土木学会論文集
Online ISSN : 2436-6021
79 巻, 6 号
通常号(6月公開)
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
構造工学,地震工学,応用力学
論文
  • 楊 昊軒, 貝沼 重信, 鈴木 啓介, 楊 沐野, 豊田 雄介
    2023 年79 巻6 号 論文ID: 22-00288
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル フリー

     鋼道路橋において,溶射皮膜上に塗装が塗布され,重ね皮膜になる場合があるが,その重ね皮膜の耐久・防食特性については不明な点が多い.そこで,本研究ではAlとZnの溶射と重防食塗装の重ね皮膜部の耐久・防食特性を解明するために,クロスカット傷を導入した溶射単膜,および溶射と塗装の重ね皮膜部を有する鋼板試験体を用いて複合サイクル腐食促進試験を行った.また,重ね皮膜部の膨れ性状の測定,分極特性などの電気化学測定,SEM-EDXによる断面元素分析およびXRDによる生成物の同定分析を実施した.これらの結果から,溶射と塗装の重ね皮膜では,Al溶射の重ね皮膜がZn溶射に比べて早期に劣化し,耐久性が低下することなどを明らかにした.また,塩類に曝される腐食性の高い環境におけるAlとZnの溶射と塗装の重ね皮膜の劣化機構を示した.

  • 杉本 悠真, 山口 隆司
    2023 年79 巻6 号 論文ID: 22-00329
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル フリー

     橋梁の主桁接合部に非突出型高力ボルトエンドプレート接合を適用する場合,接合部強度と剛性向上の観点から水平リブの設置が必要となる.しかし,桁断面や水平リブ諸元が接合部強度と剛性の向上に寄与するメカニズムは明らかにできているとは言い難い.本研究は主桁断面,水平リブ板厚を変化させたパラメトリック解析を実施し,これらのパラメータが接合部の強度と剛性に与える影響について検討している.解析の結果,水平リブを考慮した桁の断面二次モーメント,下フランジ板厚およびエンドプレート板厚が,接合部剛性に特に影響を与えることがわかった.また,フランジ断面積が小さく,ウェブ断面積が大きい桁で接合部強度が大きくなる傾向があることを明らかにした.最後に,主部材剛性を確保するための水平リブ板厚の算出法を提案した.

報告
  • 有井 賢次, 渡邊 学歩, 武智 国加, 清水 則一
    2023 年79 巻6 号 論文ID: 23-00002
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル フリー

     本研究は,既存橋梁の安全監視へのGNSS (Global Navigation Satellite System)による変位計測の適用性を明らかにすることを目的に,センサーの設置方法の工夫,長期計測の安定性,変位計測精度などを調査し,GNSS変位計測が橋梁の複雑な変位挙動把握の有効な手段になり得る可能性を考察するものである.本稿では,スタティック測位方式で取得した3次元変位データと種々のモニタリングデータとの比較により,載荷荷重に対する橋梁のたわみおよび温度変化に起因する比較的長期かつ周期的な三次元変形挙動に対して,必要な精度で計測可能であることを示すとともに,構造解析や計測データの解析結果に基づき,長期および短期の変位挙動把握の可能性に関する検討結果を報告する.

河川・海岸・海洋工学と水文学
論文
  • 齋藤 正文, 花立 麻衣子, 伊藤 英恵
    2023 年79 巻6 号 論文ID: 22-00177
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル フリー

     周防灘は瀬戸内海における最も広い海域であり,対岸距離が長く,入り組んだ湾形状が多く全体的には南向きの海岸であるため,台風時における高潮の影響を受けやすい.本研究では,周防灘に影響を与えた過去の台風と高潮による潮位偏差を整理し,大きな被害をもたらした高潮について,経験的台風モデルと非線形長波モデルによる再現計算を実施した.さらにT9918等の実際の台風経路を基本に平行移動による台風コースを幾通りも設定し,最大規模の高潮の推算を行った.周防灘沿岸方向の潮位偏差の発達と台風経路との傾向が明らかとなり,観測値の潮位偏差を元に最大規模の確率年についても検討した.

