土木学会論文集
Online ISSN : 2436-6021
79 巻, 1 号
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前書き
構造工学,地震工学,応用力学
論文
  • 中澤 克成, 横嶋 哲, 石川 秀平, 久末 信幸
    2023 年 79 巻 1 号 論文ID: 22-00116
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/23
    ジャーナル フリー

     レベルセット法とVOF法は気液二相流解析によく利用されるものの,両者を客観的に比べた例は希少である.前報(土木学会論文集 A2, 76(2), I 439, 2020)ではACLS法(レベルセット法)とCICSAM法(VOF法)の主に界面移流精度を比べた.本報ではTHINC/WLIC法(VOF法)を加え,複数の気液二相流問題を対象に,精度と計算負荷を比較した.一般にレベルセット法は質量保存に,VOF法は界面曲率評価に難があるものの,ACLS法は界面識別関数の変更,VOF法はS-CLSVOF法の導入によって問題点が大幅に改善された.界面ソルバー単独ではACLS法が他の2手法の数倍の計算負荷を伴うものの,気液二相流解析では流体ソルバーの負荷が卓越するので,トータルの計算負荷はほとんど変わらない.

  • 水谷 壮志, 石川 敏之
    2023 年 79 巻 1 号 論文ID: 22-00143
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/23
    ジャーナル フリー

     鋼管部材へのCFRP接着に関する研究は,有限要素解析による検討が多く,せん断遅れ理論やCFRP端部の接着剤のはく離に対するエネルギー解放率に関する知見が十分ではない.本研究では,多層のCFRPが段差を設けて積層された鋼管に対するエネルギー解放率や,それが収束する段差長の設計方法を提案した.多層のCFRPが積層された条件のもと,せん断遅れ理論から導出される連立微分方程式を固有値解析理論を適用した数値解析を実施することで,段差長と接着端部でのエネルギー解放率の関係を明らかにした.また,エネルギー解放率が収束するための段差長の式を導出し,その近似式を与えた.本研究で提案した近似式を用いて段差長を設計することで,構造系全体のひずみエネルギーから導出される簡易な式でエネルギー解放率が算出できる.

  • 徳永 宗正, 池田 学
    2023 年 79 巻 1 号 論文ID: 22-00185
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/23
    ジャーナル フリー

     鉄道連続桁式橋りょうにおいては,高速領域の動的応答に関する知見は体系的に整理されておらず,実用的な評価法による合理的な設計が難しかった.本研究では,一般的な鉄道連続桁の構造諸元について整理,一般化し,列車通過時の連続桁の包括的な動的応答解析を実施した.連続桁のたわみの衝撃係数においては,各固有振動モードの共振速度において複数の極大点が見られ,スパン数が奇数の場合は共振速度において1次,3次モードが増幅すること,スパン数が偶数の場合は共振速度において2次モードが増幅すること,スパン数およびスパン長の増加とともに励起される固有振動モードが不明確となり,列車速度が400km/h程度以下の領域ではたわみの衝撃係数は減少する傾向にあることなどを示した.さらに連続桁の動的応答特性を踏まえた衝撃係数の簡易評価法を提案し,400km/hまでの領域における妥当性を示した.

  • 服部 雅史, 舘石 和雄, 判治 剛, 清水 優
    2023 年 79 巻 1 号 論文ID: 22-00231
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/23
    ジャーナル フリー

     本論文は,鋼床版のUリブとデッキプレートの溶接ルートからデッキプレートまたは溶接ビードに進展する疲労き裂に対して,交通規制が不要であり,かつ死荷重が増加しない対策方法を検討したものである.具体的には,Uリブの下フランジを切断・撤去し,Uリブ・デッキプレート溶接部をUリブ内側からも溶接する対策を提案した.まず,構造改変を伴う本対策の実現性の確認として,耐荷性能,溶接の施工性や出来形,アスファルト舗装への影響を検証した.次に,対策前後での着目溶接部周辺の局部応力やき裂先端の応力性状の変化,および他の部位への影響を有限要素解析により確認した.最後に,本対策の疲労耐久性を定点疲労試験により明らかにした.

