土木学会論文集
Online ISSN : 2436-6021
79 巻, 10 号
通常号(10月公開)
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
構造工学,地震工学,応用力学
論文
  • 小野 健太, 澤田 守, 宮下 剛, 玉越 隆史
    2023 年79 巻10 号 論文ID: 22-00310
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

     本論文は,せん断力を受ける鋼I桁を対象として,道路橋示方書で定義される限界状態2について検討した結果を述べるものである.本研究では,まず鋼I桁のせん断載荷試験を行い,得られた荷重応答曲線上に限界状態2として扱える状態を位置づけるとともに,その状態における力学的特性を把握し,力学モデルを提示した.次に,提示した力学モデルを基本としてパラメトリック解析により得られた結果を分析することで,限界状態2として扱える状態の強度評価式を示した.提案した強度評価式は,パラメトリック解析との限定的な比較ではあるが,±6%の誤差で精度良く強度を推定しうることが確認出来た.

  • 山崎 諒介, 竹嶋 夏海, 岡田 誠司, 宮下 剛, 宮嵜 靖大, 小野 潔
    2023 年79 巻10 号 論文ID: 23-00093
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

     SBHSの中で最も遅くJIS化されたSBHS400および未だ道路橋示方書に規定のないSBHS700の機械的性質や耐荷力に関する情報は,従来鋼やSBHS500に比べ不足している.本研究では,SBHS400とSBHS700の引張試験を実施し,機械的性質に関する情報を収集するとともに,従来鋼やSBHS500との比較をおこなった.続いて幅厚比パラメータの互いに異なる短柱軸圧縮試験を実施し,両縁支持板としての耐荷力特性を詳細に検討した.その後,鋼材の応力-ひずみ関係や残留応力分布の違いが軸力-軸方向変位関係に与える影響を解析的に検討した.最後に,実験結果と解析結果を基に,SBHS400およびSBHS700製両縁支持板の軸圧縮耐荷力評価式を提案した.

土木計画学
論文
  • 岡本 航希, 川端 祐一郎, 藤井 聡
    2023 年79 巻10 号 論文ID: 22-00222
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

     近年,新幹線建設が当初計画から大きく遅延する傾向にあり,財政規律による事業費の削減はその一因である.新幹線建設の遅延は国民経済上の損失となり得るが,遅延の原因や,その経済財政的帰結について総合的分析を行った既往研究は存在しない.本研究では,新幹線建設遅延の実態を定量的に評価した上で,財政制約と新幹線建設遅延の関係に関する仮定を置き,現状の財政制約が国民経済と税収に及ぼす影響を分析した.その結果,現状の財政制約に基づく建設ペースでは2050年までの累計名目GDPが最大約266兆円,税収が最大約35兆円,それぞれ減少する等,財政制約により多額の経済・財政的損失が発生する可能性が示された.この損失の抑制のため,財政規律を見直し,十分な事業予算を投入し新幹線建設を早期化することが必要と考えられる.

  • 安藤 慎悟, Golubchenko STANISLAVA , 久米山 幹太, 谷口 守
    2023 年79 巻10 号 論文ID: 22-00283
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

     近年地域活性化施策として注目される「関係人口」を拡大していくうえで,地域と関わりのない無関与者に対して行動変容を促すことができれば,その母数の多さから担い手不足解消への期待が高まる.そこで本研究では,全国の無関与者を対象に,関係人口へとステップアップする要因を明らかにする.その後,関係人口の中でも担い手としてより期待される訪問型関係人口への意向を示す者を11の人物像に分類し,人物像別に地域と関わるための改善要素を明示した.分析の結果,1)年齢の若い人や趣味・関心分野がある人はステップアップしやすいこと,2)公務員と時間的な余裕,夫婦世帯と同行者の理解などという人物像別に求める改善要素の傾向があること,3)移動や滞在費という金銭面に関しては人物像に関わらず負担に感じていることが明らかとなった.

