土木学会論文集
Online ISSN : 2436-6021
79 巻, 2 号
通常号(2月公開)
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構造工学,地震工学,応用力学
論文
  • 野寄 真徳, 横山 秀史
    2023 年79 巻2 号 論文ID: 22-00197
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     列車走行に伴う地盤振動の低減対策には多くの研究例がある.しかし,低減メカニズムの明確化や低減効果の定量化が行えていない対策工が多く,振動低減対策を現地で実施する際の対策工の選定は,既往の事例や技術者の経験的な判断に大きく依存すると考えられる.そこで本論文では,近年研究が進められている走行列車・軌道・構造物・地盤をモデル化した数値シミュレーションを用いて,対象箇所の振動を増大させている要因の抽出方法と,抽出した振動増大の要因に基づく振動低減対策の提案に関する検討を行った.その結果,振動源の特性,構造物の振動特性,地盤の伝播特性の3つを個別に評価し,着目した周波数帯域の振動増大の要因を抽出することができた.また,抽出した振動増大の要因を振動低減対策の提案へつなげるためのフローを取りまとめた.

  • 橘 才造, 森山 仁志, 松村 政秀
    2023 年79 巻2 号 論文ID: 22-00202
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     強地震時の横荷重の作用により,鋼I桁橋桁端部の支点上補剛材に局部座屈や破断が生じ,早期復旧に支障を来した.一方,橋軸方向の水平荷重に対して主桁ウェブや主桁下フランジの局部座屈を防止するため,支点上に設置される補強リブの有無が横荷重を受ける桁端部の耐荷性能に与える影響は明らかにされておらず,横荷重に対する桁端部の設計法も確立されていない.そこで,本論文では,横荷重に対する桁端部の耐荷性能および補強リブの設置効果を明らかにするため,桁端部の部分縮小模型を用いた繰り返し水平載荷実験および桁端部の構造条件に着目したパラメトリックFEM解析を実施した.その結果,補強リブの設置により桁端部の耐荷性能は向上するが,その高さが横桁取り付け位置より低いと,設置効果が期待できない可能性があることがわかった.

  • 坂下 克之, 畑 明仁, 小野 祐輔
    2023 年79 巻2 号 論文ID: 22-00207
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     模擬地震動作成時の位相の設定方法には,標準的なものとしては波形の包絡形状を規定する方法があるが,サイト固有の位相特性を反映できないこと等から,近年では位相特性の客観的かつ定量的な指標として群遅延時間が注目され,これを用いた模擬地震動作成方法が研究されている.その一般的な方法は,所定の確率分布に従う群遅延時間を振動数軸上でランダムに発生させて位相を決定するというものであるが,作成波は左右対称に近い包絡形状になる・ピークが集中する傾向がある・ノイズ成分が目立つ等の課題・留意点が認められる.そこで本研究では,波形の包絡線関数と群遅延時間のばらつきを関係付けることにより,波の包絡形状の設定とサイトの位相特性の反映とを両立できる新たな模擬地震動の作成方法を提案した.

河川・海岸・海洋工学と水文学
論文
  • 田中 智大, 河合 優樹, 立川 康人
    2023 年79 巻2 号 論文ID: 22-00096
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     日本全国一級水系を対象に,気象庁気象研究所の150年連続実験1メンバーから得られた年最大流域平均雨量系列に非定常水文頻度解析を適用した.まず,d4PDF過去実験が非定常境界条件のアンサンブル実験であることを利用し,定常および非定常の頻度解析による極値雨量が整合的であることを明らかにした.次に,150年連続実験の非定常頻度解析とd4PDFの定常頻度解析から得られる100年確率流域平均雨量の過去から現在,近未来,将来への変化率を比較した.両者は全水系平均値でよく一致したが,水系単位では150年連続実験の空間的ばらつきが大きい結果となった.これは,150年連続実験のアンサンブル数が一つであるためと考えられ,水系単位の変化や水系間の違いを論じるにはアンサンブル数を増やす必要があることがわかった.