地圏工学
論文
  • 小峯 秀雄, 横井 亨朱, 多賀 春生, 斉藤 泰久, 鈴木 清彦
    2023 年 79 巻 1 号 論文ID: 22-00051
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/23
    ジャーナル フリー

     著者らは,2050年のカーボンニュートラル実現に資するため,社会活動に伴い発生する副産物の中に二酸化炭素を固定化する性能を持つ素材があることに着目して,これらを活用したカーボンキャプチャー都市環境の創生を構想している.本論文では,実際の副産物を複数選定し,独自に開発してきた一定流量通気型CO2固定化試験を活用し,CO2固定化素材のカーボンキャプチャー性能のデータベースのプロトタイプを提案する.さらに,このデータベースを活用して,具体的な産業廃棄物処分場を例に挙げて,その潜在的なカーボンキャプチャー性能を試算し,森林のそれと比較して有効性を示す.さらに都市環境のカーボンキャプチャー効果の再評価と新しい未来社会構想を論じる.

土木計画学
論文
  • 川崎 智也, 杉村 佳寿
    2023 年 79 巻 1 号 論文ID: 22-00013
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/23
    ジャーナル フリー

     世界的な新型コロナウィルス感染拡大前,日本におけるクルーズ船の寄港回数は急増していた.しかし受入環境整備に対する投資を踏まえれば,低水準の港湾料金しか徴収しない状況は港湾管理者にとって持続可能な港湾経営とは言えず,過当な港湾間競争を行っていたと言っても過言ではない.他港との港湾料金差の寄港回数に与える影響が先行研究で示されていないことが背景の一つと言える.本稿では持続可能な港湾経営に転換するための政策的示唆を与えることを目的に,国内外の港湾料金の徴収状況を示すともに,寄港地選択シミュレーションモデルを構築し港湾料金がクルーズ船の寄港地選択に及ぼす影響を定量的に分析した.東京湾をケーススタディとした結果,減免等による港湾料金の低減は大きな影響を与えず,適正な料金徴収が望ましいことが示唆された.

  • 山田 順之, 小池 淳司
    2023 年 79 巻 1 号 論文ID: 22-00021
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/23
    ジャーナル フリー

     我が国の国土政策は,国土の均衡ある発展を目指して進められてきたが,地方の人口減少と並行する形で都市への人口集中が続いており,地方における担い手不足や経済の停滞などが大きな課題となっている.一方,EUは我が国と比較して地方の人口減少を緩和させている.この要因の一つとして,中山間地域の主要産業である農業に対する政策の差異が考えられる.EUでは農業政策においても国土政策的な視点から地域の隔たりなく,営農に加え教育や医療へのアクセスなども確保する政策,つまり全国民が満たすべき基本的権利を尊重した政策を講じ地域間格差是正や地方への人口定着を図っている.本研究では既往研究からEUの農業政策を分析し,我が国との比較を通して,国土政策の推進に有益となる施策や枠組みを新たな視点で検討・提案した.

  • 須﨑 純一, 楠瀬 智也, 木村 優介, 宇野 伸宏, 藤原 優, 久田 裕史
    2023 年 79 巻 1 号 論文ID: 22-00022
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/23
    ジャーナル フリー

     高速道路の維持管理業務において,道路や橋脚の劣化に対する補修だけでなく,災害発生時の事前・事後対策も重要な業務である.頻発する土砂災害への備えとして,本論文では人工衛星に搭載された合成開口レーダ(synthetic aperture radar: SAR)で取得された時系列画像を用いて,重点的に監視すべき箇所を絞り込む手法を提案する.時系列SAR解析の手法を用いて,強い散乱を示す地点の累積地盤変動量を推定し,その後高速道路沿いの一定範囲の平均累積地盤変動量を算出するものである.本研究での推定結果は,実際に土砂災害が発生した箇所において前年時の豪雨後から変動が始まっている様子を示している.よって提案手法は高速道路管理者の維持管理業務に取り入れられる可能性を有する実用的な手法と言える.

