地域漁業研究
Online ISSN : 2435-712X
Print ISSN : 1342-7857
56 巻, 3 号
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
論文
  • 竹ノ内 徳人, 山尾 政博
    2016 年 56 巻 3 号 p. 1-18
    発行日: 2016/06/01
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル オープンアクセス

    本論文は,地域漁業学会第57回大会シンポジウム「新しい地域漁業の姿を提案する」に関して座長解題として準備したものである。本シンポジウムでは,地域漁業(水産業・漁業地域)を俯瞰・鳥瞰して幅広く捉えるとともに,水産業に関わりながら漁業地域において生活している人々・将来的に水産業に関わった生活を漁業地域でしてみたい人々といった地域コミュニティ構成員としての「生活者」の視点であらためて考えてみたい。また,新しい漁業経営の形とはいかなるものか,漁業経営に関する経営者としての人材評価のあり方,育成手法と大学の関わり,都市と漁村の交流事業がもたらす地域漁業へのインパクト,地域コミュニティにおけるエンパワーメントの出現といった,研究領域の学際性も意図している。本シンポジウムは,さまざまな問題に直面する多くの漁業地域の持続可能な存立について生活者の視点からあらためて捉えなおし,今後の水産業・漁業地域の活性化の一つの手法を提示することを目的としたい。

    本論は,本シンポジウムにおける解題として以下の課題を明らかにしていく。第一に,少子高齢化・人口減少社会について白書等から社会経済に及ぼす影響について概観しながら,水産業・漁業地域への影響ならびに関連性を明らかにする。第二に,少子高齢化・人口減少社会における政策・施策の方向性と地域漁業の関係性について検討する。第三に,地域漁業研究としてのこれまでの議論を振り返りながら,シンポジウムとしての着陸地点を想定することである。新しい地域漁業の姿としては,漁業形態の新しい形と経営者の資質の双方で対応すべきであり,消費者や利害関係者との協調の中で新しい地域コミュニティを作り上げる必要があろう。これらの取り組みが,地域漁業(水産業・漁業地域)での生活者が誇りとともに心豊かに住み続けていけるような経済と社会の有り様が求められている。

  • 金融機関の融資審査における非財務項目の視点から
    三宅 和彦, 若林 良和
    2016 年 56 巻 3 号 p. 19-38
    発行日: 2016/06/01
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では,愛媛県6次産業化経営者及び経営体の事例を中心に,どのような経営資質と経営マインドが求められるのか,モデル化を試みることを目的とする。具体的には,事業の方向性とターゲット顧客により,経営者及び経営体のタイプを4つに分け,金融機関が融資審査時に用いている非財務審査項目を活用し各タイプ別に自己評価を行いモデル化した。その結果,各タイプに応じた顕在的・潜在的な強みと弱みが明らかになった。強みには,経営者の人的資産を初め,ネットワーク構築力や地域融合力,商品・サービス開発力があげられ,地域貢献の情熱と地域に信頼される人柄・リーダーシップで事業展開し,加工,販売,小売等6次産業化連携パートナーとネットワーク構築していることが伺えた。一方,弱みには,組織管理能力,情報発信・受信力,販売・マーケティング力があげられ,脆弱な財務管理や法規制対応等の組織管理に危機感をもち,さらに顧客との継続した情報の受発信によって信頼と認知度を高めて販売力強化につなげていくことが喫緊の経営課題として浮かび上がった。今後の研究課題として,6次産業化経営者及び経営体の経営資質・マインドは,市場からの距離や交通インフラ等の外的環境に留まらず,地域の文化,歴史,住民気質等との内的環境にも影響され,地域特性に応じた6次産業化経営者及び経営体のタイプを精査することの必要性を指摘した。

  • 山口県内の有限責任事業組合(LLP)に注目して
    板倉 信明
    2016 年 56 巻 3 号 p. 39-52
    発行日: 2016/06/01
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究の目的は,漁業経営体や漁業就業者の減少を回避するための方策を経営組織の改革に注目して考えることである。その解明のため,本論文では経営組織を団体経営にする必要性と有効性を検討した。