  • 谷口 健司, 小刀祢 海斗, 高山 雄貴
    2023 年79 巻2 号 論文ID: 22-00117
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     気候変化に伴う大雨の強大化が懸念される中,氾濫を前提とした水災害対策が不可欠となりつつある.一方,我が国では将来的な人口減少が想定され,発生する余剰地を活用した水災害リスクの軽減が期待される.本研究では,石川県小松市周辺を流れる一級水系梯川を対象とし,気候変化下での大規模降雨発生時の氾濫解析を実施し,浸水深分布及び氾濫被害額の推定を行った.人口減少下での都市構造変化について,応用都市経済モデルを用いた推定を行ったところ,氾濫被害額の減少は約14%となった.人口減少下で水災害リスクの低い地域に生じる余剰地への移転促進策の実施を想定した都市構造変化の推定では氾濫被害額の減少は16%程度となった.既往研究では潜在的に約40%の被害額減少が示されており,効果的な移転促進策検討の必要性が示された.

地圏工学
論文
  • 小泉 圭吾, 岩本 遼生, 藤原 優, 久田 裕史
    2023 年79 巻2 号 論文ID: 22-00105
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     近年,豪雨による表層崩壊が多発している.これに対し筆者らは,これまで雨水浸透のみによる表層崩壊に着目して研究を進めてきた.一方,実情は排水設備の不具合や,排水構造物の流下能力を超過した水の流入による崩壊が発生しており,高速道路の斜面崩壊の約半数は,このような排水構造物の不具合に起因していると報告されている.従って,降雨による表層崩壊の問題を考える上で,雨水浸透のみならず排水構造物からの溢水を伴う崩壊現象についても明らかにしていく必要がある.本論文では,数値解析によって雨水浸透のみと,溢水を伴う浸透の違いを評価し,模型斜面実験によって浸透から変形までのメカニズムの違いを考察した.その結果,溢水を伴う表層崩壊は,雨水浸透のみによる崩壊とは浸透挙動や崩壊形態が異なることを明らかにした.

報告
  • 竹下 祐二, 衣川 優希, 池田 結
    2023 年79 巻2 号 論文ID: 22-00215
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     時間雨量に基づいて算出される実効雨量の時系列を用いて,降雨浸透により河川堤防のり面内に生じる土中水分動態の簡便な推定方法を検討した.一級河川堤防裏のり面において計測された128の降雨事例に対して,堤防のり面上の位置や深度ごとに土中水分動態と実効雨量の時系列パターンとの相似性を評価し,両者の相関係数が最も高くなる実効雨量の半減期を最適半減期として算出した.最適半減期の短期的または長期的な極値として,対象堤防のり面に固有な短期最適半減期と長期最適半減期を提案した.これらの最適半減期を用いた実効雨量の時系列と土中水分動態との相似性を累加雨量や最大時間雨量の異なる降雨事例に対して確認し,堤防のり面内の土中水分動態を推定するための雨量指標として,実効雨量の有用性を検討した事例を報告した.

土木計画学
論文
  • 野中 美貴子, 阿部 貴弘
    2023 年79 巻2 号 論文ID: 22-00016
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     近年,インフラを観光対象としたインフラツーリズムが全国で展開されはじめている.インフラツーリズムは,インフラへの理解促進とともに,周辺地域の活性化や観光振興につながる取り組みとして期待されている.本研究では,全国のインフラツーリズムを対象に,アンケート調査,ヒアリング調査,さらに現地調査に基づき,対象施設ごとの取り組み内容や発現効果を把握し,インフラツーリズムの効果を類型化するとともに,取り組みと効果との関係や,効果の相互関係について考察した.これらの成果は,インフラツーリズムの効率的かつ円滑な実践に資する研究成果であると考える.