  • 稲村 肇
    2023 年 79 巻 1 号 論文ID: 22-00028
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/23
    ジャーナル フリー

     本研究は東日本大震災による津波被災世帯の居住地移動(2007年-2020年)を電話帳に基づく追跡で明らかにした.主たる結論は以下の通り.1)対象とした岩手県・宮城県の被災10市町から両県の主要9都市への転出人口シェアは57%を超えている.2)分析対象はNTT電話帳登録者,被災10都市98,991世帯及び主要都市320,678世帯である.電話登録率は2012年で世帯数比61.5%,2019年は46.9%である.現住所が判明したのは74.7%,74,000世帯,うち転居者は39.2%,38,800世帯であった.転居者の35.7%,13,986世帯の住所が明らかとなった.これの旧居住者に対する比率は14.0%である.3)同姓同名による複数マッチングは3,800世帯の約半分1,831世帯となっている.本研究で対象とした登録者と新旧居住地の住所はデータベースとして保管されている.

  • 塩田 彩夏, 森地 茂, 稲村 肇, 日比野 直彦
    2023 年 79 巻 1 号 論文ID: 22-00033
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/23
    ジャーナル フリー

     アジア諸外国において都市鉄道整備が活発化している.政府の財源不足からPPP事業による整備が採用され,沿線開発事業による内部補助を志向してきたが,その多くは経営破綻し政府が対応を迫られてきた.本研究の目的は,正確な土地利用データがない発展途上国でも都市開発の進展を把握できる方法を確立し,それを用いて鉄道整備と沿線開発の関連性を分析し,アジアの鉄道建設意思決定者にその知見を提供することである.バンコクを対象地域として,衛星写真による開発の詳細な変遷とNDVIの時系列変化を比較し,NDVIが広域開発に関する評価手法として適当なことを確認した.この手法を用いて,バンコクでは中心から20~30km四方で特に開発が活発化していること,MRTパープルライン沿線の開発が顕著なことが明らかになった.

  • 高平 伸暁, 川端 祐一郎, 藤井 聡
    2023 年 79 巻 1 号 論文ID: 22-00041
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/23
    ジャーナル フリー

     持続可能なインフラ開発のためには,中小企業を含めたあらゆる企業が安定的に経営できる環境が不可欠である.しかし我が国では長年,企業間下請関係における収奪問題が中小企業経営の大きな障害となっている事が指摘されておりその解決が問われてきた.本研究では,これまで行われる事が無かった定量分析で用いられる下請定義を拡張した分析と,例外的扱いとされる事が多かった建設業を対象に含めた分析を行った.その結果,企業間取引にて収奪問題が起きやすい可能性があり,また,製造業では1980年頃,サービス業では1990年頃から収奪問題が悪化している事が間接的に示唆された.さらに建設業では少なくとも1992年以降から長期的に収奪問題が悪化しており,とりわけ下請が元請の景気変動の緩衝材としての役割を果たしている可能性が示された.

  • 中島 恵太, 河田 侑弥, 氏原 岳人, 堀 裕典
    2023 年 79 巻 1 号 論文ID: 22-00053
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/23
    ジャーナル フリー

     近年,都市計画の分野では空き家の増加が問題となっているが,心的要因により行動変容を促す「心理的方略」に基づく施策は十分ではない.そこで本研究では,戸建住宅所有者の自宅の将来に対する関心・行動を高める要因を把握し,それを踏まえた心理的方略に基づく施策を検討した.本研究の主な成果を次に示す.1)自宅の将来に対して関心が高まるきっかけと行動を起こすきっかけは「(戸建住宅所有者の)息子・娘のライフイベント」と「住宅取得」である傾向にあった.また,「息子・娘のライフイベント」では,行動を起こす人と比較して関心に留まる人が多い傾向にあった.2)分析結果に基づき,住宅取得や(息子・娘の)婚姻届提出のタイミングにおける情報提供の手法などを検討した.

  • 平田 輝満, 永沼 宏太, 渡邊 大樹
    2023 年 79 巻 1 号 論文ID: 22-00062
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/23
    ジャーナル フリー

     2019年の台風19号は首都圏においても過去最大級の強風が予報されていたことから,羽田空港や成田空港から全国の空港へ大規模な避難が実施され,その避難場所確保のための調整に一部困難が生じた.保有航空機材の増加と自然災害の激甚化・頻発化を想定すると,従来の航空機避難スキームでは適時の対応が困難で,新たな事前の避難調整スキーム検討と訓練の必要性が高まっていると考えられる.本研究では,2019年の台風19号の際の実際の航空機避難の状況について,ウェブ公開データおよび航空局等へのヒアリング調査から実態の分析を行い,航空機避難や臨時駐機に関わる制約や課題について明らかにした.それらを踏まえ,空港の臨時駐機方法を危機管理レベル別に検討し,複数の自然災害シナリオを対象に避難航空機需要と受け入れ容量についてシミュレーション分析を行い,我が国における大規模自然災害時の航空機避難の実行可能性と課題について考察を行った.

