグプッシュ理論の不可分の供給と需要に関する基本的な理論を満たしていることが明らかになった。

  • 宮田 勉
    2005 年 46 巻 1 号 p. 161-176
    発行日: 2005/10/15
    公開日: 2022/10/11
    ジャーナル オープンアクセス

    殻付きカキは,冬季において鮮度をアピールできる数少ない商品であるとともに鮮度保管が平易で,外食等において根強い需要がある。その需要やニーズに応えるべく,岩手県殻付きカキ産地では消費地仲卸業者・卸売業者と連携するとともに,産地一丸となって製品・イメージの最善化を図る努力をしていた。さらに,特有の流通システム構築など県内漁協で互いに競争し,産地としての競争力も高めていた。

    これらのことから,岩手県産殻付きカキ産地は,消費地仲卸業者・卸売業者からの信用を得ることができ,そして,強固なチャネルを築くとともにブランド・ロイヤルティも構築した。

    その結果,仲卸業者等のスイッチング・コストも高まり,産地の長期的な競争優位性も確立していた。そのうえ,ブランド・ロイヤルティによって安定価格,むき身と比較すると高価格が実現され,そのことが産地努力のモチベーションにつながるといった好循環を形成した。

    つまり,長期に亘りマーケットリーダーであり続けた岩手県産殻付きカキ産地は,プッシュ戦略であったこと,そして消費地仲卸業者・卸売業者とのチャネル強化を図る関係性マーケティングを展開した点が優れていたと考えられた。

    そのうえ,岩手県産殻付きカキ・ブランドがむき身カキに拡張し,岩手県産むき身カキ価格は他産地から乖離して高値を維持できている。

  • ―沖縄県伊平屋村を事例として―
    森 眞一郎
    2005 年 46 巻 1 号 p. 177-202
    発行日: 2005/10/15
    公開日: 2022/10/11
    ジャーナル オープンアクセス

    施政権変換がなされた1972年から,沖縄県水産試験場職員は,沖縄県下においてモズク養殖の普及をさかんに推進した。

    モズク増養殖にかかわる技術を,広範な地域に短期間で普及することを可能としてきた要因としては,第一に,沖縄県水産試験場職員の情熱的な普及活動,第二に,沖縄県水産試験場と各地の研究グループが連繋をとりながらモズク養殖技術の開発を行ったこと,第三に,養殖先進地域と後発の地域との間において,直接技術の交流が行われたことをあげることができる。

    ところで,沖縄県において主要なモズク養殖産地となった地域は,漁業がさかんな沖縄本島南部地域ではなく,古くから農業を柱とした半農半漁のくらしが営まれてきた沖縄本島北中部地域や離島地域であった。

    事例地域である伊平屋村について,こうした農業のさかんな地域でモズク養殖がさかんになった理由をあげると以下のようになる。

    まず,地域の農民が有する繊細な農業管理技術が養殖業に生かされたという点をあげることができる。第二に,この地域に魚とりや潜水に長けた糸満漁民と呼ばれる人たちが存在し,彼らと地域住民と円滑に協働することにより養殖モズク生産労働が円滑に行われた。伊平屋村の住民は歴史的に寄留民などの多様な人びとを寛容に受け入れてきたため,地域の農民は,よそものである糸満漁民に対する偏見を有していなかった。彼らの良好な関係は形成され得た。そこには,頻繁な住民の出入りのなかで醸成された,多様な人びとをおおらかに受容する沖縄県離島地域の村落社会の特徴をみいだすことができる。

  • 広瀬 創一
    2005 年 46 巻 1 号 p. 203-216
    発行日: 2005/10/15
    公開日: 2022/10/11
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿は,水質保全対策として法律,条例・要綱の内容を検討し,今後の本渡市における環境行政の課題について言及するものである。熊本県の水質汚濁の現状を,COD, BODの有機汚濁の指標で見ると,CODの環境基準の達成率が低く,COD対策が大きな課題であることがわかる。COD対策は,国,県によってなされているが,かならずしも充分ではない。本渡市では,環境指導要綱が制定されているが,環境法制としては充分なものとはいえず,このような環境問題を解決することは困難である。そこで,本渡市環境指導要綱は条例化を検討すべきである。しかし,条例を制定する場合まだ課題はある。依然として,公害関連条例の権限が一部を除いて市町村には委譲されていない。今後,市町村の政策を尊重できるような都道府県と市町村相互の関係について議論していかなければならない。

ミニ企画
実態調査
  • ―FLMMAと沿岸水産資源管理の状況―
    鹿熊 信一郎
    2005 年 46 巻 1 号 p. 261-282
    発行日: 2005/10/15
    公開日: 2022/10/11
    ジャーナル オープンアクセス

    フィジーではFLMMAと呼ばれるネットワーク型沿岸資源管理プロジェクトが進展中である。FLMMAの特徴は,明確に示された管理区域があること,そして地域コミュニティーが管理に重要な決定権を持ち参加していることである。政府水産局,南太平洋大学, NGOがリード機関となり,それぞれのFLMMAサイトでプロジェクトを推進している。サイトの一つ,ビチレブ島東岸のウドゥニヴァヌア村では,MPAの設定によりサウボウ類カイコソの資源がMPAの外でも増加した。ここでは資源管理の効果をコミュニティーがモニタリングしている。バヌアレブ島北岸のササ村では,1990年にチーフの決定により始められた刺網禁止措置により自給漁業の資源は守られたが,現在は漁船数が少なく,もう少し手釣り・スピアー漁の漁獲圧を上げても持続していけると考えられる。ビチレブ島南東岸のキウバ村では,ナマコ漁業が盛んであり,今後,ナマコ資源の管理が課題となると思われる。バヌアレブ島の漁獲物と沖縄の漁獲物とでは魚種構成が似ており,魚価のグレードも似た傾向をもっていた。資源管理の代替収人源として,淡水魚養殖と中層浮魚礁が有望であると考えられる。現在,フィジーでは沿岸漁場・資源の所有権を政府からコミュニティーに戻す動きがあり,今後のFLMMAの方向に大きく影響してくると考えられる。

  • ―請求額と補償額の乖離について―
    矢﨑 真澄, 後藤 真太郎, 沢野 伸浩, 佐尾 邦久, 佐尾 和子
    2005 年 46 巻 1 号 p. 283-296
    発行日: 2005/10/15
    公開日: 2022/10/11
    ジャーナル オープンアクセス

    1997年のナホトカ号重油流出事故は,日本海側の9府県の環境,観光,漁業資源等に甚大な被害を与えた。この教訓から,漁業補償の現状を整理し,請求額と補償額の乖離の要因について考察した。その結果,ナホトカ号事故に係わる請求額と補償額の乖離は,主に原状回復に要する期間を示す漁場復旧年数,損害率,漁獲減少の項目で生じていた。これらの乖離は,被害・汚染両者の見解の相違によるものであり,その根拠は研究所での実験や海事鑑定人の資料に基づいていた。根付漁業損害では,漁場復旧年数,損害率が乖離の主要因となった。岩ノリなどを主とする個人販売の磯漁業では漁獲高を証明する書類の不備を理由に,請求の困難な事例が顕著であった。漁獲減少損害は,油流出事故と漁獲減少との因果関係の立証が必要であり,この点も乖離を大きくした要因の一つであった。こうした問題の解決は,生態系の価値や環境被害の問題に関連する課題であり,今後の検討が必要である。

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