  • 石川 翔大, 田中 皓介, 寺部 慎太郎, 柳沼 秀樹, 海野 遥香
    2023 年79 巻2 号 論文ID: 22-00038
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     COVID-19が世界各地で感染拡大し,2020年度にはそれまでの東京圏の転入超過傾向から一転し,月次データで見れば転出超過となる月が連続して見られた.これは,COVID-19の感染拡大が東京一極集中に対する人々の意識に対して少なからず影響を及ぼしていることが想定される.そこで本研究では,COVID-19の感染拡大前後での,国民の東京一極集中に対する賛否意識の変化を把握することを目的とし,全国の国民を対象に,COVID-19感染拡大前後(1回目:2020年1月23~24日,2回目:2021年5月21~26日)でパネル調査(N=515)をWebアンケートにより実施した.その結果,東京一極集中に対して有意な意識変化はみられず,一極集中に対して態度が肯定的に転じた人および肯定的な態度を継続した人々は,医療福祉施設不足のデメリットの認知強度に上昇がみられないことなどが明らかとなった.

  • 三浦 詩乃
    2023 年79 巻2 号 論文ID: 22-00048
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     本研究は,都市のリバビリティ向上に資する街路デザイン施策の普及における,基礎自治体イニシアチブの意義と課題を明らかにすることを目的として,近年世界的に会員を広げる全米都市交通担当者協会およびGlobal Designing Cities Initiativeを対象とした.資料調査,ヒアリングおよび交通統計データ集計からイニシアチブの特性と普及実施成果を明らかにし,会員都市のアウトカム達成状況から問題点を提示した.また,連携拡大の要因として,欧州の環境ガバナンス施策の普及を担うTMNとの類似点を示した.得られた知見を総括し,街路デザイン担当部局のキャパシティ向上の観点からのイニシアチブの意義とともに,普及内容実践による会員都市における交通環境への効果を高めるために,近隣自治体の参画促進といった課題が残ることを導出した.

  • 加藤 真人, 川端 祐一郎, 藤井 聡
    2023 年79 巻2 号 論文ID: 22-00052
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     COVID-19が感染拡大する中,国による緊急事態宣言等や自治体の独自施策によって飲食店営業時間の短縮や休業の要請及び「命令」が繰り返し行われてきた.こうした要請や命令は都市活動に甚大な影響を及ぼすため都市政策上極めて重大な要素であるにもかかわらず,そうした命令を正当化するのに十分なだけの効果があったか,また緊急事態宣言等の措置についても都市全体の感染拡大防止にどの程度有効であったか十分に検証・評価されてきたとは言い難い.本稿では,分析1で当該26店舗が東京都の「時短命令」に従ったことで防止されたと考えられる新規感染数を試算,分析2で緊急事態宣言等が,分析3で宣言等発令の根拠とされる人流抑制がそれぞれ東京都の実効再生産数に与えた影響を分析する.

  • 大野 浩史, 菊池 雅彦, 久保田 尚, 小嶋 文, 加藤 哲平
    2023 年79 巻2 号 論文ID: 22-00064
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     東京一極集中緩和のため,地域との繋がりを構築する取り組みが重視されている.地域との繋がりの構築において注目される「関係人口」は,人々の地縁・血縁との関連があり,その地域との所縁がある住民意識を表す際に「故郷」がよく用いられる.しかし,「故郷」に対する住民意識の実態は十分には明らかになっていない.以上から本研究では,埼玉県在住者を対象にアンケート調査を実施し,居住履歴の分類から,「故郷」に関する意識,「故郷」のまちづくりへの参加意欲等を検証した.

     その結果,埼玉県で生まれ育った人々は,自身が生まれ育った埼玉県を「故郷」と意識する傾向があり,「明確な「故郷」を持たない」という人は少数であった.また,地方出身の1代目は現住所以外を「故郷」と意識し,まちづくりへの参加意欲が高い傾向が確認できた.