  • 羽田野 袈裟義, 荒尾 慎司, 野田 誠
    2023 年79 巻6 号 論文ID: 22-00318
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル フリー

     底流と越流が複合したゲートは底流方式と越流方式の利点を保ちながらそれぞれの方式が有する欠点を回避できる可能性があり,流域治水の面から期待される.しかしながらその定量的な評価を目指した研究の成果で設計に耐える十分なものはないようである.本研究では,現実で重要と考えられる流れの組合せとして底流(自由流出・潜り流出)と完全越流が複合したチェックゲートをすぎる流れについて,基礎的実験により水深と流量の間の関係を検討すると共に,底流と越流の流量を既往の研究成果を利用して個別に評価しその合計の流量を見積もることを試みた.得られた合計流量の計算値と実験値との比較から,流量の計算値は一定の水理条件の範囲内で実験結果と良好に一致することが示された.

地圏工学
論文
  • 岡本 駿一, 中田 弘太郎, 長谷川 琢磨, 野原 慎太郎
    2023 年79 巻6 号 論文ID: 22-00277
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル フリー

     放射性廃棄物の地層処分の安全評価では,放射性核種の岩石への収着による移行遅延を定量的に評価することが重要であり,トレーサー試験は評価方法の1つと考えられる.原位置トレーサー試験では,岩石の収着特性を直接評価できる利点がある一方で,割れ目内の流動場等の試験条件を完全に制御することは難しく,評価される収着特性への試験条件の依存性や妥当性に関する検討は十分でない.このため,本研究では,送液流量を変えた室内トレーサー試験を実施し,評価される収着特性の依存性と妥当性を評価した.その結果,岩石マトリクスの遅延係数は送液流量に関わらず同程度となり,バッチ試験の結果とも整合した.これは,原位置の試験環境が理解/制御できれば,原位置トレーサー試験においても安全評価に資する収着特性を評価できることを示唆する.

  • 松原 仁, 屋比久 雄斗, 西村 伊吹
    2023 年79 巻6 号 論文ID: 22-00328
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル フリー

     短繊維材を土に混合することで土の靭性を高めることができる.短繊維材には,鉱物繊維,人工繊維,天然繊維等があるが,繊維の経年劣化に伴う補強機能の低下が懸念される.したがって,繊維材の効果を持続させるためには,劣化を抑制できる新しい技術が必要である.本研究では,天然由来および人工の繊維を混合した砂試料に微生物を添加し,繊維材の劣化抑制効果について検討した.室内実験の結果,天然由来の繊維材を混合した砂試料において,繊維材表面・内部に多くの炭酸塩が析出し,繊維材を保護することが明らかとなった.また,炭酸塩の析出過程を明確化するために,反応拡散理論に基づく数値解析を実施したところ,天然由来の繊維で見られた保護作用には溶媒中の各種イオンの分散抑制が深く関与していることが明らかとなった.

土木計画学
論文
  • 黄 宇成, 川端 祐一郎, 高野 裕久, 宮沢 孝幸, 藤井 聡
    2023 年79 巻6 号 論文ID: 22-00047
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル フリー

     COVID-19の感染拡大を踏まえ,度重なる緊急事態宣言が発令されたのにも関わらず,医療体制の緊迫,そして過度な自粛による経済の後退や社交の減少などの問題が存在する.また,COVID-19の危険性やワクチンの接種に対する正しい認識は広まっておらず,医療関係者の意見より,政府の見解や社会の空気が世論に大きく影響しているのが現状である.そこで本論文は,大阪府の医師に対しアンケート調査を実施し,236名分の回答から,COVID-19対応の医療現場にあるべき行政支援策,COVID-19の法的な位置づけの妥当性,そして新型コロナワクチンのリスクや医療関係者の接種への態度を,COVID-19治療経験の有無に分け,統計的に検証した.こうした知見は,都市・地域の活力増進や公衆衛生増進に向けた公的実践に資すると期待できる.