  • 柳原 崇男, 高橋 治暉, 伊勢 昇
    2023 年 79 巻 1 号 論文ID: 22-00066
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/23
    ジャーナル フリー

     近年,我が国の総人口は減少傾向にある一方,65歳以上の高齢者人口は増加傾向にある.交通行動と健康に関する既往研究では,公共交通を利用すると歩行量が多く,健康への貢献があるとしている.しかし,実際に地域公共交通を対象として,医療費抑制効果を算出した例はほとんどない.本研究では,公共交通利用における歩行量データから医療費抑制効果検討した.本研究では,国土交通省のガイドラインの方法を用いて乗り合いタクシー利用による医療費抑制効果の算出を試みた.1日の歩行データから,乗り合いタクシー利用のみの効果を算出することは困難であり,公共交通利用による歩行増加量から算出した医療費抑制費から利用割合を乗じ算出したところ,乗り合いタクシー利用により約6,101円/年/人の医療費抑制効果があることがわかった.

  • 杉村 佳寿, 篠田 岳思, T. N. MATHIAS , 阿野 貴史, 重富 康文
    2023 年 79 巻 1 号 論文ID: 22-00075
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/23
    ジャーナル フリー

     現在日本においてはカーボンニュートラルポートの実現が目指されているが,港湾における気候変動対策については実証的な先行研究が少なく,実践との間のギャップにより意思決定者を十分にサポートできていない.本稿では,荷役機械の電動化やハイブリッド化,リーファーエリアへのルーフシェードの設置を行い日本の港湾環境政策を先導する博多港を事例に,コンテナターミナルにおける気候変動対策の効果を実証的に検証した.また,経済性分析と日本の港湾ガバナンスの特徴を踏まえた対策のフィージビリティについて検討した.対策の効果については確認されたものの,経済性の面からターミナルオペレーター等が主導的に講じるのは難しく,港湾ガバナンスの面からも補助金等を含めた政府のイニシアチブが重要であることが明らかとなった.

  • 安藤 慎悟, Golubchenko STANISLAVA , 谷口 守
    2023 年 79 巻 1 号 論文ID: 22-00157
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/23
    ジャーナル フリー

     近年我が国の地域活性化施策として注目される「関係人口」の中でも,訪問型関係人口は人口減少の進む地方部にて担い手としての役割が期待される.本研究では,そうした全国に存在する訪問型関係人口を11の人物像に分類し,人物像別に実施する活動や関わりのきっかけ,活動場所の実態を定量的に把握することで担い手としての適性を探った.分析の結果,1)民間従事者の中でもテレワークを行い居住地周辺で地域活動を行うような人物像が,最も地域との結びつきが強い活動を多く行っていること,2)そうした人物像は,親族や友人のつながりのみならず,非訪問型の関わりやつながりをサポートする窓口からの紹介などが契機となり訪問する割合が他に比べて高いと共に,3)地方部の農山漁村や農林地において活動が多くなされていることが明らかとなった.

  • 滝澤 恭平, 中村 晋一郎
    2023 年 79 巻 1 号 論文ID: D1-0108
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/23
    ジャーナル フリー

     都市の水辺を再生するためには,地域の主体の継続的な協働の取り組みが必要とされる.東京都杉並区善福寺公園内「みんなの夢水路」事業における水辺再生実現までのプロセスと協働の実態を明らかにすることを研究目的とする.水路実現までのプロセスとして,1)川体験,川しらべを通した長期的な地域主体醸成,2)橋渡しの場の形成を契機とした多主体によるビジョン創出,3)事業化を契機とした計画検討,4)水辺を共同管理する権利の承認を通した運営主体確立の4つ段階の過程を明らかにした.協働の分析枠組みとして「橋渡し」概念による分析を行い,市民側と学校側に橋渡しの場が存在したことで,市民活動としての水辺再生の動きと,小学校の継続的な川学習が連携・協働し,地域の集合的な行為としての水辺再生が実現したことを明らかにした.