  • 田中 尚人, 坂井 華海
    2023 年79 巻10 号 論文ID: 22-00350
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

     高齢社会を迎え,国際的な気候変動や頻発する災禍のなか,持続可能な地域運営のため地域風土に根差した知恵や技を継承することは有用である.本研究では,クロスロードゲームのアーカイブ機能に着目し,対話を重視し,日常と非日常とを繋ぐ追体験を可能とする記憶の継承について考察した.本研究の目的は,クロスロードゲームの作問における語り継ぎの場の構造とその内容の諸相を明らかにすることである.研究対象地は,近年様々な災禍を経験してきた熊本県熊本市,菊池市,あさぎり町の3市町とした.クロスロードの作問内容を分析した結果,自分⇔他者,能動⇔受動の2軸をもって,語り継がれた場を理解することできた.また作問された内容と場は,他者の経験も含め誰もが追体験可能なジレンマとして語り継ぎの場において継承される可能性が示された.

  • 田島 怜路, 三輪 富生, 鶴見 直樹, 森川 高行
    2023 年79 巻10 号 論文ID: 23-00044
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

     マップマッチングとは,位置測位誤差を含むプローブカーデータから,その車両の走行経路を特定する技術である.マップマッチングはプローブカーを活用した交通状況調査の前処理に位置づけられ,マップマッチングによって得たリンク旅行時間等は,交通情報として活用されている.本研究では,過去のプローブカーデータのマップマッチングから得られたリンク旅行時間情報を活用し,以降のマッチング候補経路の探索及び選択を行う.トリップごとにマップマッチングと蓄積情報の更新を繰り返すことで,蓄積データベースやマップマッチング精度の変化を分析する.分析の結果,混合ガウスモデルの考え方を援用した複数経路への情報の蓄積によって,交通情報が効率的に蓄積できる可能性が示された.

  • 村上 麻紀, 森 俊勝, 溝上 章志
    2023 年79 巻10 号 論文ID: 23-00056
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

     本研究では,熊本県荒尾市において2020年10月から運行を開始したリアルタイムオンデマンド配車による区域運行型乗合タクシー「おもやいタクシー」について,その導入経緯とサービス概要を紹介する.また,その利用と運行についての1年間に渡る継続的な実態分析,利用者アンケートの分析,既存公共交通機関との競合関係,従来のタクシーサービスとの運行効率性比較について,分析を行った.その結果,利便性の周知により利用者は倍増していること,公共交通不便地域におけるバスの補完的サービスとなっていること,高頻度利用者の約半数は目的地や時間帯が決まった利用をしていること,通常のタクシーより総運行距離が短縮するためCO2排出量や燃料費を削減できることを明らかにした.

  • 稲垣 航大, 久米山 幹太, 石橋 澄子, 谷口 守
    2023 年79 巻10 号 論文ID: 23-00079
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

     コンパクトシティを実現する上で政策に対する市民認知の重要性が指摘されている.そのような中,国土交通省の調査によるとコンパクトシティ政策に対する市民の自称認知は総じて低いことが示されている.そこで本研究では,市民のコンパクトシティ政策に対する内容を誤って認知していないか(誤認)について独自のアンケート調査を行った.分析の結果,1) 中山間地域からの撤退やタワーマンションの建設をコンパクトシティ政策だと高い割合で誤認されていること,2) 自称認知度が高いグループにおいて,むしろ誤認の割合が高くなることを明らかにした.自称認知度が高いグループは,行政に対する信頼も高いため,自治体がコンパクトシティ政策に関して提供している情報自体が誤認を招く内容になっている可能性があることに留意が必要である.

建設材料と構造
論文
  • 小松 怜史, 松尾 豊史, 三浦 智久, 石川 哲哉
    2023 年79 巻10 号 論文ID: 22-00212
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

     洋上風力発電設備コンクリート浮体の疲労特性を解明するため,本研究では縮小部分模型供試体を製作し,供用環境を想定した各種条件(水の有無,応力強度比など)にて常時圧縮応力下での疲労載荷実験を行った.結果,コンクリート内に湿潤する水の影響により水中では気中と比べ疲労寿命が2オーダー低下することなどが示された.また最大振幅の応力強度比が大きい場合,接合部近傍では部材中央部と比べて疲労寿命が低下する傾向にあった.具体的には最大振幅が応力強度比70%の場合,接合部近傍が中央部と比べ疲労寿命が1オーダー短くなった.接合面の面着状態が大きく影響していると考えられる.なお本実験の範囲内では,現行のコンクリート標準示方書の疲労強度式を適用して,PRC部材(設計基準強度60N/mm2相当)の疲労寿命を概ね評価可能であった.