  • 竹口 祐二, 鈴木 聡士
    2023 年79 巻6 号 論文ID: 22-00074
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル フリー

     近年,我が国では高齢者の運転免許自主返納者が増加している.さらに,地方部では公共交通の衰退や生活施設の統廃合が著しく,高齢者にとって移動手段の確保は生活の質や定住性の確保に関わる深刻な問題となっている.そこで本研究では,徒歩,運転,被送迎,公共交通の選択可否に着目したカテゴライズを行い,外出状況,主観的健康感,主観的幸福感,定住意向といったQOL(Quality of Life)に関する評価指標の属性差異を分析した.さらに,分析の結果,主観的幸福感の低かった運転依存群を対象にその要因分析を行った他,クラスター分析を活用して移動手段属性と転出可能性との関係性を考察した.これらの分析から,地方部の高齢者のQOL向上や定住性確保に向けて,移動手段確保の重要性とその施策方向性検討に関する示唆を得た点が本研究の特長である.

  • 三村 泰広, 山岡 俊一, 富永 哲史
    2023 年79 巻6 号 論文ID: 22-00181
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル フリー

     本研究は,これからの地方都市における幹線道路,生活道路といった道路種別ならびに,中心市街地,郊外,中山間地域の道路における道路維持管理について,多様な地域に住まう住民の意識を把握することで,今後の地方都市における道路維持管理の在り方に関する基礎的知見を得ることを目的としている.政令市を除く愛知県,三重県,岐阜県の東海3県に居住する方(n=1,039)を対象に道路維持管理の重要性,維持管理方法の受容性を調査した結果,それぞれ,当初想定した道路種別や整備される地域性によって当該意識に差が生じており,これらの傾向を踏まえた道路維持管理の在り方が重要であることが明らかとなった.

  • 西堀 泰英, 嚴 先鏞
    2023 年79 巻6 号 論文ID: 22-00193
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル フリー

     本研究は,COVID-19感染拡大による商業集積地の滞在人口の変化とその影響要因を明らかにすることを目的とする.交通ビッグデータを含む各種データを用いて21都市の商業集積地を滞在人口の時系列的な変化傾向により分類し,商業集積地と居住地との位置関係に着目した分析や,産業構成の影響を分析した.本研究の主な成果は次のとおりである.1)商業集積地が所在する区(以下,同区)または隣接市区町村からの滞在人口は増加する一方,県外のように遠方からの滞在人口は大きく減少している.2)感染拡大後に滞在人口が増加した地区では,同区だけでなく隣接する区からの滞在人口も増加している.3)東京や京阪神の都市圏では医療等の生活を支えるサービスが多いと滞在人口が増加する傾向にあるが,地方中枢や地方中核の都市圏では同様の傾向は認められない.

  • 吉野 和泰, 山口 敬太, 川﨑 雅史
    2023 年79 巻6 号 論文ID: 22-00224
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル フリー

     近年,歩行者中心の道路空間への再編が注目されており,歩行者の自由な滞留や歩行など場所性の機能を実現しつつ,車によるアクセス性や安全性を確保し,合意形成を導くための,実践的方法論の構築が求められている.本研究では,欧州最大規模の歩車共存道路を実現したマリアヒルファー通りの事例を対象とし,計画調整と合意形成の過程の分析を通じて以下の知見を得た.1) 空間の活用を優先する調整管理,検討案の評価において,市民参加・社会実験が大きな役割を果たした.2) 歩車共存の計画・設計においては,アクセス性と安全性の調整が重要な課題であり,利用者による自律的な安全性の確保とその制度運用によって実現した.3) 合意形成においては,調整の段階ごとに適切な関係主体を同定・招集し,主体間の相補的な対話を導くことが有効であった.