建設材料と構造
論文
  • 山本 武志
    2023 年 79 巻 1 号 論文ID: 22-00054
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/23
    ジャーナル フリー

     燃料炭の品質変動に伴う多様な物理・化学特性を示すフライアッシュに対してAPI法を適用できるよう反応時間と反応温度の最適化検討を行った.フライアッシュ:セメント:水を質量比1:1:40で混合した懸濁液に対して80℃下で18時間~48時間反応させた場合にポゾラン反応は収束しない状態ではあるが,80℃-28時間の反応条件で得られるAPI値が材齢28日ならびに91日における活性度指に対して良好な相関を示した.反応性の異なる3種類のフライアッシュを用い,繰返し数3として5機関によるクロスチェック試験を行った.各機関における繰返し数3における繰返し性と5機関の間での評価値の再現性が良好であったことから,API法は誤差要因が比較的少ない手法であることを明らかにした.

  • 貝戸 清之, 小林 潔司, 神谷 恵三, 新 雄成
    2023 年 79 巻 1 号 論文ID: 22-00130
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/23
    ジャーナル フリー

     我が国の高速道路舗装では,経年に伴う構造耐荷力の低下による損傷部位の深層化が確認されている.実務においては,表層材料が密粒度から高機能へと推移したことを受けて,損傷状態に応じた層別修繕が実施されているが,構造耐荷力がどの程度回復したかは定量的な評価がなされておらず,層別修繕の効果と構造耐荷力との関係性が明らかになっていない.本研究では,舗装構造の耐荷力の推移を,1) 経年によって低下する劣化過程と,2) 修繕時に向上する回復過程との複合過程としてモデル化する.これにより,構造耐荷力の劣化予測に加え,修繕時の回復を推移確率として定量的に評価することが可能となる.さらに,高速道路舗装を対象とした適用事例を通して,提案したモデルの有用性について考察する.

報告
  • 畑 実, 佐藤 誠, 宮澤 伸吾
    2023 年 79 巻 1 号 論文ID: 22-00123
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/23
    ジャーナル フリー

     本研究は,フライアッシュ,高炉スラグ微粉末及びアルカリ刺激剤として水酸化カルシウム等を使用した結合材(IBPM)を,蒸気養生により製造される様々なプレキャストコンクリート(PCa)製品に適用することを目的としたものである.IBPMコンクリートの圧縮強度に及ぼすフライアッシュの品質変動の影響,水結合材比と圧縮強度の関係について明らかにするとともに,収縮特性,塩化物イオン拡散係数,硫酸抵抗性,耐摩耗性,凍結融解抵抗性について実験により検討した.さらに,ボックスカルバート,セグメント,ヒューム管,マンホールの実物大供試体の製造において,通常の振動締固め及び遠心力締固めによる締固めが可能であること,これらのPCa製品が十分な耐荷力を有していることを示した.

土木技術とマネジメント
論文
  • 青野 史規, 五艘 隆志, 西田 功児, 加藤 聡
    2023 年 79 巻 1 号 論文ID: 22-00080
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/23
    ジャーナル フリー

     近年,社会資本整備を取り巻く状況は大きく変化しており,社会貢献を活動理念とする建設コンサルタントは活動領域の拡大および多様性を求められている.本研究は,脱炭素社会実現に向けた再生可能エネルギー開発に際し,国内地熱開発プロセスにおいて,遅延・阻害要因の一つである初期段階の地域受容に着目し,その課題解決に資する手法として,建設マネジメント分野で確立されているプロジェクトマネジメント手法を合意形成プロセスに適用し,検証考察を行った.具体的には,複数年に渡るプロジェクトを実践した検証結果から,PMBOKに基づくプロジェクト・ステークホルダー・マネジメントと引照させた活動方針を立案し,合意形成活動の8段階3系統の体系的実施手法を提示した.今後,地熱分野で汎用性ある体系的な活動手法を提案するものである.