    考察対象とすべき団体経営に該当する経営組織には,会社,漁協,漁業生産組合,共同経営などがある。しかし,これらの設立は容易ではない。そこで,本研究の考察対象として,2005年に関連する法律が施行されて設立が可能となった有限責任事業組合(LLP: Limited Liability Partnership)とした。

    調査は,行政(山口県),系統団体(山口県漁協),それに漁業者に対して行った。調査事例は,山口県内で近年設立されたLLPである山口県萩市A地区のイカ釣漁業と同県下関市B地区のサワラ一本釣漁業である。

    検討の結果,行政,系統団体,それに漁業者も団体経営化の必要性と有効性を認識しているが,将来の経営形態を特定出来ていないために,LLPを有効に活用出来ていないことが分かった。今後の課題は,経営形態の将来展望及び団体経営の運営方法を具体化することである。

  • 岸上 光克
    2016 年 56 巻 3 号 p. 53-65
    発行日: 2016/06/01
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿では,都市と漁村の交流事業に取り組んだ和歌山県串本町とすさみ町の事例を取り上げ,各種団体や漁業者を中心とする地域住民へのヒアリングをもとに,交流事業が漁村にもたらす効果や課題を明らかにした。

    漁業経営体数の減少,漁業就業者の減少や高齢化等によって,漁村は危機的状況にある。このため漁村活性化が急務となっており,その一手法として都市と漁村の交流事業が注目されている。都市漁村交流は,大きな経済効果を実現することは困難である場合が多いとはいえ,地域漁業や地域経済を維持するうえで重要な役割を果たしている。その際には,長期的かつ持続的な取り組みという共通認識をもち,地域の多様な担い手による多様な交流事業の展開が必要であろう。交流事業の効果をみると,地域資源の掘り起こしや見直しによる経営多角化が実現していること,人的交流によって,漁業者も含めた住民が地域資源や地域漁業の見直しを図り,「漁業や漁村への誇り」を取り戻しつつあることがあげられる。

    地域の実情に合わせた多様な交流事業に取り組むことによって,漁業者だけでなく地域住民が地域漁業や漁村を再評価し,漁業者の生産活動へのモチベーションの維持と向上にもつながる。

  • 大学教育を通じた長期的アプローチ
    天野 通子, 山尾 政博, 大泉 賢吾, 細野 賢治
    2016 年 56 巻 3 号 p. 67-84
    発行日: 2016/06/01
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル オープンアクセス

    本論文の目的は,フィールド教育をもつ農学部系大学が取組む地域志向型教育の実態を把握し,教育の場を提供した地域が得られる利益について考察することである。研究課題は,第1に,漁業・漁村社会の人材育成のなかで,農学部系学部の大学生への教育がどこに位置づけられるか検討する。第2に,地域と連携しながら提供する大学の地域志向型教育プログラムの役割と可能性について明らかにする。第3に,広島大学生物生産学部の地域志向型教育の活動成果と課題をまとめ,大学に教育の場を提供した地域が何を得ることができるか考察する。長期的にみると,地域が大学の地域志向型教育を支えることは,漁業・漁村社会を周辺から支える人材の育成につながっている。

  • 山口県の小さな集落の挑戦
    辰己 佳寿子
    2016 年 56 巻 3 号 p. 85-103
    発行日: 2016/06/01
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿は,持続的な農山漁村の発展のあり方を検討するために,山口県の定置網漁業を生業とする漁村集落が新しい挑戦するまでの過程を分析した。事例集落の大敷網組合は,2004年に台風の影響で一時期活動を停止したが,2006年に定置網組合として再出発し,再開に取組むなかで組合活動を活発化し,Iターン者を受け入れる下地をつくってきた。新鮮な魚介類が道の駅の人気商品となり,集落外の地域の活性化にも貢献するようになったこともあり,2015年に法人化し,2016年には改革事業計画に乗り出した。

    これらの一連の取組は,地域の消滅や地方創生が話題になるなか,一時的に背伸びしてがんばるよりも,個々人が自身の領分で役を担いながら日々の暮らしを営むなかで,ある選択に辿り着いた過程であった。すなわち,「村張り」的な要素と地域の主体性を強く維持しながらも,外部との連携をもった機能組織として,生業を軸とした目的指向的な戦略をとることであり,これがコミュニティのエンパワーメントをもたらしたのである。