  • 西山 孝樹, 藤田 龍之, 天野 光一
    2023 年79 巻6 号 論文ID: 22-00280
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル フリー

     本研究では,江戸幕府の公式記録である『徳川実紀』をすべて読み,「山川掟」の初出とされる1666(寛文6)年以前の治水をするために治山も同時に行わなければならないと言及した法制度に関する事項を抜き出した.その結果,既往研究で「山川掟」の初出とされてきた20年ほど前の1645(正保元)年には,同様の内容に言及した法制度が存在していることを明らかにした.さらに,1666(寛文6)年から1742(寛保2)年の「山川掟」に関する事項も抜き出した.それらを整理したところ,「山川掟」に関するものは6事項が掲載され,約20〜30年ごとに発布されていた.現在においても,「山川掟」のように,治山と治水を同時に考えていくべきであり,江戸時代の政策は現在を生きる我々も,参考にすべき点は大いにあることを示した.

報告
建設材料と構造
論文
  • 尾崎 允彦, 佐藤 靖彦, 吉田 英二, 竹内 彩, 山田 雄太, 永島 史晟
    2023 年79 巻6 号 論文ID: 22-00289
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル フリー

     過去のFRPシートの付着に関する研究は,FRPシートの剛性(シート剛性)が比較的小さい範囲が対象とされてきた.しかし,実際の補強では,構造物のスケールが大きいためFRPシートを積層化させる場合が多い.そこで,本研究では幅広い範囲のシート剛性を対象としたCFRPシート及びポリウレア樹脂を用いた付着試験を実施した.その結果,CFRPシートの積層化によりシート剛性が大きくなると付着耐力は増加するが,シート剛性が200kN/mm以上の範囲では既存の付着耐力式は実験値を過大評価することが明らかになった.また,剥離後のCFRPシートに接着したコンクリートの厚さである剥離深さを測定した結果,界面破壊エネルギーはシート剛性や樹脂の特性により決まるのではなく,コンクリート破壊面の表面積に強い関連性があることを見出した.

土木技術とマネジメント
論文
  • 丸山 晃平, 吉田 郁政, 関屋 英彦
    2023 年79 巻6 号 論文ID: 22-00252
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル フリー

     鋼橋において適切な維持管理を必要とする損傷の1つが疲労き裂である.疲労き裂の主な要因は活荷重によって生じるひずみであることから,活荷重の実態把握,すなわち交通荷重とその台数の計測が重要となる.交通量を計測する手法は様々あるが,本研究では加速度センサによる車軸通過時刻の検知手法の提案を行った.計測データには,車軸がセンサ直上を通過した際に生じるパルス波的なピーク応答以外にも,反対橋脚側や隣接車線から伝達する応答が含まれるため,誤検知を極力減らし,高精度にて車軸を検知するアルゴリズムを構築することが重要である.閾値のみによる検知手法の場合,再現率と適合率の調和平均であるF値は54.4%であったのに対し,提案手法では94.1%まで向上し,高精度に車軸の検知を実施できることを示した.

報告
  • 井川 友裕, 森岡 信人, 小宮 朋弓, 白井 隆裕, 小浪 尊宏
    2023 年79 巻6 号 論文ID: 22-00235
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル フリー

     2020年10月,菅内閣総理大臣(当時)による2050年カーボンニュートラル宣言が,2021年4月には,2030年に温室効果ガスを2013年度から46%削減する目標が日本政府により表明された.土木・建築分野における,建設段階を中心とした温室効果ガス排出量削減に向け,筆者らは,カーボンニュートラルに資する日本企業の土木・建築分野のソリューションに関する情報を調査・とりまとめ,今後の関連施策の検討に資することを目的とした分析を行った.具体的には,本邦企業の主な低炭素建設技術に関する調査を通じ,低炭素技術情報の集約と開発促進,統一的な排出量算定手法の確立,関連技術基準の整備,ライフサイクルアセスメント(LCA)の実施,入札契約制度を通じた支援等の施策について検討を行った.

feedback
Top