合成橋梁の限界状態設計法の実現のための耐荷性能評価法とひび割れ幅制御設計法について既往の研究を紹介しつつ,今後の方向性について著者の考えを述べた.特に,塑性化を許容した終局強度を用いた限界状態設計法を実現するために必要となる照査項目について記述した.部材を省略した合理化橋梁やプレキャストPC床版を用いた合成桁など,既往の許容応力度ベースの設計手法では対応できない構造が実現されるようになり,これに対応した設計手法の開発が今後も必要であることを強調した.
鋼部材の性能回復としての鋼板あるいはFRPによる当て板接着工法では,設計・照査における接着接合部のはく離の評価が課題である.特に,繰返し荷重に対するはく離強度のデータが少ないことから,疲労設計の基準なども確立されていない.そこで,鋼板に当て板を,エポキシ樹脂接着剤を用いて接着した試験片を作製し,それに繰返し板曲げ荷重を加え,はく離の発生および進展の計測を行った.その結果,静的試験時のはく離時の主応力に対する疲労試験時の主応力範囲の比と繰返し荷重で整理することで,S–N線図を整理し,曲げ疲労特性の評価を精度よく行うことができた.また,引張荷重を受ける際の実験例と比較を行った結果,同様の傾向がみられたことから,作用力によらない評価が可能であることが示された.
本研究は,溶融亜鉛めっき連結板を有する高力ボルト摩擦接合GFRP(ガラス繊維強化ポリマー)継手の接合条件がすべり挙動に及ぼす影響を明らかにすることを目的として,短冊型GFRPすべり供試体を用いたすべり実験および接触圧試験を実施し,すべり実験後には電子顕微鏡を用いたすべり供試体の接合面観察を行った.実験パラメータは,連結板および母材の表面処理,ボルト軸力,ボルト孔径である.すべり実験の結果,りん酸塩処理によって溶融亜鉛めっき連結板の表面粗さを粗くすること,GFRP表面にフッ素樹脂塗装を施すことで,すべり耐力が向上することがわかった.また,接触圧試験とすべり面観察から,母板の表面処理にGFRPより柔らかい素材の塗料を用いることで,母板−連結板間の密着性が良くなるため,すべり耐力が向上することを示した.
GFRP引抜成形材は土木構造部材として広く用いられているが,長期暴露後のデータが少なく耐久性が不明確なことが,主要構造部材としての普及を妨げる一因となっている.本研究では,長期暴露後のGFRP引抜成形部材の残存性能を明らかにすることを目的に,約20年間屋外暴露されたGFRP引抜成形角パイプ及び同期間室内保管されていた同パイプを対象に,静的4点曲げ試験を行うことにより残存曲げ性能を明らかにした.また,長期暴露後においてもチモシェンコのはり理論により変形挙動を概ね評価可能であることを確認した.さらに,曲げ耐荷力を局部座屈応力の計算値や初等はり理論を用いて計算される破壊荷重と比較し,暴露後の供試体においては,載荷に伴う角部の破壊進行により回転拘束効果が低下し局部座屈耐荷力が小さくなる可能性を示した.
鋼構造部材の耐震補強において,炭素繊維強化ポリマー(以下,CFRPと呼ぶ)を用いた工法が注目されている.本研究では,CFRPシートを用いた耐震補強工法の効果を評価するために,鋼トラス橋の引張部材として設計されたH形断面斜材の単調引張載荷および交番載荷実験を実施した.実験供試体のフランジの内側または外側にCFRPシートを接着し,その施工方法をパラメータとした供試体の耐荷性能等を比較した.H形断面フランジの両面にCFRPシートを接着する工法は,斜材耐荷力が大幅に改善することを示したが,フランジの局部的座屈に伴うCFRPシートの破壊が発生した後,補強した斜材の耐荷力が急激に低下することがわかった.
GFRP板の継手耐力は,GFRPの支圧強度,せん断強度に依存し,それらの強度は鋼に比べて相対的に小さいことから,GFRPの継手耐力も小さくなり,GFRP板と鋼板の継手における設計上の課題となっている.そこで,GFRP板と鋼板の接合部の継手耐力を向上させる方法として,鋼板接着で補強されたGFRP板の鋼添接板による接合方法を考案し,高力ボルトを用いた支圧接合・摩擦接合を,ボルト列数(1,2列)をパラメータとして実験的に検討した.その結果,鋼板をGFRP板に接着することで,先行するGFRP板の支圧破壊を防止でき,継手耐力を増加させることが可能であること,鋼板接着で補強されたGFRP板の継手の破壊荷重は,鋼板とGFRP板の接着破壊が支配的であり,本実験の条件では,ボルト列数には依存しないことがわかった.
大規模災害時等に用いられる応急橋梁は,車両への搭載や迅速な架設のために軽量であることが望まれる.防衛装備庁陸上装備研究所では,自衛隊用応急橋梁の高性能化を目指し,応急橋梁へのCFRPの適用に関する研究を実施している.本研究では,CFRPを適用した想定橋梁の概要設計及び強度試験用供試品の製造を行い,強度特性を取得した.その結果,設計した想定橋梁は想定荷重に対して十分に耐荷できることを確認し,従来構造に比べて約26%の軽量化が達成できることを確認した.
合理性を追求する過程で様々な複合構造形式が開発され,実構造物として供用されている.これらの構造物は従来のRCやPCに比べ,鋼とコンクリートの体積割合,両者の力や変形の伝達方法が大きく変化してきているが,その一部の構造物においてコンクリートの収縮に起因すると考えられるひび割れが発生したり,鋼材応力が計算値と乖離したりする事例も報告されている.鋼コンクリート合成構造におけるコンクリートの収縮,クリープが関連する問題を抽出し,学術的・技術的な検討を行い,知見を取りまとめ,設計法に反映させるために,『複合構造におけるコンクリートの収縮・クリープの影響に関する研究小委員会』を設置し,2017年から5年間の調査活動を行った.本報告は,その成果をとりまとめたものである.
すでにアカウントをお持ちの場合 サインインはこちら