報告
論文
  • 今川 恵
    2016 年 56 巻 3 号 p. 109-122
    発行日: 2016/06/01
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル オープンアクセス

    本論文では,和歌山県東牟婁郡で広範に許可が与えられている小型鯨類の突きん棒漁業の操業実態と,突きん棒漁業がなぜ今日においても存続しているのかを明らかにすることを目的としている。というのは突きん棒漁業は自然条件や漁業者の技術・カンといった要素に大きく左右され,効率的漁業とは言い難いからである。

    突きん棒漁業が存続してきた要因としては,以下の2点があげられる。①鯨肉の価格低下と燃油費の上昇が進む中で,突きん棒漁業は,より省人化・省コスト化を進め,他漁業の存在を前提とした組み合わせ操業という形に変容した。②手間・労力のかかる漁業生産をより効率的に操業でき,一定水準の水揚げ金額を実現できるような熟練技術のある漁業者が担い手として残存していることである。

  • カツオ群のパヤオへの蝟集状況悪化に対する各地域の対応を事例に
    吉村 健司
    2016 年 56 巻 3 号 p. 123-136
    発行日: 2016/06/01
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル オープンアクセス

    沖縄県にパヤオが導入されて以降,沖縄のカツオ漁の漁場はパヤオ(浮魚礁)が中心的となっている。パヤオはカツオなどの魚類が漂流物に蝟集する習性を利用した集魚装置である。ところが,2015年には,そのパヤオに対してカツオ群が蝟集しないという状況が漁業者の間から多数聞かれた。こういった状況下のカツオ漁においては,パヤオ以外の利用が想定されると推察される。本稿では,こうした状況に対して,沖縄県内のカツオ漁操業地域である本部町と伊良部島の2地域を事例に,カツオ群のパヤオへの蝟集状況悪化に対する,それぞれの地域における漁場利用の実際に着目しながら,各地域の対応について報告する。その結果,本部町ではパヤオの利用に固執し,伊良部島では鳥付カツオや野天カツオの探索,ソネの利用というようにパヤオ以外の漁場を求めていたことがわかった。こうした背景には,本部町では餌料不足や操業体制,根拠地と漁場との地理関係によって,パヤオを利用せざるを得ない状況にあった。伊良部島では従来,パヤオの利用を補完する装備である海鳥レーダーによって,パヤオ以外を回遊する鳥付カツオ群の探索を可能にしたことで,カツオ群のパヤオへの蝟集状況悪化に対応した。

  • 東村 玲子
    2016 年 56 巻 3 号 p. 137-152
    発行日: 2016/06/01
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル オープンアクセス

    ミニボートとは,長さ3m未満,エンジン出力2馬力以下の船を指し,免許不要のため誰でも操船出来る。一方で公的なルールは一切ないことから,海面利用の基本的ルールを知らない人も多く,航行範囲の制限もないため制度上は無制限の沖合への航行や,夜間の航行も可能である。また,ミニボートがあまりにも小さいが故に,漁船のレーダーにも写らないなど,ミニボート利用者側にとっても危険な状況にある。漁業者はミニボートと衝突したり,ミニボートを転覆させたりすると漁船側の過失になるとの認識があり,また救助にあたる必要もあることから,ミニボートを避けながら航行・操業を行っている。このことから,漁業者はミニボートは邪魔者という考えが強くなっている。本稿は,福井県内の漁協への聞き取り調査,乗船調査等を通じて,ミニボート問題の実態を明らかにした。ミニボートの安全性確保の問題は全国共通のものと考えられる。現在,あまり海難事故が起こっていないのは,漁業者側の努力が大きいが,それが反ってミニボート利用者の危機管理意識を甘くしていると推察される。この安全性の問題については航行範囲など全国共通のルールが必要であると考えられる。一方で,地域ごとに資源管理上の問題や航行方向の慣習に関する問題など異なるものもあり,こうした漁業者の「暗黙のルール」は,明文化して,ミニボート利用者を含む漁業者以外の海の利用者に広く伝える必要がある。