  • 北川 尚男, 内田 賢一, 池田 博司
    2023 年79 巻10 号 論文ID: 22-00330
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

     亜熱帯の激しい波浪海域で海洋鋼構造物を防食するには,電気防食の効果および炭素鋼や耐海水性ステンレス鋼に流入するカソード電流密度を把握する必要がある.本研究では海水中から飛沫帯にかけて炭素鋼および耐海水性ステンレス鋼を用いた電気防食試験を行った.海水中の炭素鋼に対して電気防食は有効であった.しかし,海水中の炭素鋼試験片に流入する平均カソード電流密度は,試験片の間で約10倍の差があった.また,海水中から朔望平均干潮位の耐海水性ステンレス鋼に流入する平均カソード電流密度は,一般的な防食電流密度とほぼ同じであった.

  • 石川 靖晃, 西尾 浩志, 八木 洋介
    2023 年79 巻10 号 論文ID: 23-00003
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

     本論文では,3次元的に任意形状を有するコンクリート構造にPC鋼材によりプレストレスを導入する際に,摩擦によって生じる緊張力減少,PC鋼材の任意の形状配置による腹圧力などを精度よく考慮可能な緊張解析手法を開発した.本提案手法の開発により,コンクリートの変形を考慮した緊張端でのPC鋼材の抜け出し量の計算が可能となり,セット量による緊張力緩和の影響が合理的に考慮されることになった.実橋の張出架設のPC緊張事例やヘリカルな曲面を有するPC構造に対して提案方法による解析を行い,提案手法の妥当性および初期ひずみ法適用の問題点を論じた.さらに実際のPCコンポ桁の緊張管理事例を基に,本提案手法により緊張管理図を作成し,従来の緊張管理図の作成方法の改善を検討した.

土木技術とマネジメント
論文
報告
  • 関 和彦, 山口 愛加, 窪田 諭
    2023 年79 巻10 号 論文ID: 22-00071
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

     我が国の人口減少と少子高齢化により,熟練を有する橋梁点検技術者の不足を招くことは必至である.適切な予算配分を行い橋梁の長寿命化修善計画を策定するために,その状態を把握する基盤となる点検データの品質向上および平準化は重要な課題である.そのうえで,損傷進行状況を適切に把握し的確な診断および適切な対策の計画を実施しなければならない.

     本研究では,橋梁の点検現場作業を支援することを目的として,橋梁の3次元点群データの差分によるヒートマップにより損傷箇所を可視化し,点検技術者が損傷を発見することを支援する技術を提案した.そして,提案技術の適用可能性を複数の実橋梁で実験した.点検技術者による評価を実施し,現場支援技術への要求事項および課題を整理した.

環境と資源
論文
  • 今村 航平, 田村 誠, 横木 裕宗
    2023 年79 巻10 号 論文ID: 23-00054
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

     気候変動による海面上昇への適応策である住宅移転に関して,住宅地の新規建設が可能な土地を浸水域から地理的距離が近い順に選定するシミュレーションを実装し,日本の全浸水影響人口を移転させる場合の移転費用,土地利用の変化,移動距離をそれぞれ推計した.その結果,2050年,2070年の移転費用はSSP5-RCP8.5では117-118兆円,150-151兆円,SSP1-RCP2.6では100-101兆円,108-109兆円と推計された.これらの金額は既往研究で推計された移転費用の範囲の下限に近かった.移転先の土地利用については,人口減少に伴って生じる荒地の使用が経年増加し,代わりに農地や森林の使用が経年減少した.遠い未来ほど人口減少によって浸水域の近傍に荒地が増えるため,移動距離は短くなった.

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