  • 池田 隆太郎, 柴田 久
    2023 年79 巻2 号 論文ID: 22-00089
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     本研究では,大分県津久見川における河川激甚災害対策特別緊急事業を事例として,基本構想から現場施工までに至る事業プロセスを詳述するとともに景観配慮の実現方策について考察した.その結果,1) 事業早期段階における整備・管理主体間の地域の実情を踏まえた目標設定と共有の場づくり,2) 管理者による景観設計方針を引継ぐシステムとともに監修業務にあたれる人的体制,3) 都市との一体的整備を念頭におきながら自由度の高い交付金を激特事業の工期に重ね合わせて取得・活用する工夫が,激特事業等の災害対策事業における景観配慮を実現させる有効な戦略として挙げられた.

  • 山下 三平, 阿野 晃秀, 丹羽 英之, 森本 幸裕, 佐藤 正吾, 深町 加津枝
    2023 年79 巻2 号 論文ID: 22-00156
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     本研究はグリーンインフラの一つである雨庭のデザインに役立つ知見を得るために,伝統的な枯山水庭園である京都の相国寺裏方丈庭園を対象とした雨水収支の実測評価を試みた.また新しい雨庭のデザインと維持管理に寄与する提案を行った.実測評価の主な知見は以下のとおりである:1) 本庭園は京都の100年確率日雨量推定値を上回る307.5mmの雨水を貯留だけで流出抑制できる.2) 本庭園は増水時に平均82.7%,最小でも57.8%,減水時は平均32.7mm/h,最小でも14.1mm/hで浸透できる.3) 本庭園には短期の集中的強雨と長期の分散的弱雨のいずれの降雨パターンにも対応する高い浸透機能が確認される.4) 砂礫地質で10-15cmの径を含む構成が,高い浸透機能の持続に寄与すると推察される.

  • 上条 陽, 藤垣 洋平, パラディ ジアンカルロス , 髙見 淳史, 原田 昇
    2023 年79 巻2 号 論文ID: 22-00244
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     本研究では,対象地域における人口全体の移動需要を考慮し,現況に加えて人口・施設分布を集中または分散させた異なる都市構造を仮定した移動需要データを生成し,異なる都市構造におけるシェア型自動運転サービス(SAV)の利便性・運送効率の比較評価とSAVの地域実装による影響分析を行った.SAVの利用意向を尋ねたSP調査から推定された交通手段選択モデルをもとにエージェントベースシミュレーションを実施した.対象地域は地方中小都市である群馬県沼田市と利根郡周辺とした.人口・施設分布を集中させ,移動需要が中心部に集中するほど利便性・運送効率は増しSAVの運用にあたっての好影響が強まった.一方で,利便性の地域間格差については,中心市街地から離れた人口低密度地域にて顕著にSAV待ち時間が長くなる結果が得られた.

土木技術とマネジメント
論文
  • 宮里 心一, 深田 宰史, 田中 泰司, 花岡 大伸, 伊藤 始, 鈴木 啓悟, 杉谷 真司, 宇津 徳浩, 井林 康, 津田 誠
    2023 年79 巻2 号 論文ID: F5-0089
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

     市町村は多くのインフラを管理しているが,そのメンテナンスに苦労している.特に北陸地方のコンクリート構造物では,塩害やASRによる劣化が生じやすく,早急な対応が望まれる.このような背景を踏まえて本稿では,地元の大学・高専教員が連携して,市町村が管理する道路橋を対象にした,メンテナンスの合理化に向けた支援について論ずる.はじめに,新潟県上越地区・富山県・石川県・福井県の41市町に対してヒアリング調査を実施し,課題とニーズを抽出した.次に,これらを改善すべく,コンクリート橋に対する点検・診断・措置の手順案を策定し,また技術展示会を開催し,さらに実橋を用いた補修効果の評価に取り掛かった.以上により,市町村の実情を起点とした,官学連携による道路橋の維持管理の合理化に向けた実績とその評価を整理した.

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