  • 貝戸 清之, 松本 圭史, 鎌田 敏郎, 北野 陽一郎, 山中 明彦
    2023 年 79 巻 1 号 論文ID: 22-00111
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/23
    ジャーナル フリー

     下水道管渠は埋設構造物であるために,管理対象全域において悉皆調査を行うことが困難である.一方で,調査が実施できなくとも,管渠の劣化に影響を及ぼす属性情報であれば全域で利用可能であることが多い.本研究では,部分的に獲得された調査データを用いて調査実施管渠に対する劣化予測を行ったうえで,回帰クリギングを用いて管渠の劣化異質性と属性情報の空間的関係性を表す空間マッピングモデルにより,調査未実施管渠も含めた全管渠の劣化を予測する方法論を提案する.さらに,劣化予測結果をもとに作成した健全度分布に対して,デュアルカーネル密度推定を用いて老朽管渠の空間的集積傾向を視覚化し,改築更新区域を抽出する.最後に,提案手法を大阪市の下水道コンクリート管渠に対する調査データに適用して,その有用性を検証する.

  • 菊池 謙汰, 円山 琢也
    2023 年 79 巻 1 号 論文ID: 22-00243
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/23
    ジャーナル フリー

     熊本県の球磨村や人吉市等に甚大な浸水被害を与えた令和2年7月豪雨は,コロナ禍という状況下のため従来と異なった避難や支援活動となった.本研究では,基地局データであるモバイル空間統計と,GPSデータであるポイント型流動人口データを用いて,当該災害時の避難および支援の実態把握を試みた.モバイル空間統計による分析から,災害直後から平常時と異なった滞留人口の推移がみられ,また浸水地区で夜間の滞留人口が大幅に減少していることが確認できた.一方で,ポイント型流動人口データを用いた分析では,ボランティア活動者を抽出する手法の構築を行うとともに,ボランティアセンターにおける滞在時間の算出を行った.

報告
  • 多田 直人
    2023 年 79 巻 1 号 論文ID: 22-00006
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/23
    ジャーナル フリー

     2018年9月にインドネシアの中部スラウェシ州において,発災後数分で到来した津波と人類史上稀に見る液状化による大規模流動(Nalodo)により約4,500名が犠牲となる地震が発生した.当時JICA専門家として同国国家防災庁に派遣されていた筆者は,他のJICA専門家らと共同して,復興マスタープランの策定とそれに基づく復興事業を支援した.その過程で,津波堤防についての科学技術的な説明,液状化による大規模流動の発生メカニズムの解明等を実施した.誠実な態度で取り組んだ結果,その後に発生した大規模洪水への対応をはじめとする防災政策について,同国政府は専ら日本を頼るようになった.日本が信頼を得た理由を分析し,今後の海外支援に向けて提言する.

環境と資源
報告
  • 笠原 太一, 福田 信二, 木村 匡臣, 浅田 洋平, 乃田 啓吾
    2023 年 79 巻 1 号 論文ID: G-0268
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/23
    ジャーナル フリー

     島嶼地域での水資源開発のために建設された河川横断構造物等は,河道内の物理環境を改変し,生態系に影響を及ぼすことから,総合的な環境評価が求められる.本研究では,石垣島宮良川流域における網羅的な魚類生息環境調査によって物理環境と魚類相の流程分布を明らかにし,河川横断構造物の影響について検討した.結果として,宮良川全域で29科72種確認され,純淡水魚が7種,通し回遊魚が17種,周縁性淡水魚が37種および海産種が11種観察された.また,水域区分ごとに水温や水深などの物理環境条件が有意に異なっており,魚類相にも差異がみられた.本調査結果から,石垣島宮良川において河川横断構造物は,湛水部形成による物理環境の改変と感潮域境界部における魚類の移動阻害により魚類相の流程分布に影響を及ぼす可能性が示唆された.

土木工学における人材育成と教育
論文
  • 宮原 史, 堤 盛人
    2023 年 79 巻 1 号 論文ID: 22-00132
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/23
    ジャーナル フリー

     高齢化が進行するインフラを保全してゆくためには,必要な技術力を有する技術者が継続的に確保できるように,研修を評価し,改善するマネジメントの方法論を確立する必要がある.しかし,インフラの保全は暗黙知に支えられている部分も大きいと言われるように,研修の効果を評価しようにもそもそも目標となる技術力の全体像や構成要素が明らかでないことが課題となる.そこで本研究では,教育分野で開発されたブルーム・タキソノミーの枠組を用いて筆者らが先行研究にて具現化した技術力の一例を用いて,道路橋の点検に関する研修の技術力向上効果を評価するとともに,改善案を立案し得ることを示す.そして,インフラの維持管理に関する研修を評価,改善する方法論を提示する.

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