  • 千葉県内房地域における漁協のレストラン
    玉置 泰司, 松浦 勉
    2016 年 56 巻 3 号 p. 153-174
    発行日: 2016/06/01
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル オープンアクセス

    千葉県鋸南町,南房総市内の4漁協では,定置網漁業を漁協自営とする経営方針が貫かれており,その後の道路整備に伴い増加した首都圏の客をターゲットとしたレストランの経営を積極的に行うようになっている。六次産業化への取組として,なぜこれらの漁協ではレストランの開業に踏み切ったのか,その背景と現状について,4つの漁協(支所を含む)を対象に分析を行った。複数の事例を比較分析することにより,今後の課題等を浮き彫りにし,六次産業化の検討に資することとしたい。

    これらのレストランではいずれも自営定置網漁業の漁獲物を主要な食材として利用し,漁獲物に付加価値を付けている。定置網漁業では多種多様な魚介類が漁獲され,漁場が港から近いこともあり,高鮮度の漁獲物が入手できる。一般に漁獲物を出荷する場合,単一魚種でまとまった量をそろえないと,販売がむずかしいが,レストランの場合,少量漁獲種も食材として有効に価値を与えることができる。もちろん自営定置網漁業以外の,組合員による漁獲物の価格の下支えを図ることもできる。水産物以外の食材などは地元の店での仕入が多く,地域での雇用拡大にもつながっており,地域経済波及効果もある。

  • 原田 幸子, 高市 美幸, 竹ノ内 徳人
    2016 年 56 巻 3 号 p. 175-191
    発行日: 2016/06/01
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿は,愛媛県宇和海において地域発の新たな加工・流通システムを築こうとしているA企業に焦点を当て,養殖魚の付加価値を創出しながら産地加工を展開する同社の市場適合システムについて分析している。宇和海では産地流通業者が養殖業の発展に大きく寄与してきたが,近年は魚価の低迷等の影響や,市場の成熟化のなかで「投機」的流通システムが機能しづらく,生産者を支えきれなくなりつつある。こうしたなか,A企業は,産地と消費地をつなぎ,みかんフィッシュの取り組みから,「延期的」流通を実現していることが確認できた。生産者と実需者の間に立ち,協同で商品開発を進めることで,消費者ニーズに適合した流通を構築していることが明らかになった。

  • 全羅南道長興郡のノリ養殖を事例として
    金 智薫, 中安 章, 竹ノ内 徳人, 若林 良和
    2016 年 56 巻 3 号 p. 193-205
    発行日: 2016/06/01
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル オープンアクセス

    韓国の漁業発展を遮る原因のひとつとして漁業経営の衰退が取り上げられる。この問題を解決するために,水産物の産地流通において漁業者が積極的に関与し,その一方で地方政府が仲介の役を果たすという新たな形の流通システムが導入された。「漁業者株式会社」と称されるこのシステムは2009年度,韓国全羅南道の長興郡に初めて設立された。全羅南道は韓国のノリ養殖の中心地であるが,同道内の長興郡のノリ生産量は非常に少ないため長興郡で養殖されるノリは韓国国内で知名度も低く,同郡のノリ養殖業者にとって長興郡産ノリの競争力強化は差し迫った課題であった。一方,ノリは摘み取ったばかりの原藻としては消費されない商品特性を持つため,ノリ産業の流通過程は複雑であり,流通業者が価格主導権を握っている。そして,ノリの価格は過去20年間ほとんど変化がなく,ノリ生産者の経営は衰退している。長興郡でもこのような現象が明確に現れ,打開の道を講じたのが「長興無酸ノリ」である。この「長興無酸ノリ」が韓国ののり産業の危機を解決するのかが本研究目的である。

    全羅南道,同長興郡の行政機関,「長興無酸ノリ」等からの聞き取り調査を実施し,ノリ生産流通システムの現状と問題点を分析した。この結果,「長興無酸ノリ」がノリ生産者の経営改善に役立っていることが認められ,この新たな生産流通システムの有効性が明らかになった。しかし長興郡の海苔生産漁家は139世帯と小さいため,韓国全体のノリ産業に及ぼす影響はまだ極めて小さいと思われる。

feedback
Top